家に天使が来た話   作:ナニワのおっちゃん

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筆が乗る間は書きます。乗らなくなったら多分失踪します。


2杯目の珈琲

「...その、つまり」

「不法侵入者って訳か?」

 

俺はスマホを構えて、110を押して緑の電話アイコンを押すギリギリまで指を近づけた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」

「弁明、弁明をさせてください!!」

 

「もう十分聞いたと思うけどな。」

 

「だって、あんなにいい匂いさせたら入りたくなっちゃうじゃないですか!!」

「私だってここに降りてきてもう何日経ったかわからないくらい何も食べてないんですよ?!?!」

 

「天使も餓死するのか?」

 

「今大事なとこですかそれ?!」

「...階級が上がるほど、人間っぽい姿からは離れて行きます。」

「だから、高階級の天使には餓死やまず食べ物を食べるという概念自体あまりありません。」

 

「...聖書と、階級設定は同じなのか?その、識天使とか、そういうの。」

 

「名前は知りません。人間文化に触れるのは、私は初ですから...」

「階級があるって事と、先輩はやばい...見た目をしてる事は知っています。」

 

「...使えないな...」

 

「今何て言いました?!」

 

「ん?いや、なんでもないぞ、うん。」

 

「...」

 

すごい、疑念で満ちた目で見られている。

 

「で、お前はどうすんの?」

 

「...どうすればいいですか?」

 

「そんな縋るような眼で見られてもな...俺は天使じゃないぞ?」

 

「そんな事はわかりきってます。」

 

「なんかお前俺の事舐めてないか?」

 

「上位存在ですよ?!そりゃあ下位存在なんて舐め腐ってるに決まってるじゃないですか!!」

 

「お前本性表したな?やっぱり出ていけ!!!」

 

「ああ待ってください外寒いんです!!!勘弁してください!!!」

 

今は秋。11月だ。

..いやあ、まあ布切れ一枚みたいな服してりゃあ寒いだろ...

 

「なんでお前そんな恰好なの?」

 

「正装みたいなものなんです。天使が洋服着てるのも嫌じゃないですか?」

 

「プラダを着た悪魔、なんて映画ならあるぞ」

 

「なんですかそれ。...いやそんな事はどうでもよくてですね」

「単刀直入に言いますね。養ってもらえませんか?」

 

「嫌だ。」

 

「ありがとうござ...ぇっ?」

 

「嫌だ、と言った。」

 

「...」

 

奴は、俺を藁でも縋るような視線で見つめて来た。

 

「いや、普通に考えて素性も何もわからない奴を養うわけないだろ...」

 

「お願いします、アテなんてないんです!!!」

「いつ帰れるかもわからないし...先輩が迎えに来るかどうかすら定かじゃないんです!!」

 

「...一応聞くが。」

 

「はい、なんでも!!!」

 

「俺にメリットはあるのか?」

 

「...」

 

固まっちまった。

まあ、あるわけないよな。

 

「...家に、私が待ってくれる、とか...?」

 

「メリットか?それ。」

 

こいつ、自己肯定感バケモノすぎるだろ。自分の事なんだと思ってるんだ...?

 

「天使ですけど。」

 

「心を読むな。...てか、そんな事もできるのかよ...」

 

「そりゃ上位存在ですから。」

 

「...なあ、普通に働いてさ、普通に暮らせばよくね?」

「別に困らないだろ。」

 

「困るんです!!!」

 

「何で。」

 

「私、貴方が使ってる言語を喋れてないですし。」

 

「...んん??」

「俺は今、確かに日本語を聞いてると思うんだが。」

 

「えーとですね。簡単に言いますと、貴方が寝てる間に脳をちょびっといじらせていただいて...私の喋ってる言語が貴方が使ってる言語に聞こえるようにしています」

「そして、私も同様です。貴方が使ってる言語を、私の言語に自動翻訳してる感じです。」

 

こいつは何をしてくれちゃってるんだ?

俺の脳を...いじる??

 

「おっ...えっ?おい、えっ???」

「おま...副作用とかあったらどうしてくれんだ!!」

 

「ないですよ、安心してください。そこは天使ですから、信用してくださって結構ですよ」

 

「お前の今までの立ち振る舞いが信用できないからこうなってるんだろうが!!」

 

「そんな、私天使なのに!!!」

 

「俺の知ってる天使は道に迷わないんだよ!!!」

 

 

 

どうなってんだ、マジで。

俺の人生、どうなっちまってんだ...

 

 

「あ、唐揚げ頂きました。美味しかったです。」

 

 

ああ、こいつ、追い出そう。

俺がそう決心して席を立った瞬間だった。

 

インターホンが鳴った。

 

ああ、クソっ。苦情入れられんのか。うるさくしすぎたな。

 

「チッ、お前ちょっとそこ座ってろ。」

 

ここは都内の広めのマンション。そりゃあ、うるさくしたらインターホンもなる。

 

「郵便でーす。」

 

「...お、え?マジか。」

 

意外、の一言だった。てっきり隣人にボコボコにされるまで覚悟してたんだが。

 

しかし、この時間に郵便なんてふざけるなよ、とは思う。

 

俺は戸を開ける。

 

すると、即座に戸の間に足を突っ込まれる。

 

「貴方、今、幸せですか?」

 

最悪の気分だった。

 

 

 

 

こういうのは得てして、帰るまでが長いんだ。

今までにも何回か来た事がある。新興宗教の勧誘だ。

 

ババアがなんか紙と本を持って目を輝かせながらこっちを見やがる。

 

「結構、結構ですんで。はよ帰れ!!」

 

「まあ、そういわないで!話だけでもさせて頂戴!!」

 

「今何時だと思ってんだクソババア!」

 

「壺買ってくれるだけでもいいから!!」

 

最悪だ。

悪質どころのそれじゃない。クソだ。

 

「だ、大丈夫ですか...?」

 

後ろからも声が聞こえる。

あいつだ。

 

ババアと扉で格闘しながら、不法侵入者の天使を名乗る頭のおかしい女に話しかけられる。

ここまでカオスな状況があるだろうか。いや、ない。

少なくとも俺は今までこんな状況になった事はない。

 

「今もう...1時じゃねえか出直せ!!せめて昼に来い!!」

 

「電気点いてたからいいじゃないの!」

 

「そ、その...」

 

「...あら、貴方彼女さん?ちょうどいいわ、貴方、今幸せかしら?」

 

「えっ?」

 

「おいお前何勝手にこっち来てんだ座ってろっつったろ!!」

 

「教祖様が言ってたの!今日に信者増やせば神から恩恵が賜られるって!!」

 

「神から...?そういうのは天使を通して渡される物だと思うんですけど...」

 

「...何語?ねえ、アンタちょっと彼女さん外国人の方なの?ちょっと通訳してちょうだい!」

 

「やかましいんだよ、どうでもいいから出ていけ!!」

 

 

 

なんとか扉から足を蹴りだし、チェーンと鍵をガッチリと閉める。

その後何回かインターホンが鳴ったが、4回くらいなった後にババアはとぼとぼと帰って行った。

 

 

「...で、なんでお前はここに来てんだ?」

 

「えっ!いや、なんか喧嘩してる感じだったので、大丈夫かな、と...」

 

「見ず知らずの他人に心配される程俺は世間知らずじゃねえ」

 

「あ、はい...」

 

そういえば、ババアはこいつが日本語喋ってるようには聞こえてないみたいだったな。

いっそ聞いてみるか。

 

「お前、何語喋ってんだ?」

 

「わかりません。私が一回昔に地上に降りた時の言語を学習した物です。」

 

「覚えとけよ...」

 

確か、スマホに履歴があったよな。

...これだ、古代ギリシャ語。

 

ギリシャ語?意味わからねえ...

 

「ギリシャ語?って言うんですか?」

 

「...お前が言ってた俺の脳のうんたら、解除できるのか?」

 

「まあできますけど。やってみます?」

 

「おう。」

 

「ἀκούεις μου;《アクィスモウ》」

 

「マジで何言ってるかわかんねえな。」

 

スマホを起動し、自動翻訳をつける。

 

「もう一回頼む。」

 

『聞こえてますか?』

 

「ああ。」

「もう戻していいぞ。」

 

「はい。」

 

「...お前、日本語覚えろ。まず。」

 

「待って、待ってください。その前に最初に質問の答えをください!」

 

「あー...なんだっけ、ここはどこですか、で合ってる?」

 

「そう、それです。」

 

「日本だ。」

 

「ニホン...?ああ、東の...日本?!」

 

「なんでそんな驚いてるんだ?」

 

「驚くも何も、私の担当区域、もっと西ですもん!!なんで私こんなところにいるんですか?!」

 

「知らねえよ。迷ったんだろ?」

 

「えー...そうですけど...」

「...えっと。やっぱり、ちょっとの間、助けてもらえませんか?その分、できる事はするので...」

 

「...いいぞ。なんか、可哀想になってきたからな...」

 

「うぅっ。下位存在に憐れみの目を向けられるだなんて。」

 

「いつでも追い出せるんだぞ。」

 

「ごめんなさい。」

 

「とりあえず...そうだな、お前、何ができる?」

 

「...えーと、翼を生やしたり、人の脳をちょっぴりいじったり...」

 

「違う。人間の日常生活に役立ちそうなこと。」

 

「.......何も.......」

 

「料理は?」

 

「したことないです...」

 

「洗濯、掃除は?」

 

「天は洗濯とかないです、この服も特殊な素材なので汚れないですし...」

「ゴミなんて散らばりません、皆さん煩悩がないので...」

 

「...お前、何ができるんだ?」

 

「...わ、わかりません...」

 

「はぁ~。」

 

「ごめんなさい、まだ捨てないでください!」

「あ、えーと...役立ってるかはわからないんですけど、騒ぎを大きくしないために音を遮断する...その、結界みたいなのをこの家に貼ったりは...してます。」

 

「それか。俺が隣人にドヤされてない理由。」

 

「多分...?ただ、あの玄関までは行ってないので...」

 

最悪だ。

 

「...次貼る時は、もうちょっとデカく頼む。」

 

「...精進します。」

 

 

 

 

 

 

「よかったな、このマンションが広くて。」

 

「本当に、ありがとうございます...」

 

なんか、しょぼくれたな。

俺に食って掛かってた時とは大きく違う。

 

「その、私もだいぶ焦ってたと言いますか、必死だったので...」

 

「だから心を読むな。俺の家にいるうちは、それは禁止だ。」

 

「あ、はい...」

 

「なんて呼べばいい?ルームシェアすんなら、ある程度は決めなきゃいけない事あるだろ。」

「俺は明日は休みだから、今のうちにやる事やっちまおう。」

 

今日は、金曜日。明日明後日は俺は休みだ。

 

「えーと、与えられた名前が...ありまして。」

 

「ほう。」

 

「μεσίτης《仲介者》...です。」

 

「だからわかんねえって。」

 

「メシティス...と、読むはずです。」

 

「メシティス、でいいな?」

 

「はい。」

「あ、ちょっと失礼しますね。」

 

「ん?」

 

「...あ、あー。」

 

「お、なんか声がクリアになったか?」

 

「すみません、ちょっと記憶を読ませていただいて、貴方の使ってる言語を多少喋れるようにしました。」

 

「おお。そりゃあ便利だ。物覚えは早いみたいだな?」

 

「いえ、えーと...なんと言いますか、貴方の脳から一文字一文字を切り取って、貼りつけて、それを私の口から出力...みたいな、少し面倒くさい手順を踏んでいるので...完璧ではないです。」

 

「十分じゃないか?イントネーションに違和感もないしな。」

 

「ありがとうございます...?」

「あ、ですが、貴方と離れすぎるとこれが出来なくなるので、誰かの脳をいちいち借りないといけないです」

 

「そうか。どれくらいだ?」

 

「えーと...km換算で、2km?くらいですかね。」

 

「結構長いんだな」

 

「天使ですから」

 

「でも落ちこぼれじゃん」

 

「酷い!」

 

 

 

 

 

「ここが、俺の寝室だ。」

 

「...紹介する必要が...?」

 

「入るな、という意味だ。わかるな。」

 

「あ、はい。」

 

「リビングに布団をもう一丁用意するからそこで寝ろ。用意してやるだけありがたく思え。」

 

「睡眠は不要なんですが、ありがたく頂きます。」

 

「いちいち余計だな!」

 

俺は、俺の家を紹介していた。

...まあ、確かに、浮ついていたのはそうかもしれない。

ルームシェアなんて初めての経験だしな。大学も実家から通ってたせいで寮暮らしなんてしたこともなかったし。

 

他人と暮らす日々に、少しワクワクしていたのかもしれない。

もしくは、一人が実は心細かったとかかもな。

 

「で、リビングとキッチン。」

 

「...これはなんですか?」

 

「コンロと...電子レンジだ。明日説明してやるから一旦後でな。」

 

「あ、はい。」

 

「で、洗面所...お前、なんで風呂入ってたの?」

 

「あ、えーとですね、その、ボタンポチポチしてたら水が入って行って、あったかそうだな、えーい、と...」

 

「...借り一つな。」

 

「えぇっ!」

 

「当たり前だ。無断じゃねえか。」

 

「逆に断り入れたら入っていいんですか?」

 

「ルームシェアだぞ、当たり前だ」

 

「おぉ...!」

 

結構、嬉しそうだ。

風呂がよほど気持ち良かったらしい。...温泉とか行ったらどうなっちまうんだ?

 

「あ、そうだ。お前、それ脱げ。」

 

「え、はい。」

 

「バッ、今じゃねえよ!!」

 

これは俺の言い方が悪かったかもしれない。

 

「つまりだな、同じ服をずっと着てるのは人間的に見栄えが悪い。」

 

「...面倒な生き物ですねえ。」

 

「うるせえな。」

「とにかくだ、服がいくら汚れないと言っても、他の人間から見たらいい印象はねえんだ」

 

「でも、私、替えの服とか...」

 

「買ってきてやる...あ、いい。お前、自分で行け。付いてってやるから。」

 

「本当ですか?!?!」

 

「おおう...どうした、なんでそんなに目キラッキラなんだ...」

 

「一回降りた、って話をしたと思うんですけど」

 

「おう。」

 

「他の人達、いろんなオシャレしてて、この服もそこから着想貰ってるんです」

「他の天使なんて、翼で体隠すだけ、とか...人間の形やめちゃう、とかがほとんどで。」

 

「お前が少数派なのは意外だな。そういうの好きそうなもんだが。」

 

「うーん、なんと言いますか。貴方方は、例えば犬が勝手に覚えた習性をわざわざ真似しますか?」

 

「...例えが下手くそだな。」

「まあ、つまるところあれだろ、下位存在の習性を真似するのはバカにしてる奴とかそういうことだろ?」

 

「まあ、そうですね。少なくとも、私が属してたコミュニティでは人間界に降りる時にわざわざ服を作ってる天使の方がいなかったです。」

「というか、真面目に人間を真似しようとしてたのは私だけでした」

 

「...マジか。」

 

聖書には、なんか、天使ってもうちょっと俗っぽいというか...人間に寄り添ってくれる、みたいなイメージがあったんだがな...

 

「いや、そんなのは全然いませんよ?ペット感覚がほとんどで。残りは家畜くらいに思ってる天使が9割を占めてます。」

「私はかなり変人扱いされましたよ、人間の文化が気になるだなんて!みたいな。」

 

「大変だな、天界?も。」

 

「本当に。ある意味いい機会でした、結構ダルかったですからね、あっちも。」

 

「じゃあなんで帰ろうとしてたんだ?」

 

「...先輩に怒られるからですね。後は、人間界、汚いので...」

 

「ああ...」

 

残念ながら、反論の仕様がない。

特にこの東京なんて、空気が汚いとか言われても反論は本当にできない。排気ガスとか、すごいだろうしな。

 

「なら、なんで田舎じゃなくてこっちに来たんだ?」

 

「...それが、わからないんです。」

 

「は?」

 

「...その、業務機密なので、私の仕事は明かせないんですけど...えーと、ポータルを使って移動しているってのは言ったと思います」

 

「聞いたな。教会にある、ってのも。」

 

「そのポータルが...壊れた?か、不具合かで投げ出されちゃったみたいで...」

 

「...そりゃ、お前の言う先輩とやらも迎えに来るかわからないわけだ。」

 

「はい...」

 

「その、なんだ。...珈琲、飲むか?」

 

「...なんですか?それ。」

 

「苦い飲み物だ。落ち着く時には、飲む奴が多い。」

 

「せっかくなので、頂きます。次飲めるのがいつかわかりませんから。」

 

「おう。」

 

 

 

「...にがっ!!」

 

「そりゃお前、ブラックは苦いだろ。」

「ほれ、砂糖と牛乳。」

 

「牛乳...?不敬じゃないんですか?どこかでは牛を神の乗り物とする、みたいなのを見たんですけど」

 

「畑に恵みをくれるらしいぞ、だから不敬じゃない、みたいな。」

 

「...詳しいですね?」

 

「文系だからな。」

 

「...そうですか。」

「あ、美味しい。」

 

「そりゃどうも。」

 

 

 




天使-μεσίτης《仲介者(メシティス)》

自称天使。...天使ではある。
ポンコツと自分で言っており、飛べないらしい。
翼は飾りか?
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