The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

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FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


幕間 王たちは光を評す

 砦から戻って、いくつかの作戦を挟んだ後だった

 

 夜のカルデアで、酒盛りの気配はよく響く。

 談話室の手前まで来たところで、立香は足を止めた。

 

「だから、それを酒と呼ぶには薄いと言っている」

 

「ははは! 飲めば同じよ、英雄王!」

 

「同じなものか。其方らは、味覚というものをもう少し尊重せよ」

 

 三者三様の大声だった。

 扉を開ける前から、誰がいるか分かる。

 

 立香が中を覗くと、予想どおりの王たちが卓を囲んでいた。

 

 イスカンダルは大ぶりの杯を手にし、始皇帝は細身の酒器を光へ透かしている。ギルガメッシュの前には、見るからに高価そうな瓶が二本。

 

 そして、その間にアトラスがいた。

 小さな杯を前に置き、卓上へ広げた記録へ血色の瞳を落としている。

 

「何の集まり、これ?」

 

 全員が立香を見た。

 会話が一拍止まる。

 

「おう、来たか!」

 

 イスカンダルが笑い、空いていた椅子を足で押し出した。

 

「立っておらんで座れ。其方が入ってきたのだ、席くらい詰めようぞ」

 

 始皇帝が当然のように手で示す。

 アトラスは何も言わず、自分の前に広げていた記録を寄せた。

 ギルガメッシュは、立香が席へ着く前に虚空へ手を入れた。

 黄金の波紋から、透き通った瓶が一本落ちてくる。

 

「貴様にはこれでよい」

 

 立香は受け取った瓶を光へ透かした。

 

「ありがとう。……これ、ジュース?」

 

「我の蔵から出した果汁だ。市井の水物と同列にするな」

 

「やっぱり普通のジュースじゃなかった」

 

「我の蔵から出た時点で、普通であるはずがなかろう」

 

 栓を抜くと、甘い香りが広がった。

 一口飲む。

 

 果汁、と言われて想像する味よりずっと濃い。それでいて重くなく、酸味が舌の上で綺麗に消えた。

 

「おいしい」

 

「当然だ」

 

 なぜかギルガメッシュが勝ち誇った。

 イスカンダルが卓を叩いて笑う。

 

「酒を飲ませぬくせに、随分とよいものを出すではないか」

 

「我のマスターを貴様の悪酔いに付き合わせる必要がどこにある」

 

「朕にも一口寄越せ」

 

「嫌だよ。もう自分の飲んでるでしょ」

 

「ほう。王の要求を即座に退けるか。ますます面白いな、其方」

 

 立香は瓶を抱え直し、改めて卓を見回した。

 

「それで、本当に何の話をしてたの?」

 

「酒の格についてだ」

 

「世界を平定した王にふさわしい酒とは何か、であるな」

 

「違うぞ! 王が酒を選ぶのではない。王が飲めば、それが王の酒となるのだ!」

 

「やはり薄い酒を正当化しておるだけではないか」

 

 話がまとまっていないことだけは、すぐに分かった。

 

 立香は笑い、果汁の杯を置いた。

 

「ごめん。話、止めた?」

 

「止めてはおらん」

 

 イスカンダルが大きく首を振る。

 

「おぬしが来たゆえ、見ただけよ!」

 

「当然であろう。入室者を確認せず話を続けるほど、朕らは無警戒ではない」

 

「その程度のことへ、いちいち理由を求めるな」

 

 三人が好き勝手に答える。

 

 アトラスだけは、立香を見たまま何も言わなかった。

 

「でも、みんな一斉に見たよね」

 

「それを我だけの異能のように考えておったのか」

 

 ギルガメッシュが杯を傾ける。

 

「え?」

 

 立香が聞き返すより先に、イスカンダルが身を乗り出した。

 

「なるほど。では、ちょうどよい!」

 

「何が?」

 

「今宵の問いが決まった!」

 

「また其方が勝手に決めるのか」

 

 始皇帝が呆れた声を出す。

 

 イスカンダルはまるで気にせず、杯を高く掲げた。

 

「カリスマとは、王の徳か、民の癖か!」

 

 談話室に声が響いた。

 

 立香はしばらく瞬いた。

 

「二択の立て方が雑であるな、征服王」

 

「雑でよい! 答えるうちに細かくすればよかろう!」

 

「酒席の問いとしては及第点だ」

 

 ギルガメッシュまで乗った。

 

 アトラスは卓上の記録端末を引き寄せ、無言で新しい項目を開いた。

 

「記録するの?」

 

「問いが発生した」

 

「そうなんだ……」

 

 立香は記録端末を覗き込み、それから卓を囲む王たちへ視線を戻した。

 

「それで、カリスマってスキルの話?」

 

「名称へ逃げるな」

 

 ギルガメッシュが立香を指した。

 

「今、貴様が入ったことで全員の視線が動いた。まずはそれだ」

 

「私は王様じゃないけど」

 

「王でなければ人を惹きつけぬと、誰が決めたか!」

 

 イスカンダルが豪快に笑った。

 

     *

 

「王の徳に決まっておろう!」

 

 最初に答えたのも、イスカンダルだった。

 

「早いね」

 

「迷うところがあるか?」

 

 杯を卓へ置く。

 

「余が夢を示せば、見た者が胸を躍らせる。走り出した者どもを見て、王はさらに遠くを目指す」

 

 大きな手が、空に見えない道を描く。

 

「どちらが先かなど、どうでもよい! 王と臣下が互いを大きくする。その渦こそ王道よ!」

 

「でも、それって」

 

 立香は言葉を選んだ。

 

「ついていった人が、本当に自分で決めたのか分からなくなる時もあるんじゃない?」

 

 イスカンダルは笑わなかった。

 

「ならば王が、何を望むかを何度でも問えばよい」

 

「王が?」

 

「巻き込んだ以上、ついてきた者の果てまで見る。それも王の仕事だ」

 

 その声には、酒席の勢いとは違う重さがあった。

 

「王の夢を見て走った者が、途中で己の夢を見つけることもあろう。離れることもあろう。それを恐れて、最初から胸を震わせぬ王がどこにいる」

 

 立香は少し考えて、頷いた。

 

「人を動かすこと自体が悪いわけじゃない、ってことだね」

 

「当然だ! 動かぬ者ばかり集めて、何を成す!」

 

「征服王らしい答えであるな」

 

 始皇帝が酒器を置いた。

 

「民が王を仰ぐこと自体を、朕は否定せぬ」

 

「お、始皇帝も分かるか!」

 

「最後まで聞け」

 

 始皇帝はイスカンダルを一瞥する。

 

「だが、王を仰がねば己の足を定められぬというなら、その世界はいまだ王の完成を待っておる」

 

「ほう」

 

 イスカンダルの目が楽しげに細くなる。

 

「ではおぬしは、誰も王を見ぬ国がよいと?」

 

「違うな」

 

 始皇帝は即座に返した。

 

「王が見えぬ時にも揺らがぬよう、王が世界の側へ組み込まれておればよい」

 

「それって、王様がいなくても動く仕組み?」

 

 立香が尋ねる。

 

 始皇帝は心底不思議そうな顔をした。

 

「朕がいなくなる前提を、なぜ置く?」

 

「あ、そこからなんだ」

 

「当然であろう。世界を預かるならば、王は世界より先に欠けてはならぬ」

 

 冗談ではない。

 法を残すのでも、後継を置くのでもない。

 王が世界そのものの機構となる。

 一声で兵を立たせるのではなく、その声がなくとも、王の意思が世界の隅々で実行され続ける。

 

「一声で立ち直る兵は美しい」

 

 始皇帝はイスカンダルへ向けて言った。

 

「だが、その一声がなければ崩れるなら、仕組みとしては未完成よ」

 

「完成しすぎた仕組みは、つまらんぞ」

 

「其方が退屈するかどうかなど、統治の評価項目には入らぬ」

 

 イスカンダルが大笑いした。

 アトラスが記録から顔を上げる。

 

「完成後、汝以外の判断主体は残るのか」

 

 始皇帝は彼女を見る。

 

「不要であったからな」

 

 ためらいはなかった。

 

「飢えぬ。病まぬ。争わぬ。誤った判断で命を失うこともない。ならば、個々が判断を抱える必要がどこにある」

 

「訂正者も残らない」

 

「朕が誤らぬよう、朕を完成させればよい」

 

 立香は杯を持ったまま、二人を見比べた。

 

 似ているようで、まるで違う。

 始皇帝は、迷いの全てを一つへ引き受けようとする。

 アトラスは、迷いを消さずに、戻る場所を作ろうとする。

 

「其方は採らぬのであろう?」

 

 始皇帝が言った。

 

「採用しない」

 

「であろうな。其方は、未完成な者どもへ随分と気長だ」

 

「未完成であることを、裁定権の欠格とはしない」

 

「ふむ」

 

 始皇帝は不快そうにはしなかった。

 

 異なる答えを、異なるまま眺めている。

 

「危ういが、筋は通っておる」

 

「汝の形式も、完成している」

 

「では採ればよいものを」

 

「目的が違う」

 

「そこが惜しいと言うておるのだ」

 

 始皇帝は少し笑った。

 

     *

 

「それで、ギルガメッシュは?」

 

 立香が問う。

 

「我に問うまでもなかろう」

 

 金の王は杯を傾けた。

 

「我が何かを与えねば、雑種どもが我を仰げぬとでも思ったか」

 

「思ってないけど」

 

「我が在る。見た者が勝手に己を正す。それだけだ」

 

「ならば、それは王の徳ではないと?」

 

 イスカンダルが問う。

 

「徳と呼びたければ呼べ。だが、我が配したものではない」

 

 ギルガメッシュは笑う。

 

「ゆえに、返せと言われても返しようがない」

 

「便利な理屈であるな」

 

 始皇帝が口を挟む。

 

「功績は王の存在へ集まり、害だけ民の勝手と申すか?」

 

「我が言ったこと、我がしたことは我のものだ」

 

 ギルガメッシュの声が低くなる。

 

「我が言ってもおらぬことを、勝手に沈黙から作ったなら、それは作った者のものよ」

 

「じゃあ、間違った受け取り方をされても放っておく?」

 

「目に余れば正す」

 

「正せなかったら?」

 

「それでも、我が言わなかったものまで我の言葉にはならぬ」

 

 立香は、その線引きを頭の中でなぞった。

 自分の行為は引き受ける。

 相手の解釈まで、最初から自分の所有物にはしない。

 

「そもそも」

 

 ギルガメッシュの赤い瞳が、立香へ向いた。

 

「貴様も持っておろうが」

 

「え、私が?」

 

 本気で驚いた。

 

 立香は卓を囲む王たちを見た。

 

 イスカンダルの大きな身体。始皇帝の揺るがない姿勢。ギルガメッシュの、そこにいるだけで中心を作る存在感。

 

 アトラスは静かだった。血色の瞳が向くと、立香は言葉を一度選び直した。

 

「でもカリスマって言われると、やっぱり王様たちみたいな……圧? かなって思うよね」

 

 一拍。

 

 イスカンダルが腹を抱えて笑った。

 

「圧! ははは、確かに我らにはあるやもしれん!」

 

「征服王、其方は圧というより声量であるな」

 

「同じことよ!」

 

「違うでしょ」

 

 立香も笑った。

 

 始皇帝は、立香を観察するように目を細める。

 

「其方の場合、威圧ではなく参加を誘発するのだな」

 

「参加?」

 

「制度上の命令権より、同道の履歴が求心力となっておる」

 

「一緒に来てくれるのは、みんなが優しいからじゃない?」

 

「優しい者が、誰にでも同じようについていくと思うか?」

 

 ギルガメッシュが呆れた声を出す。

 

「貴様が来れば、英霊どもが勝手に席を空ける。十分であろう」

 

 立香は、自分が部屋へ入った時のことを思い出した。

 

 イスカンダルが椅子を出した。

 始皇帝が席を示した。

 アトラスが記録を寄せた。

 ギルガメッシュが果汁を出した。

 

 頼んでいない。

 命令もしていない。

 

「それは……いつも一緒にいるからじゃない?」

 

「同じことだ」

 

「違うと思うんだけどなあ」

 

「王は先頭に立ち、背を見せる」

 

 イスカンダルが言う。

 

「だが、隣を空けて進む者にも、人はついてゆくものよ!」

 

「隣を空けてるつもりはないんだけど」

 

「空いておるから来るのだ!」

 

「説明になってない」

 

「いや、存外正しいぞ」

 

 始皇帝が頷いた。

 

「其方は目的地を完成品として示さぬ。ゆえに、同行者は途中で自分の答えを加えられる」

 

 ギルガメッシュが、身も蓋もなく口を挟む。

 

「要するに、放っておけば勝手に増える」

 

「その言い方だと、菌みたいなんだけど」

 

 ギルガメッシュは愉快そうに笑った。

 

 アトラスが立香を見る。

 

「汝は、同行を確定しない」

 

「うん。来てって頼むことはあるけど、最後はその人が決めることだし」

 

「ゆえに、同行した者は己の選択を保持する」

 

「それもカリスマなの?」

 

「分類名は重要ではない」

 

「そう言うと思った」

 

     *

 

「では大洋王」

 

 イスカンダルが杯を掲げる。

 

「おぬしはどう見る?」

 

 アトラスは記録端末を伏せた。

 

「己の兄も、人を一つの方向へ集める王だった」

 

 卓の空気が少し変わった。

 

 立香は、アトラスの兄である至高王を思い出す。

 

 彼女の上にあり、国の王冠を戴いていた王。

 

「兄が立てば、人は己の位置を定めた」

 

 アトラスの声は平らだった。

 

「兄が進む方向を示せば、国は同じ方向へ動いた」

 

 感傷を混ぜない。

 事実を置く。

 

「それによって国は保たれた」

 

 一拍。

 

「ゆえに、その形式を誤りとは裁定しない」

 

「うむ!」

 

 イスカンダルが満足そうに頷く。

 始皇帝も異論を挟まなかった。

 ギルガメッシュだけは杯を置き、アトラスの言葉を聞いていた。

 

「じゃあ、アトラスもカリスマは王様の徳だと思う?」

 

 立香が問う。

 

「所有者を一人に定める必要はない」

 

「一人に?」

 

「王が条件を置く」

 

 アトラスは卓上の杯を一つ動かした。

 

「見た者が応答する」

 

 別の杯を、その向かいへ置く。

 

「双方で成立する」

 

「ならば、やはり王道ではないか!」

 

 イスカンダルが言う。

 

「それと裁定権は別だ」

 

 アトラスの血色の瞳が、卓上の全員を見る。

 

「カリスマは、誰を見るかの話だ」

 

 静かな声だった。

 

「誰が決めたかの話ではない」

 

 酒席が、ほんの一瞬だけ静まった。

 

 兄を見ていた。

 兄を王として認めていた。

 その光の下で、自分の位置を知っていた。

 それでも、アトラス自身の裁定まで兄のものだったわけではない。

 

「注意は集まる」

 

 アトラスは置いた杯を離した。

 

「権限は移らない」

 

「見る者と決める者を分ければ、責もまた分かれる。朕は、それを非効率と見る」

 

「記録した」

 

「なるほどな」

 

 イスカンダルは楽しそうに顎を撫でた。

 

「見ることと、従うことを分けるか」

 

「従うことと、決めることも分ける」

 

「細かい!」

 

「必要だ」

 

「うむ、そこがおぬしらしい」

 

 立香はギルガメッシュとアトラスを交互に見た。

 

「でも、二人ともやってることは結構違うよね」

 

「違うから面白いのだろう!」

 

 イスカンダルがまた笑う。

 

「ギルガメッシュは……」

 

 立香は言葉を探した。

 

「自分が何とかするって言って、考えなくていいことを減らす」

 

 ギルガメッシュの眉が上がる。

 

「アトラスは、何を見ればいいかを決めて、考えるための地図を渡す」

 

「随分と平たくしたものだな」

 

「誤りではない」

 

 アトラスが言った。

 

 始皇帝が二人を見る。

 

「目的は同じか」

 

「各自を、各自の持ち場へ戻す」

 

 アトラスは答えた。

 

「ならば並べて使えばよい!」

 

「貴様に言われるまでもない」

 

 ギルガメッシュが即座に返した。

 

「おや」

 

 始皇帝が面白そうに笑う。

 

「そこは否定せぬのだな、英雄王」

 

「使うなどという表現が気に入らぬだけだ」

 

「同意はしておるではないか」

 

「黙れ」

 

     *

 

「ところで」

 

 始皇帝が最初の問いへ戻した。

 

「民の側でも成立する力を、王の功績として数えるべきか」

 

「当然だ!」

 

 イスカンダルは迷わない。

 

「ただし、ついてきた者の果ても王が負う!」

 

「勝手に見たことまで、我の功績へ数える必要はない」

 

 ギルガメッシュも迷わない。

 

「其方は、結果が良い時にも所有を拒むのだな」

 

「当然だ。安い勲章を我へ貼るな」

 

「安いかどうかは内容によるであろう」

 

「我の価値に、雑種どもの視線を足して嵩増しするなと言っておる」

 

「じゃあ、誰のものなの?」

 

 立香がアトラスへ問う。

 

 アトラスは少し考えた。

 

「王は、おのれが置いた条件を記録する」

 

 一つ目。

 

「民は、おのれが選んだ応答を保持する」

 

 二つ目。

 

「制度は、その応答を何へ変換したかを記録する」

 

 三つ目。

 

「一人の徳、または一人の罪として閉じるな」

 

「また分けたね」

 

「分かれている」

 

 始皇帝が肩を竦める。

 

「いちいち三者へ返すから、誤差が生じるのだ」

 

「じゃあ始皇帝なら?」

 

「朕ならば、王と制度を一致させる」

 

 始皇帝は当然のように言った。

 

「誰が見ても、誰が決めても、最終的な責は一つへ戻る。実に明快であろう?」

 

「明快だけど……その一つが間違えたら?」

 

「朕が誤らぬよう、朕を完成させる」

 

「やっぱりそこなんだ」

 

「当然だと言うておろう」

 

 立香は苦笑した。

 

 始皇帝は、そこでふとアトラスへ視線を戻した。

 

「とはいえ、其方の分配も理解はする」

 

「採用はしない」

 

「朕も採用せぬ。ゆえに並べて見る価値がある」

 

 アトラスは短く頷いた。

 結論は揃わない。

 それでも、卓は割れなかった。

 

     *

 

「じゃあさ」

 

 立香は果汁の杯を指先で回した。

 

「光が強すぎて、他のものが見えなくなる時は?」

 

「目を鍛えよ!」

 

 イスカンダル。

 

「遮光の機構を作れ」

 

 始皇帝。

 

「見るものを選べぬ己を恥じろ」

 

 ギルガメッシュ。

 

 三人とも早かった。

 

「みんな違うね……」

 

 立香は最後にアトラスを見る。

 

「アトラスは?」

 

「光を消す必要はない」

 

 アトラスは答えた。

 

「照らされたものと、光源を分けて記録しろ」

 

「光のおかげで見えたものを、全部その光の持ち物にしないってこと?」

 

「そうだ」

 

 ギルガメッシュが口元を上げる。

 

「聞いたか、征服王。我が光を弱める必要はないそうだぞ」

 

「誰もおぬしへ弱まれとは言っておらん!」

 

「ならばよい」

 

「でも」

 

 立香はふと思いついた。

 

「たとえば機械があって、それが王様を選ぶなら何を見るんだろう」

 

「最も大きく世界を引き受けられる者を選ぶべきであろうな」

 

 始皇帝。

 

「最も遠い夢を見せる者よ!」

 

 イスカンダル。

 

「選ぶまでもない」

 

 ギルガメッシュ。

 

「はいはい」

 

「何だ、その返答は」

 

 アトラスは少し考えた。

 

「注意の集中を、王権と同一視する機構は存在する」

 

「それだと、誰を選ぶ?」

 

 血色の瞳が、ギルガメッシュへ向く。

 

「最も強い光を通す」

 

「当然だ」

 

 一拍。

 

「そして、他の裁定者を弾く」

 

 ギルガメッシュは笑った。

 

「ならば、弾いた機構の方が狭い」

 

「自分が選ばれるのは疑わないんだね」

 

「疑う理由がどこにある」

 

「まあ、ないか」

 

「貴様まで納得するな」

 

「だってギルガメッシュだし」

 

 イスカンダルが大笑いし、始皇帝も愉快そうに杯を傾けた。

 

     *

 

「結局、答え出てないよね」

 

 立香が言った。

 

 イスカンダルは酒を飲み干す。

 

「出す必要があるか?」

 

「問いが粗かったからな」

 

「まだ言うか!」

 

「結論を一つにすることだけが議論ではあるまい」

 

 ギルガメッシュは新しい酒を杯へ注いだ。

 

 アトラスは端末へ最後の記録を入れる。

 

「各自の定義は記録した」

 

「本当に記録してたんだ」

 

「問いが発生した」

 

「最初に言ってたね」

 

 立香が果汁を飲み終えた、その時だった。

 

 カルデア内へ、次の作戦準備を告げる放送が流れた。

 

 短い報告。

 指定時刻。

 集合場所。

 

 放送が終わると、全員が立香を見た。

 立香も、今度はすぐに気づいた。

 

「……ほら、また見た」

 

 イスカンダルが笑う。

 始皇帝は面白そうに目を細めた。

 

「ゆえに、持っておると言ったであろうが」

 

 ギルガメッシュが呆れた声を出す。

 

「でも、やっぱり圧ではないと思う」

 

「圧である必要はない」

 

 アトラスが言った。

 立香は杯を置き、椅子から立つ。

 王たちも、それぞれ自分の杯を置いた。

 

 誰も、立香の後ろへつかなかった。

 誰も、先頭の位置を取ろうとしなかった。

 列は作られない。

 イスカンダルは戦場を楽しむために。

 始皇帝は全体を見定めるために。

 ギルガメッシュは己の戦いを行うために。

 アトラスは必要な裁定を届けるために。

 立香は、彼らと共に進むために。

 異なる理由が、同じ方向へ向いた。

 

 王たちは、光を一つとは裁定しなかった。

 

 ただ、それぞれの光が、誰の道を照らしたかを見ていた。

 




活動報告で、制作裏話や本編に採用する場所のなかった掌編などを公開しています。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=332978

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
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