TS特級呪術師 秋山凛子   作:オッパッピー

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しばらく連投します。


第六話 積み重ねる剣

初任務から数日後。

 

東京都立呪術高等専門学校――訓練場。

 

木刀がぶつかり合う乾いた音が響いていた。

 

「そこまで」

 

夜蛾の合図で、凛子と歌姫は木刀を下ろす。

 

「二人とも、最初の任務はよくやった」

 

「だが、あれは四級呪霊だったから通用したに過ぎない」

 

夜蛾は二人を見渡した。

 

「等級が上がれば、同じ戦い方では通用しない」

 

「今日からは術式だけでなく、術師としての基礎も鍛える」

 

「はい」

 

二人は揃って返事をした。

 

 

---

 

午前中は体術だった。

 

受け身。

 

足運び。

 

重心移動。

 

木刀を持たず、ひたすら身体を動かす。

 

歌姫は息を切らしながらも懸命についていく。

 

一方の凛子は淡々と課題をこなしていた。

 

夜蛾が声を掛ける。

 

「秋山」

 

「ああ」

 

「動きは悪くないが、お前は術式に身体が引っ張られている」

 

凛子は首を傾げた。

 

「どういうことだ?」

 

「お前は『斬る』ことを前提に動いている」

 

「だから術式を使えない状況では、一瞬判断が遅れる」

 

夜蛾の指摘に、凛子は黙って考え込む。

 

(確かに……)

 

(私は術式を使う前提で間合いを測っている)

 

夜蛾は木刀を肩に担いだ。

 

「術式は武器だ」

 

「だが武器に頼り切れば、その武器を封じられた時に負ける」

 

その言葉は、凛子の胸に深く刻まれた。

 

 

---

 

午後。

 

今度は術式の訓練だった。

 

訓練場の端に並べられた藁束。

 

夜蛾が指差す。

 

「秋山」

 

「術式を使え」

 

「ああ」

 

凛子は静かに右手を振る。

 

ズバッ。

 

離れた藁束が音もなく切断された。

 

さらに二つ目。

 

三つ目。

 

正確に切断していく。

 

夜蛾は静かに見つめていた。

 

「精度は申し分ない」

 

「だが」

 

凛子が振り返る。

 

「術式には限界もある」

 

「限界?」

 

「ああ」

 

夜蛾は切断された藁束へ歩み寄る。

 

「どれほど優れた術式にも、越えられない壁はある」

 

「出力、相性、術式同士の優劣」

 

「それらを理解しなければならない」

 

凛子は頷いた。

 

「万能ではない、ということか」

 

「その通りだ」

 

夜蛾は木刀を手に取る。

 

「だから剣を学ぶ」

 

凛子と歌姫は夜蛾を見る。

 

「剣は術式を支える土台になる」

 

「剣を鍛えれば、間合いが分かる」

 

「相手の動きが読める」

 

「迷いなく身体が動くようになる」

 

「その積み重ねが、術式を使う時の判断にも必ず生きる」

 

凛子は静かに木刀を見つめた。

 

(つまり、剣は術式とは別の技術じゃない。術式を活かすための基礎なのか)

 

夜蛾は二人を見渡す。

 

「強い術式だけでは、一流の術師にはなれない」

 

「術式を使いこなせる術師になれ」

 

「そのために、基礎を徹底的に鍛える」

 

「はい」

 

二人は力強く返事をした。

 

 

---

 

夕方。

 

訓練を終えた帰り道。

 

歌姫が隣を歩く。

 

「秋山」

 

「ああ」

 

「先生の話を聞いて、少し考え方が変わったわ」

 

凛子は歌姫を見る。

 

「私もだ」

 

「術式だけ鍛えればいいと思っていた」

 

「でも違った」

 

歌姫は頷く。

 

「基礎があってこそ、術式も活きるのね」

 

「ああ」

 

二人は並んで坂道を歩く。

 

夕日が長い影を伸ばしていた。

 

 

---

 

その夜。

 

寮の庭。

 

凛子は一人で木刀を振っていた。

 

一振り。

 

また一振り。

 

昼間の夜蛾の言葉を思い返す。

 

(剣は術式を支える土台)

 

(間合い、判断、迷わず動ける身体)

 

木刀を握る手に自然と力が入る。

 

(私はまだ未熟だ)

 

(もっと積み重ねなければ)

 

静かな夜風が吹く。

 

木刀を振る音だけが、高専の夜に響いていた。

 

この日、夜蛾から教わった「剣は術式を支える土台になる」という教えは、やがて凛子自身の信念となる。

 

そして数年後、その教えは後輩・五条悟へ受け継がれ、最強の術師へ至る大きな礎となっていくのだった。

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