東京呪術高等専門学校。
朝の訓練場では、今日も木刀の音が響いていた。
カンッ。
カンッ。
夜蛾は二人の打ち込みを静かに見守る。
「そこまで」
木刀を下ろした凛子と歌姫は息を整える。
「今日は訓練を変える」
夜蛾はそう言うと、二人を校舎の奥へ案内した。
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案内されたのは、重厚な扉の前だった。
夜蛾が呪力を流し込むと、扉がゆっくりと開く。
中には棚が並び、様々な武器が整然と保管されていた。
槍、薙刀、弓、短刀。
そして、多くの刀。
歌姫が思わず息を呑む。
「ここは……」
「呪具保管庫だ」
夜蛾は静かに答えた。
「術師は術式だけで戦うわけではない」
「呪具も重要な武器になる」
凛子は一本一本の刀を静かに見つめる。
どの刀も、ただの武器ではない。
長い年月、多くの術師に使われてきたことが伝わってきた。
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夜蛾は一本の刀を取り出す。
「これは呪力を流しやすいよう調整された訓練用の刀だ」
真剣ではない。
刃は潰されている。
しかし木刀とは違う重量感があった。
夜蛾は凛子へ差し出す。
「持ってみろ」
「ああ」
凛子は両手で受け取る。
(……重い)
木刀とは重心がまるで違う。
自然と構えも変わる。
夜蛾は頷いた。
「木刀では分からない感覚だ」
「武器が変われば間合いも変わる」
「今日からは、この感覚も覚えろ」
「はい」
歌姫も訓練用の刀を受け取る。
慣れない重さに少しだけ表情が曇った。
「思ったより難しいですね……」
「だから練習する」
夜蛾は短く答えた。
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訓練場。
二人は訓練用の刀で素振りを始める。
一振り。二振り。三振り。
木刀とは違う重さが腕へ伝わる。
歌姫は何度か姿勢を崩した。
一方、凛子はすぐに重心を合わせ始める。
夜蛾は静かに見ていた。
(順応が早い)
だが、まだ力みに無駄がある。
「秋山」
「ああ」
「刀は腕で振るな」
「腰で振れ」
凛子は言われた通り、腰の動きを意識する。
振り下ろした一太刀。
風を切る音が明らかに変わった。
「……なるほど」
夜蛾は頷く。
「今の感覚を忘れるな」
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昼休み。
歌姫が木陰へ腰を下ろす。
「秋山」
「ああ」
「あなた、本当に覚えるのが早いわね」
凛子は首を横に振る。
「夜蛾先生の教え方は分かりやすい」
「私は、その通りにやっているだけだ」
歌姫は小さく笑う。
「そういうところ、真面目よね」
「そうか?」
「ええ」
歌姫は少しだけ肩の力を抜いた。
同じ学年。
少しずつだが、お互いに遠慮なく話せるようになってきていた。
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夕方。
訓練を終えた夜蛾は、凛子を呼び止めた。
「秋山」
「一つだけ覚えておけ」
「ああ」
夜蛾は保管庫の方へ視線を向ける。
「今日使った刀は訓練用だ」
「だが、術師には自分の得物が必要になる」
「自分の得物……」
「いずれ、お前にも一本の刀を預ける」
「その日まで」
「剣も術式も磨き続けろ」
凛子は静かに頷いた。
「ああ」
その言葉の意味を、この時の凛子はまだ深く理解していなかった。
夜蛾から託される一本の刀が、自らの術式と共に歩む、生涯の相棒になることを、この時はまだ知らない。