The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link
己の方が不利である
夜間照明へ切り替わったラウンジに、金の酒杯がひとつ浮いていた。
壁際の照明は落とされている。卓上に残された光だけが、英雄王の横顔と杯の縁を照らしていた。
アトラスは入口で一度、足を止めた。
用件はある。
明日でもよい用件だった。
「次回レイシフトで、己(おれ)とお前の同時投入が決定した」
ギルガメッシュは杯を傾けたまま、赤い瞳だけをこちらへ向けた。
「知っている」
「今回の任務記録について、意見を求める」
「ほう」
短い声だった。
だが、口元がわずかに上がった。
「明日まで待てぬほど、我の査定が欲しくなったか」
「事前に修正点を抽出するだけだ」
「任務記録ならば、我も閲覧できる。質問も端末で送れば済むであろう」
「直接の方が応答が速い」
アトラスは端末を卓上へ置いた。
カルデアの居住区からこのラウンジまでは、決して遠くない。けれど、端末に数行を入力するよりは遠い。
ギルガメッシュの視線が、アトラスの顔から端末へ落ちた。もう一度、彼女へ戻る。
「そうか」
納得した声ではなかった。
指摘する気もないらしい。
ただ、先ほどより明らかに機嫌がよい。
アトラスはその変化を記録し、端末を開いた。
戦術盤が卓上へ投影される。
青い線が退避路を示し、白い点が保護対象、緑が味方戦力、赤が敵性反応を示した。複数の区画で同時に発生した戦闘が、時間の流れに沿って再現されていく。
アトラスは帰還後、すでに記録の検分を済ませている。
任務目標は達成。
保護対象は全員退避。
味方の損耗も想定以下。
敵中枢のみ、戦域から撤退した。
失敗ではない。
だが、次回はギルガメッシュが盤面へ加わる。同じ判断を繰り返す必要はなかった。
「この時点で、東側の局地戦力が崩れている」
ギルガメッシュが戦術盤を指した。
「承知している。中央区画から二騎を移動させた」
「その結果、中央の防衛密度が下がった」
「北側の退避が完了していた。予備経路を中央へ接続し直せば維持できる」
「西側の補給線は」
「一時放棄した。二分後に再接続している」
「搬送中の負傷者は」
「敵の射程外へ移動済みだ」
問いは途切れない。
アトラスも止まらない。
どの時点で、何を切ったか。
何を残したか。
どの損失を許容し、何を許容しなかったか。
ギルガメッシュは記録を先へ送り、次の区画を指す。アトラスはそこへ至るまでの判断を返す。何度か、赤い瞳が愉快そうに細められた。
「盤面を見る目だけなら、貴様が随一であろうよ」
「評価として記録する」
「代わりもおらぬ。あれらでは、崩れ始めた盤面を三手と支えられまい」
「ならば、問題はない」
「あるとも」
即答だった。
ギルガメッシュは酒杯を置いた。
「盤面を見ねばならぬのは、そもそも貴様らが勝ち切れておらぬからであろう」
アトラスは血色の瞳を細めた。
「勝利すれば、盤面を見る必要がなくなるという主張か」
「勝てば敵の手は止まる。崩れる盤面そのものが消える」
「消えるのは敵の手だけだ」
アトラスは戦術盤の表示範囲を広げた。
戦闘区域の外側。
臨時の治療区画。
途中で分断された搬送路。
破損した補給設備。
敵が撤退したあとにも、未処理の項目は複数残っていた。
「負傷者も、断たれた経路も、勝利のために切り捨てた区画も残る」
「ならば、勝った後に見ればよい」
「勝利の瞬間まで見なかった者に、勝利後だけ正しく見えるという保証はない」
「その程度、記録させれば済む」
「誰に記録させ、誰へ引き継がせるかを、勝利の前から決めておけ」
「我の勝利に、そこまでの支度が要るか」
「王の勝利であれば要る」
「ハハハハハ!」
ギルガメッシュは声を上げて笑った。
「相変わらず、勝者へ要求するものが多いな、大洋王」
「王であれば当然だ」
赤い瞳が、なお愉快そうに細められる。
「我が敵を滅ぼす前から、その後の権限まで割り振れと?」
「誰へ何を残すかも決めずに敵を消せば、残った者が別の争いを始める」
「始めさせねばよい」
「それを誰が判断する」
「我だ」
「ならば、お前は勝利後にも盤面を見ている」
一拍。
ギルガメッシュは口元を吊り上げた。
「言葉尻を取ったつもりか」
「お前の主張を検算しただけだ」
「よい。ならば、その目がどこで余計なものまで拾ったかも検算してやろう」
英雄王の指が戦術盤へ伸びた。
「ここだ」
時間表示が進む。
保護対象の最後尾が退避区域へ入った。敵の追撃部隊は、二重の防壁によって遮断されている。味方側の損耗は停止。中央の予備戦力には、まだ余剰が残されている。
「この時点で、対象の退避は完了している」
「危険要因は残存していた」
「二重の防壁は妥当だ。貴様が盤面から手を離せば、あれらでは維持できまい」
「ならば問題はない」
「三重目は何だ」
戦術盤に、新たな防壁が立ち上がる。
アトラスが敵中枢への追撃に使用せず、退避区域の前へ積み増したものだ。
「不測の事態へ備えた」
「違うな」
ギルガメッシュの指先が、戦術盤の一点を弾いた。
赤い敵中枢が、戦域外へ移動していく。
「貴様は、盤面が保たれた後までおのれの手をそこへ戻しておる」
「結果として損耗はなかった」
「それを誤りとは言っておらぬ」
声から笑いが消えた。
評価の精度だけが残る。
「その目が貴様にしかないことと、貴様がおのれの勝ちを後回しにすることは別の話だ」
アトラスは記録を停止した。
「敵中枢を追撃すれば、退避区域の安全率が下がる」
「二重の防壁は残る」
「想定外の増援があれば不足する」
「来なかった」
「結果から判断を遡及するな」
「結果を取るために戦っておるのであろうが」
ギルガメッシュは笑った。
「貴様は、ありもしなかった次の敵へ備え、目の前にいた敵を逃した」
「次の敵がいないと確定するまで、盤面は終了していない」
「ゆえに、貴様は敵へ次手を与える」
アトラスは、戦術盤に残る撤退軌跡を見た。
否定はできない。
敵中枢への追撃を選ばなかったのは事実だった。
「お前は、敵中枢を破壊すれば盤面を取得したと裁定する」
「無論よ」
「その後、誰が水路を開き、負傷者を収容し、退路を失った者を帰す」
「必要な者へ命じればよい」
「命じられる者が残っているという前提だ」
「我が勝利した盤面で、何故残っておらぬ」
「お前が勝利へ不要と裁定したからだ」
再び、一拍。
ギルガメッシュは怒らなかった。
むしろ、待っていたものが来たように口元を吊り上げた。
「よい。そこまで言うなら、次は貴様が残せ」
「己は元より、そのつもりだ」
「ならば我が、貴様を盤面に釘付ける敵を消す」
アトラスは戦術盤を次回任務の予測図へ切り替えた。
敵中枢。
複数の防衛拠点。
保護対象の推定位置。
地形変動の可能性。
「次回、己は退避路と残存戦力を管理する」
「我は?」
「お前は、盤面を見る必要を増やす敵を減らせ」
「随分と小さくまとめたものだ」
「お前の出力を細かく指定する必要はない」
「ほう。我を信用したか」
「戦力評価だ」
「同じことだ」
「違う」
「ハハハハハ!」
ギルガメッシュの笑い声が、静かなラウンジへ響いた。
アトラスは無視して、想定経路を三本引いた。
一本目は、ギルガメッシュが敵中枢を即時破壊した場合。
二本目は、敵の構造を見極めるため初動を控えた場合。
三本目は、彼が作戦案にない価値を見いだし、独自に動いた場合。
「我の初動を三通りも用意したか」
「お前は単一の想定へ収まらない」
「それで、どれを望む」
「最も損耗の少ない形を採用する」
「勝つ形ではなく?」
「任務達成が先だ」
「相変わらずつまらぬ答えだな」
「不快だ」
「不満か」
「……」
答えず、経路を修正する。
ギルガメッシュが即時に敵中枢を破壊した場合、アトラスは二次崩壊へ備える。
彼が敵の出方を見る場合、初動の退避範囲を広げる。
彼が独自に価値を見いだした場合、その進路を阻害せず、同時に任務目標から外れないよう別経路を確保する。
彼を命令へ収めるのではない。
収まらないものとして、盤面へ含める。
ギルガメッシュもまた、アトラスの経路へ従うとは言わなかった。けれど、それ以上の問いも返さなかった。
敵を消す。
人と経路は、彼女が残す。
双方の裁定権を保持したまま、接続可能な部分だけを接続する。
作戦案が完成した。
アトラスは最終記録を保存した。
「以上だ」
「うむ」
「明日の会議では、この案を提出する」
「好きにせよ」
用件は終わった。
端末を閉じればよい。
席を立ち、ラウンジを出る。
自室へ戻り、次回任務まで休息する。
アトラスは端末を閉じた。
席を立たなかった。
ギルガメッシュは何も言わず、酒杯を持ち上げた。
液面が傾く。
元へ戻る。
壁面の疑似星図が、ゆっくりと位置を変えていく。
急かされてはいない。
留まれとも言われていない。
それでも彼女は、まだそこにいた。
「ところで、大洋王」
「何だ」
「用件は終わったぞ」
「承知している」
「ならば何故、まだそこにいる」
アトラスは止まった。
先ほどと同じ問いだった。
三重目は何だ。
必要な責任を果たしたあと、なぜさらに手を戻した。
今も同じだ。
報告は終わった。共闘案も完成した。追加の確認事項はない。
それでも、自分は帰っていない。
アトラスは現在の記録を開いた。
明日でよい話を、今夜持ってきた。
端末で済む質問を、直接行った。
ギルガメッシュの初動を三通りに分け、それぞれへの対応を用意していた。
彼の強みと欠点を、他の戦力より高い解像度で記録している。
彼の査定を、他者の評価より強く保持している。
次回の同時投入が決まった時点で、即座に連携案の構築を始めた。
任務外でも、彼へ勝つ方法を考えている。
そして今、用件が終了しても、離れることを選んでいない。
盤面はすでに保たれていた。
それでも残った余剰を、今度は責務ではなく、この場所へ戻している。
「己の判断へ、お前の存在が与える影響が増加している」
ギルガメッシュが杯を止めた。
「それを申告するために来たのか」
「違う。今、検出した」
「なお面白い」
笑いを隠す気がない。
アトラスは彼の表情を見た。
「次回の同時投入を、お前が歓迎していることも把握している」
「論ずるまでもない。雑兵を並べるより余程ましだ」
「己と応酬する際、平常より機嫌がよい」
「ようやく目が利くようになったか」
「以前から観測している」
「ならば、何を今さら検算する」
アトラスは答える前に、情報を分けた。
ギルガメッシュが自分を高く評価していることは、疑っていない。
自分との応酬を楽しんでいる。
挑発へ返答すれば笑う。
裁定を提出すれば、誰より早くその価値を拾う。
次回の同時投入にも、異論を示していない。
むしろ歓迎している。
だが、それが何に由来するかは、確定できない。
戦術的関心。
同格の王への評価。
真正品を鑑定する愉悦。
岸として、届いた海を見届ける意志。
あるいは、そのほか。
出力は観測できる。
原因と、その影響範囲が観測できない。
「お前が己を高く評価していることは把握している」
「知れたことよ」
「だが、その評価によって、お前自身の選択がどの程度変化しているかは観測できない」
ギルガメッシュの笑みが、わずかに深くなった。
「己は、必要のない時にもお前を判断へ含めている」
「そうだな」
「お前の評価を意識している」
「当然だ」
「当然ではない」
少なくとも、自分の側では、すでに選択が変化している。
今夜ここへ来た。
用件が終わっても残った。
次の戦場で彼をどう動かすかではなく、彼とどう戦うかを考えている。
対して、ギルガメッシュ側の変化量は不明。
観測可能な資料だけを使うなら、結論は一つだった。
「ゆえに、己の方が不利である」
一拍の後。
ギルガメッシュは笑った。
嘲笑ではない。
愉悦を隠しもしない笑いだった。
「何がおかしい」
「貴様の観測範囲では、正しいとも」
アトラスは眉を寄せた。
「……含みのある言い方をするな」
「含まれておるからな」
即答だった。
英雄王はひどく機嫌がよい。
アトラスは、その態度を新たな資料として記録した。
「反証資料があるなら提出しろ」
「それは、我が何を見、何を記録してきたか、全量を開示せよという要求か?」
アトラスは止まった。
求めているのは、こちらが不利であるという暫定裁定を訂正する根拠だ。
彼が何を反証資料として保持しているのか。
その資料が、どの判断へ、どの程度影響しているのか。
そこまで含めた全量を受け取りたい、とまでは裁定していない。
「……そこまでは求めていない」
「ならば、我が記録を切り売りする理由もない」
「非効率だ」
「おのれの演算不足を、我の非効率へ置き換えるな」
「資料を持つ者が提出を拒んでいる」
「請求が成立しておらぬわ」
正しい。
不快ではある。
ギルガメッシュは、反証が存在することを隠していない。同時に、その一部だけを差し出し、アトラスの裁定を誘導することもしない。
彼女が求めたのは訂正根拠であり、彼の全記録ではない。
ならば、現時点の裁定は維持される。
「不利と知って、退くか?」
ギルガメッシュが問う。
「それは別の裁定だ」
「ほう」
「不利であることは、現在の選択を誤りにしない」
アトラスは閉じた端末を再び開いた。
空いていた席へ座り直す。
新しい作戦領域を表示した。
「まだ見るのか」
「次回の同時投入について、別案を検討する」
「用件は終わったのではなかったか」
「追加した」
ギルガメッシュは、とうとう堪えなかった。
「ハハハハハ!」
夜のラウンジに、明るい笑い声が響く。
アトラスは不快そうに彼を見た。
それでも、席を立たなかった。
不利である。
現時点の裁定は変わらない。
だからといって、海が岸を離れる理由にはならなかった。
この作品の興味をもったところは?
-
アトラスのキャラクター性・内面
-
ギルガメッシュとの関係性
-
王としての在り方・王権のテーマ
-
ストーリーの展開
-
その他