「こちらです」
黒いスーツ姿の男に案内され、凛子は一台の黒塗りの車へ乗り込んだ。
男は運転席へ座ると、バックミラー越しに凛子を見る。
「改めて自己紹介します」
「私は補助監督です」
「そうか」
「……冷静ですね」
「何がだ?」
「初めて呪霊を祓った人は、たいてい気が動転しています」
凛子は静かに首を振る。
「急に見えるようになっただけだ」
「?」
「昨日までは見えなかった物が、今日から見えるようになった」
「それだけの話だ」
補助監督は思わず言葉を失う。
(なんて落ち着いた子だ……)
凛子の中では、すでに答えは出ていた。
(魔族が見えるようになった)
(なら、倒すだけだ)
それ以上でも、それ以下でもない。
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しばらくして車は山奥へ入っていく。
木々に囲まれた長い坂道。
その先に、大きな門が見えた。
「着きました」
車を降りた凛子は、門の奥を見つめる。
広い敷地。
寺院のような校舎。
訓練場。
どこか神聖な空気が漂っている。
(学校……?)
補助監督が説明する。
「ここは東京都立呪術高等専門学校」
「呪術師を育成する学校です」
「学校なのか」
凛子は少し意外そうに呟く。
(退魔組織が学校を兼ねているのか)
そう解釈すると納得できた。
まさに対魔忍と同じだ。
---
校舎へ入る。
案内された部屋には、一人の大柄な男が座っていた。
サングラス。
黒い学ラン。
厳つい顔立ち。
男は静かに立ち上がる。
立ち上がると凄い、まるでAV男優かプロレスラーのような見た目のたくましさだ。
「初めまして」
「私は夜蛾正道」
「この学校の教師を務めている」
凛子は一礼した。
「秋山凛子です」
夜蛾は補助監督から報告書を受け取る。
「十五歳」
「一般家庭」
「術式持ち」
「未登録」
一通り目を通し、凛子を見る。
「まず確認したい」
「今日、呪霊を祓ったそうだな」
「ああ、だが私には魔族を倒した感覚しかない」
夜蛾は少し眉を上げる。
「魔族?」
補助監督が苦笑した。
「彼女は呪霊を魔族と認識しています」
夜蛾は納得したように頷く。
「なるほど」
「この世界では、あれを呪霊と呼ぶ」
「そうか」
凛子は素直に頷く。
「呼び方が違うんだな」
夜蛾は少しだけ笑みを浮かべた。
(面白い子だ)
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「術式を見せてくれ」
夜蛾に案内され、二人は訓練場へ向かう。
厚い鋼鉄板が並ぶ演習場。
凛子は木刀を受け取る。
まだ真剣を持ったことはない。
静かに納刀の構えを取る。
呼吸を整える。
一瞬。
木刀が僅かに動く。
ズバンッ!
二十メートル先の鋼鉄板が、音もなく斜めに切断された。
ズズン……
地面へ崩れ落ちる。
夜蛾は目を細める。
(間違いない)
(空間を斬っている)
「もう一度」
凛子は今度は手刀を振る。
再び。
離れた鋼鉄板が真っ二つになった。
補助監督が息を呑む。
「木刀がなくても……」
夜蛾は静かに腕を組んだ。
(術式の発現も初日)
(それでこの精度か)
(末恐ろしい)
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部屋へ戻る。
夜蛾は凛子へ向き直った。
「秋山」
「君には術師としての才能がある」
「そうか」
「呪術師になる気はあるか」
凛子は少し考える。
(この世界にも)
(魔を祓う者たちがいる)
(なら)
(やることは同じだ)
凛子は静かに頷いた。
「私で力になれるなら協力しよう」
夜蛾も静かに頷く。
「今日から君は、東京都立呪術高等専門学校の生徒だ」
こうして秋山凛子は、呪術師としての第一歩を踏み出した。
この学び舎で、生涯の仲間となる術師たちと出会い、自らの運命が大きく動き始める。