The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

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FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


カルデア小話 その4
認証に失敗しました


 カルデアに持ち込まれる微少特異点のすべてが、世界の命運を左右するわけではない。

 

 今回の案件は、その中でもとりわけ単純な部類だった。

 

 本来、その時代、その海域には存在しないはずの海魔が大量発生している。

 

 原因を突き止める。

 発生源を潰す。

 残った海魔を掃討する。

 

 以上。

 

「フン。取るに足らぬ微少特異点よ」

 

 ブリーフィングルームの壁際で資料を眺めていたギルガメッシュは、早々にそう断じた。

 

「目新しいものもない。気が乗らぬ。せいぜい励むがよい」

 

 言うだけ言って、踵を返す。

 

 その背に、クー・フーリンがひらひらと手を振った。

 

「おーおー、行っちまえ行っちまえ。テメエとは反りが合わねえんだ、願ったりだぜ」

 

 ギルガメッシュは振り返りもしなかった。

 

 扉が閉まる。

 

「魔獣退治? 話が早くていいじゃねえか」

 

 クー・フーリンは代わって卓上の資料を引き寄せた。

 

「丁度、強化の具合を確かめたかったしな」

 

 アトラスは双方の反応を記録した。

 

 片や、目新しくないから行かない。

 片や、単純だからこそ行く。

 

 己にとっては、どちらでもない。

 

 案件がある。

 ゆえに処理する。

 

「それで、もう一つ」

 

 ダ・ヴィンチが、卓上へ一枚のカード型端末を置いた。

 

「概念礼装認証端末。先行調査で回収された海魔の霊子残滓から組み上げた、今回専用の攻略支援礼装だよ」

 

 残滓を一定量集積し、解析する。

 

 そこから現地の敵性存在へ有効な情報だけを抽出して、概念礼装へ落とし込む。

 

 ダ・ヴィンチの説明によれば、そういう代物だった。

 

「海魔相手なら、相当な補正がかかる。性能面だけ見れば、使わない理由はないね」

 

「なら使えばいいだろ」

 

「それがねえ」

 

 クー・フーリンが端末へ手を伸ばす。

 

 淡い光が走った。

 

 次の瞬間、乾いた電子音が鳴る。

 

『認証に失敗しました』

 

「……あ?」

 

 もう一度。

 

『認証に失敗しました』

 

「おい。使うっつってんだろ」

 

『認証に失敗しました』

 

「ランサー、機械に喧嘩を売らないで」

 

 立香が止めた。

 

「別に機械じゃないんだけどね」

 

 ダ・ヴィンチが苦笑する。

 

「性能自体は正常なんだ。ただ、現地由来の情報を礼装の形に押し込んだ時に、認証部分へ余計な概念まで混ざったらしい」

 

「認証機構は何を見ている?」

 

 アトラスは端末へ視線を落とした。

 

「今の走査を見る限り、肉体や霊基構造じゃないね。どちらかというと精神面――意思とか、認識とか。その辺りを照合しているように見える」

 

「使用意思か?」

 

「可能性はある。本人が本当に使う気なのかを、妙に厳密に確認してるとか」

 

 アトラスは端末に手を触れた。

 

 淡い光が指先から腕へ走る。

 

 問いかけるように、霊基の表層をなぞっていく。

 

 使用するか。

 

 否。

 

 それだけではない。

 

「単なる使用意思ではないな」

 

「うん?」

 

「礼装による霊基への干渉を、装着者自身が許可しているかを確認している」

 

 これは礼装へ向けた意思ではない。

 

 己自身への問いだ。

 

 この礼装によって己の霊基が変化することを。

 その作用を受け入れることを。

 

 己が、己に許可するか。

 

「己(おれ)は、この礼装の使用を許可する」

 

 一瞬。

 

 端末が強く発光した。

 

『認証しました』

 

「通った!?」

 

 立香が声を上げる。

 

「……ふうん」

 

 ダ・ヴィンチは面白そうに端末とアトラスを見比べた。

 

「曖昧な同意じゃ足りなかったわけだ」

 

「己が己に許可した。それだけだ」

 

「普通はそこまで厳密に考えないんだよ」

 

「そうか」

 

 それ以上の問題はなかった。

 

 少なくとも、その時点では。

 

 微少特異点の攻略自体は、ギルガメッシュの評を覆すほどのものではなかった。

 

 海上には、無数の難破船が座礁していた。船腹は砕け、帆柱は折れ、残骸だけが波間に連なっている。

 

 その間を、海魔の群れが這い回っていた。

 

 海魔が迫る。

 

 倒す。

 

 さらに湧く。

 

 また倒す。

 

「ははっ! いいねえ、こういうのでいいんだよ!」

 

 クー・フーリンの槍が海魔をまとめて貫いた。

 

「最近は小難しいのが多すぎたからな。斬るか突くかで片付く方がよっぽど性に合う」

 

「発生源はまだ残っているぞ、槍兵」

 

「分かってるって。堅えなあ」

 

 アトラスは海面へ視線を移した。

 

 複数。

 

 海魔が群れを成し、こちらへ接近している。

 

 広域で制圧する。

 

 そう裁定しようとした。

 

 その前に。

 

 海が動いた。

 

「――!」

 

 大波が立ち上がり、崩れるとともに海魔を呑み込む。

 

 制圧範囲を定めるより早く広がった波の端が、前方にいたクー・フーリンへ迫る。

 

 青い影が跳ねた。

 

 槍を支点に宙へ逃れたクー・フーリンが、着地ざまに振り返る。

 

「荒ぶってんな、海の大将!」

 

「……」

 

 海魔は消えていた。

 

 成果だけを見れば問題はない。

 

 だが、順序が違った。

 

 己が海を動かしたのではない。

 

 海が、己より先に答えた。

 

「すごい勢いだったけど……今のが、礼装の増幅?」

 

 立香が近づいてくる。

 

「そう解釈する」

 

 今の時点では、それ以上の答えはない。

 

「まあ、強え分には悪かねえけどよ」

 

 クー・フーリンが濡れた髪をかき上げた。

 

「次は一声寄越せ、海の大将。俺だって波乗りしに来たわけじゃねえ」

 

「承知した」

 

 それだけ返し、アトラスは次の海魔へ視線を向けた。

 

 微少特異点は、その日のうちに消滅した。

 

 

 カルデアに帰還し、出撃サーヴァント達は速やかに霊基の点検を済ませた。

 

 一連の手順に沿って、アトラスは礼装を解除しようとした。

 

 ――が。

 

「……外れぬ」

 

「え?」

 

 ダ・ヴィンチが振り返った。

 

 アトラスは端末に触れた。

 

「己は、以後の使用を許可しない」

 

 何も起こらない。

 

 認証は解除されなかった。

 

「ちょっと待って」

 

 霊基情報が展開される。

 

 礼装の装着状態。

 認証ログ。

 霊基との接続。

 

 いくつもの値が空中に並んだ。

 

「物理的に引っ掛かってるとかじゃないね。霊基側が装着状態を維持してる」

 

「己は解除を望んでいる」

 

「うん。そこは確認できてる」

 

 ならば、何が解除を妨げている。

 

 アトラスは意識を霊基の奥へ沈めた。

 

 普段なら、己の裁定の下にあるもの。

 

 深く、重く、海底に沈めている荒ぶるもの。

 

「……己の神性だ」

 

「神性?」

 

「許可を継続している」

 

 海神由来の領域。

 

 礼装によって前景へ押し上げられたそれが、装着状態をいまだ肯定している。

 

 礼装が己の意思を無視しているのではない。

 

 己の中から返される承認を、忠実に拾い続けている。

 

 先ほどの一拍が脳裏を過ぎる。

 

 己の裁定より先に動いた海。

 

「そういうことか……」

 

 ダ・ヴィンチの顔から笑みが薄れる。

 

「礼装が君を乗っ取ってるわけじゃない。増幅された神性側が認証を更新し続けてるんだ」

 

「不快だ」

 

 即答だった。

 

 強くなることが問題なのではない。

 

 海神性も己の一部ではある。

 

 だが、己のどの部分を前面に出すかを、外部の礼装に固定される理由はない。

 

 何より。

 

 己が裁定するより先に、己の一部が答える。

 

 その状態を放置するつもりはなかった。

 

「外せ」

 

「やってみよう。幸い、今すぐ霊基に致命的な影響が出る状態ではないよ」

 

「今すぐでなくとも同じだ」

 

「分かってるって」

 

 ダ・ヴィンチは両手を上げた。

 

 解除作業は、思ったより難航した。

 

「装着時に本人の確定した意思を拾ったなら――」

 

 ダ・ヴィンチが解析結果を睨む。

 

「逆向きの強い拒否を発生させられれば、それを解除信号として拾わせられるかもしれない」

 

「強い拒否?」

 

 立香が首を傾げる。

 

「つまりアトラスに、本気で嫌だって言わせればいいってこと?」

 

「大雑把には」

 

「成る程ね。なら善は急げってな」

 

 椅子へ腰掛けていたクー・フーリンが立ち上がった。

 

「海の大将。次のバレンタインでメイヴの足止めを頼んだ」

 

「承知した」

 

「マジで!?」

 

「場合によっては武力を以て対処する」

 

「そこまでやれとは言ってねえよ!」

 

 礼装は沈黙している。

 

「じゃあ」

 

 立香が考える。

 

「一週間、カルデアの掃除当番を全部――」

 

「人員配置と必要工数を示せ」

 

「条件交渉に入った……」

 

「要求したのは汝だ」

 

 失敗。

 

 ダ・ヴィンチまで加わった。

 

「それじゃあ、今後私が作った試作品は説明を聞かずに全部使ってもらうっていうのは?」

 

 アトラスは彼女を見た。

 

「汝はそれを望んでいないだろう、万能を名乗る者」

 

「う」

 

「事故が起きれば困るのは汝だ」

 

「はい」

 

 礼装は、やはり外れない。

 

「……面倒臭えな、こいつ」

 

「己ではない。礼装だ」

 

「どっちもだと思うな」

 

 立香とクー・フーリンの言葉を聞き流し、アトラスはこれまでの要求を頭の中で並べ直した。

 

 どれも拒否は成立していない。

 

 当然だ。

 

 三人はなお、己が拒む条件を探している。

 

「違う」

 

 アトラスの呟きに、三人の視線が集まる。

 

「何が違う?」

 

 立香が問い返した。

 

「己は何一つ棄却していない」

 

「うん。だからもっと嫌なこと考えないといけないのかなって――」

 

「嫌悪の有無ではない」

 

 アトラスは立香を見る。

 

「汝らは初めから、己に拒ませるために要求している」

 

 成立を望んでいない要求。

 

 通す意思のない申請。

 

 それを己が審理する理由はない。

 

 必要なのは、拒絶の強さではない。

 

 要求が真正であること。

 

 己がそれを受理し、審理し、その上で棄却すること。

 

「拒否が発生する前段階で止まってるってことか」

 

 ダ・ヴィンチが腕を組んだ。

 

「だから、いくら嫌そうな条件を並べても駄目なんだ」

 

 立香は少し考えて口を開いた。

 

「なら礼装そのものを『棄却する』ってできないの?」

 

 アトラスは首を横へ振った。

 

「己は、この礼装へ全量の裁定を下せぬ」

 

 霊基の内側深くへ意識を向ける。

 

 荒ぶるもの。

 

 海の暴威。

 

 普段は己の下、深くに沈めている部分が、礼装を受け入れている。

 

「己の神性が、いまだ使用を承認している」

 

「つまり、君自身の中で票が割れてるようなものか」

 

「正確な比喩ではない。だが、その理解でよい」

 

「厄介だねえ」

 

 ダ・ヴィンチは再び礼装を見た。

 

「なら、別件に対して君が完全な棄却裁定を出せれば、その裁定出力をこっちで拾って認証系に食わせる。解除信号だと誤認させられるかもしれない」

 

「真正な要求が必要になる」

 

「そういうことになるね」

 

 クー・フーリンが腕を組んだ。

 

「さっきより面倒になってねえか?」

 

「なったね」

 

「じゃあ、誰かが本気で頼めば……?」

 

 立香が言った。

 

 海が近い。

 

 先ほどよりも。

 

 王座が、わずかに神の側へ傾く。

 

「その時を待つ必要はない」

 

 アトラスは立ち上がった。

 

「この方式は打ち切る。別の手段を取る」

 

「別って――そんなのあったの?」

 

「己の統治が礼装に届かないのであれば、統治の届く場所を処理すればいい」

 

「届く、場所?」

 

「この霊基は己の統治下にある」

 

 アトラスが装甲の胸元に手を運ぶと、礼装スロットと神性の接続箇所が淡く浮かび上がった。

 

 指先が、その光を示す。

 

「ここを閉じる」

 

「待った」

 

 ダ・ヴィンチの返答は早かった。

 

「それ、礼装だけ切れる保証がないよ」

 

「把握している」

 

「装備スロットそのものが死ぬ可能性もある。海神系統の権能に影響が出るかもしれないし、霊基バランスだって――」

 

「把握している」

 

「把握してるなら待ってくれないかな!」

 

 必要な情報は得ている。

 

 不確定要素も理解した。

 

 その上での裁定だった。

 

「己の裁定系へ、外部の承認が居座り続ける状態は看過できぬ」

 

 先ほど感じた傾きは、止まっていない。

 

 己の王座に座すものを、己以外に決めさせるつもりはない。

 

「猶予はない」

 

 アトラスは処理を開始した。

 

 海神性と礼装を繋ぐ経路へ、閉鎖命令を走らせる。

 

 霊基内部。

 

 第一層。

 

 第二層。

 

 遮断が進行する。

 

「普段は重いくせに、こういう時はフットワークの軽い女だな!?」

 

 クー・フーリンの軽口に、立香が叫び返す。

 

「知ってる! 割と前からそう!」

 

「あーもう、接続部への干渉が始まってる! 仕方ない、荒っぽいけど霊基グラフ側から命令を遮断して――」

 

 声が飛び交う。

 

 ダ・ヴィンチの端末に警告表示が走り、立香がアトラスと彼女の間を忙しなく見比べる。クー・フーリンは何かあれば力ずくで止めるつもりなのか、槍こそ構えないものの一歩前へ出ていた。

 

 騒然とした空気が管制室を覆う。

 

 そのただ中へ。

 

 黄金の声が落ちた。

 

「何を騒いでおる」

 

 その声を認識した瞬間、アトラスは閉鎖命令の進行を止めた。

 

 騒めきも、一拍遅れて途切れる。

 

 扉の前に、ギルガメッシュが立っていた。

 

 

 しばし、誰も口を開かなかった。

 

 最初に我へ返ったのは立香だった。

 

「王様……えっと、今ちょっと――いや、だいぶ大変で」

 

「見れば分かる。何事だ」

 

 説明はダ・ヴィンチがした。

 

 微少特異点。

 礼装。

 認証。

 外れないこと。

 真正な棄却裁定を必要としているらしいこと。

 

 ギルガメッシュは途中まで、さして興味もなさそうに聞いていた。

 

「それでアトラスが、礼装との接続層ごと霊基側から閉じようとしてて」

 

「ほう」

 

 赤い瞳が、アトラスへ向く。

 

 室内の空気が、また変わった。

 

「要は、こやつに裁定させればよいのであろう」

 

 ギルガメッシュが歩き出す。

 

 一歩。また一歩。

 

 黄金の王が、アトラスの前まで来る。

 

 誰も口を挟まなかった。

 

 何を要求するつもりなのか。

 

 その問いだけが残った。

 

 アトラスは正面から赤い瞳を見返した。

 

 いつもの赤だった。

 

 傲岸で、揺るがず、己が口にするものを疑っていない。

 

 ならば、聞けばよい。

 

 ギルガメッシュが口を開いた。

 

「海よ、王のまま我に降れ」

 

「棄却する」

 

 礼装が外れた。

 

 カード型の認証端末が音を立てて床に跳ねた。

 

 それが再び床へ落ちるまで、誰も言葉を発さなかった。

 

「ハ!」

 

 ギルガメッシュだけが笑った。

 

 床へ落ちた端末を見もせず、踵を返す。

 

「次はもう少し我を愉しませるものを用意しておけ」

 

「え、ちょっと――」

 

 立香の声を置き去りに、黄金の背は扉の向こうへ消えた。

 

「――特攻礼装、解除確認!」

 

 ダ・ヴィンチの声のあと、アトラスも自身の状態をあらためた。

 

 認証停止。

 

 海神性への増幅も停止している。

 

 己より先に海が答える感覚も、ゆっくりと遠ざかっていく。

 

 閉鎖処理を再開する理由はない。

 

 アトラスは保留していた命令を破棄した。

 

 管制室に、妙な沈黙が残った。

 

 立香は閉じた扉をしばらく見つめていた。

 

「……今のって、解除するために言っただけ、だよね?」

 

 アトラスは答えなかった。

 

 あれは、己が受理した裁定だった。

 

 王の裁定であるならば、そこに偽りが挟まるわけがない。

 

 だからこそ、受理し、棄却した。

 

「……王ってのは、面倒なもんだな」

 

 クー・フーリンが、呆れたように言った。

 

「言葉で命のやり取りをしやがる」

 

 その評にも、アトラスは何も答えなかった。

 




活動報告で、制作裏話や本編に採用する場所のなかった掌編などを公開しています。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=332978

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
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