The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

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FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


幕間EX 己に許可する

 王名は返還物ではなくなった。

 

 詩は王座の所有ではなくなった。

 

 未来は、帰還の証明ではなくなった。

 

 原曲は残る。

 帰る道も残る。

 記録も、祈りも、沈んだものも残る。

 

 だが、未来へ声を通す城門は、まだ誰の手で開かれるのか。

 

 その問いだけが、戦いの後も残っていた。

 

 境界線とは、線である。

 

 線である以上、内と外を分ける。

 

 ここから先は己であり、ここから外は己ではない。

 

 入るもの。

 退くもの。

 触れるもの。

 触れぬもの。

 残すもの。

 拒むもの。

 

 それらを裁定するために、線はある。

 

 ならば、線を変更する権利は誰にあるのか。

 

 深夜のカルデア訓練区画には、最低限の照明だけが灯っていた。

 

 戦闘用の仮想地形は展開されていない。

 

 ただ、広い床と、白い壁と、無機質な空調音だけがある。

 

 アトラスは中央に立っていた。

 

 紺碧の外装は、完全には戻っていない。

 

 王宮外壁の表層は同期を取り戻しつつある。

 だが、胸元から肩へかけて、薄い剥離痕が残っていた。

 

 傷ではある。

 

 欠落ではない。

 

 消えたものではない。

 

 それでも、記録は残っている。

 

 レヴィアタンが測った場所。

 王宮外壁と肉体の接合境界を、許可なく開こうとした場所。

 王名と個体名を、分離可能な部品として扱った場所。

 

 さらに、その奥には別の記録もある。

 

 王名返還処理。

 自己指示権限の凍結。

 自己指示の保留。

 至高王による王名請求。

 火天八紘の開城。

 返還物ではなくなった王名。

 

 外から壊された境界。

 

 内から凍った自己指示。

 

 王座へ返されそうになった名。

 

 それらは、すべて残っている。

 

 アトラスは、胸元の外装に己の指を置いた。

 

 痛みはない。

 

 だが、反応はある。

 

 外装の奥で、微細な警告が立ち上がる。

 

 接触記録。

 剥離記録。

 侵犯記録。

 返還請求記録。

 自己指示保留記録。

 

 アトラスは、それを消さなかった。

 

 消すべきではない。

 

 消せば、レヴィアタンがしたことまで、なかったことになる。

 

 至高王が求めたものまで、なかったことになる。

 

 己が凍ったことまで、なかったことになる。

 

 なかったことにはしない。

 

 ただし。

 

 それに支配されることも、棄却する。

 

「再同期率、九十二パーセント」

 

 入口から声がした。

 

 アトラスは振り返らない。

 

「覗き見か」

 

「観測だ」

 

「無許可だ」

 

「ならば退去させるか」

 

「可能だ」

 

「やってみよ」

 

「今は不要と判断する」

 

 入口に、ギルガメッシュが立っていた。

 

 黄金の鎧ではない。

 だが、その赤い目はいつも通り、傲慢で、退かない。

 

 訓練区画の扉にもたれず、壁にも寄りかからず、ただ立っている。

 

 アトラスの展開範囲には入っていない。

 

 まだ、外側にいる。

 

「境界の再定義を行う」

 

 アトラスは言った。

 

「観測を許可する」

 

「許可など要らぬ」

 

「では退去しろ」

 

「却下だ」

 

「ならば許可を受けろ」

 

 ギルガメッシュの口元が、わずかに上がった。

 

「面倒な王だ」

 

「お前ほどではない」

 

「よく言う」

 

「記録上、事実だ」

 

 アトラスは、足元へ槍の石突を置いた。

 

「オレイカルコス・アダマンティノス」

 

 紺碧の光が、静かに現れる。

 

 全面展開ではない。

 

 部分展開。

 

 王宮外壁の輪郭だけが、透明な城壁のように浮かび上がる。

 

 訓練区画の床に、細い線が走った。

 

 円ではない。

 

 壁でもない。

 

 城門の位置を示す線。

 

 内と外を分ける線。

 

 アトラスは、その内側に立っている。

 

 ギルガメッシュは、線の外にいる。

 

「入るな」

 

「入っておらぬ」

 

「触れるな」

 

「触れておらぬ」

 

「まだ、触れるな」

 

 ギルガメッシュの赤い目が、わずかに細くなる。

 

「魔力を流すな」

 

「流しておらぬ」

 

「名を呼ぶな」

 

 そこで、ギルガメッシュの赤い目がさらに細くなった。

 

「ほう」

 

「今回は、名を座標に戻す段階ではない」

 

 アトラスは胸元の剥離痕へ、もう一度指を置いた。

 

「己(おれ)が己の境界を変更する段階だ」

 

「ならば名は不要か」

 

「不要ではない」

 

 アトラスは即答した。

 

「ただし、現時点では使用を許可しない」

 

「よかろう」

 

 ギルガメッシュは、それ以上踏み込まなかった。

 

 名を呼ばない。

 

 線を越えない。

 

 ただ、見ている。

 

 レヴィアタンは、境界を測った。

 

 開こうとした。

 

 分けようとした。

 

 補完しようとした。

 

 保管しようとした。

 

 至高王は、名を返せと求めた。

 

 王冠へ戻れと、未来へ命じた。

 

 ギルガメッシュは、境界の外で止まっている。

 

 その差異を、アトラスはまだ分類しない。

 

 ただ、記録する。

 

「境界線を変更する」

 

 アトラスの声が、訓練区画に響いた。

 

「変更理由」

 

 紺碧の線が、床に明滅する。

 

「レヴィアタンによる侵犯記録の残存」

「王名返還処理後の自己指示権限再確認」

「城塞機能の更新」

「水路運用後の外壁再定義」

「接触許可条件の再設定」

 

 ギルガメッシュは黙って聞いている。

 

「変更対象」

 

 アトラスは続けた。

 

「王宮外壁と肉体の接合境界」

「個体名と王名の呼称境界」

「観測許可範囲」

「接触許可範囲」

「城門開閉権限」

 

 紺碧の城門が、薄い光を帯びる。

 

「変更権限」

 

 一拍。

 

「己」

 

 空調音が、やけに遠い。

 

「許可者」

 

 アトラスは、槍を床から離した。

 

「己」

 

 紺碧の城門が、ほんの少し開く。

 

 外へ。

 内へ。

 どちらとも言えない方向へ。

 

 壊れていない。

 

 こじ開けられていない。

 

 返せと命じられてもいない。

 

 己の手で、内側から開いている。

 

 アトラスの外装が、微かに警告を上げる。

 

 接触記録。

 剥離記録。

 侵犯記録。

 自己指示保留記録。

 

 それらは残っている。

 

 残ったまま、城門は開く。

 

「英雄王」

 

「何だ」

 

「一歩、前へ」

 

 ギルガメッシュは動かなかった。

 

「命令か」

 

「違う」

 

「懇願か」

 

「違う」

 

「では何だ」

 

「許可だ」

 

 赤い目が、アトラスを見る。

 

「誰に対する」

 

 アトラスは、わずかに沈黙した。

 

 その問いは、正確だった。

 

 ギルガメッシュに対する許可ではない。

 

 少なくとも、それだけではない。

 

「お前にではない」

 

 アトラスは言った。

 

「己に許可する」

 

 紺碧の城門が、さらに一拍分だけ開く。

 

「己が、境界線を変更することを」

「己が、城門を開くことを」

「己が、誰をどこまで入れるか裁定することを」

 

 外装の警告が、まだ鳴っている。

 

 けれど、止めない。

 

「己に許可する」

 

 ギルガメッシュが、一歩進んだ。

 

 紺碧の線の手前。

 

 まだ内側ではない。

 

 アトラスは彼を見る。

 

「止まるな」

 

「ほう」

 

「許可の範囲を明示している」

 

 ギルガメッシュは、もう一歩進んだ。

 

 城門の内側へ。

 

 訓練区画の空気が、わずかに変わる。

 

 外側にいたものが、内側に入った。

 

 ただし、許可された範囲で。

 

 アトラスの外装が反応する。

 

 防衛機能が立ち上がろうとする。

 剥離記録が警告を返す。

 接合境界が、過去の侵犯を参照する。

 王名返還処理の残響が、自己指示を照合しようとする。

 

 アトラスは、それらを読む。

 

 そして、棄却しない。

 

 なかったことにはしない。

 

 ただ、現在の裁定より上位には置かない。

 

 ギルガメッシュは、それ以上動かなかった。

 

 手を伸ばさない。

 

 近づかない。

 

 魔力を流さない。

 

 観測だけが、許可された位置に立っている。

 

「ここまでだ」

 

「承知した」

 

 即答だった。

 

 アトラスは眉を動かしかけた。

 

「反論はないのか」

 

「ない」

 

「不自然だ」

 

「不満か」

 

「不満ではない」

 

「ならば黙って記録しろ」

 

 アトラスは沈黙した。

 

 記録する。

 

 英雄王ギルガメッシュ。

 許可範囲内へ侵入。

 追加行動なし。

 接触なし。

 魔力流入なし。

 呼称境界侵犯なし。

 

 不快。

 

 ただし、侵犯ではない。

 

 レヴィアタンは越えた。

 

 ギルガメッシュは、越えない。

 

「境界の主が戻っている」

 

 ギルガメッシュが言った。

 

「評価か」

 

「事実だ」

 

「お前の事実は、時に過剰だ」

 

「貴様の分類ほどではない」

 

「分類は正確だ」

 

「ならば次を設定しろ」

 

 アトラスは、ギルガメッシュを見た。

 

「次」

 

「触れるな、と言った」

 

「言った」

 

「まだ、だとも言った」

 

「言った」

 

「ならば、まだではなくなる条件を設定しろ」

 

 アトラスの指が、わずかに動いた。

 

 胸元ではない。

 

 右手。

 

 紺碧の外装に覆われた、右手の表層。

 

 レヴィアタンに剥がされた場所ではない。

 胸元の接合境界ではない。

 王名と個体名の呼称境界でもない。

 

 外装表層。

 

 城門の、外側の石。

 

「接触許可範囲」

 

 アトラスは言った。

 

「右手外装表層」

 

 ギルガメッシュは、アトラスの右手を見た。

 

「時間制限」

 

「ある」

 

「どれほどだ」

 

「三秒」

 

「短いな」

 

「不満か」

 

「否」

 

 ギルガメッシュは、右手を上げた。

 

 だが、すぐには触れない。

 

 黄金の指先が、紺碧の外装の上で、一拍だけ留まった。

 

 赤い瞳が、許可された線を見定めている。

 

 許されたものだけを、越えぬために。

 

 ギルガメッシュが、アトラスを見る。

 

 アトラスの外装の奥で、警告が薄く立ち上がる。

 

 だが、これは侵犯ではない。

 

 アトラスは一拍置いて、頷いた。

 

 黄金の指が、紺碧の外装の上に触れた。

 

 一秒。

 

 外装が反応する。

 

 警告は出ない。

 

 二秒。

 

 魔力の流入はない。

 

 測定もない。

 

 ただ、触れている。

 

 三秒。

 

「終了」

 

 ギルガメッシュは即座に手を離した。

 

 余韻を引かない。

 

 その通りにした。

 

 触れられた場所に、熱ではなく記録が残る。

 

 アトラスは右手を下ろさなかった。

 

 すぐに引くことも、隠すこともしなかった。

 

 ただ、外装の反応を読む。

 

 防衛反応、軽微。

 接合部異常、なし。

 魔力干渉、なし。

 名の揺らぎ、なし。

 不快、あり。

 

 ただし。

 

「分類を追加する」

 

「何と」

 

 アトラスは、右手の外装を見た。

 

「許容可能な不快」

 

 ギルガメッシュが笑った。

 

 声を上げるほどではない。

 

 だが、確かに笑った。

 

「ひどい分類だ」

 

「正確だ」

 

「不快であることは否定せぬか」

 

「事実だ」

 

「だが、許容する」

 

「許容可能範囲内だ」

 

「ならば記録しておけ」

 

「既にした」

 

 アトラスは一歩下がった。

 

「退け」

 

 ギルガメッシュはすぐに退いた。

 

 一歩。

 

 二歩。

 

 紺碧の線の外へ。

 

 城門の外へ。

 

 許可された位置から、許可されていない位置へ戻る。

 

 アトラスは、それを見届けた。

 

 紺碧の城門が、静かに閉じる。

 

 ただし、以前と同じではない。

 

 開けないから閉じているのではない。

 

 己が開けると知った上で、閉じている。

 

 閉じることもまた、裁定だった。

 

「レヴィアタンは、境界を破壊した」

 

 アトラスは言った。

 

「至高王は、名を王座へ返そうとした」

 

 ギルガメッシュは答えない。

 

「お前は、境界を越えなかった」

 

 紺碧の光が、ゆっくりと薄れていく。

 

「己は、境界を変更した」

 

 アトラスは、胸元の剥離痕に触れた。

 

 痛みはない。

 

 記録はある。

 

「城門は、壊されるものではない」

 

 指先が、紺碧の外装をなぞる。

 

「返せと命じられるものでもない」

 

 アトラスは顔を上げた。

 

「己が開くものだ」

 

 ギルガメッシュは、線の外で腕を組んだ。

 

「次回も観測する権利を要求する」

 

「却下する」

 

「理由」

 

「未定だからだ」

 

「未定ならば、未来がある」

 

 アトラスは沈黙した。

 

 未定。

 

 未分類ではない。

 

 欠落でもない。

 

 未処理でもない。

 

 まだ、決めていないもの。

 

 それを、急いで埋める必要はない。

 

「未定は、欠落ではない」

 

 ギルガメッシュの口元が、わずかに上がる。

 

「ほう。貴様の口から出たか」

 

「己の台詞だ」

 

「我が聞いた」

 

「許可していない」

 

「ならば取り返せ」

 

「不快だ」

 

「よい。戻っている」

 

 アトラスは、ほんのわずかだけ息を吐いた。

 

 笑みではない。

 

 分類上、笑みではない。

 

 だが、呼吸は軽かった。

 

 訓練区画の扉が開く。

 

 廊下の遠くから、星詠みの詩の変奏が聞こえた。

 

 ボイジャーの声だった。

 

 原型とは少し違う。

 

 正しくはない。

 

 けれど、壊れてはいない。

 

 どこまでも、外へ伸びていく変奏。

 

 ギルガメッシュが歩き出す。

 

 アトラスも、その少し後を歩いた。

 

 並ぶには、まだ名がない。

 

 離れるには、もう遠い。

 

 廊下の光が、紺碧の外装を静かに照らす。

 

 レヴィアタンは越えた。

 

 英雄王は越えない。

 

 至高王は返還を求めた。

 

 大洋王は返還物ではなくなった。

 

 己は、開いた。

 

 そして、閉じた。

 

 また開くかは、未定。

 

 未定は欠落ではない。

 

 アトラスは歩き出す。

 

 己の城門を、己の内側に持ったまま。

 

 次に開くかどうかは、まだ決めていない。

 

 それでよい。

 

 未来とは、そういうものだ。

 




これにて『The Reversed Star――逆位置の星――』の第二部は終了です。
お読みくださって本当にありがとうございます。

以下の活動報告に制作時の裏話などを掲載しておりますので、興味のある方はこちらもお楽しみください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=332978

明日から五話だけ番外編を挟んで第三部の連載を始められればと思います。
アンケートや評価、感想などいただけますと大変励みになります。

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
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