あと、祝『変人のサラダボウル』完結。次回作も読みたいです
「はい、今日はここまで」
「うわーい、終わった」
「疲れたよっ!」
俺が宣言すると、伊集院と松下さんは歓喜の声を上げた。
だが甘い。
「社会と国語、今日指定した分は次までに覚えておくこと。暗記項目は、とりあえず覚えないとどうしようもないぞ」
「「えーーっ!」」
などと言われても困る。俺の得意分野は理数系、それに英語なのだ。歴史なんかの暗記項目は、どう教えたら良いかなんてわからない。
俺たちがいるのはケヤキモールのオープンカフェだ。勉強会を開くにあたってまず悩んだのは、何処でやるかというところだ。
教室は平田ハーレムなのでパス、ピンクのオーラで集中できない。
図書館は堀北と三馬鹿がいる。どう考えても揉めるので巻き込まれたくない。
伊集院の部屋は臭そうだし、女子の松下さんの部屋に行くわけにはいかない。
俺の部屋はさりげなく見られたくないものが多い。
なのでお金がかかるが、カフェに来たのだ。伊集院はポイントがないとか泣いていたが、俺の貸しということで納得させた。テストが終われば、このくらいは回収できるだろう。
「サンキュウな、富士宮」
「お疲れ様、富士宮くん」
「ん?富士宮?」
帰ろうとする2人の声に反応した者が1人。
カフェで席を探していた女生徒が1人、何か気になったのかこちらに顔を向けた。
気配に応じそっちを見る。と、ばっちり視線が合う。
印象的なのはその赤毛だ。情熱的とか燃え上がるとかいうのとは違う、包み込むような温かさを持つ朱。
きれいというより可愛い系、いわゆるコケティッシュな魅力がある。
顔面偏差値の高いこのガッコでも美少女と呼ばれるレベルだろう。つまり、
……記憶にある顔だ。
なのでプイ、と視線を切ってそっぽを向く。
「こらぁ、ナオキ!」
俺の態度が気に障ったのか、彼女はズンズンと近づき、俺の頤を摘むとグイっと引き寄せる。
なので俺は目をつぶって唇をゆっくり上に向ける。変わらず近づく熱量。つまり、
ガツン。
額にひどい衝撃と痛み、なので、
「おい、こらマイ。女子の頭突きは、はしたないぞ」
立ち上がって文句を言うと、
「アホな無視するお前が悪い!」
高遠だけでなく、松下さんや高遠の連れも併せてウンウンと同意されてしまった。
「えーと、高遠さん。もしかしなくても知り合い?」
そう訊いてきたのはストロベリーブロンドの美人さん、確かBクラスのリーダの女子。
「そうそう一ノ瀬さん、こいつは富士宮直樹。おな中だったんだ」
フジミヤナオキ?、誰それ?と、ボケたかったんだけどそういう雰囲気ではなくなっていた。さりげなくフルネーム初公開だ。
「よろしく富士宮くん」
などという一ノ瀬さん?によろしく、と返すと追加説明。
「というか、俺は中二で転校したんでマイとは一年ぶりだけどね」
そう、彼女とは幼馴染なのだが、別の中学から来たことになる。
「そういえば一年ぶりか、ということは……」
彼女は俺に寄ると頭の上に手をやり、スイっと俺のほうにスライドさせる。
「うん、よしよし。なかなか大きくなってるね」
彼女の頭は俺の鼻ぐらいの高さにある。俺は成長期が終わってないので、将来もう少し差が出るはずだ。
なので、俺は一歩引いて視線を落とす。
巨、とは言えないが必要十分なサイズがある。
「うん、よしよし。なかなか大きくなってるな」
「ん!、て、違う!」
彼女は自慢するように胸を張り、何かに気づいたように口を膨らませてチョップ一発。
あからさまに胸を隠すような真似はしないが。
「なんか、いやらしくなった?」
「まさか……、」
Dクラステイストに毒されたは思いたくないが、朱に交るとだから何か心配。
「そういえば」
高遠はクラスメイトぽい松下さんと、特に伊集院を見て、
「ナオキ、うちのクラスじゃないよね。もしかしてAクラスなの?」
そこで伊集院を気にして首をかしげるのは、さすがに失礼だよ。
俺のスペックだとAかと思うよね。でも俺は平田と同じ枠なの。なので素直に、
「いや、Dクラス」
それを聞くと、一瞬表情を消し、何か面白そうな表情を浮かべ直す。
「へえ?」
「なに?」
「殴ったんだ?」
「違うぞ」
「暴れたんだ?」
「何のことかな?」
「切れたんだ?」
「……警察沙汰にはなってないぞ」
アハハ!と笑顔を浮かべると高遠は俺の手を取る。幼馴染らしく距離が近いな。
「其処らへん、詳しく聞かせてよ」
俺の手を引いて連行するつもりらしい。でクラスメイトに、
「一ノ瀬さん、今日はごめん。付き合えなくなった」
「仕方ないね、ごゆっくり」
次いで松下さんと伊集院に、
「ごめんね、こいつ借りてくよ」
「うん、ちゃんと返してね」
微妙な言い回しで答える松下さん、なんか不機嫌そうか?
「夜には返すから」
「夜には、いらないかな?」
……女の子のニュアンスはわかりません。
モッキュモッキュ、ではなくパクパクムシャムシャという擬音で食事を掻っ込んでいるのは、『今日初めて逢った』幼馴染である、
高遠舞嬢。
Bクラス担当の、私と同じ監視者である。その彼女は現在、私の部屋で一心不乱にお食事中である。食べているのは皆大好き、自衛隊御用達の軍用レーション。ミリタリーマニアという設定にあわせ、通販で仕入れたコレクションである。非常食ではあるのだが、早めの夕食で要求されるとは思わなかった。余談だが二食目である。女子としては健啖家と言えよう。
「ふう、ご馳走様。助かったよ~」
満足という感でお腹を叩く。普通なら同年代の男の前でしてほしくないポーズだったりするが、女家族な俺は気にしない。
「はい、お粗末様」
空容器を片付けながら私は返す。
「ほんと、インテリアとか揃えたらポイントなくなっちゃって。女の子は付き合いも多いし」
なるほど。
彼女はEシステム所属の監視者だが、ドジを踏んでクレカなどの補給手段を忘れて高育入りしたのだそうな。なのでそこら辺とか、これからの事とか、細井さんにフォローを頼まれた次第だ。
なんでも彼女は細井さんの身内で、一人暮らしになるのを親御さんが心配して、誰かにサポートするようにお願いされたらしい。微妙に頭の悪い話だ。
要するに、何をどこまで信用するば良いかだ。彼女は実は私の監視役かもしれないし、本当にただのお嬢様かもしれない。放置するのは論外として、付かず離れずの距離が良いのか、幼馴染としてどの距離感で接すれば良いのかわからない。
理事な細井さんも身内を使うなと言いたいが、今年の高育新入生には理事長の娘さんまでいる。理事長令嬢に対応するための理事の身内かと思えば、どうなんだろ? まあNeed to Knowでとぼけておこう。
件の理事長の娘さんはAクラスにいるらしい。贔屓とか忖度があったんだとか騒いだ馬鹿がいたらしいが、そんなことはないだろ。
彼女は能力があるからAクラスに配属されたのじゃない。Aクラスに配属される能力があったから、この学校に入学したと考えるのが正しい。
能力でクラス分けが行われる(という建前)のこの学校で、理事の子女がCやDクラスに配属されるのはさすがに世間体が悪い。保護者はSシステムを知っている筈なので、Aクラス卒業という華が取れそうにないなら、この学校に入学させないだろう。
理事長があえて入学させたということは、十分な能力があるということ。調べるAクラス担当はご苦労様です。
「さて、変なところ見せちゃったけど、富士宮くん」
ポイントがなくてご飯が寂しかったそうな。健啖家みたいだから女の子の集まりではいっぱい食べられなかったのかもしれない。
「これから三年よろしくね」
見せた笑顔に裏はない気がして、
「こっちもよろしく、高遠さん」
とこちらも返す。
美人さんと二人っきりとか、鍵のかかった部屋の中とか、視線の隅にベットがあるとか、そういうことは封印だ。
食後のコーヒーを入れてのフリートーク、高校生活は所詮アドリブだけど、幼馴染として必要な情報は詰めていく。
表面的なプロフィールは交換しているけど書類の外の情報。一通りの家庭環境、友人関係、趣味や特技、二人の幼馴染としての付き合い方。
あと、流石に冗談に紛れて微妙な話。
とりあえずわかったのは、高遠さんは細井さんをオジサマと懐いていることだった。だからどうしろと?
舞ちゃんの外見モデルはズバリ、ぐだ子です。話の流れを考えていたらノーマル・カルデア制服姿で「わたしも出せ!」とばかりに頭の中にポップしてきました。元々はシステム側の人間は細井さん以外は、オリキャラは出すつもりはなかったです(伊集院君は原作キャラです。何処に出てきたのか覚えてないですが、公式ガイドブックから引っ張ってきました)
でも二巻の内容を考えると、Bクラスにオリ主と親しいキャラがいたほうが話を作りやすい気がして、採用しました。
二巻って綾小路くんの事実上の相方は一ノ瀬さんって気がしますので。
あと、ぐだ子のオジサマということで、細井さんの外見モデルはゴルドルフパパということになりました。太っているのに細井さんなのであっているかな?
なお、本当なら堀北兄妹喧嘩がこの辺に入るのですが、小ネタを思いたので二巻内の回想シーンに回すことにします。