入学から一週間。
凛子と歌姫は、高専での生活にも少しずつ慣れ始めていた。
この日も朝から訓練場では木刀の音が響いている。
「そこまで」
夜蛾の声で二人は木刀を下ろした。
「今日から実地訓練へ移る」
歌姫の表情が引き締まる。
「実地訓練……ですか」
「ああ」
夜蛾は二人を見渡す。
「補助監督が同行する」
「危険と判断した場合は私が介入する」
「だが、基本はお前たち二人だけで対処しろ」
「「はい」」
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車内。
補助監督が静かに説明を始める。
「現場は廃工場、呪霊の等級は四級」
「一般人はすでに避難済みです」
歌姫が資料へ目を通す。
「四級なら、私たちでも対応できますね」
補助監督は頷いた。
「今回は戦闘よりも、周囲の確認や連携を学ぶことが目的です」
凛子は窓の外を見ながら話を聞いていた。
(初任務か)
(昨日までの戦いと違うのは、一人じゃないということだ)
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廃工場。
帳が下ろされる。
周囲の空気が一変した。
歌姫は小さく息を吐く。
「やっぱり、この空気は慣れないわね」
凛子は静かに周囲を見渡す。
「気配は奥だ」
歌姫も頷く。
「私も感じる」
二人は慎重に工場内へ足を踏み入れた。
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鉄骨が並ぶ広い空間。
油の臭いが今も微かに残っている。
その時。
「ギィィ……」
天井から黒い影が飛び降りた。
四級呪霊。
いやらしい異形の姿をした呪霊が二人を睨み付ける。
歌姫はすぐに構えた。
「秋山。左右から同時に行きましょう」
「ああ」
二人は同時に走り出す。
呪霊が歌姫へ飛び掛かる。
歌姫は冷静に攻撃を受け流した。
「今!」
その声に合わせ、凛子が踏み込む。
木刀を一閃。
術式は使わない。
木刀に呪力だけを流し込み、呪霊を斬り裂く。
呪霊は悲鳴を上げながら霧となって消えていった。
静寂が戻る。
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歌姫は木刀を下ろした。
「終わった……」
凛子も周囲を確認する。
「他に気配はない」
補助監督が建物へ入ってくる。
「お疲れ様です。見事な連携でした」
歌姫は安堵したように笑う。
「ありがとうございます」
補助監督は凛子を見る。
「秋山さん」
「最後、術式を使いませんでしたね」
凛子は木刀を鞘代わりの袋へ戻しながら答えた。
「必要ないと判断した」
「相手の力量に対して、過剰な力は使うべきじゃない」
補助監督は感心したように頷く。
(十五歳とは思えない判断力だ)
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高専へ戻る車内。
歌姫が静かに口を開いた。
「ありがとう」
「最初の任務だったけれど」
「秋山が一緒で心強かったわ」
凛子は少しだけ笑う。
「私もだ」
「一人では気付けないこともあった」
歌姫は意外そうに凛子を見る。
「そう思ってくれていたのね」
「ああ。夜蛾先生の言う通りだ」
「一人ではできないことも、二人ならできる」
歌姫は小さく微笑んだ。
「ええ。これからも、お互い頑張りましょう」
「ああ」
夕日に照らされながら車は高専へ戻っていく。
この初任務は決して派手な戦いではなかった。
しかし凛子と歌姫にとって、「仲間と共に戦う」という術師として最も大切な一歩となった。