スティルインラブと担当契約を結んでからしばらく経って、いくつかわかったことがある。
まず、スティルインラブはハチャメチャに強いということ。今すぐシニアに放り込んでも、それなりに通用しそうな完成度だ。
将来トゥインクルシリーズで活躍するウマ娘は、早いうちから頭角を現す。目に見えてわかりやすい才能を持っているのが普通だから。でもスティルインラブは少し違った。他のウマ娘がフレッシュな高卒投手だとすると、スティルインラブは年季の入ったベテランのような風格があった。
すでに技術は一級品だ。初めて体験するような強度の高いレースでも、すでに知っているかのような顔で走り抜ける。とにかく場慣れしているような印象を受ける。今はまだ体の成長が技術に追いついていないけど、それも時間の問題だよね。
「というわけで、獲りたいGⅠとかある? 今の君なら何でもできるよ」
同世代を相手にするなら、スティルインラブが負けることはないだろう。私が実績ゼロの駆け出しトレーナーであることを加味してもお釣りがくる。担当ウマ娘とトレーナーの実力が釣り合っていないのは、嬉しくもあり悲しくもあるけど。
「では……トリプルティアラを望みます」
メイクデビューで完勝した直後に、スティルインラブはそう答えた。
トリプルティアラは歴代でもメジロラモーヌしか達成者がいない、ほとんど幻のような称号だ。特定のGⅠレースを3勝するという狂った条件は、トゥインクルシリーズ最難関である。菊花賞3000mを走ることになるクラシック三冠も大概だけど。
ただし私はスティルインラブならいけると判断したので、早速それに向けて予定を組んでいく。スティルインラブの適正距離はざっくり1600~2200くらい。そこから諸々を逆算して次のレースは……12月の朝日杯だ。
◇
それからトレーニングを繰り返しているうちに、あっという間に12月になった。スティルインラブの技術は申し分ないので、基本的にはフィジカルを伸ばす方向で筋トレや食トレなど。後から体を作ろうとするとかなり大変なので、来年の3月までに間に合わせたい。
スティルインラブにとってはいきなりのGⅠだけど、私は問題ないと思ってる。私が目利きを誤っていない限り、GⅡ以下のレースだとぶっちぎるイメージしか湧かなかった。スティルインラブの実力を測りつつ今後の課題をあぶり出すには、ハイレベルなレースに出る必要があるんだよね。
そしてスティルインラブは
な ん か 大 差 で 勝 っ た 。
まれに見る圧勝だ。
ハイレベルなレースはスティルインラブの華麗な走りで粉砕され、今後の課題は特に見つからなかった。わかったことはスティルインラブが想像以上にやべーウマ娘だということ。私を含め全てのトレーナーが思い知ることになったのだ。その規格外の実力を。
「トレーナーさん、勝ちましたよ」
「うん。いや、マジで圧勝だね。うん」
当然だとばかりに微笑んでいるスティルインラブとは対称的に、私は動揺してばかりだった。君意外と自信家だよね? このチート級のウマ娘を担当するということがどういうことなのか、今更になって実感が追いついてきた。
これ、この子が負けたら私の責任だなぁ……。
本当に私がトレーナーでよかったのだろうか。彼女なら誰と組んでも結果を残すことができる。スティルインラブを勝たせることができないなら、それはトレーナーとしての腕が足りてないのだ。あぁ、プレッシャーを感じる。
レース後のウイニングライブをこなしているスティルインラブと同時に、私はレースの後処理を進める。トレーナーの悪いところというか、担当ウマ娘のウイニングライブはレース後のドタバタで見ることが難しい。
フリフリの衣装で踊るの、絶対可愛いけどね。本人も一生懸命練習してたみたいだし、どうせなら生で見たかった。
「次のレースをどうするか……考え直さないとね」
プレッシャーで胃が痛いけど、それと同時にとっても嬉しかった。私はトレーナーとして初めてGⅠレースで勝った。それがウマ娘の実力でも、私は本当に嬉しかったんだ。