三級術師へ昇級してから数日後。
東京都立呪術高等専門学校。
朝の訓練を終えた凛子と歌姫は、夜蛾から声を掛けられた。
「秋山、庵」
「校長がお前たちを呼んでいる」
歌姫は少し不思議そうな表情を浮かべる。
「また校長先生ですか?」
「ああ」
「理由は行けば分かる」
二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
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校長室。
障子を開けると、校長は静かに二人を迎えた。
「来たか」
「失礼します」
二人は一礼する。
校長の隣には、長い木箱が二つ置かれていた。
歌姫が思わず目を向ける。
「それは……」
校長は穏やかに笑った。
「開けてみなさい」
二人はそれぞれ木箱を開く。
中には、美しい拵えの刀が納められていた。
凛子へ贈られる刀は、黒を基調とした質実剛健な拵え。
無駄な装飾はなく、実戦だけを見据えた造りだった。
歌姫へ贈られる刀は、白を基調とした上品な拵え。
凛子の刀よりもやや細身で、素早い刺突にも適した均整の取れた一振りだった。
歌姫は息を呑む。
「綺麗……」
凛子も静かに刀を見つめる。
木刀とはまるで違う存在感だった。
校長は二人へ視線を向ける。
「夜蛾から報告は受けている」
「お前たちの剣は、もう木刀で学ぶ段階を終えつつある」
「三級術師への昇級祝いも兼ねて、この二振りを預けよう」
歌姫は刀を見つめたまま、小さく呟いた。
「こんな立派な刀を……」
「私たちが預かっていいんですか?」
校長は穏やかに頷く。
「ああ」
「これから先、お前たちには今まで以上に危険な任務が待っている」
「その刀は、そのために用意した」
「ありがとうございます」
二人は慎重に刀を手に取る。
ずしりとした重み。
木刀とは違う重心。
刃があるという緊張感。
凛子は校長へ視線を向ける。
「……抜いてもよろしいでしょうか」
校長は静かに頷いた。
「構わん」
凛子はゆっくりと刀を抜く。
澄んだ音が部屋へ響いた。
美しい刃文が静かに光を反射する。
(不思議だ)
(初めて刀を握るはずなのに)
(まるで昔から使っていたように手へ馴染む)
自然と不必要な力が身体から抜ける。
違和感がまるでない。
歌姫も自分の刀を抜き、その美しい刀身を見つめていた。
校長は静かに口を開く。
「勘違いするな」
「刀がお前たちを強くするわけではない」
二人は校長を見る。
「お前たちが、その刀を強くするのだ」
静かな言葉だった。
だが、その重みは二人の胸へ深く刻まれた。
凛子は刀を納め、一礼する。
「大切に使います」
歌姫も深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
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校長室を出る。
歌姫は刀袋を抱えながら微笑んだ。
「まだ少し緊張するわ」
「本当に私が使いこなせるのかしら」
凛子は刀袋へそっと手を添える。
「校長先生が託してくれた」
「なら、それに応えるだけだ」
歌姫は安心したように笑う。
「そうね」
「私も、この刀に恥じない術師にならないと」
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訓練場。
夜蛾が二人を待っていた。
「受け取ったか」
「ああ」
「はい」
夜蛾は静かに頷く。
「今日から訓練も変える」
「真剣は木刀とは違う」
「斬れる」
「だからこそ、一振り一振りに責任を持て」
「はい」
二人は真剣な表情で返事をした。
夜蛾は木杭を二本立てる。
「振ってみろ」
凛子は静かに構えた。
呼吸を整える。
一歩踏み込み、一閃。
シュッ――。
木杭は音もなく斜めに滑り落ちた。
歌姫も続く。
踏み込みと同時に鋭い突きを放つ。
切っ先は木杭の中心を正確に貫き、そのまま真っ直ぐ引き抜かれた。
夜蛾は満足そうに頷く。
「木刀で積み重ねたものは無駄ではなかった」
そして二人を真っ直ぐ見据える。
「覚えておけ」
「その刀は、お前たちの命を守る道具だ」
少し間を置いて続ける。
「同時に」
「相手の命を断つ道具でもある」
「抜いた以上、中途半端な覚悟は許されん」
二人は静かに頷いた。
「はい」
夜蛾は刀を納める二人を見て、小さく頷く。
「次の任務からは、その刀を使う」
歌姫は刀袋を見つめ、小さく息を呑んだ。
「実戦で……」
「ああ」
「木刀で学ぶ時間は終わった」
「これからは、本物の刀で命を預け合う」
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夕暮れ。
寮へ戻る道。
二人は刀袋を背負いながら並んで歩いていた。
歌姫が空を見上げる。
「これからは、この刀とも一緒ね」
「ああ」
凛子も静かに頷く。
「これから先、何度も命を預けることになる」
歌姫は柄へそっと触れ、小さく微笑んだ。
「だから、大事にしないとね」
夕日に照らされる二人の背には、新たな相棒があった。
この日、校長から託された二振りの刀は、数え切れない任務を共にし、それぞれの剣の道を切り開いていく。
そしてその刀は、二人が歩む術師としての人生を、最後まで支え続けるのであった。