人間くん、魔族学園で激重感情を向けられまくる 作:ヒソカ・モロウ
「ヒューイ、今日から学校ですよ? 起きてください」
気持ちいい布団の中。
普段なら絶対に剥ぎ取られることのない空間だ。
けれど、今日はいつもと違う。
ぼくの
抗議の目で僕は母親を見る。
母親と言っても、実母ではない。
なにせ僕は人間で、母はサキュバスである。
ウェーブかかった茶髪を肩まで伸ばした黒縁眼鏡の美女。
セーターにエプロン姿。いかにも清楚な大学生と言った感じ。
これで三十路後半のOLなんだとか。
「なんだいノア……まだ七時半じゃないか」
ぼくは彼女を「おかあさん」だとか「ママ」だとか。
そういう感じで呼んだことは一度としてない。
実母じゃないし、僕ももう十三かそこらだ。
仕事の事情で世話をしてくれているだけの相手だし。
そう呼ぶのも忍びなかった。
向こうだって、母親扱いされたって困るだろう、うん。
「言ったでしょう? 今日から中学生。家庭教育は終わりです」
「つまりぼくは?」
「これから急いで支度をして、学校に行かなければなりません」
ものすごく面倒くさかった。
なぜわざわざ中学になどいかなければならないのか。
小学校と一緒で、家庭教育でいいじゃないか。
ぼくは無言の抗議として再び布団に包まる。
しかしその目論見は失敗した。
布団は完全に奪われてしまったのだから。
渋々風呂場に向かってシャワーを浴びる。
それが終わると着替えてぼくはダイニングへと向かった。
ノアが用意したであろう朝食がテーブルに置かれている。
トーストと目玉焼き。
それにサラダとポタージュスープがセットだ。
なんというか食パンを焼いたときの独特の匂いがした。
「さぁ、ボケっとしている暇はないですよ」
「はいはい」
「いただきます」
目玉焼きをトーストに乗せて一気に貪る。
半熟だと黄身がこぼれて鬱陶しいことこの上ない。
まぁ、これはこれで美味しいのだけれども。
されど別段、食レポの必要は感じない。
そんないつも通りの朝食。
それが終わると、歯を磨きに洗面台へと向かった。
ストライプのシャツを着た、陰気臭そうな茶髪の少年。
これがぼくである。
そういえば中学校の服装は自由だったかな。
いろんな魔族がやってくるらしい。
いちいち制服を仕立てていられなんだとか。
「そろそろ時間。今日は送っていきますから車に乗って!」
「ありがとう」
エプロンを脱ぎ捨て緑のブラウス姿になったノア。
別に、養母のそれを見たって何の感慨もないわけだけれども。
ノアの胸がぶるんと揺れた。これで彼氏がいたことないらしい。
周りの男も見る目がないんだな、と思った。
可愛らしいピンクのワゴンカー。
うちのガレージに置いてあるそれの後部座席に乗り込んだ。
カバンも持ったし、シートベルトも締めた。
後は出発するだけだ。
ぶぅおおおおおおおん、と小さいエンジンを唸らせる車。
そのままガレージを出る。
降り注ぐ日光が車内にも入ってきた。
「ヒューイ、緊張してますか?」
「まぁね。そこそこには。今からやめてくれたって良い」
「そんなわけには行きません。市長に怒られますから」
流れ行く街の景色を窓越しに見ながら、そんな会話を続ける。
市長……一応、ぼくの本来の養父であるべき人だ。
彼はぼくの面倒を部下に押し付けて……。
いるわりに家族サービスも悪いんだとか。
そんなに仕事が忙しいのだろうか?
幼馴染が愚痴っていたのを思い出す。
「ともあれ、喧嘩だけは起こさないように」
「怪我をするから?」
「まさか、相手の心配をしてるんですよ」
交差点の信号が赤から青に変わる。
一見、薄情な言葉に聞こえるかもしれない。
だけれどもぼくには秘密があった。
「貴方は勇者の末裔なのですから」
そういうしている内に、車は中学校の駐車場へと着いた。
校舎はなんというかちょっとしたお城みたいな大きさだった。
形もなんだか中世の城風。結構な名門なのかもしれない。
「実際に人間との戦争に使われていた魔王城らしいですよ?」
「へぇ」
その割には白く塗られ、清楚な雰囲気を感じさせる。
魔王城といえば赤黒く、おどろおどろしい雰囲気だろうに。
「ではヒューイ、楽しんできて」
「ああ、ノアこそはやめに彼氏作りなよ」
「あはは……」
本当の苦笑いという感じだった。
何はともあれ、今日から学園生活が始まるのか。
魔族の学園。
人間は────ぼく一人だ。
短いですが、反応多ければ早めに更新します。
【ヒューイ】
勇者の末裔。今日から中学一年生。ストライプシャツは勇気の証。
【ノア】
37歳サキュバスOL独身処女。
精気はもっぱらちょいエロお料理配信でなんとか賄っている。