The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
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【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link
誤れる王座
最初に異常を拾ったのは、シバだった。
カルデアの管制室に、低い警告音が走る。
それは敵性反応を示す鋭い警報ではなかった。
もっと静かで、もっと不穏な音だった。
観測値のずれ。
霊基反応の微細な揺らぎ。
人理修復後の特異点残響に、何かが触れている。
ダ・ヴィンチは端末を叩きながら、眉を寄せた。
「妙だね。これは外からの侵入じゃない。どちらかと言えば、内部に残っていたものが、どこかへ接続し直されている」
「内部、ですか?」
マシュが訊ねる。
「第一部で修復した七つの特異点。その残響は完全にゼロにはならない。傷跡みたいなものだよ。普段は人理の上に薄く馴染んでいるだけだけど……今、その残響が、何かの律動に合わせて揺れている」
立香は、モニターを見た。
揺らぎを示す波形が、ゆっくりと上下している。
それは警告というより、歌に近かった。
「これ、もしかして」
「うん」
ダ・ヴィンチは短く頷く。
「星詠みの詩だ」
その名が出た瞬間、管制室の空気が変わった。
星詠みの詩。
沈んだアトランティスから、アトラスが未来へ渡した歌。
レヴィアタンが回収しようとし、アトラスが回収を棄却したもの。
それが今、人理修復の残響と共鳴している。
「汚染ですか?」
マシュの声が硬くなる。
「汚染、とは言い切れない。少なくとも、今のところ魔力的な腐食反応はない。むしろ、数値だけを見れば安定している」
「安定しているなら、危険ではないんですか?」
「そこが問題なんだ」
ダ・ヴィンチは、別の画面を開く。
そこには、複数の旋律パターンが重なって表示されていた。
原型。
変奏。
未来側の歌唱反応。
それらが、人理の残響と細く絡み合っている。
「星詠みの詩の未来変奏が、七特異点の修復痕を経由して、神代由来の王権反応と接続しかけている。危険経路になり得る」
ダ・ヴィンチは、そこで一度言葉を切った。
「……いや。接続、というより再定義に近い」
「再定義?」
「修復されたはずの七つの特異点の残響を、神代海洋王権の版図として読み替えようとしている。まだ表層化はしていないけど、このまま進めば、人理修復の傷跡そのものが、古い王権の領域として上書きされる可能性がある」
マシュの表情が強張る。
「それは、人理が……」
「神代の海へ沈み直す、ということだね。静かに、正しく、誰かの王権の下へ」
「王権反応……」
その言葉に、ニトクリスが静かに顔を上げた。
彼女はこの場に呼ばれていた。
王権、死者、古き神代に関わる観測には、彼女の感覚が助けになることがある。
その少し後ろでは、誰にも呼ばれていないマーリンが、いつものように壁へ寄りかかっていた。
ニトクリスが疑問を口にする。
「それは、王が何かを命じている反応なのですか?」
「命令というより、認証に近いかな。歌が歌としてではなく、何かの鍵として読まれかけている」
「鍵……」
立香は画面を見る。
星詠みの詩は、遠き星より来た者たちが、この星の空を覚えるために作った歌だった。
この星の一員になるための歌。
王権の証明でも、兵器でもない。
けれど今、その歌は別の意味を持たされかけている。
「これは攻撃じゃない。だからこそ厄介だ」
ダ・ヴィンチは、画面に表示された旋律パターンを指でなぞった。
「誰かが歌を壊そうとしているわけじゃない。けれど、歌われた声が、特定の王権反応へ収束するように読まれている」
「それは……兵器化、ということでしょうか」
マシュが訊ねる。
「広い意味ではね。兵器っていうのは、壊すためのものだけじゃない。誰かの自由な応答を、特定の結果へ収束させるものも兵器なんだ」
ダ・ヴィンチの声は、いつもより少しだけ硬かった。
「カルデアは一度、それを食らっている。観測のための仕組みに、別の意図が仕込まれていた。記録し、見るためのシステムが、別の目的へ接続されていた。だから、これは見逃せない」
立香は黙って頷いた。
カルデアは、観測するための場所だった。
けれど、その観測さえ、誰かの意図に使われることがある。
その怖さを、彼らは知っている。
「アトラスは?」
立香が訊ねる。
「もう呼んでいる」
ダ・ヴィンチが答えた直後、管制室の扉が開いた。
大洋王アトラスが入ってくる。
紺碧の鎧。
淡い水青の髪。
海水に薄く血を溶かしたような瞳。
彼女は一度だけ画面を見て、すぐに状況を理解したようだった。
「星詠みの詩か」
「うん。未来側の変奏反応が、人理修復痕と共鳴している。王権反応もある。まだ干渉源は特定できていない」
「王権の逆流による、人理修復痕の再定義か」
アトラスは言った。
「未来からの歌唱を媒介にした、過去の版図拡大。許容できぬ」
その声に迷いはなかった。
「まず経路を閉じる」
「閉じる?」
立香が聞き返す。
「星詠みの詩の変奏経路を一時封鎖する。原型を王宮記録へ退避。未来側への伝播を停止。危険経路を遮断する」
ダ・ヴィンチは画面を見る。
「理屈としては分かる。危険経路を切れば、少なくとも王権反応の表層接続は止められる」
「ならば実行する」
アトラスの判断は早かった。
早すぎるほどだった。
マシュが少しだけ眉を寄せる。
「ですが、星詠みの詩は未来へ渡したものでは……」
「一時的な回収だ」
アトラスは答えた。
「保管ではない。危険経路遮断のための封鎖措置である」
その言葉は整っていた。
あまりにも整っていた。
立香は、それが少しだけ気になった。
だが、モニター上の数値は悪化している。
人理修復痕。
星詠みの詩。
神代王権反応。
それらが結びつけば、人理の傷跡そのものが、神代の海へ沈み直す。
「ダ・ヴィンチちゃん」
「封鎖術式の補助は可能だよ。ただし、星詠みの詩の自由な変奏経路にも触れることになる。慎重に――」
「慎重に行う」
アトラスが遮った。
「己(おれ)が裁定する」
管制室が一瞬だけ静かになる。
その静寂を破ったのは、金色の光だった。
空間が裂ける。
黄金の波紋が開く。
そこから、一本の剣が射出された。
それはアトラスの足元、術式起動用の仮設陣を正確に撃ち抜いた。
「なっ……!」
マシュが盾を構える。
立香が振り返る。
黄金の王が、管制室の入口に立っていた。
「ギルガメッシュ王……!」
ギルガメッシュは、薄く笑っていた。
「やめておけ、大洋王」
その声は低い。
「歌が止まってからでは遅い。その裁定は、貴様の王座を沈める」
アトラスの血色の瞳が細くなる。
「英雄王。妨害と判断する」
「好きに判断するがよい」
「退け」
「退かぬ」
黄金の波紋が、彼の背後にいくつも開く。
「貴様が閉じようとしているものは、貴様のものではない」
立香は一瞬、息を呑んだ。
状況は明らかだった。
ギルガメッシュがアトラスの封鎖術式を妨害している。
理由を説明する気はない。
王の財宝まで開いている。
マシュが立香を見る。
「先輩」
立香は判断した。
「マシュ、アトラスを守って。ダ・ヴィンチちゃん、封鎖術式の補助を継続!」
「了解です!」
マシュが盾を構え、アトラスの前に立つ。
ギルガメッシュは笑った。
「雑種。そちらにつくか」
「アトラスは危険経路を止めようとしてる。理由があるなら話して」
「話して止まる王ならば、我が出るまでもない」
ギルの指が動く。
宝具が降る。
マシュが盾を構えた。
鋼の音が管制室に響く。
宝具の雨はマシュを貫かなかった。
だが、彼女の背後にある術式補助端末だけを、正確に削っていく。
「ギルガメッシュさん、こちらを直接狙っているわけではありません!」
マシュが叫ぶ。
「支援系統を……支援系統だけを壊しています!」
「当然だ」
ギルは言った。
「雑種どもを殺して何になる。邪魔な道具を壊すだけよ」
「道具扱いするな!」
ダ・ヴィンチが端末を切り替える。
「補助系統を第二ラインへ回す! アトラス、そちらで王宮外壁を展開できる?」
「可能だ」
アトラスは三叉槍を床へ立てた。
水の気配が管制室に満ちる。
王宮外壁が薄く展開され、星詠みの詩の波形を囲うように輪郭を作った。
封鎖術式が動き始める。
同時に、ギルガメッシュの王の財宝がさらに開いた。
剣。
槍。
鎖。
斧。
盾。
属性も用途も違う宝具が、次々と戦場に選ばれていく。
ギルの戦いは、可能性の洪水だった。
次に何が来るのか分からない。
どの角度から来るのか分からない。
何を狙っているのか、寸前まで見えない。
それでもアトラスは読んだ。
右。対城。水を裂くもの。
王宮外壁が開き、軌道を逸らす。
左。鎖。神性を縛るもの。
「マシュ、下がれ」
「はい!」
マシュが一歩下がる。
上方。支援端末。
三叉槍が水膜を張る。
剣は角度を失い、床へ落ちた。
ギルガメッシュの目が細くなる。
「ほう」
アトラスは淡々と告げた。
「出現角度、宝具属性、射出間隔、王権反応の偏り。予測は可能だ」
「ならば読んでみせよ」
黄金の波紋が増える。
十、二十、三十。
マシュの顔色が変わった。
「数が……!」
宝具の雨が降る。
アトラスは読む。
来る前に潰す。
軌道を閉じる。
危険な経路を封じる。
その戦い方は、あまりにも封鎖術式に似ていた。
未来の危険を予測し、来る前に閉じる。
まだ起きていないものを、起きるものとして裁く。
ダ・ヴィンチは端末を見ながら、低く呟いた。
「干渉率、低下。王権反応も収束している。封鎖は効いてる……」
その声が止まった。
「いや。待って」
「ダ・ヴィンチちゃん?」
「変奏反応も落ちてる」
立香が振り向く。
「変奏反応?」
「未来側の星詠みの詩だ。汚染だけじゃない。歌唱経路そのものが閉じ始めてる」
モニターの波形が整っていく。
原曲へ。
より正確に。
より乱れなく。
より静かに。
だが、その静けさは、生命の静けさではなかった。
マシュが息を呑む。
「歌が……揺らがなくなっている?」
「そうだ」
ギルガメッシュが言った。
「ようやく聞こえたか、雑種」
アトラスは動じなかった。
「未来側の経路に危険がある。封鎖は妥当だ」
「妥当だろうな」
ギルが笑う。
「保管者ならば」
その一言に、アトラスの瞳がわずかに鋭くなる。
「己を、レヴィアタンと同列に置くか」
「同列ではない」
ギルの背後で、さらに宝具が開く。
「同じ方角を向いているだけだ」
空気が軋む。
アトラスの王宮外壁が広がった。
閉じるために、城が開かれる。
守るために、壁が外へ出る。
ギルはその様を見て、喉の奥で笑った。
「城を開かねば我に届かぬ王が、歌には閉じろと言うか」
「戦術と裁定は別だ」
「別ではない」
黄金の王は即座に切った。
「貴様の王座から出たものだ」
アトラスの槍の軌道が、一瞬だけ遅れる。
その遅れを、ギルは見逃さない。
宝具が走る。
マシュが盾で受ける。
衝撃で床が割れた。
「マシュ!」
「大丈夫です!」
マシュは歯を食いしばる。
だが、その背後でアトラスの封鎖術式はさらに深く進んでいた。
青い光が、王宮外壁の奥に灯る。
それは水ではなかった。
火だった。
海の底で燃える、青い火。
ダ・ヴィンチの顔色が変わる。
「待って。別系統の神代出力が混ざってる」
「別系統?」
「これは封鎖術式じゃない。対界級の終末概念……アトラス、火天八紘が反応してる!」
空気が重くなる。
アトラスの足元に、海底のような影が広がる。
青い火が、詩の波形を包み込もうとしていた。
マシュが叫ぶ。
「アトラスさん、宝具を使うつもりなんですか!?」
「違う」
アトラスの声は硬い。
「これは封鎖だ」
ギルガメッシュの目が、赤く光った。
「同じことよ」
黄金の波紋の奥、ひときわ異質な気配が揺れる。
世界を裂く剣の気配。
乖離剣。
エア。
立香は、息を止めた。
青い火。
水中の炎。
大地母神の夫としての海神の終末。
火天八紘。
もしここで、二つの対界が向き合えば。
誰もが、一瞬だけその構図を見た。
エヌマ・エリシュ。
アパム・ナパート。
山門では見られなかった終末の対峙。
英雄王と大洋王、それぞれの世界を終わらせる力。
だが、ギルガメッシュは乖離剣を抜かなかった。
アトラスも、火を完全には開かなかった。
それでも火口は開きかけている。
未来を閉じる裁定が、終末を呼び込んでいる。
「アトラス!」
立香が叫んだ。
「それで閉じたら、守ったことにならない!」
青い火が、一拍だけ止まる。
アトラスの血色の瞳が、立香へ向いた。
終末を開けば、危険経路ごと未来の歌唱領域を沈めることになる。
それは回収ではない。
保管でもない。
だが、未来を残さないという一点において、レヴィアタンの結論と同じ場所へ落ちる。
立香は言葉を探した。
命令では駄目だ。
代わりに決めてはいけない。
ギルが言った。
「終わらせる力で、未来を守るか。大洋王」
沈黙。
アトラスの手が、三叉槍を握り直す。
「火天八紘、閉鎖」
青い火が沈む。
アトラスの指が、三叉槍の柄を一度だけ強く押さえた。
完全に消えたわけではない。
だが、火口は閉じた。
ダ・ヴィンチが息を吐く。
「対界出力、沈静化……」
しかし、封鎖術式はまだ止まっていない。
星詠みの詩の未来側反応は、さらに弱くなっている。
立香はモニターを見た。
それから、アトラスを見た。
ギルを見た。
最初は、ギルが突然敵対したように見えた。
今も、彼は何も説明していない。
けれど彼が壊しているのは、カルデアの支援網だけだった。
マシュを殺そうとはしていない。
立香を狙わない。
アトラスの裁定だけを、まっすぐに撃っている。
一方で、アトラスの封鎖は効いている。
効いているからこそ、歌が止まっている。
支援を切るということは、アトラスを助けないということではない。
けれど、助け続ければ、彼女の裁定をカルデアが補強してしまう。
立香は、ゆっくりと息を吸った。
「マシュ、下がって」
「先輩?」
「ダ・ヴィンチちゃん、補助術式を切って」
「立香ちゃん」
ダ・ヴィンチの声が慎重になる。
「いいのかい?」
「うん」
立香はアトラスを見る。
「アトラス」
「何だ」
「代わりに決めない」
アトラスの瞳がわずかに揺れた。
「私たちは、あなたの裁定を肩代わりしない」
マシュが盾を下げる。
ダ・ヴィンチが、補助術式を切る。
ニトクリスは胸元に手を添え、静かに告げた。
「王の裁定は、民の声を消すためにあるものではありません」
マーリンは何も言わなかった。
ただ、人工の星空を見る時のような目で、戦場を見ていた。
ギルガメッシュは笑った。
「ようやく場が整ったな」
アトラスは三叉槍を構える。
「英雄王」
「何だ」
「己は、退かぬ」
「知っている」
「ならば、通す」
「通してみせよ」
王の財宝が開いた。
そこから先は、王と王の戦いだった。
ギルガメッシュは可能性を開き続ける。
王の蔵は、未来の分岐そのもののように広がる。
剣が来る。
槍が来る。
盾が来る。
鎖が鳴る。
見たことのある宝具も、知らない宝具も、アトラスの知識にある原型も、十王の叡智にすら該当しない応用も、次々に戦場へ現れる。
すべては読めない。
アトラスは理解した。
王の財宝は、分類を超える。
蔵そのものは原典の集積でありながら、英雄王の選択によって無数の現在を開く。
どの宝具が来るかではない。
どの瞬間に、何を選ぶか。
それは、封鎖できる未来ではなかった。
だが、ひとつだけ読めるものがあった。
ギルガメッシュという王。
山門で刃を交わした。
カルデアで戦列を並べた。
沈んだ歌を財ではないと知りながら守った。
至高王の名を、折れた星の残骸ではなく王名だと言った。
己を、王座から降ろさなかった。
この王は、己を見限っていない。
ならば、最後の一手は読める。
黄金の波紋が静まる。
その奥から、鎖の音がした。
天の鎖。
神を縛る鎖。
神性を持つアトラスにとって、それはもっとも危険な一手だった。
鎖は完全だった。
逃げ場を潰している。
水流を読まれている。
王宮外壁の展開角度も塞がれている。
三叉槍の返しも間に合わない。
読めなければ、ここで終わる。
だが、完全ではなかった。
ほんの一点。
アトラスが、ギルガメッシュという王の選択を読めるならば通れる一点だけが、残されている。
見逃しではない。
誘いでもない。
問いだった。
読めるなら、来い。
アトラスは踏み込んだ。
鎖が、まつろわぬ神を縛るために鳴る。
神性が縛られる。
王宮外壁が軋む。
霊基が悲鳴を上げる。
それでも一拍。
まつろわぬ者として、たった一拍だけ、アトラスは抗った。
その一拍で、城が開く。
閉じるためではない。
守るためでもない。
届くために。
王宮外壁の外縁が、戦場へ広がる。
水が流れる。
足場が揺らぐ。
ギルガメッシュの重心が、ほんのわずかにずれる。
そこへ、三叉槍が入った。
槍は王の身体を貫かなかった。
鎧を砕かなかった。
黄金を汚さなかった。
ただ、膝を取った。
ギルガメッシュの膝が、わずかに落ちる。
石段ではない。
山門でもない。
けれど、あの日届かなかった場所に、今度こそ届いた。
「……届いたぞ、英雄王」
アトラスは言った。
声は荒れていなかった。
勝利を誇る声でもなかった。
ただ、記録を告げる声だった。
ギルガメッシュは膝をついたまま、笑った。
「読んだか」
「読めた」
「何をだ」
アトラスは、わずかに息を吐いた。
「お前が、己を王座から降ろす一手を選ばぬことを」
黄金の王は、愉快そうに目を細めた。
「ならば届くわけだ、大洋王」
彼は膝をついたまま、なお王だった。
「見事だ。貴様の読みは当たった」
アトラスは答えない。
ギルガメッシュは続けた。
「だが、読めた相手を、未来と取り違えるな」
その言葉が、戦場の中央に落ちる。
アトラスは動かなかった。
勝った。
膝を取った。
山門で届かなかった場所へ届いた。
英雄王は、己を王として見たまま膝をついた。
だが、歌は戻らない。
モニター上の未来側反応は、細く、弱い。
変奏の揺らぎは失われたままだ。
封鎖術式は安定している。
危険経路は閉じている。
王権反応は抑え込まれている。
なのに、何も残っていない。
勝利は、歌を通さなかった。
到達は、未来を開かなかった。
正しい読みは、正しい裁定を保証しなかった。
アトラスは、自分の手を見る。
英霊である己。
過去に刻まれた王。
それでも変わった。
鎧を脱げとは言われなかった。
閉じた城は、開くことを覚えた。
記録として守るしかなかった歌を、未来へ渡すと裁定した。
至高王の名を、傷としてではなく記録として語った。
届いたのは、閉じたからではない。
開いたからだ。
閉じるしかなかった城が、開いたから、あの膝へ届いた。
変化した。
変化できたから、星詠みの詩を未来へ託すことができた。
ならば、未来で変わる歌を、己が閉じることはできない。
アトラスは三叉槍を下ろした。
「封鎖裁定を、撤回する」
管制室に、誰かの息を呑む音がした。
立香が一歩前に出る。
「アトラス」
「己は、誤った」
その言葉は、重かった。
けれど、崩れてはいなかった。
誤りを認めた王が、王座から落ちるのではない。
誤りを背負ったまま、王座に座り直すための声だった。
ダ・ヴィンチが端末を操作する。
「封鎖解除。未来側変奏反応、回復を確認……ゆっくりだけど、戻ってきてる」
マシュの表情が緩む。
「歌が……」
モニター上で、細い波形が揺れた。
原曲ではない。
完全でもない。
遠く、乱れ、かすかな声だった。
だが、歌われていた。
アトラスは、それを見た。
「星詠みの詩は、未来へ通す」
彼女は言った。
「危険経路は監視する。悪用するものは、別途裁定する。だが、歌を閉じることはしない」
ギルガメッシュが立ち上がる。
「ようやくか」
「遅延は認める」
「誤差にしては大きいな」
「棄却しない」
ギルは笑った。
立香は、そのやり取りを聞いて、ようやく息を吐いた。
戦いは終わった。
だが、すべてが終わったわけではなかった。
そのことを、まだ誰も知らないふりをしていた。
解析結果が出たのは、戦闘後しばらくしてからだった。
管制室には、戦闘の余波が残っている。
壊れた端末の代替機が並び、床の亀裂には応急処置が施されていた。
マシュは盾を傍らに置き、立香はダ・ヴィンチの横でモニターを見ている。
アトラスは少し離れた場所に立っていた。
ギルガメッシュは壁際に腕を組んでいる。
マーリンは何も言わず、ニトクリスは静かに目を伏せていた。
「解析結果が出たよ」
ダ・ヴィンチの声は、いつもより少しだけ低かった。
「干渉源そのものは、まだ特定できない。けれど、使用された王権署名の階層だけは分かった」
「階層?」
立香が訊ねる。
「大洋王権限とは、別の階層。十王権限の第一座――王冠側の署名に近い」
マシュが息を呑んだ。
「王冠……」
アトラスは答えなかった。
驚いていない沈黙だった。
否定もしない沈黙だった。
「可能性としては、棄却していなかった」
アトラスは、ようやくそう言った。
立香は、アトラスの横顔を見た。
「でも、言わなかった」
「応答はなかった。ゆえに、報告対象ではないと裁定していた」
ギルガメッシュが低く笑った。
「違うな」
黄金の王は、モニターの片隅に残る解析不能の署名を見た。
それから、アトラスを見た。
「貴様の傷を知る者が、貴様の傷に似せて未来を置いた」
アトラスの指が、わずかに止まる。
「読まぬのか、大洋王」
片隅の署名は、まだそこにある。
その名を、彼女は読まなかった。
この作品の興味をもったところは?
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アトラスのキャラクター性・内面
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ギルガメッシュとの関係性
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王としての在り方・王権のテーマ
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ストーリーの展開
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その他