The Reversed Star――逆位置の星――   作:ほいみん

74 / 74
FGO二次創作長編『The Reversed Star――逆位置の星――』です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link


接吻高度条約

 音が戻った。

 

 扉が開く。

 

 硬い金属音。

 

 ギルガメッシュが顔を上げると、そこには見慣れた城が立っていた。

 

 肩部装甲。

 背部へ張り出す王宮外装。

 足回りにも、青い結晶質の外装が戻っている。

 

 数日前まで、休憩室の椅子へ小さく収まっていた大洋王は、何事もなかったかのようにいつもの姿へ戻っていた。

 

 三叉槍を壁際へ置き、席につく。

 

 金属が鳴る。

 

「大洋王」

 

「何だ」

 

「近頃また鎧を解かぬな」

 

 茶器を取る手が止まった。

 

「開城時の機能低下が確認された」

 

 即答だった。

 

 ギルガメッシュの口元が上がる。

 

「接吻の高度差であろう」

 

「一項のみを抽出するな」

 

「他の項を挙げてみよ」

 

「…………」

 

 アトラスは考えた。

 

「……棄却する」

 

「ははははは!」

 

「何がおかしい」

 

「何もなければそう言えばよかろう」

 

「一項のみを問題全体として扱うことを棄却した」

 

「では他の項を挙げよ」

 

「その要求を棄却する」

 

「増えたではないか」

 

「違う」

 

 ギルガメッシュはまだ笑っていた。

 

 アトラスは気にせず茶を注ぐ。

 

 王宮外装の再展開に、他の意味はなかった。

 閉じたいわけではない。

 数日前に確認した履行実績が失効したわけでもない。

 問題が一件、残った。

 だから対処した。

 

「それで」

 

 ギルガメッシュが言う。

 

「その城をどう使う」

 

「高度を確保する」

 

「鎧底を厚くしたか」

 

「それだけでは足りない」

 

 アトラスは椅子から降りた。

 

 王宮外装の一部が淡く光る。

 

 足元に、小さな青い構造体が現れた。

 

 段差にも満たない。

 

 けれど、踏めば身体を持ち上げるには十分だった。

 

 ギルガメッシュの目が細くなる。

 

「以前も使ったな」

 

「そうだ」

 

「我へ一撃入れるために」

 

「正確には、己(おれ)がお前へ届くためだ」

 

 あの時もそうだった。

 防護へ戻すことのできた王宮外装を、足場へ変えた。

 守るためではなく。

 届くために。

 己は、お前に勝ちたい。

 あの時は、そう裁定した。

 

「戦場用の王宮外装を、接吻へ転用するか」

 

「用途規定に抵触しない」

 

「そこを疑ってはおらぬ」

 

 ギルガメッシュが立つ。

 

 アトラスも彼を見る。

 

「英雄王」

 

「何だ」

 

「接吻する」

 

 ごく短い間。

 

 前回ほどではない。

 

「許す」

 

 王宮外装が展開した。

 足元へ一段。

 アトラスが踏む。

 自分で上がる。

 自分で近づく。

 今度は届いた。

 

 唇が触れる。

 短い。

 すぐに離れる。

 足場も消えた。

 

 アトラスはギルガメッシュを見上げた。

 

「問題は解消された」

 

「…………そうであろうな」

 

 ギルガメッシュは何とも言えない顔をした。

 

 解法としては、正しい。

 アトラスが始めた。

 アトラスが高さを確保した。

 アトラスが近づいた。

 アトラスが離れた。

 誰にも代行されていない。

 接吻は、完全に成立した。

 

 その日の茶席で。

 

 アトラスは一度も王宮外装を解かなかった。

 

*

 

 翌日も、鎧だった。

 次の日も。

 訓練を終えた後にも。

 茶を飲む時にも。

 廊下ですれ違う時にも。

 

 硬い金属音がする。

 

 肩部装甲。

 背部外装。

 足元の高度補正機構。

 必要なら、いつでも使える。

 

 接吻したいと思った時、その場で王宮外装を足場へ変えればいい。

 相手に屈んでもらう必要はない。

 抱き上げられる必要もない。

 自分で届く。

 運用上、問題はなかった。

 

 一日。

 二日。

 三日。

 

 ギルガメッシュも、最初のうちは面白がっていた。

 

 四日。

 また休憩室。

 向かいには城。

 五日。

 金属音。

 六日。

 肩装甲。

 七日。

 背部外装。

 八日。

 また城。

 

「…………」

 

 ギルガメッシュが杯を置いた。

 

「……待て」

 

「何だ」

 

「一向に解かぬではないか」

 

 アトラスが顔を上げる。

 

「必要性がある」

 

「何のだ」

 

「接吻可能高度の常時確保」

 

「常時だと?」

 

「接吻の発生時刻は予測できない」

 

「…………」

 

 ギルガメッシュが黙った。

 

 アトラスは茶を飲んだ。

 理屈は通っている。

 いつ接吻したくなるかは、確かに予測できない。

 発生してから王宮外装を準備するより、常時利用可能な状態にしておいた方が確実だ。

 しかも。

 

 条件が崩れれば、また閉じるであろう。

 

 そうだ。

 

 よい。

 

 それを認めたのは、ギルガメッシュ自身である。

 

「お前から提示された高度調整案も棄却済みだ」

 

「覚えておる」

 

「現在の方式に手続き上の瑕疵はない」

 

 自分の装備を使う。

 自分で高度を確保する。

 相手へ支援を要求しない。

 双方が合意した時だけ接吻する。

 何も間違っていない。

 

 アトラスが問う。

 

「異議があるか」

 

「ある」

 

「述べろ」

 

 ギルガメッシュの目から、笑いが少し消えた。

 

「貴様は先日、常時外装を維持する必要性は低いと裁定したな」

 

 アトラスが止まる。

 

「……した」

 

「では、今の城は何だ」

 

「新たな必要性が発生した」

 

「発生したのは必要性か」

 

 一拍。

 

「それとも、望みか」

 

 アトラスは答えなかった。

 

 目だけが止まる。

 

 以前の記録。

 休憩室。

 敵性反応なし。

 退出経路、正常。

 三叉槍、使用可能。

 王宮外装、即時再展開可能。

 接触運用、正常。

 そこに変化はない。

 新しく発生した敵はいない。

 防衛条件も変わっていない。

 増えたものは。

 

「……己は、お前へ接吻することを望んだ」

 

「うむ」

 

「その執行条件を、常時外装維持の必要性として処理した」

 

「そうであろうな」

 

 アトラスの目がわずかに下がる。

 

「以前の裁定と、新たな運用判断を接続しなかった」

 

 外装を使うことは、誤りではない。

 接吻を望むことも。

 届くために自分の能力を使うことも。

 ただ。

 

 必要がないと裁定したものを、望みを実行するために常時必要なものとして置き直した。

 

 接続しなかった。

 

 ギルガメッシュが言った。

 

「我は、貴様が己の裁定を曲げてまで寄越すものなど要らぬぞ」

 

 アトラスが顔を上げる。

 

 鎧を解けとは、言わなかった。

 

 接吻するなとも。

 

 彼はそれ以上、何も決めない。

 

「……再検算する」

 

「好きにせよ」

 

 ギルガメッシュは茶へ戻った。

 

*

 

 記録端末の上に、四行が並んだ。

 

 安全上、王宮外装の常時展開は必要ない。

 己は、岸へ接吻することを望む。

 実行の代行は求めない。

 王宮外装の足場利用は可能。

 

 アトラスはしばらく、その四行を見た。

 

 矛盾はない。

 

 そして、その下へ一行を加える。

 

 己は、望みを必要性へ分類した。

 

 指が止まる。

 

 外装を使ったことが誤りだったわけではない。

 望んだことも。

 問題は、その望みをいつでも実行可能にするために、

 常時外装を維持する必要性は低い。

 という以前の裁定を、恒常的に撤回する運用へ移ったこと。

 

 現在の方式では。

 

 開城。

 能動的接吻。

 その二つが、同時に成立していない。

 

 端末の最後には、以前の問題設定が残っていた。

 

 己の高度をどう増やすか。

 アトラスはそれを消した。

 新しく書く。

 開城状態を維持したまま、己から岸へ届く条件をどう確保するか。

 

 そこで手を止めた。

 

 高度差は、一方だけの変数ではない。

 しかし、接吻の実行中に相手へ支援を要求する方式は、すでに棄却した。

 現時点で、新しい解はない。

 

 記録を閉じた。

 

*

 

 次の茶席。

 

 ギルガメッシュは座っていた。

 珍しいことではない。

 アトラスも向かいへ座った。

 翌日。

 別の場所。

 座っていた。

 資料を読んでいる。

 その次。

 共有スペース。

 やはり座っている。

 さらに次の日。

 廊下脇の長椅子。

 座っている。

 

「…………」

 

 アトラスは見た。

 

 ギルガメッシュ。

 椅子。

 現在位置。

 自分。

 

 一度では、終了条件にしない。

 その日は何も言わなかった。

 

 次の日も。

 彼は座っていた。

 海は毎日、閉じていた。

 今度は岸が、毎日少しだけ下がった。

 

 ただし、ギルガメッシュは一度も理由を説明しなかった。

 貴様のためだ、とも。

 これを使え、とも。

 座る。

 それだけ。

 その高さを何に使うかは、彼の裁定ではない。

 

 数日後。

 

 いつもの休憩室。

 

 アトラスはまだ鎧を着ていた。

 

 ギルガメッシュは、やはり座っている。

 

 アトラスが見る。

 椅子。

 英雄王。

 自分。

 直近の着座頻度。

 位置関係。

 高度。

 演算。

 

「英雄王」

 

「何だ」

 

「高度差の調整か」

 

 赤い瞳が向いた。

 

「ようやく読んだか。遅い」

 

「申告がなかった」

 

「我が座るのに、何故貴様の許可が要る」

 

 アトラスは黙った。

 正しい。

 ギルガメッシュが立つか座るかは、ギルガメッシュが決める。

 同じように。

 その高さを利用するかは、アトラスが決める。

 

「……記録した」

 

 ギルガメッシュが鼻を鳴らした。

 

*

 

 次の茶席。

 

 音がしなかった。

 扉が開く。

 水青の髪。

 三叉槍。

 細い肩。

 王宮外装は、ほとんど展開されていない。

 

 アトラスが入ってくる。

 

 ギルガメッシュは最初から椅子に座っていた。

 

 赤い目が彼女を見る。

 

「今日は随分と小さいな」

 

「その評価には以前回答した」

 

「覚えておる」

 

「ならば繰り返すな」

 

「小さいものは何度見ても小さい」

 

「……不快だ」

 

 アトラスはいつもの席へ向かった。

 途中で、一度。

 ギルガメッシュを見る。

 高さを測る。

 この状態なら。

 王宮外装は要らない。

 その場で屈んでもらう必要もない。

 自分で届く。

 

 茶席は普通に進んだ。

 報告。

 異論。

 茶。

 

 途中で一度、アトラスが席を立つ。

 

 ギルガメッシュの前まで行った。

 

 二人の間には、まだ何も触れていない。

 

「接吻する」

 

 ギルガメッシュが顔を上げる。

 

 今度は、ほとんど止まらなかった。

 

「許す」

 

 アトラスが近づいた。

 ギルガメッシュは座ったまま。

 姿勢を変えない。

 抱き寄せない。

 アトラスが、自分で距離を詰める。

 

 届いた。

 

 唇が触れる。

 

 短い。

 

 そして自分から離れる。

 

 王宮外装は使っていない。

 実行中、岸からの補助もない。

 開いたまま。

 自分から届いた。

 

「この高度なら支障はない」

 

「であろうな」

 

「常時着座を必要条件とはしない」

 

「当然だ」

 

「必要なら己から高度調整を要求する」

 

 ギルガメッシュが片眉を上げた。

 

「先日は棄却したであろう」

 

「実行中ではない。接触前の条件調整としてだ」

 

「ほう」

 

 短い間。

 

「好きにせよ」

 

 方式は一つではない。

 王宮外装を足場にしてもいい。

 ギルガメッシュが先に座っていてもいい。

 必要なら、接触前に高度の調整を要求してもいい。

 その要求に応じるかどうかは、また相手が決める。

 一つ増えた。

 それだけだった。

 

 航路が。

 

 アトラスが一歩離れる。

 ギルガメッシュは追わない。

 短い沈黙。

 

「まだ要るか」

 

 アトラスが彼を見る。

 

 以前なら、もう少し長く検算したかもしれない。

 

 今は一拍だけだった。

 

「……要る」

 

 言葉は消えなかった。

 

 短くなった。

 

 アトラスが再び近づく。

 

 今度の接吻は、さっきより少しだけ長かった。

 

 それでも、終えるのはアトラスからだった。

 

 ギルガメッシュは何も言わない。

 

 茶へ戻る。

 

 しばらくして、アトラスも席へ戻った。

 

「次回以降、この配置を適用する」

 

「勝手に我が椅子まで条約へ組み込むな」

 

「異議があるか」

 

 一拍。

 

「ない」

 

「では採用する」

 

 ギルガメッシュが鼻を鳴らした。

 

 正式な文書はない。

 署名もない。

 海が開いた状態でも岸へ届くために。

 海は、自分で使える足場を持つ。

 岸は、自分で高さを変えられる。

 どちらも相手の身体を決めない。

 どちらか一方へ、届くための負担を固定しない。

 使える方法だけが増えた。

 その運用を、双方が受理した。

 

 接吻高度条約、批准。

 




活動報告で、制作裏話や本編に採用する場所のなかった掌編などを公開しています。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=332978

この作品の興味をもったところは?

  • アトラスのキャラクター性・内面
  • ギルガメッシュとの関係性
  • 王としての在り方・王権のテーマ
  • ストーリーの展開
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

超古代に『剣』の概念を生み出した男の話(作者:柴犬ダックス)(原作:Fate/)

タイトルそのまま。▼メソポタミア文明よりも以前の神代の黎明期。▼神獣達が大地を闊歩し、まだ人類が石器を用いてた時代に転生した主人公が、ガイアに『剣』の概念をブチ込む物語。▼


総合評価:1810/評価:8.75/連載:2話/更新日時:2026年08月15日(土) 00:11 小説情報

Fate/世界で超絶美形と魅了:EXになって転生したった(作者:プル山門左衛門)(原作:Fate/)

尚、転生先は神代ギリシャに加えて男にも女にもなれる身体な模様。▼そんな主人公が様々な冒険をしたり求婚を断ったり、女神に愛されたりする話。▼ボーイズラブ、ガールズラブのタグはギリシャ神話だから念の為入れてます。


総合評価:4128/評価:8.38/連載:6話/更新日時:2026年08月15日(土) 07:01 小説情報

虚狩る戎具「約束された勝利の剣」(作者:ナゴン)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

エクスカリバーとプーサー擬きを出したかった。▼※本作品はAI利用をしております。


総合評価:1348/評価:8.1/連載:13話/更新日時:2026年08月19日(水) 13:00 小説情報

姉様、姉様、ごめんなさい(作者:イエスアマゾネス)(原作:Fate/)

死亡フラグ100%の種族にTS転生


総合評価:3377/評価:8.47/連載:5話/更新日時:2026年06月02日(火) 03:02 小説情報

紙芝居をしただけなのに(作者:何処にでもある)(原作:Fate/)

 昔々、蛮族の集団で悠々自適に過ごす為の芸が巡り巡って無辜の怪物になった男がおったそうな。▼ その者腕っこきはからっきし、童話を紙芝居で読むのだけは上手く、ペラ回し一本で英霊に立ち向かわざる得なくなって途方に暮れたそうな。▼ この者の本名を亀男、英霊としての名前をカルメン。▼ 無辜の怪物で周囲から理想のタイプの女に見える、しがない一般サーヴァントである。


総合評価:6035/評価:7.82/完結:27話/更新日時:2026年07月01日(水) 23:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>