あと傍観者タグ、追加しました。
「須藤は将来NBAでプレイする男かもしれないぞ? 世の中に大きく貢献する可能性は秘められている」
堀北の須藤を批判する声に、綾小路の本人も信じてなさそうな熱のない声。ふざけるな、だ。
「須藤が、プロなんかになれるわけないだろ」
嘲笑まみれの声は意外と響いたらしい。
須藤がこっちをグルんとこっちを向いた。
「今なんて言った!」
程度の低い恫喝
「お前なんかが、プロ選手に、なれるわけ、な、い、だろ」
「おい、手前ぇ。今なんて言った!」
「頭だけでなく、耳まで悪いのか」
いいだろう。最近、何となく野郎どもに嘗められている気がする。俺は運動でも勉強でもクラスの上位、Dクラスだけじゃなく、学年全体でも十分優秀な部類に入るのだ。トラブルを起こさないように大人しくしていたが、その所為で割を喰ってる気がする。このへんで印象を変えておこう。
「ちょっと、須藤君!?」
静止にかかったのは平田か? それを無視し須藤は俺にとびかかってきた。両手で胸倉を掴み、俺を引き上げ睨みこんでくる
本人にしては怒気を叩きつけたつもりだろうけど、甘い。所詮はフィジカル頼みの単純暴力。武の欠片もない。
いいだろう、武というのは本来矛で相手(の生命)を止めるものだ。
「い、痛ぇー!」
手首を握り返すと親指でギュとツボを押さえつける。ツボっていうのは実は神経系のバグだ。力をこめれば良いというものでない。
須藤の指が緩んだのを機に両手を奴の腕の間に差し込み、内側から弾いて開く。そのまま右手首をとらえ、肘を抑えて、体を回して背中側から右腕を決めてしまう。一丁上がりだ。
「痛ぇー、離せよ!」
須藤はわめいてロックから逃げようとするが、そうはいかない。暴れるたびに締め返す。
「騒ぐんじゃない、このままへし折ってやろうか!」
まあ、へし折るのはまずいか。ならこのまま関節を外すか? その時、適当に腱を傷つければバスケ選手なんて寝言は言えなくなる。そんな甘い誘惑をグッと我慢する。
「おい、ちょっと」
「健を離せよ!」
「ああっ!!」
池と山内が割って入ろうとするが、威圧して引っ込ませる。じっちゃんから習った特殊な呼吸だ。腹の座った奴なら効かないが、この程度の相手には十分だ。三馬鹿とひとまとめにされやすいが、彼らは実はそれほど仲が良いわけでないのはわかっている。今回の暴力事件も彼らは最初っから非協力的だった。
「折角だから、なんでお前がプロになれないか教えてやるよ」
気持ち須藤の抵抗が弱まった、自覚はあるらしい。
「プロスポーツっていうのは、客商売なんだよ。お客さんの払ってくれるお金で成り立っている」
お客さんは良い気持ちにさせてくるプレイを見に来てるんだ。そんな中、自分勝手に騒ぐ馬鹿がいればどうなると思う。
「プレイ中だけじゃないぞ、日常生活でプレイヤーが野蛮なことをしてみろ。そんな奴、誰も応援なんかしない。週刊誌やワイドショーのネタになって謝罪会見? で引退? そんなリスクがあるやつを監督やオーナーが試合に出すと思うか? プロは勝てばいいんじゃない。安定して稼がないといけないんだ」
『なんか身もふたもないこと言ってない?』
なんかノイズが聞こえたが無視だ。
「悪役で売れるのはプロレスとかだけど、ヒールな選手も悪『役』なだけ。日常生活ではまともだってよく聞く話だろ」
「う、うるせぇ」
須藤の声が弱い。なので気付けで関節をグッと……
「い、痛ぇ!」
「どうせ中学時代にやんちゃして、強豪校に行けなくなってこの学校に来たんだろ。でも甘いぜ、仮にお前がAクラスで卒業して、有名チームに入れても、マスゴミか何かが中学時代のお前の所業を暴いてくれる」
「……」
肩の力がごっそり抜けた。思い当たることがあるのだろう。下げたので今度は上げ。
「お前にできるのはなぁ、高校生活で品行方正に生きて、中学時代のことを反省していると示す。それだけなんだよ」
わかったかと折れるギリギリ、というか二週間くらい後遺症が残っても良いくらい痛めつけてから、須藤を開放する。念のため左はカウンターを打てるように残しておく。だが必要なかったようだ。
青白い顔をして、須藤はゆるゆると自席でへたり込んで。なので、次は落ち。
「池、山内!」血の気が引いた二人に再度威嚇。「……俺たちがやっていたのは喧嘩じゃなくて、プロレスごっこだよな?」
「あ?」「え?」
「15のガキが教室でじゃれあっていただけ、喧嘩じゃないからポイントは引かれない、そうだな?」
須藤が何歳か知らないが、俺は誕生日が来てないので15歳だ。
「ああ」「なるほど」
察しが効く奴は気づいたようだ。
「ハハハハハ、なるほど。15の子供のプロレスごっこが好きということかい。なら問題はないな、フジヤマボーイ」
高円寺、察するの良いがフジヤマボーイはやめて欲しい。というかお前、さっき教室から出ていかなかったか?
「なら、そういうことで」スルッと近づいた松下さんが俺の右手を上げる
「勝者、富士宮ナオキィ!」
一瞬の沈黙の後、うわー!っと拍手する女子の大半、これはどっちかというと須藤がやられてすっきりしたという拍手、アイツ女子には嫌われてるな。
平田達心配していた口は安堵の拍手。綾小路はよくわからないという表情でとりあえず拍手。堀北さんはくだらないと無視
監視カメラの向こうは、うん、細井さんに頭を下げておこう。
これにて一件落着。は、実はしていないか、裁判がある。まあ、俺はこれにかかわる気はないし。
「ねえねぇ、さっき腕をゴキッとかしてたけど、何か拳法とか習ってたの」
「おう、実は空手五段、合気道四段でね」
最近、どっかで聞きた馬鹿話をほざいてみる。現実は頭の悪いエロゲじゃないのだけどね。
「ちょっと待ちなさい!」それに何故か噛みついてきた堀北さん。「貴男なんかが五段なんて取れる訳ないでしょう!」
なんか酷い言いぐさ、どっか地雷踏んだ?
「冗談に決まってるだろ」
「冗談としても……」
「そもそも高校生が五段なんて、取れるわけないでしょ」
意図不明なセリフをぶった切る。
「え?」
この子、武道とかしたことないのね。
「武道の段位取得ってのは年齢制限があるんだよ、空手の五段は確か、二十……五だったかな?」
合気道はもう少し下だった気がする?
「え!?」
虚を突かれたようにえ!、を繰り返す堀北さん。
「武『道』って言うのは精神修行とセットな建前があるからね、未熟だと思われてるガキはルールで段位をもらえないんだよ」
口をパクパクしてなにか言いたそうな堀北さんだが、
「気になるなら調べてみれば」
という言葉で、慌てて携帯端末をいじりだす。
「なんでこのガッコには、有段者ってあんまりいないんじゃない?」
空手の場合、段位を取るには中学卒業してないとダメなはず。
剣道の場合は13歳か14歳から初段が取れるらしいから、剣道部にはいるかもしれないけど。
「でもさぁ、前に小学生が空手の有段者になったとかって話、聞いたことがあるよ」
それって何処の外交官一族の麒麟児?
「それってジュニア部門の少年段位じゃない? そんなの持ってて高校生で粋がるのは恥ずかしいかな」
とハハハと嗤う。
「この学校の場合、外で審査受けにくいから段ってとるの難しいんじゃないかな」
何でそんなこと詳しいかって?
俺はあえて段位を取らないように調べたことがあるんだよ。大藪先生?か誰かによると、段位持ちとかプロライセンス持ちだと喧嘩したときに不利になるらしい。
有段者は武器持ち扱いになるんで、補導されたり警察沙汰になった時の用心だよ。
原作にある堀北会長の「空手五段、合気道四段」疑惑。嘘っぽいので調べてみたら大嘘でした。
要するに鈴音ちゃんはお兄たまの冗談を真に受けていたということ。
あとオリ主は別に須藤に助言しているのではないです。彼が暴れるとクラスが荒れて仕事がしにくいと、心を折りに来てるだけです。
ついでに言うと水泳で負けたのを根に持ってるのと、単に人間的に嫌いなだけです。
任務の為に公平に接しようとはしていますが、オリ主は基本真面目な人間なので、基本不真面目な三馬鹿のことは個人的に嫌ってます。