冒険姫リーベ ~英雄の娘は絶望の中に希望を灯す~   作:丘引みみず

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「いただきます!」

 

 言い終わるや、リーベはラタトゥイユに飛びつく。

 

 トマトの酸味とナスのほくほくとした食感とが調和し、とても野菜料理とは思えない満足感があった。母の手料理なのだから当然と思う一方で、今晩は一段と美味しく感じる。

 

「はあ……おいし…………」

 

 一瞬、訳を考えたが、干し肉とビスケット、そしてフェア手製の劇薬によって口内が蹂躙された結果、反動で美味しさが倍増しているのだと悟る。

 

 同時に携行食への不満が膨らみ、気付けば愚痴っぽく父に問い掛けていた。 

 

「ねえ、携行食って、もうちょっと、どうにかならないのかな?」

「俺が若い頃から味が変わらねえんだ。一生変わらねえだろうよ」

「そんな……」

 

 がっくりと項垂れるとシェーンがくすりと笑う。

 

「ふふ。でもその分、お夕飯を美味しく頂けるのだから、それでいいんじゃないの?」

「むう……わたしはどっちも美味しく食べたいの!」

 

 子供みたいに剥れて見せると両親は笑った。

 

「あらあら」

「はは! リーベは贅沢だな!」

 

 その笑みが嬉しくて、彼女もまた笑った。

 

 食堂の仕事を離れ、両親とは生活サイクルを異にしたリーベだが、それでも朝晩は一緒に食事をするべきだと思い、帰ってきてから今まで何も口にしないでいた。空腹を堪えるのは大変だったが、それでも我慢して良かったと思える。

 

(やっぱりご飯は家族みんなで食べないとね♪)

 

 

 

 

 

 

食器を片付け終わった時、入浴を終えた両親が帰ってきた。

 

「ただいま」

「あ、お帰りなさい」

 

 リーベが流しを掃除しながら呼び掛けると、シェーンが厨房を覗き込んでくる。入浴を終えたばかりの肌は血色が良く、潤っていた。

 

「ごめんなさいね。あなたは休まないといけないのに」

「いいのいいの。これくらいやらせてよ」

「訓練の疲れもあるだろうし、無理にやることはねえんだぞ?」

 

 エルガーが心配する。

 

「ありがと。でもさっき仮眠とったから大丈夫だよ」

「そうか? なら良いんだが」

 

 そう言い残して父が背を向けたとき、リーベは大事なことを思い出した。

 

「あ、そうだ。ねえ、聞いて」

 

 その改まった物言いに両親は悟り、心配そうに歪んだ目を娘へ向ける。

 

「あのね、わたし明日、おじさんたちと依頼を受けに行くの」

「……依頼って…………リーベは冒険者になったばかりじゃない。大丈夫? 自分の身は守れるの?」

「大丈夫。攻撃魔法は覚えたし、フェアさんに太鼓判も捺してもらったんだから」

 

 気丈に言って聞かせるも、両親の顔からは不安の色が拭えないでいた。

 

 一方で両親の心配を受けるリーベは、その感情が如何に尊く素晴らしい物なのか痛感させられた。だがそれで両親が苦しむのは良くない。気休めでもいいから、今はどうにか両親を安心させてあげなければならない。

 

「それにね、おじさん言ってたよ。相手にするのはそこまで強い魔物じゃないって」

「……そう、なのね」

 

 今にも消え入りそうな母の答えにリーベは胸が締め付けられる思いだった。

 

 これ以上、どんな言葉を用いれば良いのかわからないでいると、エルガーが妻を慰めるように言葉を添えてくれる。

 

「大丈夫だ。ヴァールもフェアも、それにフロイデも。みんな優秀なヤツだ。そんな連中と一緒にいるんだから、億が一にもケガはしねえさ」

 

 元冒険者のエルガーがこんな希望に満ちた言葉を使うわけはない。

 

 それは無論、妻子も理解している。

 

 だからこそ、シェーンは夫の気持ちに応えるように健気な笑みを浮かべて、娘に言う。

 

「ヴァールさんたちの言うことをよく聞いて、危ない真似は絶対しないこと。いいわね?」

「……うん…………!」

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