The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
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ドキッ!?王権だらけのカルデア対抗大体育祭~沈めるな、転ばせろ~
「待て」
赤い外套の男は、支給された白い上着を手に、心底から不服そうな声を出した。
「なぜ私がルーラー霊基になっている」
ダ・ヴィンチは、あっけらかんと笑った。
「臨時だよ、臨時。今回のカルデア対抗大体育祭における公平な審判役として、君に仮設ルーラー適性を付与しただけさ」
「体育祭にルーラーを用意するな」
「他に王様たちへ笛を吹ける人材がいませんでした」
マシュが真剣な顔で言った。
「それは人選理由ではなく、被害報告だ」
エミヤは深く息を吐いた。
その視線の先には、すでに競技場と化したシミュレーター内に集まる王たちの姿があった。
太陽王オジマンディアスは、設営された来賓席を見て「余の玉座としてはいささか簡素だな」と評し、征服王イスカンダルは「よいではないか、祭りとはこうでなくては!」と笑っている。
始皇帝は競技規則を最後まで読み終え、余白へ別の規則体系を書き始めていた。訂正というより、競技会そのものを一から統治し直すつもりらしい。
アルトリアは静かに背筋を伸ばし、ニトクリスはファラオとしての威厳を保とうとしながらもどこかそわそわしている。スカディは少し離れた場所で、祭りに集う者たちを穏やかに見守っていた。
そして大洋王アトラスは、競技場全体を見渡して言った。
「非致死性王権演習か」
「違います」
立香が即答した。
「……違うのか」
「違うけど、たぶん似たようなことにはなる」
「ならば認識を保留する」
「そこは否定していいよ、アトラス」
実況席にはマシュ。解説席には、なぜか当然のようにマーリンが座っていた。
「いやあ、これは面白い一日になりそうだ」
「マーリンさん、今回は真面目に解説をお願いします」
「もちろん。では、王の話をするとしよう」
「まだ開会式です!」
マシュの声がシミュレーター内に響く。
「これより、第一回、カルデア対抗大体育祭を開催します!」
拍手と歓声が起こった。
選手宣誓のため、アルトリアが一歩前に出る。
その姿勢は美しかった。騎士王の名にふさわしく、競技場の空気が一瞬だけ引き締まる。
「宣誓。我々選手一同は、騎士道精神に則り、正々堂々と競技することを誓います」
見事な宣誓だった。
エミヤは少しだけ安堵した。
その直後だった。
「よい宣誓であった。だが余の勝利は、宣誓以前に定まっている」
「宣誓文に法的拘束力はあるのか?」
「ははは! よかろう、正々堂々、全力で楽しむとしよう!」
「騎士道精神とは、競技規約に優先する概念か」
「選手宣誓の直後から審判に質問を集中させるな!」
エミヤの笛が鳴った。
第一競技は綱引きだった。
ただの綱引きである。
そのはずだった。
「第一競技、綱引きです! 赤組、白組、配置についてください!」
「王の話をするとしよう」
マーリンが楽しそうにマイクを握った。
「綱引きとは、ただの力比べではない。誰の側へ世界を寄せるかという、小さな王権闘争だ」
「いえ、競技名は綱引きです!」
マシュが訂正する間にも、すでに綱は概念的に重くなりつつあった。
オジマンディアスは当然のように先頭に立つ。
「余の威光に引かれぬ綱など存在せぬ」
イスカンダルはその反対側で大笑いしていた。
「よいぞ! 引くならば全員で引くぞ! 声を出せ、足を踏みしめろ!」
アルトリアは真剣に姿勢を整える。
「重心を低く。全員、呼吸を合わせてください」
始皇帝は綱そのものより、両側へ並んだ王たちを見ていた。
「ふむ。民を己の側へ引き寄せる力の可視化か。自ら寄るのか、引かれているだけなのかまでは、この競技では分からぬがな」
体育祭の綱引きに向けるには、少しばかり重い観察だった。
アトラスは無言で地面へ視線を落とした。
次の瞬間、彼女の足元に薄い水の膜が広がる。
「大洋王」
エミヤの声が低くなった。
「何だ」
「足場の水没は禁止だ」
「水没ではない。摩擦係数を調整している」
「それを水没と言う!」
「沈めてはいない。固定している」
「沈めるな、転ばせろ! 体育祭とはそういうものだ!」
なぜ自分は体育祭の本質を大洋王に説いているのか。エミヤは考えないことにした。
笛が鳴った。
綱が張る。
王たちの威光と筋力と統治理念と謎の概念圧が、ただの麻縄へ一斉に流れ込む。
「これは……綱が悲鳴を上げています!」
「マシュ、それは比喩かい?」
「いえ、音声センサーが拾っています!」
ぎりぎりと軋む音の中、イスカンダルが大声で笑う。
「はははは! よい! これこそ祭りよ!」
オジマンディアスが目を細める。
「余の側へ来るがよい、綱よ」
「綱に命令するな!」
エミヤの笛が再び鳴った。
勝敗は、綱が限界を迎えたことで一旦保留となった。
第二競技は障害物競走だった。
「シンプルな競技です。平均台、網くぐり、跳び箱、吊り橋、最後にパン食い……ではなく、カルデア食堂特製補給パンを取ってゴールです」
「王の話をするとしよう」
マーリンは懲りなかった。
「障害物競走とは、目の前の障害をどう扱うかを見る競技だ。壊す王、迂回する王、整備する王、道に変える王。何を選ぶかに、その王の統治が出る」
スタートの合図と同時に、イスカンダルが飛び出した。
速い。
というより、楽しそうだった。
平均台を越えるというより、山道を踏破するように進み、網くぐりを遠征の一部のように笑って潜り抜け、跳び箱を城壁でも越えるように飛び越える。
「イスカンダルさん、ものすごい笑顔です!」
「征服王に踏破させたら右に出る者はいないね。あれはもう競技ではなく遠征だ」
「補給パンを掲げてゴールしました!」
「はははは! よい道であった! 次はもっと長くても構わんぞ!」
「次はない」
エミヤが即座に言った。
アルトリアは正確だった。無駄がない。競技規則を完全に理解し、もっとも美しい姿勢で障害を越えていく。
「騎士王は道を正しく走る王だね」
マーリンが言う。
アトラスは障害物の前で一度止まった。
「これは王宮外壁突破演習か」
「平均台です!」
「では幅が狭すぎる。防衛側の想定が甘い」
「競技用です!」
だが、理解した後のアトラスは速かった。
障害を壊さず、沈めず、必要最小限の動きで通過する。吊り橋では揺れを読み、網くぐりでは鎧の可動範囲を正確に計算し、跳び箱では三叉槍を使おうとしてエミヤに止められた。
「武器使用は禁止だ!」
「補助具だ」
「武器だ!」
スカディは、吊り橋が不安定であることを気にして、一瞬だけ氷の足場を作ろうとした。
「会場凍結は禁止です、スカディさん!」
「そうか。子らが転んではいけないと思ったのだが」
「お気遣いはありがたいです!」
マーリンはにこにこしていた。
「征服王は道を征く。騎士王は道を正しく走る。大洋王は道を測る。始皇帝は、あらゆる者が迷わぬよう道を一本に定める。太陽王は道に自分を拝ませる」
「最後だけ解説が雑ではありませんか!?」
第三競技は騎馬戦だった。
その名が告げられた瞬間、空気が変わった。
頭上の鉢巻を取る。競技としてはそれだけである。
しかし王たちにとって、頭上にあるものを奪われるという行為は、どうしてもただの遊戯では済まなかった。
「王冠を奪う競技か」
ニトクリスが真剣な顔で呟く。
「鉢巻です」
エミヤが言った。
「王冠ではない。鉢巻だ。全員、そこを理解してくれ」
始皇帝は腕を組み、配布された鉢巻を眺めた。
「頭上の標を奪われた者を敗者とするのか。ふむ。王そのものではなく、周囲が王と認める印を奪う競技というわけだな」
「鉢巻だと言っている」
アルトリアは静かに頷いた。
「競技である以上、全力を尽くします」
イスカンダルは楽しそうだった。
「頭を取れば勝ちか! 分かりやすくてよい!」
オジマンディアスは当然のように言った。
「余の頭上に手を伸ばすとは、不敬である」
「参加するなら伸ばされる」
エミヤが言い切った。
アトラスは、配布された鉢巻を見ていた。
その視線が、ほんの一瞬だけ静かになる。
「……冠ではない」
「ああ。鉢巻だ」
「理解している」
アトラスはそれ以上何も言わなかった。
マーリンだけが、解説席でわずかに目を細めた。
「王冠はね、軽い布切れでも重くなる。戴く者が王なら」
「マーリンさん、解説が急に重いです!」
「おっと、失礼。では軽くいこう」
その直後、イスカンダルの騎馬隊が豪快に突撃し、エミヤの笛が三度鳴った。
「突撃角度が危険だ! これは体育祭だ、戦場ではない!」
「似たようなものではないか!」
「違う!」
第四競技は借り物競走だった。
もっとも平和な競技として選ばれたはずだった。
だが、王たちにお題札を引かせるという行為が、すでに危険だった。
「では、各選手は札に書かれたものを連れてきてください!」
マシュが読み上げる。
最初にオジマンディアスが引いた。
「一番偉そうな人」
会場全体が沈黙した。
「余だな」
「自分を連れてくるのは禁止です」
エミヤが即座に裁定した。
イスカンダルが引いた札は「よく食べる王」。
「おお、これは分かりやすい!」
彼は満面の笑みでアルトリアを連れてきた。
「なぜ私を」
「違うのか?」
「……否定はしません」
始皇帝の札は「審判に一番怒られた人」。
始皇帝は札を読み、次いでエミヤを見た。
「最も強く怒らせた者を指すのか、最も数多く怒らせた者を指すのか。基準が定められておらぬ」
「そこでなぜ私を見る」
「判定権者を連れて行き、その場で確定させるのが早かろう」
「やめろ。私は備品でも判定装置でもない」
ニトクリスは「太陽っぽい人」を引き、迷わずオジマンディアスの元へ向かった。
スカディは「寒そうな人」を引き、困ったように周囲を見渡していた。
そしてアトラスが札を引いた。
彼女はその文字を見て、止まった。
競技場の喧騒が、少しだけ遠くなる。
札には、こう書かれていた。
――見上げられる王。
「アトラス?」
立香が声をかける。
会場には、王がいた。
太陽王がいた。征服王がいた。始皇帝がいた。騎士王がいた。ファラオがいた。異聞帯の女王がいた。観客席には英雄王さえいた。
それでもアトラスは、誰の手も取らなかった。
「該当者は、現在ここにいない」
短い声だった。
それは拒絶ではなく、分類の結果のように響いた。
マシュが一瞬だけ言葉に詰まる。
マーリンは、笑っていなかった。
「……なるほど」
小さな声だった。
「その話は、今日するには少し眩しすぎるかな」
「マーリンさん?」
「なんでもないよ。王の話は、また今度にしよう」
次の瞬間、イスカンダルが「借り物競走とはなかなか面白いな!」と笑い、場は再び騒がしくなった。
アトラスは札を返さなかった。
第五競技、そして最終競技はリレーだった。
体育祭の締めにふさわしく、全員が走者となる。
バトンはただの筒だった。軽く、白く、何の変哲もない。
だがアトラスはそれを受け取った瞬間、真顔になった。
「これは継承物か」
「普通のバトンだよ」
「普通の継承物など存在しない」
「名言みたいに言わないで」
立香が苦笑する。
マーリンは穏やかに言った。
「王の話をするとしよう。王とは、最後まで持ち続ける者ではない。時には、次へ渡す者でもある」
アトラスの指が、わずかにバトンを握り直す。
観客席のギルガメッシュが、それを見て小さく笑った。
「ようやくそれを覚えたか、大洋王」
聞こえていたのか、いなかったのか。
アトラスは何も返さず、次の走者へ向けて走り出した。
アルトリアは美しいフォームで走った。
イスカンダルは笑いながら走った。
オジマンディアスは走るというより、太陽のごとく進んだ。
始皇帝は前後の走者の速度まで見切り、自分一人が最速になるのではなく、バトンが最も滞りなく進む速度を選んだ。
ニトクリスは必死に、けれど堂々と走った。
スカディは、転びそうな者がいないかを気にしながら走った。
最後の直線で、もはや順位は誰にも分からなくなっていた。
王たちが本気を出しすぎたせいで、シミュレーターの計測値が一部おかしなことになっていたからである。
「ゴ、ゴールです! ただいまの最終順位は……ええと、計測機器が王権反応で混線しています!」
「よし、閉会式だ」
エミヤが即断した。
「裁定を放棄するのか」
アトラスが問う。
「違う。状況を総合判断したうえで、これ以上続けると施設が危険だと裁定した」
「妥当だな」
「君に言われると複雑だ」
閉会式では、当然のように優勝者について揉めた。
「余が照らした。ゆえに余の勝利である」
「いやあ、全員よく走った! ならば全員勝利でよかろう!」
「計測が役に立たぬならば、勝者を定める規則そのものを作り直せばよい」
始皇帝は当然のことのように告げた。
「祭礼の途中で統治体系を刷新するな」
エミヤが即座に止めた。
「審判の裁定に従います」
「ファラオとして異議はありますが、審判には従いましょう!」
「子らが楽しんだなら、それでよいのではないか」
「勝敗裁定を要求する」
全員の視線がエミヤに集まった。
臨時ルーラーは、壊れかけた計測器と、限界を迎えた綱と、まだ勝敗を主張する王たちを順番に見た。
「個別の勝敗を測るための機器が、王権反応によって正常な判定を失った。よって、個々の勝利を認定することはできない」
「つまり?」
立香が訊ねる。
「施設損耗も含め、これは参加者全員による共同成果だ」
エミヤは、長い沈黙ののち、宣言した。
「総合優勝は――カルデア全体だ」
沈黙。
次いで、イスカンダルが豪快に笑った。
「はははは! 全員勝利か! よいではないか!」
アルトリアは静かに頷いた。
「審判の裁定ならば」
オジマンディアスはやや不満そうに鼻を鳴らした。
始皇帝はしばし考えたのち、壊れた計測器と、笑っている参加者たちを見渡す。
「勝者を一人に定めず、余白を残すか。完成には遠いが――祭礼の終わらせ方としては、悪くない」
そう呟いて、裁定を受け入れた。
ニトクリスは胸を撫で下ろし、スカディは少しだけ微笑んだ。
観客席から、黄金の王の声が飛ぶ。
「つまらぬ裁定だが、まあよい。雑種らしい」
「参加登録していない者は黙っていろ!」
エミヤの最後の笛が鳴った。
体育祭は、どうにか終わった。
片付けが始まると、先ほどまでの騒ぎが嘘のように、シミュレーター内は少しずつ静けさを取り戻していった。
立香とマシュは備品を確認し、エミヤは壊れかけた綱と混線した計測器を見て頭を抱えている。イスカンダルはまだ笑っており、アルトリアは丁寧に礼を述べ、オジマンディアスは来賓席の改善案を告げていた。
アトラスは、競技場の端に立っていた。
手には一枚の札がある。
見上げられる王。
「返さないのかい?」
マーリンが、いつの間にか隣に立っていた。
アトラスは札から目を離さない。
「返却対象ではある」
「なら、どうして持っているんだい」
「分類未了だ」
「君が?」
マーリンは少しだけ笑った。
「珍しいね」
アトラスは答えなかった。
やがて、静かに言う。
「現在のカルデアに、己がその語で呼ぶ王はいない」
「本当に?」
「少なくとも、己が連れて来られる王はいない」
マーリンは、競技場の天井を見上げた。そこには人工の空が広がっているだけだった。
「正位置の星、か」
アトラスの視線が、鋭くマーリンへ向く。
「汝は、何を見た」
「何も。夢魔は夢を見るだけさ」
その答えは軽かった。
けれど、軽すぎるほどではなかった。
「花の魔術師」
「うん」
「汝の比喩は、過剰だ」
「そうだね」
マーリンは笑う。
「でも、外れてはいないだろう?」
アトラスは沈黙した。
騒がしかった競技場に、片付けの音だけが響いている。
やがてマーリンは、マイクを持っていた時とは違う声で言った。
「王の話をするとしよう」
アトラスは札を握り直す。
「ただし次は、少しだけ静かな場所でね」
大洋王は、答えなかった。
けれどその札を、まだ手放しはしなかった。
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アトラスのキャラクター性・内面
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王としての在り方・王権のテーマ
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ストーリーの展開
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