青い空、広がる海原、白い波頭。つまり何が言いたいかというとだ、
眠いぞー!!
早朝五時に高育を出発して、客船に乗り変えて出航。おかげでほとんど眠れなかった。
船で食べた朝食の後、船室で少し仮眠したが全然たりない。
無人島に着く前にはシャッキリしていたいので、濃い目のコーヒーで唇を湿らす。
今は高度育成高等学校が用意していた二週間の豪華旅行。豪華客船による豪華クルージングの旅の最中だ。
豪華客船は本当に豪華なのだが、できれば深夜でもよいから昨日のうちに乗船させて欲しかった。それなら柔らかいベットで熟睡できたのに。なにか悪意を感じる。
朝出発で、お昼ごろに目的の無人島に着くそうだ。つまりリッチな豪華客船を堪能するのは無人島生活が終わってからのことになる、もったいない話だ。
で、何となく周りを見渡すと、携帯端末をもって首をかしげている女の子数人。端末が使えないとか不思議がっているようだ。
当たり前だろう、外洋を航行する船では携帯電話は使えない。少し考えればわかるが、海の真ん中には携帯の基地局がないだ、つながるわけがない。豪華という枕詞がついても所詮客船、携帯の基地局を積んでいるわけではない。
ラノベや漫画では、船のなかで普通に携帯電話で通話するシーンがあるが、そういうのは作者さんが船に乗ったことがないということだろう。まあ、普通に暮らしているとそんなことは知らないしね。
インターネットが繋がるならWifi電話とかいうので通話できるらしいけど、外部連絡禁止な高育ではそんなアプリはブロックされていると思う。
なので俺は携帯端末をみて顔をしかめ、視線を落とす。
「どうしたんだい? キョロキョロして」
俺に声をかけてきたのは同席していた平田だ。
俺たちがいるのは船のオープンカフェだ、直接射す日光が眩しいが、潮風が気持ち良いので悪くない。
他に同席しているのは軽井沢に櫛田の二人だ。男女二人ずつで良い組み合わせ。
最近気付いたのだが、櫛田は休み時間など俺の近くにいることが多い。残念ながら俺に気があるわけでない、と思う。単に俺の傍にいると池や山内が寄り付かないからだ。
全方面に愛想が良い櫛田も、あの二人にベタベタ近寄られるのは嫌らしい。チラリと彼女をみると、?と可愛らしく首を傾げてみせた。
なお平田が俺の傍によくいるのは、俺のことを相談役と思っているかららしい。仕事上有利なのだが、痛しかゆしだ。
「なにかというとだ」
俺は用意していた紙を取り出して広げる。何かといえば日本地図だ。
「地図?」
「そっ、これから俺たちが行く無人島なんだけど、どこにあるか気になってね」
テーブルの上に置いた方位磁石によると、航路は大体南に向かっている。
「変なこと気にするのね」
「そりゃね」
無人島の位置は一般生徒どころか、俺達監視者にも教えられていない。高育所有となっているが、実際には国有だろう。秘密にするのにはなにか理由が? とりあえず好奇心だ。
「客船っていうのは意外と速度が出るものだよ、今だって4,50キロで航行しているはず」
へぇと感心する女子二人。
「六時過ぎに出港して、お昼に着くとなると大体六時間。だけど東京湾は混むんであんまり速度が出せないって聞いた覚えがある」
空も海も自由なように見えて規制がイッパイ。
「なもので東京湾の奥から200キロ圏内とすると」地図を指さす「目的地はこの辺、伊豆諸島のどこかになる」
「なんか話は長くなったけどさ」軽井沢は呆れた模様「そんなの現在位置見れば一発じゃん」
携帯端末を取り出して現在位置を調べようとするが、
「あれ?」
ポチポチと操作するが首を傾げるばかり。
「GPSはロックされてるよ」
俺たちが使っている携帯端末は学校支給のモノだ、当然学校側からリモートで操作できるようになっている。
ここまでして秘密にしていることに個人的に興味があるのだ。
「俺達が知っているのは島の大きさだけ」
「面積が0.5平方キロで標高230メートルだっけ」
平田えらいな、ちゃんと覚えてた。
「うーん、大きいね「狭いな」」
「「え?」」
櫛田のセリフを俺はぶった切った。
「0.5平方キロっていうのは単位を変えたら50万平米だ」
「……あれ?」
そこまで言うと平田は気付いたようだ。
「そう、高育の敷地が60万平米だから、これから行く無人島は高育より狭いんだ」
「「うわ~」」
櫛田と軽井沢は渋い顔。
仮に島が真円だとしたら直径約800m、高育は大体800m四方だから島は高育の敷地内にすっぽり入ってしまう。
「半径400mで高さが230mだとすると平均斜度はアークタンジェントで大体30度、結構きついぞ」
三角定規の傾きが頂上までずっと続いているわけだ。
そもそも島って言うのは海底から伸びている山の頂上が、水面から上に顔を出しているものだ。基本的には山とか崖になる。高育クラスの土地が海の上に平らにあったら、それは島というよりメガフロートを疑った方が良いだろう。サンダーバード基地とか何とかひょうたん島は人形劇の世界にしかないのだ。
まあ、そろそろ脅すのは止めだ。
「といってもレジャーで遊ぶ分には十分だろ」
砂浜はあるらしいから、ビーチで遊ぶ、遊べるならだけどね。
「なんか難しいこと言ってるけど、富士宮くんとしては島になにか思うことあるの?」
よくぞ聞いてくれました。地図をチョンチョンと突っついて、
「この辺の島なら、上の方に登れば富士山が見えるかな、と」
無人島から眺める富士山も乙なモノかなと。名前に富士があるので富士山には愛着があるのだ。だけど、
「「「あぁ~」」」
失礼なことに、俺を除く三人から上がったのは呆れのため息だった。
三人と別れて俺は一人甲板デッキに。と思ったら三人とも付いてきた。そろそろ到着なのでクラスメイトと合流する積りらしい。
俺も一緒に船首デッキへ。海側でなく、クラスメイトが視界に入る奥の方に。
俺と同じような位置に立つ人影がいくつか。だけど俺たちは誰も顔を合わせず目も向けず。見るのは進行方向とクラスメイト。
『暫くの間、非常に意義のある景色をご覧いただけるでしょう』
唐突で『奇妙』なアナウンス。それと共にどっと移動してくる、あれはAクラスか?
彼らに押された須藤が吠えるが、意に介さずどかされる。しかし面と向かって不良品呼ばわりとは恐れ入る、その顔、覚えたぞ。
船尾方向に移動するクラスメイトを追おうと動き出すと、
「ごめんなさい」
と小さな声。チラリと目をやると一人の女生徒。きれいな金髪とヘアバンドが印象的。もしかしてAクラスの人? なので、
「どういたしまして」
と返しておく。悪いのは彼女じゃないし。
見えてきた島影を追うと、客船はコースを変える。島をグルリと回って全景を見せてくれる。前もって聞いていた話とあわせ、ある程度の情報が得られる。
一周回ると船は停泊準備を始めた。その間に昼食を済ませ、上陸の準備をしろということだ。
当たり前だが、この豪華客船は直接島の桟橋につけることはできない。喫水の問題だ。このクラスの船なら島に近づいただけで座礁の危険性がある。
この喫水線の問題は結構面倒で、超豪華な豪華客船は停泊できる桟橋は日本でも数か所しかないと聞いたことがある。
つまりこんな島だと、小型船で小分けして上陸させる必要があるということだ。結構移動に時間がかかるはずだが、実は問題にならない。上陸前に手荷物の検査が行われ、そっちの時間が結構かかったからだ。
何人かいる係員を眺め、目印のある人の列に並び無事手荷物検査を終えると俺も乗船。数分後には島に上陸の運びになった。
これからが本番。
クラスごとに並んだ生徒たちの前に立ち、Aクラス担任の真嶋教諭は始まりの言葉を口にした。
「ではこれより-----本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
昔オリジナルの小説を書こうと、無人島のことを調べたことがあります。
日本は島国なので絶海の孤島や、広めの無人島はいくらでもあると思っていました。だけど調べたらそんなことはなく。
島っていうのは日本本土近くか、何とか諸島か、瀬戸内海に大部分あるようで、単独で絶海の孤島というのは珍しいようです。
さらに一平方キロ以上の面積があって利用されていない(いなかった)島は数えるほどしかないようです。
リアルというのは世知辛いですね。
この試験って何となく船で一泊してから無人島と思ってたのですが、原作読み直すと高育を出発した日にもう試験開始なんですね。凄いタイトなスケジュール。
なお、この日の昼食をどうしたかという記述がどこにもないので、下船前に食べたということにしました。
船内の出来事は北海道ツーリングで、大洗から苫小牧までフェリーで移動した印象がもとになっています。電話で通話どころか、インターネットへの接続もできず暇してました。ラウンジの読書コーナーで漫画を読んでいたのですが、客船にワンピース(海賊モノ)はどうかと思いますよ。