FAIRYTAIL~錬鉄の魔導士~【凍結中】 作:深淵の守人
こっちは二ヶ月ぶりといったところですね。
早速どうぞ。
~三話 エミヤという力の代償~
理想と現実は大きくかけ離れている。
そんな事気付いていなかった訳じゃない。
この世界に来て、所謂『未来』を知っている俺は、行動で現実が変えられると思った。
それが過ち。
例え、この世界が
そう、この右目の傷は正しくそれだ。
誰がその傷を負ったのか、どれ程の規模なのか、それらが違うだけで『懲罰房へ行った者が右目を負傷する』という結果は変わらなかった。
いや、寧ろ酷くなった。
未来が書き換わるとは、それだけのリスクを負う。
この先俺が関わるほど、『未来』は捩れ、捩れ、より悲惨なグロテスクな『未来』をたどる可能性だってある。
それでも―――
小波が響く海岸に痛む身体を奮い立たせて立ち上がる。
―――救いたいと思ってしまうのは間違いなのか
潮風でズキズキと痛む右目を無視し、歯を食いしばる。
―――僅かばかりの可能性に賭けることは間違いなのか
震える膝に苛立ち、拳で殴りつける。
―――『
幼く愛おしい彼女の元へ身体を引きずる。
―――そんな事できる訳が無い。
そう考える俺はきっとまだまだ子供なのだろう。
だが、『だからなんだ』と。
諦めが付くほど、きっと今の自分は大人にはなれない。
この身の、かの赤き英雄が理想を追ったように。
冷め切った無常である事が大人である事なら、いっそ子供のままでいい。
俺は、赤き英雄のような大それた理想を持っている訳じゃない。
けれど、大切にしたいものは沢山ある。
ジェラールだってそうだ。
だから、諦めてやらない。
何より―――
「エルザの為にも」
眠りながら彼女は目尻から雫が流していた。
頬を伝うそれを優しく拭い、彼女を抱え上げる。
胸の内を語る事など赦されない。
理解などされてはならない。
これは俺の過ちから始まった『未来』。
ならば、俺一人で決着をつける。
右目の深く抉られて痕をなぞる。
戒めはこの傷だ。
今や、この身はかの赤き英雄なのだ。
ならば―――
「
そう、この身はただ目的を果たすだけの道具だ。
それ以外の意味など不要。
「
苦しい、辛い等と口から漏らす事さえ赦されない。
故に、人間としての
全ては失った絆を取り戻す為に。
ロブ爺さんがいたと言われる
みすぼらしい格好でエルザに肩を借り、ふらふらと歩く。
かなりの距離があった事で、辿り着くまでに身体は疲弊しきっていた。
流石に体力までは剣といかなかったか、と変な自嘲。
自分より体格の劣る少女に肩を借りるというのは中々に精神を抉られたが。
主に自尊心が。
「此処がロブお爺ちゃんがいたギルド……」
そう噛み締めるように呟いたエルザを横目に考える。
彼女は今何を思っているのだろう。
彼女を庇って死んだロブ爺さんの事だろうか。
楽園の塔の事だろうか。
みんなの事だろうか。
……ジェラールの事だろうか。
ズキッと右目に電流が走る。
今はボロ布を右目を覆い傷を隠している。
大通りをこんな状態で歩くわけにもいかなかった。
歩く歩幅を調節しながらエルザが心配そうに此方を見るが、傷なんて二の次だ。
「中に入ろう」
「うん……」
会話は短い。
エルザは起きた後からこの調子だ。
情けない。
どうすればエルザの負担を減らせるのか、そんな事さえ思いつかない。
今はただ前に進む事しか、俺に出来る事は無かった。
「何だ?あいつ等」
「ひでェ恰好だな」
周りからの声を無視して前に進む。
「お前さん達、どうしたんじゃ?」
カウンターからゆっくりと歩いてきた老人。
「アンタが、此処のマスターか?」
一応問う。
「そうじゃ。マカロフという」
「アンタのギルドに、俺達を入れてくれ」
そう言うと、マカロフは思案顔になった。
「構わんが……どうして此処に?」
最もだ。
だけど、これは―――
「ロブおじいちゃんが此処にいたって……」
そう口にしたのはエルザだ。
俺もそのつもりだった。
これ以上下手な事をして『未来』に被害を出すわけにはいかなかった。
あくまで『物語』に沿って行動する必要があった。
無論、危険が及ぶような事が起きる事件には介入を続ける。
他ならぬエルザをこれ以上傷ついて欲しくは無い。
故に『物語』に沿って、安全が比較的確保できる
「何!アイツに会ったのか!?アイツは何処にいる!?」
予想外の返答だったのか、取り乱すマカロフ。
だからこそ、エルザが次に紡ぐ事実が重いモノとなる。
「ロブおじいちゃんは……私を庇って………」
「………そうか」
長い沈黙が場を包む。
そんな中で、自嘲することなくズキッと右目に痛みが走る。
歯を噛み締めて悲鳴を噛み殺す。
「ん?お前さん、怪我しておるのか?」
マカロフが俺の右目を見た。
「大した事無い」
「いいから見せい。きちんと手当てもせにゃあならん」
そう言って、マカロフは手を伸ばしてきた。
「触れるな!」
思わず、手を叩いた。
一瞬怪訝そうな表情をしたが、マカロフは再び手を伸ばして右目を覆った布に手をかけた。
瞬間、周りから息を呑む音が聞こえた。
額から頬まで大きく切り裂かれた痕があった。
出血は止まっているものの、肉を大きく抉ったその傷は見た者に痛々しさを十分に与えた。
「これは……一体誰にやられた?」
赤銅色の髪の少年の傷は生半可なものではなかった。
少年達の風貌も兎に角酷いものだった。
如何してこんな酷い事が出来るのだと、マカロフは思った。
「どうでもいいだろ」
だが、少年は至極如何でもよさそうに言った。
「良いわけ有るか!早く治療を―――」
「必要ない!」
しかし、少年は治療すら拒否した。
「消えて良い筈が無い。無くして良い筈が無い。これは俺が背負わなくてはならないモノなのだから」
それだけ言うと少年は空いている椅子に座って腕を組み閉眼した。
これ以上語る事は無いと言うことだろう。
ただその幼い姿から覚悟が滲み出ていた。
空から鋭利な爪が襲い掛かる。
受け流し、避け、離れようとする影に剣を突き立てる。
鮮血を撒き散らしながら地に落ちてきたのは鷲の様な上半身に獅子の下半身。
“グリフォン”と呼ばれる幻想種が横たわっていた。
俺達がギルドに入って三ヶ月が経った。
ひたすらに討伐クエストばかりを請け負い、魔術を慣らす為に戦い続けた。
難易度の高い討伐クエストをほぼ俺一人でこなしていた為、俺はSランク魔導士に特例として昇格した。
元々人の領域を軽く突破した力を持っているのだから戦闘技術においてもその辺の魔導士には引けを取らないという事もあっただろう。
クエストの受注出来る幅は広がったが、危険度の高い討伐クエストしか受けなかった。
ただ己を強くする為。
それと仮説の実証の為。
ここ最近の事だが、魔術を行使する度何かに引っ張られる感覚がある。
この身体は英霊になる前のエミヤシロウの身体なのだ。
にも関わらず行使しているのは英霊エミヤの力そのもの。
恐らく魔術を行使する度に英霊としての霊格を取り戻しつつあるのだろう。
英霊としての霊格を完全に取り戻してしまったら、俺は“■■サクヤ”ではなく“エミヤシロウ”になってしまうのだろう。
そうなれば俺は“
その先がどうなってしまうのかは解らない。
俺の記憶がなくなってしまうのか、はたまた俺の意識が“サクヤ”から“エミヤ”に切り替わってしまうのか。
可能性など幾らでも有るがそれでも俺は
この力は目的を果たす為には必要不可欠だ。
例え“俺”が消えるのだとしても目的が果たせるまでもちさえすればいいのだ。
投影し強化した二振りの剣鉈を見る。
鮮やかな赤で濡れたそれはただの剣鉈。
宝具クラスの武器の投影はまだ成功してはいない。
神秘を宿していないただの剣などなら投影は可能なのだが、この世界での魔法剣なども投影は出来ない。
少なくとも今の段階では何かしら“力”を宿す武器の投影は困難と言う現状。
とは言え投影が出来るならばまだ良い。
“エミヤシロウ”の強みはその手数の多さだ。
空手や柔術、中国拳法、ムエタイなどあらゆる武術の二流を極めた彼にとって武器も魔術も目的を果たす為の道具でしかない。
才能の無い彼は質より量を選んだのだ。
ならば好みに相応しいのは“技能”より“技術”だ。
技術に見合うモノを投影出来さえすれば、後は勝ちを拾いにいくだけだ。
奇襲、人質、毒、裏切り、etc…勝つための手段など幾らだってある。
非道と言われようが構わない。
技術だけで勝てるなんて思わないから。
“エミヤシロウ”の戦闘技術、戦闘経験があると言っても、それを使うのはあくまで俺なのだ。
彼の様な判断力や覚悟を持たない俺が一人前の戦士として戦うなど笑い話だ。
故に欠けている部分を補うだけの事。
剣鉈を逆手に持ち替え、横たわるグリフォンの牙に突き立て折る。
今回のクエストは村周辺に巣を張ったグリフォンの討伐。
依頼してきた村の村長に物証出来る品が必要だったからだ。
剣鉈の投影を破棄して村に向って歩き出そうとして肩に走る電気に顔を顰めた。
肩や胸の辺りには無数の裂傷。
今回の戦闘で負った傷だ。
完璧に防ごうとしてこれだ。
爪に毒でも合ったら一瞬でお陀仏だったろう。
これだから戦闘経験は自分で積むに越した事は無い。
まあ、エミヤの戦闘経験は対人戦が主体なのだからこういった幻想種に遅れを取るのは当たり前なのだが。
他の獣を寄せ付けないようにする為にグリフォンの死体に火をつけた。
思考を巡らせながら樹海を立ち去るサクヤ。
その後ろには凡そ十のグリフォンの消炭になった死体が転がっていた。
今回はちょっと短かったですね。
戦闘も途切れてましたし。
次の話も戦闘はおあずけです。
というか早く本編にもって行きたい。