The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
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【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link
鎧の代わりに
音がしなかった。
ギルガメッシュがそれに気づいたのは、大洋王が二杯目の茶を注いだ時だった。
白い器が卓へ戻る。
陶器と木が触れる、軽い音。
それだけだ。
いつもなら、もう一つある。
腕を動かすたび、椅子へ座るたび、どこかで低く鳴る金属の音が。
赤い瞳が、卓の向こうへ向いた。
「大洋王」
「何だ」
アトラスが顔を上げる。
水青の髪が肩から流れた。
大きな肩部装甲がない。背後へ張り出していた王宮外装もない。外套もなく、細い身体の輪郭がそのまま椅子の中へ収まっている。
三叉槍だけは、いつでも取れる位置へ立て掛けてあった。
ギルガメッシュは一度、上から下まで眺めた。
「今日は随分と小さいな」
アトラスも自分を見る。
「……非武装時の身長に変化はない」
「知っておる」
「ならば何故言った」
「小さいものを小さいと言ったまでよ」
「以前から同じだ」
「鎧がなくなれば目立つ」
アトラスは数秒考えた後、それ以上の反論を棄却したらしい。
茶を飲んだ。
ギルガメッシュも飲む。
話は、それで終わった。
少なくとも、アトラスがそう判断している間は。
「それで」
杯を置きながら、ギルガメッシュが言った。
「何故今日は解いておる」
「必要性がない」
即答だった。
特別な申告でも、許可を求める言葉でもない。
アトラスはこれまでにも、少しずつ王宮外装を減らしていた。
最初は背後の大規模構造。
次は外套。
肩部。
身体から遠い区画から、順に。
そのたびに何が起きるかを見た。
触れる前には告げられた。
拒めば止まった。
許した範囲より先へ進まなかった。
途中で外装を戻しても、理由を要求されなかった。
そして何より。
外装が減ったからといって、ギルガメッシュが彼女を王でないものとして扱うことはなかった。
「現在、この区画に敵性反応はない。退出経路にも問題はない。三叉槍は使用可能。王宮外装も必要なら再展開できる」
アトラスが指を折るように条件を並べる。
「これまでの接触運用に、手続き違反も確認されていない」
「ほう」
「したがって、現条件下で常時外装を維持する必要性は低いと裁定した」
ギルガメッシュの口元が、わずかに上がった。
「我の前だから、ではないのか」
アトラスが止まった。
一拍。
「……条件の一つだ」
否定しなかった。
その代わり、血色の瞳がまっすぐに向く。
「お前個人への無条件通行権を認めたわけではない」
「言われずとも分かっておる」
「承知した」
「条件が崩れれば、また閉じるであろう」
「そうだ」
今度は間がない。
ギルガメッシュはそれを聞いて、短く言った。
「よい」
アトラスは杯へ視線を戻した。
それ以上、何も言わなかった。
ギルガメッシュも、開いたことを褒めなかった。
茶席は続いた。
いつもと同じように。
それが一番大きな違いだった。
鎧のないアトラスは、椅子へ座ると驚くほど小さく見えた。
背もたれが高い。
肩は細い。
大きな外装に遮られていた水青の髪は、そのまま身体の線へ落ちている。
小さな手が茶器を持つ。
「第三演習区画は、明朝から使用を再開する」
「早いな。夜間の残留値を取っておらぬ」
「現在値は基準以下だ」
「ならばなおさら、もう一度測れ。一度下がっただけで終了条件とするな」
アトラスは一拍考えた。
「……再計測する」
ギルガメッシュは鼻を鳴らした。
鎧がなくても、何も変わらない。
アトラスが何かを決めれば、それは王の裁定として届く。
以前、彼は言った。
鎧が王なのではない、と。
今は、それを言わなかった。
ただ、その言葉の通りに振る舞っていた。
記録は、そういう形でも積み上がる。
話題が一つ終わったところで、アトラスが顔を傾けた。
長い髪が一房、頬へ落ちる。
ギルガメッシュの手が上がった。
途中で止まる。
「大洋王」
「何だ」
「頬へ触れるぞ」
一拍。
「承知した」
言葉は、あの日と同じだった。
違うのは、その言葉を受ける場所に、もう城壁がないことだけ。
指先が、頬へ直接触れた。
アトラスの身体が、ごくわずかに硬くなる。
ギルガメッシュは髪を払った。
耳の後ろへ送る。
頬へ触れると言った。
だから、頬へだけ触れた。
首へは行かない。
肩へも触れない。
身体を引き寄せない。
もう一方の手も動かさない。
用が済めば、離す。
アトラスは動かなかった。
王宮外装を展開することはできる。
しなかった。
拘束されていない。
退出経路も塞がれていない。
停止を告げれば止まる。
そして、その必要が生じる前に接触は終わった。
アトラスが、自分の頬へ指を置いた。
「……問題ない」
「何がだ」
「接触時の拒絶反応は許容域内だった」
「我を実験台にするな」
「触れたのはお前だ」
「許したのは貴様だ」
「その通りだ」
ギルガメッシュは杯を持ち上げた。
「冷めるぞ」
アトラスも茶へ戻った。
よくできた、とは言われなかった。
信用できるようになったか、とも問われなかった。
褒められたなら、次も同じことをする理由の中へ、それが混ざる。
今日は違う。
開いているのは、アトラス自身の裁定だった。
閉じることもできる。
そのどちらも、彼女の側に残っていた。
しばらくして。
「外装を展開していなくとも、境界管理に支障はない」
アトラスが言った。
「当然であろう」
「当然ではない。以前は外装が執行していた」
ギルガメッシュは彼女を見る。
「執行を、我にも読める形式へ移しただけであろう」
アトラスの視線が上がった。
以前から、城門を開閉すると決めていたのは彼女だ。
王宮外装は、それを形にしていただけだった。
拒む。
遮る。
通す。
今は、別の形を取る。
触れるぞ。
承知した。
その一往復で、どこまで開くかが外へ届く。
ギルガメッシュは読んだ範囲を越えない。
王宮外装が消えたからといって、境界が消えたわけではない。
鎧の代わりに、手続きが置かれた。
ギルガメッシュが鎧になったのでもない。
岸が海を守るのではない。
海自身の裁定が、岸にも読める形になった。
アトラスはしばらく黙っていた。
やがて、卓の上へ目を落とす。
ギルガメッシュの片手が置かれている。
見る。
少し考える。
「英雄王」
「何だ」
「手を出せ」
「命令か?」
「確認だ」
ギルガメッシュがわずかに口元を上げた。
手を差し出す。
掌を開く。
それだけだった。
アトラスを掴まない。
促しもしない。
待つ。
アトラスはその手を見た。
自分の手を見る。
そして、自分から掌を重ねた。
ギルガメッシュの指は、まだ閉じない。
数秒。
アトラスの指が動いた。
自分から、彼の手を握る。
そこで初めて、ギルガメッシュの指も返った。
強くはない。
逃げ道を消さない。
ただ、受け取る。
触れられることを許すのとは、少し違った。
これは自分から触れた。
アトラスはそれを、数秒かけて確かめた。
やがて、自分から手を離す。
ギルガメッシュは追わなかった。
「問題ない」
「先ほども聞いたぞ」
「別項目だ」
「何項目あるのだ」
「必要なだけだ」
ギルガメッシュが呆れたように見る。
アトラスは気にしない。
茶へ戻った。
その後も、何も起きなかった。
抱擁もない。
接吻もない。
新しい告白もない。
ただ、茶を飲み終えるまで、アトラスは王宮外装を再展開しなかった。
外装なし。
王性に変化なし。
接触前通告、正常。
拒否権、維持。
能動的接触、可能。
再閉城、可能。
すべて正常だった。
茶席が終わる。
ギルガメッシュが立った。
アトラスも立つ。
そこで、今日ずっと存在していた差が、急に大きくなった。
座っている時には、椅子が吸収していた。
向かい合って立てば、誤魔化せない。
アトラスは小さい。
鎧を着ている時より、さらに。
出口へ向かいかけたギルガメッシュを呼び止める。
「英雄王」
「何だ」
振り返る。
アトラスが一歩、近づいた。
今日はもう確認した。
鎧がなくても、境界は壊れない。
触れられても、自分は王のままだった。
自分から手を取ることもできた。
ならば。
「接吻する」
ギルガメッシュが止まった。
完全に。
一拍。
接吻そのものは、初めてではない。
だが、こうして事前に告げられたことはなかった。
アトラス自身が、自分から行うこととして。
前回は、開いたままの範囲の内側だった。
今回は違う。
一度離れた。
触れていない。
そこから、新しく開く。
やがてギルガメッシュが答えた。
「…………許す」
今度は、逆向きに同じ手順が走った。
これまでは、ギルガメッシュが行為を告げ、アトラスが自分の領域について答えた。
今は、アトラスが行為を告げる。
ギルガメッシュが、自分の領域について答える。
片方だけを守るための仕組みではない。
それぞれが、それぞれの境界について裁定する。
アトラスが近づいた。
ギルガメッシュは抱き寄せない。
それをすれば、今提出された行為を、自分の行為へ置き換える。
屈みもしない。
理由は別だった。
屈めとは、言われていない。
少し姿勢を下げれば届く。
そんなことは、当然分かっている。
だが求められていない支援を、勝手に差し込まない。
アトラスの手が、彼の胸甲へ触れた。
顔を上げる。
背伸びする。
届かない。
少し近づく。
もう一度、つま先を上げる。
届かない。
「…………」
ギルガメッシュは待っている。
赤い瞳だけが、だんだん面白そうに細くなっていく。
「どうした、大洋王」
アトラスは答えない。
見る。
ギルガメッシュの顔。
胸元。
自分の足。
床。
現在の身体条件。
位置関係。
演算。
結果。
「…………己(おれ)の方が不利だ」
ギルガメッシュの目が細くなる。
「ほう。感情勾配の話か」
「高度の話だ」
「見れば分かる」
「不快だ」
そこで、とうとうギルガメッシュが笑った。
声を上げて。
今日一番大きく。
「何がおかしい」
「いや――なるほど。これは確かに、貴様の方が不利だ」
「確認済みだ」
「しかも自ら申告しておいて届かぬとはな」
「笑う必要はない」
「ある」
「ない」
しばらくして、ようやく笑いが収まる。
ギルガメッシュがまだ少し楽しそうな顔のまま言った。
「屈めと言えば、屈んでやらぬこともないぞ」
アトラスが止まる。
一拍。
提案として検討する。
自分から接吻する。
相手が高度を下げる。
実行は可能。
だが。
「……棄却する」
「であろうな」
ギルガメッシュはもう笑わなかった。
アトラスも、接吻するという裁定を撤回しなかった。
ギルガメッシュの「許す」も残っている。
合意に問題はない。
手続きにも問題はない。
ただ、今の方式では届かない。
王宮外装を解いても、境界管理に問題はなかった。
接触の手続きにも、双方の意思にも、瑕疵はない。
新たに確認された不具合は、一件。
アトラスが接吻の実行主体となった時にのみ発生する。
高度だった。
この作品の興味をもったところは?
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アトラスのキャラクター性・内面
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ギルガメッシュとの関係性
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王としての在り方・王権のテーマ
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ストーリーの展開
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その他