冒険姫リーベ ~英雄の娘は絶望の中に希望を灯す~   作:丘引みみず

39 / 51
039 訓練の終わりに

 3人が早々に平らげ食休みしている中、リーベは未だに食事を続けていた。それは量が多いからではなく、食べづらいからで。彼女は父の咀嚼(そしゃく)が早い理由がここにあるのだと思い至った。

 

「……ごくん。いつもこれしか食べないんですか?」

 

 それに答えたのはヴァールだった。

 

「いや。川が近い時とかは――」

「さかな!」

 

 フロイデが目を輝かせる。

 

 彼は魚が好物だった。それによってリーベの彼に対する「猫っぽい」という印象が一層強まるのだった。

 

「ははは……」

 

 

 

 

「――そこで止めて」

「う……!」

 

 暴走しないギリギリまで魔力を高め、そこで維持する。その難易度と、先の失敗に由来する恐怖感から額に汗が滲み、伝ってくる。今度は目に入らないよう、まぶたを閉じて凌ぐ。

 

「そうです。そのままあと10秒」

 

 フェアが数え下ろしていく。

 

 かつてこれ程長い10秒を経験したことがあるだろうか? いやない。

 

「くう……っ!」

「イチ……ゼロ」

 

 数え終わるや、リーベは脱力してへたり込んだ。

 

「はあ……はあ…………」

 

 浮かぶに任せていた汗をようやく拭うとすっきりして、達成感に包まれた。

 

「お疲れ様です」

 

 水筒を渡される。

 

「ありがとうございます……ぷは! ふう……生き返る」

「ふふ。初日にしてここまで出来るとは。予想以上の成果です」

「ほ、本当ですか」

 

(ひょっとしてわたし、才能あるんじゃ……!)

 

 自尊心が満たされ、やる気が一層のものとなっていく。

 

 しかし間の悪いことに、ヴァールが「帰るぞー!」と言った。

 

「えー、もう帰るの?」

「逆にまだいるつもりか?」

「え?」

 

 彼は空を示した。見上げると夕焼け空が目に飛び込んできた。

 

「あ、もうこんな時間?」

「そうだ。そろそろ帰んねえと夜になっちまうぞ」

 

 納得しつつも、なんだか口惜しい気持ちでいっぱいだった。それを察してフェアが笑う。

 

「ふふ、気概は素晴らしいですが、目の前のことに囚われてはいけませんよ?」

「は、はい……気を付けます」

 

 粛々としているとフロイデがぼそりと言う。

 

「それに、心配してると思う……よ?」

 

 彼が言っているのは、彼女の両親のことだった。

 

(確かに、お父さん抜きで街の外に出るのはこれが初めてだ。きっと今頃、そわそわして家事も手に付かないでいるだろうな……)

 

「確かに……早く帰らないと」

「そういうこった。ほら、行くぞ」

 

 

 

 

 それからが大変だった。

 

 坂道は数百メートルに及び、じわじわとリーベのなけなしの体力を奪っていった。道半ばでへとへとになり、東門をくぐる頃にはげんなりとしていて、ヴァールの苦笑を買ってしまう。

 

「たく、こんくらいでへばってるようじゃ困るぜ?」

「ぜえ……ぜえ…………」

 

 答えようにも答えられない。情けない思いでいっぱいになる中、フェアは言う。

 

「体力とは活動する内に自然と身に付く物です。焦ることはありませんよ?」

「は、はひ……ふう……」

 

 肩で息をしていると、フロイデが妙に浮かれているのに気付いた。

 

「早く行こ……!」

 

(あれだけ剣を振り回していたのに、元気だな……)

 

「行くってどこへですか?」

「お店……!」

 

 彼の答えは要領を得ないもので、リーベが首を傾げているとフェアが言う。

 

「実は今晩、シェーンさんからお招きに預かっているんですよ」

 

 という事はつまり、今晩は賑やかな夕食になるということだ。

 

 そう思うとリーベは多少、元気が湧いてきた。

 

「そっか……! じゃあ、早く帰らないとですね」

「ああ。だがその前に俺らは武器を片付けてくるから、一旦ここで解散な」

 

 武装したまま食事をするわけにはいかないから、それも当然だった。

 

「わかった。それじゃ、お店で待ってるね」

 

 こうして彼女らは一時解散したのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。