The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

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FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


第六章 火天八紘、開城

 黄金の門の奥で、鎖が鳴った。

 

 水底の王宮が、その音に震える。

 

 剣戟ではない。

 砲火でもない。

 星を裂く音でも、海を割る音でもない。

 

 ただ、逃げ道を閉じる音だった。

 

 王冠側署名は、王冠の奥へ退こうとしている。

 

 表層から。

 王宮記録層から。

 人理の手が届く場所から。

 かつて折れた星が沈んだ、星の裏側へ。

 

 帰還命令だけを残して。

 王命だけを表層に伸ばして。

 至高王は、また応答なき場所へ退こうとしていた。

 

 アトラスの三叉槍が、青く震える。

 

 火口は開きかけている。

 

 だが、まだ開かない。

 

 火天八紘は、終末である。

 

 大陸を沈める火。

 時代を終わらせる火。

 水底に燃える、青い終焉。

 

 それを、誤った対象へ向けてはならない。

 

 焼くべきものは、すでに定まっている。

 

 原典回帰を強制する、王冠側署名。

 

 ギルガメッシュが一歩、前へ出た。

 

 水底に立った黄金の境界線が、さらに深く刻まれる。

 

「言ったはずだ」

 

 黄金の王の背後で、鎖が鳴る。

 

「逃げ道は、我が縛る」

 

 赤い瞳が、白い王冠の奥を射抜く。

 

「裁くものは、貴様が選べ。大洋王」

 

 アトラスは答えない。

 

 答えの代わりに、三叉槍を握る手が静かに沈む。

 

 その足元で、王宮記録層が開いていく。

 

 沈んだ宮殿。

 港。

 穀倉。

 水路。

 避難路。

 民の名。

 星詠みの詩。

 沈没裁定。

 誤れる王座。

 そして、未来の水門。

 

 そのすべての底で、青い火が待っていた。

 

 至高王の声が降りる。

 

「帰れぬものは、沈む」

 

 その声は、初めてわずかに揺れていた。

 

「己(おれ)は、それを知っている」

 

 水底に沈黙が落ちる。

 

 その沈黙の中で、アトラスは顔を上げた。

 

「知っている」

 

 血色の瞳が、王冠の星を見上げる。

 

「だが、汝の沈んだ願いを、未来の王命にはしない」

 

 白い王冠が、強く輝いた。

 

 それは怒りではなかった。

 

 悲鳴にも似ていた。

 祈りにも似ていた。

 命令にも似ていた。

 

「帰還先を失えば、名は薄れる」

 

 至高王の声が言う。

 

「原型を失えば、歌は崩れる」

 

 王冠の下で、未来の声が震える。

 

「戻る道を失えば、王も、歌も、国も、ただ漂流する」

 

「戻る道は残す」

 

 アトラスは即答した。

 

 その声は、深海よりも冷たく、静かだった。

 

「原型も残す。記録も残す。帰還路も残す」

 

 青い火が、槍の穂先に集まっていく。

 

「兄上、汝が帰る場所を欲したことを、己(おれ)は焼かぬ」

 

 至高王の白い光が揺れる。

 

「汝が折れたことも、夜を失ったことも、帰れなかったことも、己は焼かぬ」

 

 アトラスは一歩進む。

 

「だが」

 

 水底が、青く光った。

 

「帰れと命じる王命は、ここで終える」

 

 ギルガメッシュが笑った。

 

 その笑みは、愉悦だけではない。

 

 王が王の裁定を聞いた時の、満足に近かった。

 

「ならば、縛ってやろう」

 

 黄金の門の奥から、鎖が放たれた。

 

 天の鎖。

 

 神をも縛る鎖が、水底を走る。

 

 それは、至高王そのものへ向かったのではない。

 

 白い王冠の奥。

 第三水門の根。

 未来変奏を王座へ引く命令の中心。

 星の裏側へ退こうとする王冠側署名。

 

 そこへ向かって、黄金の鎖が伸びる。

 

 王冠の光が拒絶する。

 

『王冠側署名、退去』

 

『星の裏側へ移行』

 

『表層干渉、遮断』

 

 通信越しに、ダ・ヴィンチが叫ぶ。

 

「署名が逃げる!」

 

「逃がさぬと言った」

 

 ギルガメッシュの声が低く響いた。

 

 天の鎖が、白い光の奥へ食い込む。

 

 王冠が震えた。

 

 至高王の声が遠のく。

 

「その鎖は、王を縛るものではない」

 

「当然よ」

 

 ギルガメッシュは笑った。

 

「我は貴様の王座を裁かぬ」

 

 鎖が、さらに奥へ伸びる。

 

「ただ、逃げる署名を表へ引きずり出す」

 

 黄金の鎖が、星の裏側へ消えかけた王冠側署名を捕らえた。

 

 水底に、白い文字列が浮かび上がる。

 

『王冠側署名、捕捉』

 

『原権限者:至高王アトラス』

 

『命令系統:原典回帰』

 

『帰還処理:王命化』

 

『未来変奏:王座帰属』

 

 マシュが息を呑む。

 

「署名が……見えます!」

 

 ニトクリスが杖を掲げる。

 

「捕らえられているのは、至高王そのものではありません。命令です。王座へ帰れと命じる、署名だけです」

 

 立香は、アトラスを見る。

 

 紺碧の王は、すでに火の前に立っている。

 

 青い火が、彼女の足元から立ち上がる。

 

 赤ではない。

 

 人理焼却の火ではない。

 怒りの火でもない。

 破壊の歓喜でもない。

 

 水底で燃える、青い終末。

 

 沈める王が、沈めるべきものを選ぶ火。

 

 アトラスが、三叉槍を水底へ突き立てた。

 

「対象確認」

 

 声が響く。

 

『照合』

 

『照合』

 

『照合』

 

 王宮記録層が応答する。

 

「原曲、除外」

 

『星詠みの詩原典、保護』

 

「帰還路、除外」

 

『原型参照路、保護』

 

「未来変奏、除外」

 

『未来側自由応答、保護』

 

「至高王記録、除外」

 

『正位置の星記録、保護』

 

「王名アトラス、除外」

 

『王名記録、保護』

 

『現保持者、大洋王アトラス』

 

 白い王冠が、激しく震える。

 

 至高王の声が降る。

 

「エウメロス」

 

 その名が、水底に落ちる。

 

 アトラスは揺れない。

 

 沈めた記録も、誤った裁定も、幼き日の祈りも、すべて紺碧の鎧の内にある。

 

「己は、ここにいる」

 

 血色の瞳が、王冠を見上げた。

 

「己は、エウメロスを棄却せぬ」

 

 青い火が、さらに深く燃える。

 

「至高王アトラスを棄却せぬ」

 

 王宮記録層に、沈んだ国の影が浮かぶ。

 

「原型を棄却せぬ」

 

 遠い未来の声が、かすかに震える。

 

「変奏を棄却せぬ」

 

 アトラスは、三叉槍を握りしめる。

 

「ゆえに、命令だけを棄却する」

 

 王宮記録層が、静かに応答した。

 

『焼却対象、確定』

 

『原典回帰強制署名』

 

『帰還王命化処理』

 

『未来変奏王座帰属命令』

 

 通信の向こうで、ダ・ヴィンチが息を呑む。

 

「除外指定が、通った……!」

 

 ギルガメッシュの鎖が軋む。

 

 王冠側署名が、星の裏側へ逃げようと暴れる。

 白い王冠の光が、鎖を焼くように膨れ上がる。

 

 だが、天の鎖は離さない。

 

 ギルガメッシュは、揺るがなかった。

 

「長くは持たぬぞ、大洋王」

 

「十分だ」

 

 アトラスは答えた。

 

「一瞬でよい」

 

 ギルガメッシュが笑う。

 

「であろうな」

 

 青い火が、槍から王宮記録層へ広がる。

 

 火は水を焼かない。

 記録を焼かない。

 歌を焼かない。

 

 ただ、白い署名の周囲にだけ、静かに集まっていく。

 

 帰れ。

 

 戻れ。

 

 原典へ。

 

 王座へ。

 

 失われる前に。

 

 忘れられる前に。

 

 漂流する前に。

 

 その命令の輪郭だけが、青い火に照らされて浮かび上がる。

 

 アトラスは、それを見た。

 

 兄の願いを見た。

 兄の恐れを見た。

 兄が失った夜を見た。

 王冠に固定された星の、帰れなかった祈りを見た。

 

 そのすべてを、焼かないために。

 

 それでも、槍を下ろさなかった。

 

「これは沈没裁定ではない」

 

 アトラスは、三叉槍を水底へ突き立てた。

 

「王権回帰の終末である」

 

 青い火が、王宮記録層の底で灯る。

 

「火天八紘、開城」

 

 水底に、青い太陽が開いた。

 

 それは、爆発ではなかった。

 

 怒号でも、轟音でもない。

 何かをまとめて焼き払う乱暴な火ではなかった。

 

 王宮の城門が開くように、火口が開いた。

 

 静かに。

 荘厳に。

 逃れようとする王命の前に。

 

 青い火は、署名へ触れた。

 

 原曲には触れない。

 

 未来の声には触れない。

 

 帰還路には触れない。

 

 至高王の記録には触れない。

 

 ただ、戻れと命じ続ける王命の文字だけを、ひとつずつ焼いていく。

 

『原典回帰強制署名、焼却開始』

 

『未来変奏王座帰属命令、焼却開始』

 

『帰還王命化処理、焼却開始』

 

 至高王の声が、初めて大きく揺れた。

 

「帰る道を失えば」

 

「失わぬ」

 

 アトラスは言った。

 

「道は残す」

 

 青い火が、命令の縁を焼く。

 

「戻れぬものは沈む」

 

「沈むものもある」

 

 アトラスは答えた。

 

「だが、すべてを港へ縛れば、海は死ぬ」

 

 未来の声が、王冠から離れていく。

 

「失われる」

 

「失われるものもある」

 

 血色の瞳が、白い王冠を見上げる。

 

「だが、失われることを恐れて、生きることを禁じるな」

 

 青い火が、署名の中心へ届く。

 

 天の鎖が強く軋んだ。

 

 ギルガメッシュの額に、わずかに光が走る。

 

 神性を帯びた署名は、鎖を逃れようとして暴れる。

 白い王冠の光が、黄金の鎖を押し返す。

 

 ギルガメッシュは、歯を見せて笑った。

 

「暴れるか、正位置の星」

 

 赤い瞳が、愉悦に細まる。

 

「よい。王ならば、その程度は抗ってみせよ」

 

 黄金の鎖を引く腕が、わずかに軋む。

 

 それでも、ギルガメッシュは退かなかった。

 

 一瞬でよい。

 その一瞬を、大洋王の火へ渡すために。

 

 アトラスは、青い火の中で声を上げる。

 

「焼却対象、原典回帰強制署名」

 

 王宮記録層が応答する。

 

『対象固定』

 

 アトラスは、白い王冠を見上げた。

 

「対象外、至高王アトラス」

 

 一瞬、水底が静まり返った。

 

 その名に、白い王冠が震える。

 

『保護』

 

 アトラスは、目を閉じなかった。

 

「兄上、汝を焼くのではない」

 

 青い火が、署名だけを燃やす。

 

「汝が未来へ命じた王命を、終える」

 

 至高王の声は、遠かった。

 

「それでも、汝は王名を戴くか」

 

 アトラスは答えない。

 

 その裁定は、保留する。

 

 今ここで定めるべきは、王名ではない。

 

 火の対象だ。

 

 アトラスは、三叉槍をさらに深く突き立てた。

 

「正しからざる永遠を、ここに終える」

 

 青い火が、白い署名を貫いた。

 

『原典回帰強制署名、焼却』

 

『未来変奏王座帰属命令、焼却』

 

『帰還王命化処理、焼却』

 

『王冠側署名、命令系統断裂』

 

 王冠の光が、弾けた。

 

 だが、星は砕けなかった。

 

 王冠も、消えなかった。

 

 原曲は、王宮記録層の奥に残っている。

 帰還路も、静かに残っている。

 至高王の記録も、焼け落ちてはいない。

 

 ただ、命じる力だけが、青い火の中で崩れていく。

 

 未来の声が、王座から離れた。

 

 遠い時代の誰かが、星を歌う。

 

 正しくない旋律で。

 原曲ではない言葉で。

 帰ることを命じられていない声で。

 

 それは、自由だった。

 

 そして、まだ失われてはいなかった。

 

 天の鎖が、音を立ててほどける。

 

 ギルガメッシュは、白い王冠の奥を見た。

 

「逃げ道は縛った」

 

 黄金の王は、低く笑う。

 

「燃やすものも違えなかった。見事だ、大洋王」

 

 アトラスは、青い火の向こうで答えた。

 

「当然だ」

 

「ほう」

 

「己の火だ」

 

 ギルガメッシュは愉快そうに笑った。

 

「であろうよ」

 

 火天八紘の青い火が、ゆっくりと収束していく。

 

 水底の王宮に、静けさが戻る。

 

『第三封鎖層:未来』

 

『未来変奏王座帰属命令、消失』

 

『原型参照路、保護継続』

 

『星詠みの詩原典、保護継続』

 

『未来側自由応答、安定』

 

 マシュが、盾を下ろす。

 

「未来の声が……外へ向かっています」

 

 管制室で、ダ・ヴィンチは端末を見つめたまま小さく息を吐いた。

 

「帰還路は残ってる。原曲も残ってる。だけど、強制帰還処理だけが消えている」

 

 ニトクリスが目を伏せる。

 

「墓は残り、道は残り、名も残った。けれど、生きた声を連れ戻す鎖は消えたのですね」

 

 立香は、アトラスを見た。

 

 紺碧の王は、三叉槍を下ろしていない。

 

 火は消えかけている。

 けれど、まだ完全には消えていない。

 

 白い王冠の星が、遠く揺れる。

 

 声は、まだ残っていた。

 

「エウメロス」

 

 声が呼ぶ。

 

 アトラスは、応じた。

 

「己はここにいる」

 

 白い光が、かすかに揺れる。

 

 そこには、まだ問われていない名があった。

 

 命じる力は焼け落ちた。

 

 だが、王名そのものは残っている。

 

 ギルガメッシュは口を出さない。

 

 マシュも、ニトクリスも、立香も、何も言わない。

 通信の向こうのダ・ヴィンチも、沈黙していた。

 

 青い火の残光の中で、アトラスは正位置の星を見上げた。

 

 今ここで定めるべきものは、すでに焼けた。

 

 火の対象は、違えなかった。

 

 アトラスは、三叉槍を静かに引き抜いた。

 

 水底に、短い沈黙が落ちた。

 

 白い王冠の光が、遠のく。

 

 青い火が消えた。

 

 焼け落ちた命令の残光だけが、水底へ静かに沈んでいく。

 

 原曲は残っている。

 

 帰る道も残っている。

 

 けれど、その道はもう、王命ではなかった。

 

 遠い未来の声が、水底の外へ向かっていく。

 

 アトラスは、三叉槍を下ろした。

 

 至高王の声は、まだ完全には消えていない。

 

 ただ、命じる力だけが、焼け落ちていた。

 




前日譚の『The Reaching Shore――届かせるもの――』も掲載しています。
https://syosetu.org/novel/420096/

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
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