The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

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FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


カルデア小話 その7
己の方が不利である


 夜間照明へ切り替わったラウンジに、金の酒杯がひとつ浮いていた。

 

 壁際の照明は落とされている。卓上に残された光だけが、英雄王の横顔と杯の縁を照らしていた。

 

 アトラスは入口で一度、足を止めた。

 

 用件はある。

 明日でもよい用件だった。

 

「次回レイシフトで、己(おれ)とお前の同時投入が決定した」

 

 ギルガメッシュは杯を傾けたまま、赤い瞳だけをこちらへ向けた。

 

「知っている」

「今回の任務記録について、意見を求める」

「ほう」

 

 短い声だった。

 だが、口元がわずかに上がった。

 

「明日まで待てぬほど、我の査定が欲しくなったか」

「事前に修正点を抽出するだけだ」

「任務記録ならば、我も閲覧できる。質問も端末で送れば済むであろう」

「直接の方が応答が速い」

 

 アトラスは端末を卓上へ置いた。

 

 カルデアの居住区からこのラウンジまでは、決して遠くない。けれど、端末に数行を入力するよりは遠い。

 

 ギルガメッシュの視線が、アトラスの顔から端末へ落ちた。もう一度、彼女へ戻る。

 

「そうか」

 

 納得した声ではなかった。

 指摘する気もないらしい。

 

 ただ、先ほどより明らかに機嫌がよい。

 

 アトラスはその変化を記録し、端末を開いた。

 

 戦術盤が卓上へ投影される。

 

 青い線が退避路を示し、白い点が保護対象、緑が味方戦力、赤が敵性反応を示した。複数の区画で同時に発生した戦闘が、時間の流れに沿って再現されていく。

 

 アトラスは帰還後、すでに記録の検分を済ませている。

 

 任務目標は達成。

 保護対象は全員退避。

 味方の損耗も想定以下。

 敵中枢のみ、戦域から撤退した。

 

 失敗ではない。

 

 だが、次回はギルガメッシュが盤面へ加わる。同じ判断を繰り返す必要はなかった。

 

「この時点で、東側の局地戦力が崩れている」

 

 ギルガメッシュが戦術盤を指した。

 

「承知している。中央区画から二騎を移動させた」

「その結果、中央の防衛密度が下がった」

「北側の退避が完了していた。予備経路を中央へ接続し直せば維持できる」

「西側の補給線は」

「一時放棄した。二分後に再接続している」

「搬送中の負傷者は」

「敵の射程外へ移動済みだ」

 

 問いは途切れない。

 アトラスも止まらない。

 

 どの時点で、何を切ったか。

 何を残したか。

 どの損失を許容し、何を許容しなかったか。

 

 ギルガメッシュは記録を先へ送り、次の区画を指す。アトラスはそこへ至るまでの判断を返す。何度か、赤い瞳が愉快そうに細められた。

 

「盤面を見る目だけなら、貴様が随一であろうよ」

「評価として記録する」

「代わりもおらぬ。あれらでは、崩れ始めた盤面を三手と支えられまい」

「ならば、問題はない」

「あるとも」

 

 即答だった。

 

 ギルガメッシュは酒杯を置いた。

 

「盤面を見ねばならぬのは、そもそも貴様らが勝ち切れておらぬからであろう」

 

 アトラスは血色の瞳を細めた。

 

「勝利すれば、盤面を見る必要がなくなるという主張か」

「勝てば敵の手は止まる。崩れる盤面そのものが消える」

「消えるのは敵の手だけだ」

 

 アトラスは戦術盤の表示範囲を広げた。

 

 戦闘区域の外側。

 臨時の治療区画。

 途中で分断された搬送路。

 破損した補給設備。

 

 敵が撤退したあとにも、未処理の項目は複数残っていた。

 

「負傷者も、断たれた経路も、勝利のために切り捨てた区画も残る」

「ならば、勝った後に見ればよい」

「勝利の瞬間まで見なかった者に、勝利後だけ正しく見えるという保証はない」

「その程度、記録させれば済む」

「誰に記録させ、誰へ引き継がせるかを、勝利の前から決めておけ」

「我の勝利に、そこまでの支度が要るか」

「王の勝利であれば要る」

「ハハハハハ!」

 

 ギルガメッシュは声を上げて笑った。

 

「相変わらず、勝者へ要求するものが多いな、大洋王」

「王であれば当然だ」

 

 赤い瞳が、なお愉快そうに細められる。

 

「我が敵を滅ぼす前から、その後の権限まで割り振れと?」

「誰へ何を残すかも決めずに敵を消せば、残った者が別の争いを始める」

「始めさせねばよい」

「それを誰が判断する」

「我だ」

「ならば、お前は勝利後にも盤面を見ている」

 

 一拍。

 

 ギルガメッシュは口元を吊り上げた。

 

「言葉尻を取ったつもりか」

「お前の主張を検算しただけだ」

「よい。ならば、その目がどこで余計なものまで拾ったかも検算してやろう」

 

 英雄王の指が戦術盤へ伸びた。

 

「ここだ」

 

 時間表示が進む。

 

 保護対象の最後尾が退避区域へ入った。敵の追撃部隊は、二重の防壁によって遮断されている。味方側の損耗は停止。中央の予備戦力には、まだ余剰が残されている。

 

「この時点で、対象の退避は完了している」

「危険要因は残存していた」

「二重の防壁は妥当だ。貴様が盤面から手を離せば、あれらでは維持できまい」

「ならば問題はない」

「三重目は何だ」

 

 戦術盤に、新たな防壁が立ち上がる。

 

 アトラスが敵中枢への追撃に使用せず、退避区域の前へ積み増したものだ。

 

「不測の事態へ備えた」

「違うな」

 

 ギルガメッシュの指先が、戦術盤の一点を弾いた。

 

 赤い敵中枢が、戦域外へ移動していく。

 

「貴様は、盤面が保たれた後までおのれの手をそこへ戻しておる」

「結果として損耗はなかった」

「それを誤りとは言っておらぬ」

 

 声から笑いが消えた。

 

 評価の精度だけが残る。

 

「その目が貴様にしかないことと、貴様がおのれの勝ちを後回しにすることは別の話だ」

 

 アトラスは記録を停止した。

 

「敵中枢を追撃すれば、退避区域の安全率が下がる」

「二重の防壁は残る」

「想定外の増援があれば不足する」

「来なかった」

「結果から判断を遡及するな」

「結果を取るために戦っておるのであろうが」

 

 ギルガメッシュは笑った。

 

「貴様は、ありもしなかった次の敵へ備え、目の前にいた敵を逃した」

「次の敵がいないと確定するまで、盤面は終了していない」

「ゆえに、貴様は敵へ次手を与える」

 

 アトラスは、戦術盤に残る撤退軌跡を見た。

 

 否定はできない。

 

 敵中枢への追撃を選ばなかったのは事実だった。

 

「お前は、敵中枢を破壊すれば盤面を取得したと裁定する」

「無論よ」

「その後、誰が水路を開き、負傷者を収容し、退路を失った者を帰す」

「必要な者へ命じればよい」

「命じられる者が残っているという前提だ」

「我が勝利した盤面で、何故残っておらぬ」

「お前が勝利へ不要と裁定したからだ」

 

 再び、一拍。

 

 ギルガメッシュは怒らなかった。

 むしろ、待っていたものが来たように口元を吊り上げた。

 

「よい。そこまで言うなら、次は貴様が残せ」

「己は元より、そのつもりだ」

「ならば我が、貴様を盤面に釘付ける敵を消す」

 

 アトラスは戦術盤を次回任務の予測図へ切り替えた。

 

 敵中枢。

 複数の防衛拠点。

 保護対象の推定位置。

 地形変動の可能性。

 

「次回、己は退避路と残存戦力を管理する」

「我は?」

「お前は、盤面を見る必要を増やす敵を減らせ」

「随分と小さくまとめたものだ」

「お前の出力を細かく指定する必要はない」

「ほう。我を信用したか」

「戦力評価だ」

「同じことだ」

「違う」

「ハハハハハ!」

 

 ギルガメッシュの笑い声が、静かなラウンジへ響いた。

 

 アトラスは無視して、想定経路を三本引いた。

 

 一本目は、ギルガメッシュが敵中枢を即時破壊した場合。

 二本目は、敵の構造を見極めるため初動を控えた場合。

 三本目は、彼が作戦案にない価値を見いだし、独自に動いた場合。

 

「我の初動を三通りも用意したか」

「お前は単一の想定へ収まらない」

「それで、どれを望む」

「最も損耗の少ない形を採用する」

「勝つ形ではなく?」

「任務達成が先だ」

「相変わらずつまらぬ答えだな」

「不快だ」

「不満か」

「……」

 

 答えず、経路を修正する。

 

 ギルガメッシュが即時に敵中枢を破壊した場合、アトラスは二次崩壊へ備える。

 彼が敵の出方を見る場合、初動の退避範囲を広げる。

 彼が独自に価値を見いだした場合、その進路を阻害せず、同時に任務目標から外れないよう別経路を確保する。

 

 彼を命令へ収めるのではない。

 

 収まらないものとして、盤面へ含める。

 

 ギルガメッシュもまた、アトラスの経路へ従うとは言わなかった。けれど、それ以上の問いも返さなかった。

 

 敵を消す。

 人と経路は、彼女が残す。

 

 双方の裁定権を保持したまま、接続可能な部分だけを接続する。

 

 作戦案が完成した。

 

 アトラスは最終記録を保存した。

 

「以上だ」

「うむ」

「明日の会議では、この案を提出する」

「好きにせよ」

 

 用件は終わった。

 

 端末を閉じればよい。

 席を立ち、ラウンジを出る。

 自室へ戻り、次回任務まで休息する。

 

 アトラスは端末を閉じた。

 

 席を立たなかった。

 

 ギルガメッシュは何も言わず、酒杯を持ち上げた。

 

 液面が傾く。

 元へ戻る。

 

 壁面の疑似星図が、ゆっくりと位置を変えていく。

 

 急かされてはいない。

 留まれとも言われていない。

 

 それでも彼女は、まだそこにいた。

 

「ところで、大洋王」

「何だ」

「用件は終わったぞ」

「承知している」

「ならば何故、まだそこにいる」

 

 アトラスは止まった。

 

 先ほどと同じ問いだった。

 

 三重目は何だ。

 

 必要な責任を果たしたあと、なぜさらに手を戻した。

 

 今も同じだ。

 

 報告は終わった。共闘案も完成した。追加の確認事項はない。

 

 それでも、自分は帰っていない。

 

 アトラスは現在の記録を開いた。

 

 明日でよい話を、今夜持ってきた。

 端末で済む質問を、直接行った。

 ギルガメッシュの初動を三通りに分け、それぞれへの対応を用意していた。

 彼の強みと欠点を、他の戦力より高い解像度で記録している。

 彼の査定を、他者の評価より強く保持している。

 次回の同時投入が決まった時点で、即座に連携案の構築を始めた。

 任務外でも、彼へ勝つ方法を考えている。

 

 そして今、用件が終了しても、離れることを選んでいない。

 

 盤面はすでに保たれていた。

 

 それでも残った余剰を、今度は責務ではなく、この場所へ戻している。

 

「己の判断へ、お前の存在が与える影響が増加している」

 

 ギルガメッシュが杯を止めた。

 

「それを申告するために来たのか」

「違う。今、検出した」

「なお面白い」

 

 笑いを隠す気がない。

 

 アトラスは彼の表情を見た。

 

「次回の同時投入を、お前が歓迎していることも把握している」

「論ずるまでもない。雑兵を並べるより余程ましだ」

「己と応酬する際、平常より機嫌がよい」

「ようやく目が利くようになったか」

「以前から観測している」

「ならば、何を今さら検算する」

 

 アトラスは答える前に、情報を分けた。

 

 ギルガメッシュが自分を高く評価していることは、疑っていない。

 

 自分との応酬を楽しんでいる。

 挑発へ返答すれば笑う。

 裁定を提出すれば、誰より早くその価値を拾う。

 次回の同時投入にも、異論を示していない。

 

 むしろ歓迎している。

 

 だが、それが何に由来するかは、確定できない。

 

 戦術的関心。

 同格の王への評価。

 真正品を鑑定する愉悦。

 岸として、届いた海を見届ける意志。

 あるいは、そのほか。

 

 出力は観測できる。

 

 原因と、その影響範囲が観測できない。

 

「お前が己を高く評価していることは把握している」

「知れたことよ」

「だが、その評価によって、お前自身の選択がどの程度変化しているかは観測できない」

 

 ギルガメッシュの笑みが、わずかに深くなった。

 

「己は、必要のない時にもお前を判断へ含めている」

「そうだな」

「お前の評価を意識している」

「当然だ」

「当然ではない」

 

 少なくとも、自分の側では、すでに選択が変化している。

 

 今夜ここへ来た。

 用件が終わっても残った。

 次の戦場で彼をどう動かすかではなく、彼とどう戦うかを考えている。

 

 対して、ギルガメッシュ側の変化量は不明。

 

 観測可能な資料だけを使うなら、結論は一つだった。

 

「ゆえに、己の方が不利である」

 

 一拍の後。

 

 ギルガメッシュは笑った。

 

 嘲笑ではない。

 愉悦を隠しもしない笑いだった。

 

「何がおかしい」

「貴様の観測範囲では、正しいとも」

 

 アトラスは眉を寄せた。

 

「……含みのある言い方をするな」

「含まれておるからな」

 

 即答だった。

 

 英雄王はひどく機嫌がよい。

 

 アトラスは、その態度を新たな資料として記録した。

 

「反証資料があるなら提出しろ」

「それは、我が何を見、何を記録してきたか、全量を開示せよという要求か?」

 

 アトラスは止まった。

 

 求めているのは、こちらが不利であるという暫定裁定を訂正する根拠だ。

 

 彼が何を反証資料として保持しているのか。

 その資料が、どの判断へ、どの程度影響しているのか。

 

 そこまで含めた全量を受け取りたい、とまでは裁定していない。

 

「……そこまでは求めていない」

「ならば、我が記録を切り売りする理由もない」

「非効率だ」

「おのれの演算不足を、我の非効率へ置き換えるな」

「資料を持つ者が提出を拒んでいる」

「請求が成立しておらぬわ」

 

 正しい。

 

 不快ではある。

 

 ギルガメッシュは、反証が存在することを隠していない。同時に、その一部だけを差し出し、アトラスの裁定を誘導することもしない。

 

 彼女が求めたのは訂正根拠であり、彼の全記録ではない。

 

 ならば、現時点の裁定は維持される。

 

「不利と知って、退くか?」

 

 ギルガメッシュが問う。

 

「それは別の裁定だ」

「ほう」

「不利であることは、現在の選択を誤りにしない」

 

 アトラスは閉じた端末を再び開いた。

 

 空いていた席へ座り直す。

 

 新しい作戦領域を表示した。

 

「まだ見るのか」

「次回の同時投入について、別案を検討する」

「用件は終わったのではなかったか」

「追加した」

 

 ギルガメッシュは、とうとう堪えなかった。

 

「ハハハハハ!」

 

 夜のラウンジに、明るい笑い声が響く。

 

 アトラスは不快そうに彼を見た。

 

 それでも、席を立たなかった。

 

 不利である。

 

 現時点の裁定は変わらない。

 

 だからといって、海が岸を離れる理由にはならなかった。

 




活動報告で、制作裏話や本編に採用する場所のなかった掌編などを公開しています。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=332978

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
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