TS特級呪術師 秋山凛子   作:オッパッピー

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第七話 初めての呪具

東京呪術高等専門学校。

 

朝の訓練場では、今日も木刀の音が響いていた。

 

カンッ。

 

カンッ。

 

夜蛾は二人の打ち込みを静かに見守る。

 

「そこまで」

 

木刀を下ろした凛子と歌姫は息を整える。

 

「今日は訓練を変える」

 

夜蛾はそう言うと、二人を校舎の奥へ案内した。

 

 

---

 

案内されたのは、重厚な扉の前だった。

 

夜蛾が呪力を流し込むと、扉がゆっくりと開く。

 

中には棚が並び、様々な武器が整然と保管されていた。

 

槍、薙刀、弓、短刀。

 

そして、多くの刀。

 

歌姫が思わず息を呑む。

 

「ここは……」

 

「呪具保管庫だ」

 

夜蛾は静かに答えた。

 

「術師は術式だけで戦うわけではない」

 

「呪具も重要な武器になる」

 

凛子は一本一本の刀を静かに見つめる。

 

どの刀も、ただの武器ではない。

 

長い年月、多くの術師に使われてきたことが伝わってきた。

 

 

---

 

夜蛾は一本の刀を取り出す。

 

「これは呪力を流しやすいよう調整された訓練用の刀だ」

 

真剣ではない。

 

刃は潰されている。

 

しかし木刀とは違う重量感があった。

 

夜蛾は凛子へ差し出す。

 

「持ってみろ」

 

「ああ」

 

凛子は両手で受け取る。

 

(……重い)

 

木刀とは重心がまるで違う。

 

自然と構えも変わる。

 

夜蛾は頷いた。

 

「木刀では分からない感覚だ」

 

「武器が変われば間合いも変わる」

 

「今日からは、この感覚も覚えろ」

 

「はい」

 

歌姫も訓練用の刀を受け取る。

 

慣れない重さに少しだけ表情が曇った。

 

「思ったより難しいですね……」

 

「だから練習する」

 

夜蛾は短く答えた。

 

 

---

 

訓練場。

 

二人は訓練用の刀で素振りを始める。

 

一振り。二振り。三振り。

 

木刀とは違う重さが腕へ伝わる。

 

歌姫は何度か姿勢を崩した。

 

一方、凛子はすぐに重心を合わせ始める。

 

夜蛾は静かに見ていた。

 

(順応が早い)

 

だが、まだ力みに無駄がある。

 

「秋山」

 

「ああ」

 

「刀は腕で振るな」

 

「腰で振れ」

 

凛子は言われた通り、腰の動きを意識する。

 

振り下ろした一太刀。

 

風を切る音が明らかに変わった。

 

「……なるほど」

 

夜蛾は頷く。

 

「今の感覚を忘れるな」

 

 

---

 

昼休み。

 

歌姫が木陰へ腰を下ろす。

 

「秋山」

 

「ああ」

 

「あなた、本当に覚えるのが早いわね」

 

凛子は首を横に振る。

 

「夜蛾先生の教え方は分かりやすい」

 

「私は、その通りにやっているだけだ」

 

歌姫は小さく笑う。

 

「そういうところ、真面目よね」

 

「そうか?」

 

「ええ」

 

歌姫は少しだけ肩の力を抜いた。

 

同じ学年。

 

少しずつだが、お互いに遠慮なく話せるようになってきていた。

 

 

---

 

夕方。

 

訓練を終えた夜蛾は、凛子を呼び止めた。

 

「秋山」

 

「一つだけ覚えておけ」

 

「ああ」

 

夜蛾は保管庫の方へ視線を向ける。

 

「今日使った刀は訓練用だ」

 

「だが、術師には自分の得物が必要になる」

 

「自分の得物……」

 

「いずれ、お前にも一本の刀を預ける」

 

「その日まで」

 

「剣も術式も磨き続けろ」

 

凛子は静かに頷いた。

 

「ああ」

 

その言葉の意味を、この時の凛子はまだ深く理解していなかった。

 

夜蛾から託される一本の刀が、自らの術式と共に歩む、生涯の相棒になることを、この時はまだ知らない。

 

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