家に天使が来た話 作:ナニワのおっちゃん
「...」ズズ...
「...なんの冗談だ?」
「失礼ですね。これでも上位存在ですよ?」
「自分でこれでもとか言ってどうするんだよ。...なんでお前が、和服を着て抹茶をすすってるんだ?」
俺は仰天した。
仕事から帰ってきたら、西洋顔(天使だし)の金髪が和服を着て抹茶をすすって日本女子面をしているのだから。
「ぷはーっ。」
「茶飲むときににプハーとか言うなよ。」
「でも美味しかったです。」
「...お前、それ何円したんだ?」
「えーと...2000?円ですね。」
「...どれくらい?」
「これくらいの...缶ですけど。」
と言って奴が示したサイズは、コーラの缶にも満たないサイズくらいだった。
...おおよそ、30g缶くらいだろう。
「...金の価値をよくわかってないってか...教えてなかったな...」
「?」
「...もしかして、何かまずいことしました?私。」
「いや、まずいことはないんだが...高い。」
「高い...2000円でこれくらいが相場じゃないんでしょうか。美味しいですし。」
「あのな。そういうのって、人にあげるもんなんだよ。お土産とか、献上用とか。」
「一般人が飲むならもっと安くて量があるのがあるんだ。」
「...じゃあ、どうぞ。一杯。」
「そういう問題じゃなくてな。」
「...でも、美味しかったですし」
「...それはそれとして、貰う。」
「はい。どうぞ。」
そう言って、奴はそのまま手に持ってるコップを差し出す。
「...?」
「俺に、これを、飲めと。」
「はい。」
「..........どこから教えればいいんだ...」
それはそれとしてもらった。...確かに、めっちゃ美味い。それだけの価値はある。
「お前本当に...俺が高給取りでよかったな。」
「そのセリフ多分もう3回くらい聞いてます。」
「お前の金遣いが荒いからな。」
「(´・ω・`)」
「...わかったか?」
「ええ、まあ。」
「...美味しい物はやっぱり値段相応なんだぁ、と。」
「まあそういうこった。高いもんを買うなら一言言え。」
「買っちゃいけないわけじゃないんですか?!」
「おう近い。顔面をそんなに近づけるな。」
「あ、はい。」
「別に禁止したいわけじゃねえしな。美味かったし。」
「やった...!」
「ただ一言言えよ。次無許可で高いもんがあったらお前追い出すからな。」
「それは...嫌なのでちゃんと言います...」
「それでいい。」
.......
メシティスが来て、結構経った。
割と、もう二週間が過ぎようとしている。
俺と奴は意外と馴染んでて、俺は家に同居人がいる生活に違和感がなくなってきている。
...意外と、楽しい。
というか、前にも思ったがどうやら俺は案外寂しがりだったらしい。
「あ、おかえりなさい!」
という声を聞くたび、若干嬉しくなってる俺が...ん?
今、俺は外にいる。会社から出て...今は会社の玄関口だ。
じゃあ、この声はなんだ?今、確実に聞こえたような気がするんだが。
「ちょっと、聞いてますか?」
この振動はなんだ?肩がものすごい揺らされている。
「おまっ...え?」
「どうかしましたか?」
「なんで外にいんの?」
「買い出しついでにお迎えに来ました。」
「な、なんで職場知ってんの?」
「視察...と、いいますか。なんとなくこの前こっそりついていって場所をメモしておきました。」
「あと定時も。」
「...なんで?」
「...なんででしょう。なんとなく?」
会社からもう一人人が出て来た。
「お、天使ちゃんがお迎えに来てるなんて。」
徹だ。
「あ、こんばんは。」
「はいこんばんは。ちなみになんで会社来てんの?」
当然の疑問だ。
「お迎えです。」
「おい、新婚かよ。」
「新婚...」
やめろ、頬を赤らめるな。マジで。
まだ出会って2週間だぞ。
「でも同居してますよ?」
そうだけど。
「そういう貴方も頬若干赤いじゃないですか!」
「言ってねえよ!」
「そりゃお前、揶揄われたらそうもなるだろ。」
「ほぉれヘタレ。こいつ、学生の時からそうなんだ。女関係はめっぽう弱くてな。」
「余計な事言うな!!」
「っと、キレさせると面倒だからな。俺は先に。じゃあな~」
「徹...お前、覚えておけよ。」
「ほら、帰りますよ。」
「...どうやって。」
「...歩いて?あ。」
「ん?」
「車、また乗ってみたいです。」
「それくらい別に構わんが。...なんで?ってかお前会社まで歩いてきたの?」
「いいえ、電車とか、バスとか乗り継いで...」
「わざわざ?!...こいつ、マジか。」
「いいじゃないですか。」
「...はあ。」
俺は車の扉を開けて、奴を助手席に乗せる。
何故か、鼻歌も歌いながらご機嫌だった。
「なんでお前そんなに機嫌がいいの?」
「...なんとなく、ですかね。」
「ああ、あとは...そろそろ、満月じゃないですか。」
「月の周期なんて知ってるんだな。」
「それは昔からありますし。月陰暦の時代も私は知ってますからね?」
「...そういえば、お前天使だもんな。何年生きてるんだよ。」
「...人間換算で、少なくとも3000年以上。」
「ババ「言わせませんよ。」
「あのですね、上位存在を人間の定規で測るのがまず間違っているんです。」
「それもそうかもな。よく退屈しなかったな?」
「ええ、そりゃあ人間界を見ればどこも中々面白かったですし。」
「後は、ほとんどを天界で寝て過ごしていましたから。」
「おう、ニート。」
「違います!!色々あって疲れてたんです!!」
「...その大事な天使さんを迎えに来る他の天使さんはいつ来るんだろうな?」
「...うっ。」
「お前、見捨てられたんじゃねえの?」
「それだけは絶対に...いや...」
「不安になってんじゃんよ。」
「仕事が仕事だったので...あ、話せませんからね。」
「わかってるよ。」
「貴方は私を見捨てませんよね?!」
「お前が俺を手伝ってくれてる限りな。」
「ありがとうございますぅ...」
「上位存在がその程度で泣くな。」
「涙も出し入れできるんですよ、上位存在ですから。」
...おっ。本当だ。たまにある涎を引っ込めたり出したりできるみたいに涙が引っ込んだりまた流れてたりする。
便利だな、上位存在。
「ただいま。」
「ただいまです。」
俺達の家に帰って来た。
今から夕食を作るとして...今日は何にしようか。
「なあ、食材なんかあるか?」
「えーと、前の余りが...ちょっとした野菜と...魚があったかな。後は白米が。」
「...今日は和食にするか。」
「えっ、作ってくれるんですか?」
「たまにはな。今日は仕事も少なかったしな。」
この日常も、悪くない。
心底、そう思っていた。もちろん、こいつがいる事で巻き込まれる変な事もあるのかもしれないが、俺はそんな事を気にも留めていなかった。
のんびりと、こうやって日々を過ごせたら幸せだろうな、と思っていた。
俺達は、こうして。特段何か特別な事があるわけでもなく、日々を過ごした。
俺は働いて。メシティスは飯を作ったり、家事をしたり。
帰ってきたら、ちょっと駄弁りながら酒を一緒に呑んだり。
ツマミを作って、ちょっとした飲み会もしたり...
いい時間だ。
そして。
もう、案外、長い時間が過ぎた。
12月が始まって、もう2週間が経つ。
「なあ。」
「はい。」
「お前ってさ、天使なんだよな?」
「はい。」
「キリスト教圏の祭りがあんのはわかるか?」
「クリスマスですよね?」
「ああ。それなんだけどさ。」
「お前、宗教にどこまで関与してんの?」
「あー...キリスト教は当時そこまで興味がなかったんです。」
「一応ローマの王に会ったりはしたんですけれど...」
「おう。」
俺は今すごい情報を聞いた気がする。
今の一瞬で頭が「?」に埋め尽くされた。
「ちょっと待て。確かに、俺はお前が3000年以上生きてるって聞いたな。」
「?はい。」
「今お前、ローマの王に会った事があるって言ったな。」
「はい、そうですけど...何か重要な事でしたか?」
「えーと、確か...テオドシウス帝、だったかな。日本語で。」
「おお。お前のせいじゃん、キリスト教が国教になったの。」
「意外とそうでもありませんよ。彼は政治利用をもくろんでましたから...」
「冷遇されちゃいました。」
「...お前、歴史博物館とかに行けよ。」
「それしたらちょっと歴史が正確になりすぎちゃいますね。」
「いい事じゃね?」
「他の天使やら神様がちょっぴり人類の脳を弄るかもしれません。都合がいいように。」
「そりゃ...嫌だな。」
じゃあなんで俺に言うの?
「ええと...信頼してるから、でしょうか。」
「たった一か月だよな?」
「それでも、私は見る目はあるつもりですよ。」
「...誉め言葉として受け取っておくな。」
「とても褒めたつもりです。」
「歴史っていうのは曖昧だから今があるんです。歴史改変、とまでは行きませんがちょっぴり困った事になる場合があります。」
「さすがにそこまでの重要な事は貴方でも話せませんが。」
「すごいな、有能だ、意外と。」
「失礼ですね!!」
ぽかぽかと殴られた。すこし痛い。
「...話戻すな。」
「それで、お前、クリスマス何か予定あるか?」
「うーん、ないです。予定作るような人もいませんし。」
「そりゃよかった。家でちょっとしたパーティーでもどうだ。」
「...」
「なんだ、その顔。」
目を丸くして、すごく驚いたような顔をしてきた。
...そんなに意外か?家庭力のある男(自称)だし、こういう事も別にしないイメージがあるわけでもないと思うんだが。
「もっちろんです。何か買ってきますか?」
「急にウキウキになるのもなんか不気味だな。」
「なんですか、嬉しいだけですよ!」
「他に人は誘うんですか?」
「どうだろうな...今のところ、予定はないけど。」
「じゃあそのままでいいです!」
「うおっ...わかった。二人でパーティーか。」
「チキンと...ケーキでも買いますか?」
「俺の金だけどな。...よろしく。」
クリスマスへの言及は、これ以降は途絶えた。
だいたい決まったのだから、それで十分だと。
「おお...」
俺の職場の近くの場所にも、リースやらライトやらが吊るされるようになった。
あんがい都会だから、近くの広場にでっかいツリーもある。
「迎えに来ましたよ。」
「またか?」
メシティスが迎えに来る頻度がさらに増えた。
...前に迎えに来たのが3週間前、12月が始まった直後くらいだったが。
この3週間で、通算10回は来ている。
おかげで他の社員から結構な目で見られている。
そりゃあ、そうだ。見てくれは金髪の美人さんだからな。
「...///」
心をわざわざ読んで顔を赤くするな。
「褒めるなら口に出してくれたってよくないですか?」
「はいはい美人。これで満足か?」
「もうちょっと、心を込めてですね...!」
「どうでもいいだろ、そんなこと...帰るぞ。」
「えっ、あのツリー見て行かないんですか?!」
「...行くか?じゃあ。」
「意外。てっきり私は腕を引っ張られて無理やり車に押し込まれるかと。」
「俺をなんだと思ってんだ...」
「えっ、じゃあ行ってもいいですか?」
「おう、あんまり遠く行くなよ。車で寝てるから。」
「ダメです。連れて行きます。」
「おい、ちょ、ちょっと待て、...こいつ力強ッ?!」
「上位存在ですから。」
俺は腕を引っ張られてライトのリースの下で引きずられている。
...回りの人の俺を見る目が、なんだか冷たいのは気のせいではない気がするんだが。
「貴方が歩けばいいんですよ。」
「わかった、歩くから...」
「よろしい。」
「何様だよ、ったく...」
寒い。
12月、冬の真っ只中だ。周りには男女の番いがたくさんいる。
クリスマスには少し早い、17日くらいだ。
「当日はパーティーですから。こういうのは前に見ておかないと。」
「イブとかでもよかったんじゃねえか?」
「混みますよ?」
「...あー、そりゃあ...嫌だな。行かないって選択肢はないのか?」
「ないですよ。」
「そうか。」
「...案外、綺麗だな。俺はこういうのに風情を感じる人間だとは思ってなかったが。」
「ですね。興味なさそうですもん、そういうの。」
「あのな...」
「でも、今こうして綺麗だと思えるなら、いいんじゃないですか?」
「まあ、そうかもな。」
「よしっ、帰りますよ。」
「...は?早っ、マジか。俺、風情に浸り始めてまだ15秒くらいしか経ってないんだけど。」
「いいから!」
「はあ、わかったよ...」
進行速度が少し早すぎるような、という気もします。
ただ文章を書くのが下手くそなので二人の物語を引き延ばすのがむずかしくて...