冒険姫リーベ 英雄の娘、幸せで安全な日常を手放し絶望の故郷を救うため父の孫弟子になる   作:丘引みみず

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第6章 次なる冒険へ
063 報告と報酬


 冒険者ギルド・テルドル支部の屋内では男性の声が幾重にも重なり、音の塊になって響いている。そんな環境下では女性特有の高い声がよく通った。

 

「あ、リーベちゃん。お帰りなさい」

 

 受付嬢のサリーは安堵に頬を緩め、手を振りながらリーベを出迎えてくれた。

 

「ただいまです」

「無事でよかった~。もお、リーベちゃんのことが心配であまり眠れなかったんだよ」

 

 そう口にしながらサリーは両手を差し出す。それをリーベはそっと握り返し、手を取り合う形になった。すると手指の繊細な感触と共に温もりが、思いが、じんと伝わってくる。

 

「ごめんなさい。実は昨日帰ってきてたんですよ」

「そうなの?」

「はい。でも遅かったから、報告は明日でーってなっちゃって」

「そうだったんだ。まあ、無事でいてくれたのならそれでいいよ」

 

 話が一段落ついたところで、隣で今まで口を噤んでいたヴァールが「もういいか?」と口を挟む。するとサリーは目を丸くして驚いた。

 

「あ、ヴァールさん。いらしてたんですね」

「気付いてなかったのかよ!」

「はは……リーベちゃんのことでいっぱいで……」

 

 苦笑しつつ、彼女は仕事モードへと切り替えた。

 

「それより、依頼達成のご報告ですね?」

 

 言いながら、サリーはとある用紙を取り出す。

 

「……ああそうだ」

「ではこちらに当時の状況や、懸念点について、ご記入ください」

「あいよ」

 

 ヴァールはその手には小さすぎるペンを、切り絵でもするみたいに立てて持つと、カリカリと、角張った筆圧の濃い文字を紙面に刻んでいく。

 

『馬車で逃げる村民捕まえようとした結果、ミルク缶を誤飲。消化しきれず吐き戻す。その後、イノシシを捕食した形跡あり。他の魔物を刺激した形跡は認められず。よってライル村は安全であると考える。』

 

 彼らしからぬ堅苦しい文言に驚かされるが、確かに、報告書ならこういう文体になるだろうとリーベは納得した。それでも違和感が胸に残る中、ヴァールは署名をして書類を提出した。

 

「確認します――ありがとうございます。それでは、報酬金のお支払いとなります」

 

 サリーはカウンターの奥から金属製のトレイを持ってきた。その上には金貨と銀貨と銅貨――すなわちお金が積まれており、その魅惑的な煌めきにリーベの胸が高鳴る。

 

「こんなに沢山……!」

 

 依頼書でその金額を確認していたものの、いざ目の前にするとやっぱり違った。感動していると、サリーがくすりと笑んで解説してくれる。

 

「ラソラナは危険な相手ですからね。相応の報酬を積まないと、色々と障りがあるんですよ」

「そういうこった。さ、とっとと数えちまおうぜ」

「う、うん……!」

 

 2人で金額を検めると、ヴァールが領収書に署名をして、手続きは――今回の依頼は完全に終了となった。

 

「お疲れ様でした。皆さんのさらなるご活躍を期待しております」

 

 サリーに見送られながら受付を後にし、依頼書を眺めていたフェアとフロイデの下へと向う。

 

「おや、終わりましたか」

「ああ」

 

 ヴァールがジャラリと、報酬金の入った革袋を見せつけると、フェアに手渡した。

 

「フェアさんにも確認してもらうの?」

 

 尋ねると、ヴァールに変わってフロイデが答える。

 

「お金はフェアが管理してる」

「そうなんですか」

 

(まあ確かに、この3人の中なら、フェアさんが1番だろうな)

 

 納得していると、不満げな視線が二方から集まる。

 

「なんか失礼なこと考えてるだろ?」

「ルーズなのはヴァールだけ……!」

「お前も大概だろ!」

「認めちゃってるじゃん……」

 

 苦笑していると、高みの見物をしていたフェアが笑う。

 

「ふふ。ケンカも程々にして、そろそろ解散しませんか?」

「あれ? 今日はもう終わりなんですか」

「ええ。皆、疲れが溜まっていますからね」

 

(休みなら食堂の手伝いをしようかな)

 

 そう考えていると、透かさずヴァールが言う。

 

「……そうだな。リーベ。食堂を手伝ったりしねーで、部屋で大人しくしてろよ?」

「わ、わかったよ……」

「んじゃ、帰るか」

 

 その言葉に従い、リーベたちはギルドを出た。

 

 すると向こうから、厳めしい出で立ちをした3人の冒険者がやって来た。

 

 先頭を歩くのは立派な口ひげと、もみの木のようなな長髪を湛えた、海賊の頭領みたいな男性だ。その背後には続くは前歯の欠けた偉丈夫と、スキンヘッドの男性がいる。彼らは揃って悪者らしい顔立ちをしていたが、リーベを見るや、相好(そうごう)を崩して親しげに手を上げた。

 

「やあリーベちゃん。おかえり」

 

 海賊みたいな人物――ロイドが男性らしい威厳ある声で言うと、ボリスとバートも続いた。

 

「ただいまです」

「今帰ってきたのかい?」

「いえ。昨日帰ってきて、今は報告を終えてきたところなんです」

「そうなんだ。初仕事はどうだった?」

「脚が痛くて痛くて、大変でした」

「ははは! 確かに、冒険者の仕事の9割は移動だからね!」

 

 ロイドが笑う脇でボリスが言葉を継ぐ。

 

「でも無事でよかったぞ。エルガーさんほどじゃねえけど、俺たちも心配だったんだ」

「ああ。ボリスなんてリーベちゃんの顔見るまでは仕事に出ないってゴネてたからね」

 

 バートが笑って言うと、彼は顔を赤くして反論する。

 

「お前もそうだったろ!」

 

 2人が言い合う中、リーベの隣ではフロイデがあんぐりとしていた。

 

「……見かけに、よらない」

 

 ぼそりと呟くと、ヴァールが笑う。

 

「まったく、物騒な面しておきながら、妙な連中だな」

「ふふ、皆さんはこれから依頼を受けるのですか?」

 

 フェアが問うと、ロイドが答える。

 

「はい。いい加減、仕事しなきゃいけませんからね」

「そうですか。今見た限りだと、中々の依頼が揃ってましたので、お気を付けて」

「わかりました。それじゃ、俺たちはこれで」

 

 去り際、ロイドは「お互い頑張ろうね」と拳を出した。他の2人も。

 

「はい、頑張りましょう!」

 

 リーベは3人と拳をぶつけ合うと、彼らがギルドに入っていくのを見送った。

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