The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link
始まりは、アルトリアだった。
正確には、アルトリアを模したぬいぐるみだった。
「これ、メディアが作ったの?」
「そうよ」
魔術工房の一角。
いつもの薬品や術式や、立香には用途の分からない器具に混じって、それはいた。
金色の髪。
青い服。
丸い顔。
どう見てもアルトリアだった。
「かわいい」
「でしょう?」
メディアは一切謙遜しなかった。
それで立香が、
「他のみんなのも見てみたい」
と言ったのが始まりだった。
ただし、誰でも作ってもらえるわけではない。
「男性陣は?」
「どうして私が作らなければならないのです?」
選考基準は明快だった。
メディアが作りたい女の子。
以上。
そして今日。
工房の作業台には、新しい一体が座っていた。
淡い水青の髪。
頭の両脇には、王冠のように伸びた角。
身体を覆う濃紺と紺碧の外装。
小さくなっても、妙に姿勢がいい。
真正面を向いた顔は、愛嬌があるというより。
己は王だが。
そう言っているように見えた。
「わ、アトラスだ!」
「ええ。ちょうど仕上がったところよ」
立香は両手で持ち上げる。
軽い。
当然だ。
本物のアトラスを持ち上げたことはないが、少なくともこちらには王宮外装も三叉槍もない。
「かわいい……!」
「でしょう?」
二度目も、やはり謙遜はなかった。
立香は手の中の小さな大洋王を眺める。
血色の瞳まできちんと再現されている。
ただし、本物より丸い。
「そういえば」
「何?」
「こういうの作っていいか、本人には聞いてるの?」
メディアが立香を見る。
「聞きましたとも」
「聞いたんだ」
「後から文句を言われては面倒ですもの」
当然のように言ってから、メディアは針を置いた。
少し前。
食堂でアトラスを捕まえて、こう聞いたらしい。
「貴女の姿を模した人形を作りたいのだけれど」
アトラスはまず、
「用途は」
と返した。
「鑑賞。それ以上は今のところないわ」
「己(おれ)に実害はあるか」
「ないわね」
そこで一度、黙った。
何かを測るように。
やがて、
「ならば構わない」
それで終わったという。
「アトラスらしい……」
「そう? 話が早くて助かったけれど」
立香はもう一度、ぬいぐるみを見る。
本人は、自分そっくりのこれが完成したことをまだ知らない。
見せたらどんな顔をするだろう。
そんなことを考えていた時だった。
工房の前を、誰かが通った。
黄金の鎧。
赤い衣。
金色の髪。
そのまま通り過ぎる。
はずだった。
足が止まった。
二歩ほど戻った。
「……ギルガメッシュ?」
返事はない。
赤い瞳が、立香の手元を見ている。
いや。
アトラスぬいを見ている。
ギルガメッシュは工房へ入ってきた。
「何です」
メディアが言う。
答えない。
立香の手からぬいぐるみを取り上げる。
「あ」
正面。
横。
後ろ。
もう一度正面。
角を見る。
髪を見る。
外装を見る。
妙に真面目だった。
聖杯でも鑑定しているような顔で、手のひらに乗る大洋王を検分している。
やがて。
「ほう」
口元が少し上がった。
「存外よく出来ておるではないか」
「当然でしょう」
メディアも当然のように返した。
王と魔女の間で、謙遜という概念だけが綺麗に消失している。
ギルガメッシュはもう一度ぬいぐるみを見た。
そして。
そのまま工房を出ようとした。
「ちょっと、待ちなさい」
止まった。
「何だ」
「それは、私のものです」
「で?」
「譲るとは言っていないわ」
沈黙。
ギルガメッシュが手の中を見る。
アトラスぬいは何も言わない。
メディアを見る。
「では寄越せ。相応の対価を払ってやろう」
「最初からそう言いなさい」
話は早かった。
メディアが要求した素材を、ギルガメッシュは宝物庫から出した。
何の素材なのか立香には分からなかったが、メディアが満足したので、それで取引は成立したらしい。
ぬいぐるみはギルガメッシュの手に戻った。
今度は、正式に。
「ちゃんと買うんだ……」
「何を当然のことに驚いている」
「ごめん、なんとなく」
「我を何だと思っておる」
英雄王。
宝物庫の主。
そして今は、アトラスぬいの所有者。
ギルガメッシュは満足したらしい。
今度こそ工房を出る。
その直前。
「魔女」
「今度は何?」
「もう一つ作れ」
メディアが止まった。
「……もう一つ?」
「そうだ」
「今それを手に入れたばかりでしょう?」
ギルガメッシュは、手の中のぬいぐるみを見た。
「これは使用する」
沈黙。
立香も見る。
メディアも見る。
アトラスぬいは、やはり真正面を向いている。
「使用するんだ……」
「何に?」
メディアの問いに、ギルガメッシュは鼻を鳴らした。
「我が所有物をどう扱おうが我の勝手であろう」
「用途を聞いてるのだけれど」
「同型をもう一つ作れ。そちらは保存する」
「……保存用ね」
メディアは追及を諦めた。
ギルガメッシュは去っていく。
その手には、小さな大洋王。
立香はその背を見送った。
「メディア」
「何?」
「王様、すごく気に入ってない?」
「言わないでおきなさい」
「うん」
たぶん、その方が面白い。
*
一体目は、本当に使用された。
立香が次に見た時、それはギルガメッシュの私室にあった。
卓上。
酒杯の隣。
本の横。
何かをさせているわけではない。
ただ置かれている。
「これが使用……」
「何だ、雑種」
「何でもない」
二体目も完成した。
こちらは保存された。
メディアが渡した時の状態のまま、未使用。
それで終わると思っていた。
終わらなかった。
*
「もう一つ作れ」
数日後。
再び工房へ現れたギルガメッシュに、メディアは針を持ったまま顔を上げた。
「今度は何です」
「予備だ」
「保存用があるでしょう?」
「痴れたか」
「なぜ」
「保存用を代替として開封すれば、保存の用を為さなくなろう」
メディアが黙った。
たまたま遊びに来ていた立香も黙った。
使用用。
保存用。
使用用が破損した場合。
保存用を開ける。
すると保存用がなくなる。
「…………たしかに?」
「納得しなくていいのよ、マスター」
「でも理屈は通ってる」
「通っているから腹が立つのよ」
ギルガメッシュは当然という顔をしている。
論理上、何も飛んでいない。
使用するものには、壊れる可能性がある。
保存するものは、保存されていなければならない。
ならば、予備は別に必要になる。
「では、三体目ね」
「そうだ」
メディアは新しい布を取り出しかけて。
ふと、止まった。
「そういえば」
「何だ」
「最初に本人へ許可を取った時は、一体作るくらいの話だったのだけれど」
ギルガメッシュが眉を上げる。
「何の問題がある」
「さあ?」
メディアは肩をすくめた。
「本人が文句を言いに来たら、今度は貴方が説明なさい」
「構わぬ。疾く作業に入るがよい」
即答だった。
三体目の製作が決まった。
立香は思った。
最初は一体だった。
それが今、三体になろうとしている。
すべての理由は説明されている。
なのに。
どうしてこんなことになったのかだけは、まるで説明されていない気がした。
*
三体が揃った日。
アトラスが来た。
正確には、立香が呼んだ。
「ちょっと見てほしいものがあるんだけど」
「何だ」
「見れば分かると思う」
「ならば見る」
話は早かった。
場所はカルデアのラウンジ。
ギルガメッシュが椅子に座っている。
卓上には三体。
使用。
保存。
予備。
同じ顔。
同じ水青。
同じ角。
同じ外装。
小さな大洋王が、三体並んで真正面を向いていた。
アトラスが入ってくる。
止まった。
「…………」
三体を見る。
自分の手を見る。
もう一度、三体を見る。
「…………」
立香は口元を押さえた。
笑ってはいけない。
まだ。
アトラスが静かに言った。
「……なぜ己が三人いる」
「たわけ、三体あるのは人形だ」
ギルガメッシュが答える。
アトラスの血色の瞳が彼を見る。
「己を模している」
「そうだな」
「己は一人だ」
「見ればわかる」
「ならば、なぜ――」
「貴様の話はしておらぬ」
立香は俯いた。
駄目だった。
どう見てもアトラスの話だった。
机の上にアトラスが三体いる。
その前に本物のアトラスがいる。
この状況で、貴様の話はしていない。
暴論にしか聞こえない。
だが、ギルガメッシュは平然としていた。
アトラスも言い返さない。
三体を見る。
ギルガメッシュを見る。
もう一度、三体を見る。
「……説明を要求する」
「使用、保存、予備だ」
「用途を聞いているのではない」
「ならば何だ」
アトラスは少し黙った。
問いそのものを組み直しているように見えた。
やがて諦めたように、三体へ視線を戻す。
そのうち一体を指す。
「見てもよいか」
「構わん」
アトラスは手を伸ばした。
勝手には取らない。
許可を得てから、両手で持ち上げる。
正面。
横。
後ろ。
角。
髪。
外装。
立香は見覚えがあった。
検分の仕方まで似ている。
「……これは己なのか」
「貴様を象った物だ」
アトラスは手の中の小さな顔を見る。
「己ではない」
「当然であろう」
即答だった。
アトラスはしばらくぬいぐるみを眺めた。
指先で角に触れる。
小さな外装の縁を見る。
「……よく出来ている」
「無論だ」
「製作者は汝ではない」
「我の物だ」
「それは製作技術の評価とは関係がない」
「細かいことを言うな」
「事実だ」
立香は笑った。
ギルガメッシュが自分の所有物を褒められて、なぜか少し偉そうになっている。
製作者は別にいる。
だが、もう彼のものではある。
アトラスは再び手元を見る。
三体を見る。
その口が開く。
「これは己を模した――」
止まった。
少し黙る。
「三体あるなら、一つ程度――」
また止まった。
立香は何も言わなかった。
アトラスの血色の瞳が、手の中のぬいぐるみに落ちる。
理由を探している。
そんなふうに見えた。
だが。
その理由を、途中で捨てた。
「……一体、欲しい」
静かな声だった。
ギルガメッシュは。
「やらん」
即答した。
「即答!?」
立香の声が出た。
アトラスも一瞬、黙った。
「…………」
「これは我の物だ」
ギルガメッシュはそれだけ言った。
アトラスは彼を見る。
拒まれた。
それだけだった。
怒らない。
取り繕わない。
言ったことを取り消そうともしない。
「……把握した」
それで終わった。
少し残念そうには見える。
けれど、沈んではいない。
ギルガメッシュも、何事もなかったように酒杯へ手を伸ばしている。
望んだ。
拒まれた。
それだけで、何も壊れない。
アトラスは手の中のぬいぐるみを見た。
「これは使用用か」
「そうだ」
「何に使用している」
「置いておる」
「それは鑑賞と言うのではないのか」
「我が使用と定めた」
「……そうか」
「何だ、その顔は」
「何も言っていない」
立香はまた笑いそうになった。
少しして。
ギルガメッシュが片手を出した。
「返せ」
アトラスが手元を見る。
「己を模したものだろう」
「だから何だ」
一拍。
赤い瞳が、真っ直ぐアトラスを見る。
「我のものだ。ゆえに返せ」
アトラスは黙った。
小さな自分を見る。
ギルガメッシュを見る。
そして。
「承知した」
手渡した。
ギルガメッシュは受け取る。
返されたぬいぐるみは、元の位置に置かれた。
使用用。
保存用。
予備。
三体。
アトラスはそれ以上、欲しいとは言わなかった。
「では、己は戻る」
「うん。またね、アトラス」
「マスター」
「何?」
「次に己を呼ぶ時は、理由を先に言え」
「ごめん」
「不快ではない。手順の話だ」
「分かった」
アトラスは去っていった。
扉が閉まる。
立香は三体を見る。
ギルガメッシュを見る。
「でも」
「何だ」
「三体あるなら、一個くらいあげてもよかったんじゃない?」
「何故だ」
本当に分からない顔だった。
「だって三体もあるし」
「使用、保存、予備だ。余剰ではない」
「全部役割がある……」
「当然であろう」
立香は三体を見る。
使用。
保存。
予備。
確かに。
余っていない。
本当に一体も余っていなかった。
*
翌日。
メディアの工房に、また英雄王が現れた。
メディアは顔を上げた。
しばらく見た。
そして、ため息をついた。
「……今度は何?」
「もう一体用意しろ」
「また!?」
たまたま工房にいた立香も振り返る。
「使用用がある」
「ある」
「保存用もある」
「ある」
「予備も」
「ある」
メディアは眉間を押さえた。
「今度は何用だと言うの」
短い沈黙。
ギルガメッシュは腕を組んだ。
「贈答用だ」
「…………」
メディアが黙った。
立香も黙った。
一瞬だけ、二人の視線が合う。
なるほど。
そういうことか。
たぶん、同じことを考えた。
ギルガメッシュが二人を見る。
「何だ」
「いや」
立香は首を振った。
「別に、なんでもない」
メディアの口元がほんの少しだけ上がった。
だが、何も言わない。
「分かったわ」
「ならば疾く作れ」
「はいはい」
その先を、立香は見なかった。
*
「大洋王」
呼ばれて、アトラスは足を止めた。
振り返る。
廊下の向こうから、ギルガメッシュが歩いてくる。
手に何かを持っていた。
片手に収まる程度の、小さなもの。
「何だ」
「持っていけ」
説明もなく、差し出された。
アトラスはそれを見る。
水青ではない。
金色の髪。
赤い瞳。
黄金を模した装い。
一拍。
「……己ではない」
「見ればわかる」
アトラスは人形から目を上げた。
目の前には、同じ金色の髪と赤い瞳。
ただし、こちらは丸くない。
「なぜ己ではない」
「先日言ったであろう」
ギルガメッシュは、さも当然のように言った。
「貴様を象った三体はすべて我のものだ。くれてやる義理はない」
アトラスは黙った。
三体。
使用。
保存。
予備。
確かに、すべてギルガメッシュの所有物だった。
そのこと自体に異論はない。
だが。
貴様を象った三体。
我のもの。
その二つの言葉を結ぶ線を、頭の中で切り分ける。
「己は汝の所有物ではない」
ギルガメッシュは眉一つ動かさなかった。
「痴れたことを。貴様と貴様を象った物を同列にするものか。あれは我が価値を認め、我が蔵に収めると裁定した宝だ」
アトラスは彼を見る。
それから、差し出された人形を見る。
その点に異論はない。
己は己。人形は人形だ。
だからこそ、先日も「己ではない」と言った。
ならば。
目の前のこれは何だ。
視線が、小さな黄金の表面を彷徨い続ける。
ギルガメッシュが言った。
「我が貴様に所有されるなど天地が返ろうとあり得ぬ。だが我を象った宝を誰に持たせるかは我が決める。――貴様ならば不足はない」
アトラスは黙った。
人形を見る。
本人を見る。
もう一度、人形を見る。
ギルガメッシュ本人は、己の所有物ではない。
この人形も、ギルガメッシュ本人ではない。
そして今、この人形を所有しているのは彼だ。
ならば、誰へ譲るかを決める権限も彼にある。
理屈そのものに破綻はない。
ないのだが。
なぜ己なのか。
そこだけは、
――貴様ならば不足はない。
その一言以上には説明されていない。
アトラスはもう一度、小さな黄金を見る。
金色の髪。
赤い目。
随分と丸くされているが、尊大そうな雰囲気は本人と違わなかった。
まだ考えていると見たのか、ギルガメッシュが言った。
「いらぬのか?」
アトラスは人形を見る。
己ではない。先日のものとは違う。
けれど。
少し間を置く。
「……受理する」
ギルガメッシュが人形を差し出した。
アトラスは両手で受け取る。
所有権の確認は、もうしなかった。
受理した。
それで十分だった。
手の中で角度を変える。
横。
後ろ。
もう一度正面。
金色の髪へ指先で触れる。
小さな衣装の縁をまくる。
出来は悪くない。
少なくとも、己を模した三体と並べても見劣りはしないだろう。
もっとも。
並べる予定はない。
これは一体だけだ。
使用用でもない。
保存用でもない。
予備でもない。
ただ一体。
アトラスはそれを腕の中へ少し寄せた。
落とさぬように。
ただ、それだけのように。
ギルガメッシュは何も言わなかった。
アトラスも何も言わない。
小さな黄金だけが、腕の中で相変わらず尊大そうに前を向いていた。
*
立香は、少し離れたところでその一部始終を見ていた。
ギルガメッシュの私室には、今も三体のアトラスがいる。
使用。
保存。
予備。
一体たりとも余っていない。
そして今。
アトラスの腕の中には、一体のギルガメッシュがいる。
この先、こちらも使用用、保存用、予備と増えていくのか。
それは分からない。
たぶん、増えない気もする。
アトラスは一体あれば、その一体を普通に大事にしそうだった。
ギルガメッシュは三体。
アトラスは一体。
数は違う。
愛で方も、まるで違う。
それでも。
一体のままでも、その重さは三体ときっと変わらない。
立香は二人の背を見送りながら、少しだけ笑った。
この作品の興味をもったところは?
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アトラスのキャラクター性・内面
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ギルガメッシュとの関係性
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王としての在り方・王権のテーマ
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ストーリーの展開
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その他