TS特級呪術師 秋山凛子   作:オッパッピー

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第十三話 託された刀

三級術師へ昇級してから数日後。

 

東京都立呪術高等専門学校。

 

朝の訓練を終えた凛子と歌姫は、夜蛾から声を掛けられた。

 

「秋山、庵」

 

「校長がお前たちを呼んでいる」

 

歌姫は少し不思議そうな表情を浮かべる。

 

「また校長先生ですか?」

 

「ああ」

 

「理由は行けば分かる」

 

二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。

 

 

---

 

校長室。

 

障子を開けると、校長は静かに二人を迎えた。

 

「来たか」

 

「失礼します」

 

二人は一礼する。

 

校長の隣には、長い木箱が二つ置かれていた。

 

歌姫が思わず目を向ける。

 

「それは……」

 

校長は穏やかに笑った。

 

「開けてみなさい」

 

二人はそれぞれ木箱を開く。

 

中には、美しい拵えの刀が納められていた。

 

凛子へ贈られる刀は、黒を基調とした質実剛健な拵え。

 

無駄な装飾はなく、実戦だけを見据えた造りだった。

 

歌姫へ贈られる刀は、白を基調とした上品な拵え。

 

凛子の刀よりもやや細身で、素早い刺突にも適した均整の取れた一振りだった。

 

歌姫は息を呑む。

 

「綺麗……」

 

凛子も静かに刀を見つめる。

 

木刀とはまるで違う存在感だった。

 

校長は二人へ視線を向ける。

 

「夜蛾から報告は受けている」

 

「お前たちの剣は、もう木刀で学ぶ段階を終えつつある」

 

「三級術師への昇級祝いも兼ねて、この二振りを預けよう」

 

歌姫は刀を見つめたまま、小さく呟いた。

 

「こんな立派な刀を……」

 

「私たちが預かっていいんですか?」

 

校長は穏やかに頷く。

 

「ああ」

 

「これから先、お前たちには今まで以上に危険な任務が待っている」

 

「その刀は、そのために用意した」

 

「ありがとうございます」

 

二人は慎重に刀を手に取る。

 

ずしりとした重み。

 

木刀とは違う重心。

 

刃があるという緊張感。

 

凛子は校長へ視線を向ける。

 

「……抜いてもよろしいでしょうか」

 

校長は静かに頷いた。

 

「構わん」

 

凛子はゆっくりと刀を抜く。

 

澄んだ音が部屋へ響いた。

 

美しい刃文が静かに光を反射する。

 

(不思議だ)

 

(初めて刀を握るはずなのに)

 

(まるで昔から使っていたように手へ馴染む)

 

自然と不必要な力が身体から抜ける。

 

違和感がまるでない。

 

歌姫も自分の刀を抜き、その美しい刀身を見つめていた。

 

校長は静かに口を開く。

 

「勘違いするな」

 

「刀がお前たちを強くするわけではない」

 

二人は校長を見る。

 

「お前たちが、その刀を強くするのだ」

 

静かな言葉だった。

 

だが、その重みは二人の胸へ深く刻まれた。

 

凛子は刀を納め、一礼する。

 

「大切に使います」

 

歌姫も深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

 

 

---

 

校長室を出る。

 

歌姫は刀袋を抱えながら微笑んだ。

 

「まだ少し緊張するわ」

 

「本当に私が使いこなせるのかしら」

 

凛子は刀袋へそっと手を添える。

 

「校長先生が託してくれた」

 

「なら、それに応えるだけだ」

 

歌姫は安心したように笑う。

 

「そうね」

 

「私も、この刀に恥じない術師にならないと」

 

 

---

 

訓練場。

 

夜蛾が二人を待っていた。

 

「受け取ったか」

 

「ああ」

 

「はい」

 

夜蛾は静かに頷く。

 

「今日から訓練も変える」

 

「真剣は木刀とは違う」

 

「斬れる」

 

「だからこそ、一振り一振りに責任を持て」

 

「はい」

 

二人は真剣な表情で返事をした。

 

夜蛾は木杭を二本立てる。

 

「振ってみろ」

 

凛子は静かに構えた。

 

呼吸を整える。

 

一歩踏み込み、一閃。

 

シュッ――。

 

木杭は音もなく斜めに滑り落ちた。

 

歌姫も続く。

 

踏み込みと同時に鋭い突きを放つ。

 

切っ先は木杭の中心を正確に貫き、そのまま真っ直ぐ引き抜かれた。

 

夜蛾は満足そうに頷く。

 

「木刀で積み重ねたものは無駄ではなかった」

 

そして二人を真っ直ぐ見据える。

 

「覚えておけ」

 

「その刀は、お前たちの命を守る道具だ」

 

少し間を置いて続ける。

 

「同時に」

 

「相手の命を断つ道具でもある」

 

「抜いた以上、中途半端な覚悟は許されん」

 

二人は静かに頷いた。

 

「はい」

 

夜蛾は刀を納める二人を見て、小さく頷く。

 

「次の任務からは、その刀を使う」

 

歌姫は刀袋を見つめ、小さく息を呑んだ。

 

「実戦で……」

 

「ああ」

 

「木刀で学ぶ時間は終わった」

 

「これからは、本物の刀で命を預け合う」

 

 

---

 

夕暮れ。

 

寮へ戻る道。

 

二人は刀袋を背負いながら並んで歩いていた。

 

歌姫が空を見上げる。

 

「これからは、この刀とも一緒ね」

 

「ああ」

 

凛子も静かに頷く。

 

「これから先、何度も命を預けることになる」

 

歌姫は柄へそっと触れ、小さく微笑んだ。

 

「だから、大事にしないとね」

 

夕日に照らされる二人の背には、新たな相棒があった。

 

この日、校長から託された二振りの刀は、数え切れない任務を共にし、それぞれの剣の道を切り開いていく。

 

そしてその刀は、二人が歩む術師としての人生を、最後まで支え続けるのであった。

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