The Reversed Star――逆位置の星―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
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https://docs.google.com/document/d/1GdwYLijsN-D6iR4MKAlV2ziDaThI6rrddGUy8nim0KE/edit?usp=drive_link
翌朝、立香が荷置場へ来ると、大きな石臼の前で声が上がっていた。
保存食と水の荷は、もう積み分けてある。残る場所へこの石臼を加えれば、ほかの道具を降ろさなければならなかった。
「これを置いたら、向こうでどうやって挽く」
「外に、同じものを作れる石があるとも限らん」
ペトロスの言葉に、アトラスが使い手へ尋ねた。
「持ち運べる小型はあるか。当座の食事は、それで賄えるか」
「手回しのものがある。遅いが、挽ける。最初に食べる分は、もう粉にしてある」
「大きいものを作り直すには、何を残す必要がある」
「削る道具と、溝の取り方だな。図は持っていける」
使い手は積荷を見比べ、小さな石臼の方へ手を置いた。
「……大きい方は置こう。こっちを積んでくれ。挽くのは、向こうでも私がやる」
ペトロスが図へ削り方を書き加える。アトラスが積荷の収まることを確かめると、立香は選ばれた道具に札を付けた。
診療所からは保温用の布と、小さな器具の箱も来ていた。巨大な冬眠槽は、船内に据えられたままだ。
「この包みも、頼めるか」
立香は声の方を向いた。目覚めた日に、降りたくないと言っていた人だった。
小さな包みの端から、名を写した布が覗いている。立香は荷の札を確かめ、本人へ返した。
「はい。ここへ置いてください」
記録も運び出されていた。民籍の写しは各群で分けて持ち、最初の王の包みと、十七人の綴りも、それぞれ納められる。
その脇へ、薄い板が差し出された。
「これも持っていきたい。この船で歌ってきたものを、書き留めてある」
立香は、板に並ぶ文字を見た。
記録係が持出札へ歌と書き、用途の欄で筆を止める。
「その欄は空いていてよい。持ち出すものとして記せ」
アトラスが板を取り、布を広げて待つ手へ渡した。
立香は札を受け取り、包みに結んだ。
別に用意された車には、亡くなった人々が横たえられていた。搬送に付き添う人が、ずれた布を静かにかけ直している。十七人も、この船に残さず運ぶ。
荷が動くにつれ、大きな石臼の周囲が空いていった。
立香は、床に残った丸い石を一度振り返り、搬入口へ向かうアトラスを追った。
*
搬入口で、立香は丘の受入側から届いた返事をアトラスへ伝えた。道を守る者も、患者を受け取る者も、持ち場に就いている。
「先に行っているね。向こうで、布を直して待っているから」
歩いて降りる列のそばで、ゾーイの母が娘へ言った。
「うん。私は患者さんたちと行く」
ゾーイは母に頷き、待機中の患者を運搬役へ引き継いだ。
「この方は、まだ返事ができません。途中で呼吸が変わったら、すぐに呼んでください」
担架の横に介助者が付き、車へ移す支度を始める。
アトラスは、集まった担当者へ向き直った。
「現場の危険が変われば、己(おれ)の返答を待つな。見た者が決め、名と結果を返せ」
周囲から返事が上がった。
立香はマシュに、手元の記録を示した。
「さっき包みを預けた人、まだ船内にいたいって」
「はい。居住通路ですね。わたしが後で声を掛けます」
マシュはその場所を確かめ、後続の列へ戻った。
通信から、ダ・ヴィンチの声が届く。
『機構の運用は、まだ解除されていない。搬出が続けば、隔壁を閉じるかもしれない。扉からは目を離さないでくれ』
立香は搬入口を見上げた。
その上を、起重機の吊り台が荷を載せて動いている。ギルガメッシュは張り出した腕の先を見ていた。隣のアトラスは、出口から坂道へ続く列へ目を向ける。
「最初の組、出てくれ」
民の担当者の合図で、先頭の列が動き出した。
*
マシュは診療所前の分岐で、最初の患者の車を通した。
歩いて降りる人々は、脇の広い場所で待っている。介助者が車の横に付いたまま角を曲がり、搬入口へ下る坂へ出た。
通れた。
マシュは次の組へ合図を送り、自分も列に沿って坂を下りた。
開いた搬入口の先では、人々が船外の道を進んでいる。食料の荷車が続き、空になった車が戻ってくる。
その往来の上に、機構の声が響いた。
「帰船を指示。搬入口、閉鎖」
頭上で、重い音がした。
マシュが顔を上げると、搬入口の隔壁が下がり始めていた。出口脇の積替え台も動きを変え、載っていた荷車を船内へ戻し始める。
「患者の車は、そこで止めてください! 後ろの方は、待機場所へ!」
マシュは列の前へ出た。
壁際から伸びた搬送アームが、荷車の枠を捉えようと通路を横切る。その先へ盾を差し入れた途端、重い衝撃が肩まで抜けた。
靴底が床を擦る。金属の腕は盾に押し当たり、なおも荷を引き寄せる位置へ戻ろうとしていた。
表示は、船の内側を指している。
「こちらへは、通しません……!」
盾を立て直した時、視界の端で紺碧が開いた。
「限定開城」
アトラスの外装が離れ、光の壁となって隔壁の下へ立ち上がる。
降りてきた扉が、その上で止まった。床から伝わっていた振動が、マシュの足を震わせる。
もう一枚が出口の段差へ渡り、船内の床と、外へ下る仮設の坂道をつないだ。
別の搬送アームが、患者の車の枠へ伸びた。
アトラスが三叉槍の穂先を下げる。
金属の腕が急に沈み、車へ届く前に床を打った。持ち上がろうとする継ぎ目へ槍が走る。接続部が裂け、腕の先が力を失った。
マシュも盾で押さえていたアームを壁側へ押し戻した。
その間を、アトラスの外装が塞ぐ。
「マシュ、車を」
「はい!」
振り返りかけたマシュの視界を、大きな影が横切った。
船外へ出た荷車の上に、起重機の吊り台が降りてくる。荷を拾い上げる高さへ。そこまで下がれば、坂道を通る列が塞がれる。
「前の方、止まってください!」
頭上を、黄金の槍が走った。
起重機の根元に突き立った一撃が、旋回する腕を無人の荷置場側へ押し返す。次の一撃が継ぎ目を甲板へ縫い留め、巨大な腕の動きを止めた。
吊り台が列の上から逸れ、空いた荷置場へ落ち着く。張り詰めた吊索が、低く鳴った。
搬入口の外で、ギルガメッシュが片手を上げていた。
背後に開いた黄金の波紋から、さらに刃が覗いている。機械が軋むたび、赤い瞳がその動きを追った。
「上は我が押さえる。好きに通せ」
「下は、己が通す」
アトラスが槍を引き、足場の脇へ立つ。
マシュは患者の車へ手を添えた。
「進めます。ゆっくり、こちらへ」
車輪が紺碧の足場へ乗った。
介助者が横から患者を支え、運搬役が歩調を合わせる。止められた扉の下を抜け、車が外の坂へ渡るのを、マシュは盾を構えたまま見送った。
「補助止めを掛ける。そこの幅を空けろ」
ペトロスが搬入口の壁際へ入り、留め具を押し込んだ。
スティリオスは荷車の向きを直し、開いた通路を見通す。
「通るぞ。次の車、こっちだ!」
マシュは盾の陰へ、次の患者を迎えた。
頭上では扉を閉じる音が続いている。船外では、押し留められた起重機が軋んでいた。
その下を、車輪が一つずつ越えていく。
出口から伸びる列は、坂道の折返しまで届いていた。
*
立香は荷車に沿って、丘へ続く坂道を上っていた。
列の外側から、短い合図が飛ぶ。民兵が槍を受け取り、岩陰へ穂先を向けた。
曲がり角で、アストライアが腕を振った。
放たれた宝石が光を弾けさせ、道へ飛び出した魔獣を押し戻す。獣が岩場へ転がる間に、女神は次の宝石を指に挟んだ。
「出し惜しみなどしませんわ。さあ、列を崩さず進みなさい」
立香は頷き、荷車とともに角を曲がった。
その先で、車輪が大きく傾いた。
「止めろ!」
牽き手が踏ん張り、車を止めた。折れた車軸の先が、土を掻いている。
立香が通信へ手を伸ばすより早く、荷の担当者が声を上げた。
「予備車を! 後ろは脇へ寄せろ。下りの便も止めてくれ!」
丘から来る空車が手前で止まり、後続は道の膨らんだ場所へ入った。
予備車へ食料が移され、壊れた車は道の外へ引かれる。立香がアトラスへ報告を送る頃には、荷を結び直す作業が終わっていた。
「予備車に積み替えたよ。食料も全部ある。列はまた動き始めた」
『承知した』
立香も荷車を追い、丘へ上がった。
受入場所の脇で、ゾーイの母が腰を下ろし、搬送布のほつれを縫っていた。直した布を戻りの便へ渡すと、今度は荷袋を膝に広げる。
しばらくして、ゾーイが患者の車とともに着いた。受入班への引継ぎを終え、母のそばへ寄る。
「お母さん、手は痛くない?」
「まだ平気。あなたこそ、水を飲んだ?」
ゾーイは一度口をつぐみ、それから自分の水入れを取った。
母はその隣で、荷袋へ針を通していた。
便が着くたびに、丘の荷が増えた。
通信の声が途切れた時も、次の便が船内の控えを運んでくる。立香は、到着した人の名と照らし合わせた。
やがて、最後の食料車と水の便が坂を上がってきた。
受入側から、予定した荷が揃い、容器にも損傷がないと返事が届く。
立香は民籍の綴りへ戻った。
まだ到着していない人の名には、船内に残る場所が書き添えられていた。
*
居住通路に入ったマシュは、墓銘板の前で足を止めた。
朝、まだ船内にいたいと答えた人が、そこにいた。呼び掛けると顔を上げ、自分の名を答える。荷は先に出した、とも言った。
「船を沈めるのは、分かっている」
その手が、壁に据えられた板へ触れた。
「字だけ持っていけばいいってものでもない」
刻まれた名の上を、天井の灯りが照らしていた。名前を写した布の包みは、もう丘へ運ばれている。
マシュは隣に立った。
「……はい」
手を伸ばさずに待っていると、背後で低い音がした。
通路の入口へ、隔壁が下りてくる。
マシュは駆け戻り、盾を差し込んだ。縁へ食い込む重みに、膝を曲げて踏みとどまる。
「先輩、居住通路です。ご本人と話せています。ただ、出発するかどうかは、まだ――」
『分かった。まだ居住通路にいるんだね』
通信に、アトラスの声が入った。英雄王へ向けたものだった。
『搬入口を頼む』
『さっさと行け』
ほどなく、盾の向こうへ紺碧の光が入った。
アトラスの外装が隔壁を受け止め、マシュの腕から重みが抜ける。通路へせり出してきた搬送アームには、三叉槍の穂先が向いた。圧し伏せられた腕が床を擦り、止まった。
アトラスは槍を保ったまま、墓銘板の前へ顔を向けた。
「出口は保っている」
住民は、開いた通路を見た。
その先から風が入ってくる。マシュは盾を起こし、身体を横へずらした。船外へ続く道が、ここからも見えた。
碑の縁に置かれた手が、ゆっくりと離れた。
一歩を踏み出してから、住民がマシュへ手を差し出す。
「……手を、貸してくれ」
「はい」
マシュはその手を取った。
歩き始める時、相手の顔が一度だけ後ろを向く。マシュも歩幅を緩めた。
隔壁の下を通り抜けると、アトラスが続いた。背後で外装が一枚引かれ、通路を閉ざす音が響く。
握った手に、力がこもった。
搬入口では、ペトロスがまだ補助止めを押さえていた。スティリオスが二人を見つけ、通れる方へ腕を振る。
マシュはその先の平らな場所まで付き添い、待っていた護送の担当者へ引き継いだ。
「丘まで、お願いします」
住民は差し出された腕を借り、自分の足で坂道へ踏み出した。
マシュは姿が曲がり角を越えるのを見届け、アトラスのいる出口へ戻った。
やがて、通信から立香の声が届いた。
『こちらに着いたよ』
マシュは搬入口へ目を向けた。
残っているのは、ペトロスとスティリオスの二人だった。
*
道の警戒を民兵へ引き継ぎ、アストライアは搬入口へ戻った。
ペトロスが補助止めから手を離すところだった。出口に立つスティリオスが、船内を振り返る。
「もう誰もいない。出るぞ」
「ああ」
二人が並んで踏み板へ足を掛けた時、隔壁が大きく鳴った。
衝撃が床を伝わり、古い板が持ち上がる。スティリオスは浮いた端を避けようとして、右足を捻った。
「っ……!」
膝が落ちる。ペトロスが腕を掴み、引き寄せた。その左前腕を、割れた板の縁が裂く。
弾けた破片は、マシュの盾を叩いた。
足元へ、紺碧の外装が滑り込む。
アトラスが二人の体重を受けた一枚を保ち、もう一枚を地面との間へ渡した。頭上では、起重機の腕が再び道を横切ろうとしている。
金色の光から放たれた剣が、その継ぎ目を打った。腕は船側へ押し戻され、吊り台が空の荷置場の上で揺れた。
アストライアは平らな場所を指した。
「ここへ車を。足を傷めています」
戻ってきた救援車が、道の端へ寄る。
女神が足場へ向き直ると、ペトロスは傷めた左腕を胸元へ寄せ、右腕をスティリオスの肩へ回していた。スティリオスもその胴を抱え、右足にかかる重みを逃がしている。
「引っ張るな。足を合わせろ」
「合わせてる。そっちこそ離すなよ」
また、その言い方をする。
アストライアは二人の間へ手を上げかけた。
ペトロスの足が止まった。
スティリオスが片足を寄せるのを待ち、二人で次の一歩を踏み出す。言い返しても、肩と胴に回した腕は離れなかった。
二人の顔が、同じ高さに並んでいた。
あの日、二人を床へ伏せさせた手が、宙で止まった。
最後の段差を越える時、ペトロスが腰を落とす。スティリオスはその肩へ身を預け、地面へ足を下ろした。
この先も、二人は争うだろう。
それでも、自分が二人の間に立ち続ける必要はない。
アストライアは手を下ろした。
車へ乗り込むスティリオスに、ペトロスが右腕を貸す。その隣へ腰を下ろすと、救護役が左腕の傷を布で押さえた。
女神は道を空け、二人を通した。
車輪が動き始める。
マシュが足場から下り、アトラスの外装が後を追うように引かれた。英雄王は起重機を押し留めたまま、道へ張り出していた吊り台を船側へ戻す。
最後の民が、船を離れた。
アストライアは車を見送り、まだ作動音の続く搬入口へ向き直った。
*
一足先に丘に着いていた立香は、坂を上がってきた救援車へ駆け寄った。
ペトロスは左腕に布を巻かれ、スティリオスは片足を伸ばして座っている。ゾーイが車の脇につき、手当てをした者から経過を聞いた。
「ペトロスさん、スティリオスさん」
二人が顔を上げる。
立香はその顔を確かめてから、記録係へ頷いた。二人の名に到着の印が付き、三つの綴りに残っていた最後の札が外される。
千百八十三人。
そのそばには、十七人を運び終えた記録もあった。布に包まれた身体は、患者たちから少し離れた場所に安置されている。
荷の担当者も、丘で確かめた控えを持ってきた。壊れた車から移した食料も、船へ置いてきた物も、そこに記されていた。
記録係が最後の頁を確かめ、立香へ渡す。
立香は通信を開いた。
「全民籍、照合完了」
「生存者は全員、丘にいます」
言い終えて、端末を握っていた指を緩めた。
マシュとアストライアも坂を上がってきた。道の見張りは民兵へ引き継がれ、救護に残っていた者も丘へ入る。
その後ろから、ギルガメッシュが歩いてきた。全員が機械の届く範囲を離れるまで、搬入口を押さえていた王だった。
立香はマシュと目を合わせ、頷いた。
仲間も、ここにいる。
アトラスが丘の縁から戻ってきた。船を見下ろし、患者と荷の置かれた場所まで目を巡らせる。
「この丘には、及ばせぬ」
紺碧の外装が、一枚ずつ戻ってきた。
道へ渡していたもの、車と人を守っていたものが王のもとへ収まり、完全閉城の姿を形作る。外套の裾が、湿った草を撫でた。
ギルガメッシュが、その隣へ立った。
蔵の奥の一振りは、まだ抜かれていない。
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台車の軋む音がやんだ。
立香は綴りから顔を上げた。風に鳴る布の音に、子供たちの声が混じっている。
ゾーイは患者のそばに膝をつき、腰の器具袋から布を取り出していた。隣には母がいる。呼び掛けに応じない患者の胸も、掛け布の下で上下していた。
ペトロスは処置を終えた腕を抱え、スティリオスと肩を並べて座っている。
墓銘板の前にいた人も、戻ってきた包みを膝に置いていた。顔を上げても、その口元は固いままだった。
立香も、同じ方を見た。
丘の下に、巨大な船がある。
布を干していた欄干。人々の声が重なった広場。何度も荷車を押してくぐった搬入口。
どこにも、もう人影はなかった。
それでも、搬入口の灯りはともっている。
雨上がりの空は、まだ一面の灰色だった。
立香の少し先で、二人の王がからっぽの船に向き合っていた。
この作品の興味をもったところは?
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アトラスのキャラクター性・内面
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ギルガメッシュとの関係性
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王としての在り方・王権のテーマ
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ストーリーの展開
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その他