沖谷くんは、"おきたに"(一巻のルビ)と、"おきや"(ガイドブックのルビ)、どちらが正しいのでしょうか?二人いるとか?
「えーと、ここの解き方なんだけど?」
「ああ、ここの方程式使ってみろ」
「ここの約なんだけど?」
「この順で構文を考えてみろ。単語の意味間違えるなよ」
俺のやっている勉強会だが、いつの間にかメンバが二人増えていた。
一人は沖谷、ショートボブの青髪っこだ。華奢な姿態に……下はスラックスを履いている。
進んだ学校では女子も選択でスラックス可というところもあるらしいが、高育は国立で保守的だ。つまり彼女は男の娘ということになる。残念?、俺には高遠がいるから寂しくないぞ。
彼?は元々堀北グループにいたそうだが、須藤たちが抜けたとき一緒に出ていく羽目になったそうだ。なんやかんやあったみたいで、三馬鹿は堀北グループに戻ったらしいが、沖谷はそこまで面の皮が厚いわけではないらしい。
もう一人は巨乳の眼鏡っ娘、佐倉さん。彼女に関しては俺のミスだ。
昼休みの教室で教科書を開いてウンウン悩んでいるところを、伊集院みたいと思ってアドバイスしたのが切欠だ。
なんか懐かれて、彼女も勉強会に顔を出すようになった。
男子が苦手みたいな感じがあったので、俺で平気なのかと松下経由で聞いてみたら、『目が怖くない』からと言われたという。
俺的には実はかなりショックだ。大藪春彦作品をこよなく愛する俺としては、飢えた野獣のような眼、的なのが憧れだったりする。
なのだが女性陣に言わせると、野獣でなくて牧羊犬のような優しい眼なのだそうだ。目つきを鋭くするにはどんなトレーニングが必要なのだろうか。
勉強会が盛況になったのは、試験範囲が変わったからだ。ただ変わっただけでなく、茶柱がそれを生徒に伝えなかったことが拍車を駆けている。あっちこっちでパニックになって、余裕があったメンツも不安を感じてバタバタしている。
それにしても『赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している』か。減点2だな。
「今日はここまで、印付けたところ明日までに覚えておくように」
「はい」「ありがとね」
メンバは三々五々帰っていく。
彼女ら、というか俺グループが慌ててないのには理由がある。実は冷静に考えると、試験範囲がえらく狭いのである。
テストの範囲が発表されたのは五月頭。入学して授業が安定して行われるようになったのは4月中旬。つまり入学してから授業で習った期間は三週間分しかない。変更前と変更後の試験範囲はほぼ被ってないので、授業内容二週間弱分しか試験範囲はないということだ。これを試験勉強二週間で頭に入れる。心配したような進学校的詰め込みもないし、まだ中学の延長レベルの内容だ。
慌てなければ赤点を取ることはないだろう。……伊集院を除いて。
というか、俺は問題なのは期末テストだと思っている。中間テストの試験範囲が異常に狭いということは、期末テストの試験範囲はその分広いということだ。ついでにいうと内容も高度になる、筈だ、よね?
伊集院や三馬鹿とも期末までの付き合いか。
などと感慨深く思って中間試験前日。
「皆ごめんね。帰る前に私の話を少し聞いて貰ってもいいかな?」
ホームルーム後の教室で櫛田さんが爆弾宣言、過去問を配ってくれた。なんでも昨年、一昨年と同じ問題が出たとかなんとか。
ありがたいはありがたい。だが、らしくない。人当たりが良い櫛田なら過去問をもらうこと自体は、なんら問題はないだろう。だがそう動いた理由は?
先輩のほうからは接触は禁じられているだろうし、櫛田は茶柱のヒントから正解にたどり着くようなキャラとは思えない。つまり、なにか出遅れた?
人気のなくなった教室の外で何となく考えていると、中から声が聞こえる。聞こえたのは『大っ嫌い』という櫛田の声、教室に残っているのは堀北と櫛田。つまりそういうことか。八方美人の櫛田も人の子ということだ。幻滅はしない、中身がちゃんとあるとある意味安心する話。二人に気づかれないようにクールに去るとしよう。
「そうだ。そうだなぁ……青い海に囲まれた島で夢のような生活を送らせてやろう」
『うおおおおおおおおおおお!』
試験当日、茶柱の口から中間・期末試験突破のご褒美として夏のバカンスが発表された。飴なのか鞭なのか、俺の処には落ちてきてない情報だ。ただ、仲の良い女子の水着姿は期待するものがある。あるが、水着を買うポイントを持っている女子はどれだけいるだろうか? 特にDクラスは絶望的でないか、水着は布面積のわりに値段が高いのだ。 まあ現役JKなら競泳水着も悪くない。高遠さんなら面白がって悩殺ポーズ? くらいは見せてくれるだろう。
その勢いで試験開始。心配していたが試験内容は昨日貰った過去問と同じ。これならクラスメイト全員突破できるだろう。
と思っていたら、昼休みに須藤のあたりでなんかガヤガヤ。あいつの事なら知らない、適当に頑張ってもらおうか。
試験が終わると伊集院の発案で五人で打ち上げ。男子が苦手な佐倉も松下も来て、高遠もあとから乱入して色々、〇。
「お前は赤点だ須藤」
結果発表日に茶柱の冷たい声。須藤の得点は39点、赤点ラインは40点。
そういえば茶柱は赤点が平均点の半分と説明してなかった気がする。ヤバい、うっかり皆の前で漏らしてないよな。いざとなったらBクラスな高遠に個人的に聞いたことにしよう。
とにかくさらばだ須藤、とか思っていると『トイレ』と綾小路が教室を出ていく。なにか気づいたようにそれを追う堀北。連れションか? ふむ。
「……特別に今、この場で10万ポイントを払うなら、売ってやってもいい」
「意地悪っすね、先生は」
「--私も出します」
なんか面白い場面が見られた。須藤の不足している点数をポイントで買う交渉らしい。
「クク。やっぱり、お前たちは面白い存在だ」
と嗤うと茶柱は視線を上げる。階段の踊り場で隠れていた俺のほうをだ。
「其処のお前、お前もポイントを払うのか?」
他に誰かいたことに気づかなかったらしく、堀北はギョッとした目でこちらを見る。驚いていたのは堀北だけ、綾小路は動揺していない。
ふむ、テストの点か。目の付け所は悪くないが二人は人心の機微が甘いらしい。ならたまにはお節介を焼くか、一応クラスメイトだ。
「条件があります」
俺は彼らの位置、一階の廊下まで降りていく。
「条件? えーと?」
「「……」」
堀北は俺の名前を憶えていないようだ。失礼な話だ。なので俺は名乗る。
「高遠だよ、高遠舞人」
何となく偽名を。
「高遠、条件とはなんだ? 言ってみろ」
茶柱はもちろん俺の名前を知っているはず、さりげなくノリノリである。
「条件は一つ、細かくは二つかな?」
茶柱と綾小路が頷く。
「10万ポイントで1点買ったことを須藤に伝えること」
「なるほど」
「で、ポイントがたまったら須藤から俺たちに返却させること。その二つです」
「……確かに当然の条件だな」
茶柱はあっさりそれを飲んだ。
「今回、綾小路と堀北さんが交渉して退学を回避させた。だとすると、それで安心して赤点をとるやつが出かねない」
「そしてそいつはお前たちに退学回避の交渉を頼むだろう。それで回避できないとわかると、そいつは自分の努力不足を棚に上げててお前たちを責めるぞ。そいつだけじゃない、そいつとかかわりのあるクラスメイト全員だ」
「だから責任の所在を明確にするということね」
堀北は納得したというようにため息を付くと、綾小路に視線を送る。
「……そうだな、少し甘かった。確かに高遠の言う通りだ」
ならと、俺は学生証を出すと綾小路にポイントを送る。
「3万送った、あとは好きにしてくれ」
茶柱に学生証を渡す二人を尻目に、俺は一足先に教室に……戻らない。
階段の踊り場に身を潜め、三人の会話に聞き耳を立てる。
陰の実力者風に裏で動いてた綾小路のエピソード。それに、
「クズと不良品の違い、か」
面白い、それでこそ。
実力至上主義の教室を、ミに来た甲斐があるというものだ。
今回、フライングで佐倉さん登場です。
一巻では三馬鹿がフォーカスされてますが、試験範囲であたふたした人が他にもいるはずだと考え、そういえば二年生編で可哀そうな結果になる人を思い出して登場させてみました。
元々佐倉さんが綾小路くんに懐いた理由は、『目が怖くない』という、二年生後半の暴れっぷりを考えれば眼医者に行け!と怒鳴りたくなりそうなる理由でした。で、ストーカーから助けてもらってガチになるというお姫様ぶりと。
オリ主のナオキ君は、捨て設定として姉と妹がいるので女性に幻想を持ってないとか、相方以上友人未満というマイちゃんがいたりして女性に飢えてないということで、佐倉さん的に目が怖くないとさせてもらいました。
後で考えると成績的にも流れ的にも佐藤さんあたりが良かったかもと思わないでもないですが、こういうのは勢いなので佐倉さんで通してみました。
さてバタフライエフェクトをどうしようか?