刀を授かってから一週間。
東京都立呪術高等専門学校。
朝の訓練場では、金属同士がぶつかる澄んだ音が響いていた。
キィンッ。
キィンッ。
木刀とは違う重み。
刃筋。
間合い。
凛子と歌姫は、真剣を扱う感覚を少しずつ身体へ馴染ませていた。
夜蛾は腕を組み、その様子を静かに見守る。
「そこまで」
二人は刀を納め、一礼した。
「以前より良くなった」
「だが」
「刀を持ったから強くなったわけではない」
夜蛾は二人を見渡す。
「刀は、お前たちの技術を引き出す道具だ」
「振るう者が未熟なら、その価値も半減する」
「精進しろ」
「はい」
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訓練を終えた直後。
補助監督が慌ただしく駆け込んできた。
「夜蛾先生」
「緊急任務です」
夜蛾は資料へ目を通す。
「……一級呪霊か」
歌姫が思わず息を呑む。
「一級……」
夜蛾は静かに資料を閉じた。
「本来なら一級術師が担当する案件だ」
「今回は、お前たちにも同行してもらう」
「ただし目的は討伐ではない」
「一級呪霊との実力差を知ることだ」
「危険と判断したら、私が介入する」
「無理はするな」
「はい」
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現場は廃工場だった。
帳が下ろされる。
足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような呪力が全身を包む。
歌姫が思わず息を止めた。
「……重い」
凛子も小さく頷く。
(今までとは違う)
(呪力だけで威圧される)
工場の奥。
巨大な影がゆっくりと立ち上がる。
四本の腕。
黒い外殻。
全長三メートルを超える異形。
一級呪霊だった。
「グオオオオッ!」
咆哮だけで空気が震える。
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「来る!」
歌姫が前へ出る。
突き。
鋭い一撃が呪霊の喉元を正確に捉える。
しかし。
ギィンッ!
刀身は硬い外殻に阻まれ、それ以上進まない。
「届かない!」
歌姫はすぐに距離を取る。
そこへ凛子が踏み込む。
居合。
抜刀と同時に斬り抜ける。
さらに術式を重ねる。
目に見えない空間斬撃が胴を裂いた。
ズバッ!
確かに斬れた。
黒い体液が飛び散る。
だが。
傷はみるみる塞がっていく。
(再生が速い)
(術式は通る)
(だが決め手にならない)
呪霊は何事もなかったかのように拳を振り抜いた。
凛子は刀で受け流す。
それでも衝撃は殺しきれず、数メートル吹き飛ばされた。
「秋山!」
歌姫が援護へ入る。
突きで牽制し、凛子へ近付かせない。
だが決定打にはならない。
二人は次第に押され始めた。
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夜蛾は静かに前へ出る。
「そこまでだ」
二人はすぐ後退した。
夜蛾は呪霊を見据える。
「よく見ていろ」
「これが、一級術師の戦いだ」
呪霊が咆哮を上げ、夜蛾へ襲い掛かる。
四本の腕が同時に振り下ろされた。
夜蛾は紙一重でかわす。
一撃。
二撃。
三撃。
決して受けない。
最小限の動きで全てをいなしていく。
「焦るな」
呪霊の懐へ潜り込む。
呪力を込めた拳が腹部へめり込んだ。
鈍い衝撃。
呪霊の巨体がわずかによろめく。
その瞬間。
物陰から飛び出した呪骸が呪霊の脚へ組み付き、体勢を崩した。
夜蛾はその隙を逃さない。
拳。
肘。
蹴り。
無駄のない連撃。
最後に呪力を集中させた一撃が呪霊の頭部を砕いた。
黒い身体が悲鳴を上げ、崩れ落ちる。
やがて塵となって消えていった。
帳の中へ静寂が戻る。
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歌姫は呆然と呟く。
「これが……一級術師」
夜蛾は静かに振り返る。
「違う」
「これが、一級術師でも油断できない相手だ」
「一歩間違えれば、私でも命を落とす」
二人は息を呑んだ。
一級術師ですら絶対ではない。
その現実が胸へ重く響く。
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帰り道。
歌姫は刀袋を握り締めていた。
「悔しい」
「何もできなかったわ」
凛子も静かに頷く。
「術式は通った」
「だが、倒し切れなかった」
「今のままでは」
「人を守ることはできない」
夜蛾は歩きながら口を開く。
「今日の目的は勝つことではない」
「自分たちの現在地を知ることだ」
「一級との差は大きい」
「だが、その差は積み重ねでしか埋まらん」
「焦るな」
「はい」
夜蛾は二人を見る。
「一つだけ評価できる」
歌姫が顔を上げる。
「勝てないと判断した後、お前たちは役割を切り替えた」
「庵は時間を稼ぎ」
「秋山は術式で隙を作った」
「無理に勝とうとはしなかった」
「その判断は正しい」
二人は静かに頷いた。
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高専へ戻る頃には、空は茜色に染まっていた。
職員室。
補助監督が一枚の報告書を夜蛾へ差し出す。
「最近、各地で術師ばかりを狙う何者かの目撃情報が増えています」
夜蛾は報告書へ目を通し、静かに閉じた。
「……そうか」
その表情は険しい。
まだ正体は分からない。
だが、確実に何かが動き始めていた。
その不穏な気配は、やがて凛子と歌姫にとって一年生最大の試練へと繋がっていくことになる。
すいません。投稿したつもりが、抜け落ちていました。