FAIRYTAIL~錬鉄の魔導士~【凍結中】 作:深淵の守人
~四話 拒絶と決闘~
夢を見た。
それが夢だと解ったのは俺の記憶じゃないからだ。
夢の中の自分はセイバーを愛していた。
夢の中の自分は遠坂凛を愛していた。
夢の中の自分は間桐桜を愛していた。
夢の中の自分はロンドンにいた。
夢の中の自分は教会にいた。
夢の中の自分は戦場を見下ろしていた。
“エミヤシロウ”が経験した全てが俺に流れ込んでくる。
技術、知識……そして感情。
でも俺は“エミヤシロウ”じゃない。
俺は“■■■■■■■■”だ。
だから入ってくるな。
拒絶しても流れは止まらない。
激動の中でもがき続ける。
これに飲まれたら俺は消える。
だから否定する。
「お前は俺じゃない!!」
ベッドから飛び上がり、布団を押しのける。
グッショリ濡れた寝巻きをパタパタと煽ぐ。
額の汗を拭い、あの駄神が妙な力をくれやがって、と愚痴と漏らしながらベッドから這い出た。
二年の歳月が流れた。
相も変わらず戦闘経験をクエストで積む日々。
変わった事といえば、宝具の投影が可能になった事と……エルザと距離を置くようになった事ぐらいだ。
とは言え真名開放はまだ身体に負担をかけるようなので、多様は出来ない。
エルザに関しては早々に決断していた事だった。
俺は彼女にとって辛い記憶を呼び起こす存在だ。
このままギルドに任せる方が彼女は幸せでいられる。
だから話さなくなった。
だから一緒に居る事が無くなった。
彼女と一緒の借家に住まいながらも、彼女とは一切の関わりを立っている。
これで良い。
あの娘が幸せになれるなら、俺は消えるべきだ、と。
緑衣の外套 を靡かせ、悠然と歩く。
町並みもいい加減見慣れてきた。
何百回くぐったかも忘れたギルドの入り口を通り抜け、カウンターに腰をかけている
途中ギルドの同世代の仲間と話していたエルザと目が合う。
鎧を着て、髪をおさげにしたエルザは少女らしさが残るものの一端の魔導士へと成長を遂げていた。
「あっ……」
だが、目を逸らし何かを話したそうにしていたエルザの横を素通りする。
そのままカウンターまで歩いて足を止めた。
「爺さん。10年クエストを受けたい」
その一言でギルド内が静まり返った。
「お前さんにはちと早すぎはせんか?」
「出来ないと言う事ではないのだろう?」
問いに問で返す。
「じゃがのう……」
言葉を詰まらせる爺さんに付け加えようとした。
後ろでガタッと椅子を引く音がした。
歩み寄ってくる足音にゆっくり振り返る。
無表情で見つめた先にいたのは、やっぱりエルザだった。
目尻に涙を溜め、歯を食いしばっていた。
「お前は―――」
漸く口を開いたエルザの言葉は、
「如何して一人で行ってしまうんだっ!!」
切望だったのかも知れない。
だけど、それは受け入れてはならない。
剣で覆え、無数の刃で覆え。
―――体は剣で出来ている。
心など不要だ。
無表情で無感情で言い放った。
「言いたい事はそれだけか?」
「っ!!」
エルザは振り向きもせず、ギルドを出て行った。
「お前さんは如何してそこまで冷徹になれる?」
怒気を滲ませながら爺さんは問うてくる。
虚言など通じる筈も無いので素直に応えた。
「あの娘が幸せになるなら俺など不要だ」
「エルザがお前さんと居る事を望んでいるのにか?」
俺の応えにすぐにきり返しがくる。
「俺が居ればエルザに辛い記憶を呼び覚ます。苦痛を与える。だから距離を置く。そうすればあの娘は幸せになれる」
「それが独り善がりだと何故解らん!!」
爺さんは怒鳴り声を上げた。
だが、それは俺が最善を選んだ結果。
否定など許す筈も無い。
「そんな事先刻承知だよっ!!だがな。俺はあの娘にとって害悪に他ならない。彼女の幸せを真に望むのならば、彼女と関わりを絶つ事が最善だとしたまでだ!!」
「お前さんはどうなんじゃ!エルザが哀しそうにしているのに何とも思わんのか!!」
「それこそ不要な事だろう!?彼女から幸せを奪った俺が自らの望みを口に出す事すらおこがましいんだよ。必要ならば虚言で偽れば良い!!」
罵り合いの応酬。
どちらも間違いではないからこその対立。
正解など無いのだから相容れない。
だから次の言葉が堪えた。
「エルザの幸せの中にはお前さんが含まれているのにか!!」
「っ!!」
苦々しい表情が浮き出ている事だろう。
言葉に詰まり、応えられない。
漸く捻り出したのは、
「それでも俺はあの娘の傍に立つ資格などないんだ」
後悔からの苦渋の言葉だった。
短い沈黙の後、爺さんが口を開いた。
「手続きはしておく。三日やるから準備を済ませて来い」
それだけ言うと、爺さんはカウンターに向き直り、もう振り返ることは無かった。
用件を終えたから準備の為に去ろうとする。
そこに立ち塞がる桜色の髪の少年と黒髪の少年。
氷の造形魔導士、グレイ・フルバスター。
この二年の間に入ったギルドの新人。
人格も知っているのでこれから何が起こるかも予想が付いた。
「「俺と勝負しろ、サクヤ!!」」
エミヤの幸運Eと言うのは伊達じゃないらしい。
目の前を見ている筈なのに、何処か遠くを見て寂しげにしている。
大切な人においていかれた、迷子の様な目。
俺も大切な
アイツはじっちゃんと何か言い合ってたのがどういうことか解んなかったけど、アイツが間違ってるって直感で思った。
だから勝って俺が正しいって証明してやる!
原因が
だから、勝てないと解っていても戦って知りたいと思ったんだ。
「俺と戦う?」
「「そうだ!俺が勝ったら一つ言う事聞け、って真似すんじゃねぇこの氷野郎(炎野郎)!!」」
何なんだコイツら。
行きピッタリで来るから二人で画策していたのかと思っていたが、個人で来たのか?
しかも、氷野郎も炎野郎も貶しになっていない。
「「お前は後にしろよ!俺が先にやるんだ!」」
之じゃあ自体が収集出来ない。
よって代案を出す事にする。
「解った。受けよう」
「「本当か!?ってお前に言ってんじゃねぇよ!!」」
「両方だ!……まとめて相手してやる。場所を変えるぞ」
それだけ言うと、さっさと外に向おうとする。
後ろでは罵り合いが続いているが気にせず歩いた。
街から離れ、開けた場所で互いの戦闘準備を整える。
「こちらの条件を出していなかったな」
「ん?何かあんのか?」
ナツが伸脚しながら聞く。
「当たり前だ。フェアではないだろう?それにただ勝負じゃあ負けてもお前らは納得しないだろう?」
「成る程な。後腐れなくって事か。良いぜ、条件は?」
グレイが不敵に笑いながら問う。
「俺が勝ったら、金輪際俺とエルザのことに関わるな。お前達が俺に勝負を仕掛ける理由ぐらい解ってるつもりだ。だからこその提案だ。お前達に実害無いのだから破格の条件だろう?」
「やだね」
「解った」
前者はナツ、後者はグレイだ。
まあ、之も予想はしていたが。
「それじゃあ始めるか」
無手のまま構えを取る。
「おい。まだ俺は良いなんて言ってないぞ!!」
ナツが声を上げるが、丸め込むなど容易い。
「如何した。お前が勝てばいいだけの事だろう?まさか勝算も無く挑んでくるわけじゃあるまい。それともお前の魔法は口先だけの大した事無いモノなのか?」
「巫戯けるな!イグニールの教えてくれた魔法は最強だ!!」
よし、乗ってきた。
呆れ顔をするグレイを他所に集中する。
自己に埋没し、回路に魔力を流す。
「―――
自らの身体に強化を施す。
強化を施すと同時にナツが突っ込んでくる。
「いくぜ!火竜の鉄拳っ!」
炎を纏わった右手をこちらに突き出す。
半身を反らして左に避け、そのまま腹に膝蹴りをかます。
ナツは息を詰まらせるが、それで止まるとは思っていない。
「ぅおりゃあっ!!」
炎を纏わり付かせたまま裏拳で横に薙ぐ。
それを後ろに跳んで避ける。
同時に左から冷気を感じる。
そのまま真上に跳躍する。
「アイスメイク〝
放たれた無数の氷の槍がさっき立っていた場所に突き刺さる。
避けれたことに安堵する暇も無く次の攻撃が来る。
いつの間にか滞空していたナツが炎を纏った脚を振り下ろす。
「火竜の鉤爪っ!!」
咄嗟にガードはしたものの空中で踏ん張りなどきく筈も無く、ガードごと吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
「ぐっ!」
「どうだ!!」
ナツの声が聞こえる。
本来の俺ならここで終わっていただろうが、土埃を払いながら立ち上がる。
右腕には以前に投影して巻き付けたままの赤い布切れ。
“聖骸布”と呼ばれるそれは
ただし、この聖骸布自体での防御は出来ない。
あくまでエミヤが完全な投影が可能なのは剣もしくはそれに準ずる物だ。
それ以外の投影品は少し傷が付いただけで消えてしまう。
故に右腕の特に聖骸布への攻撃は防がなければならない。
避けられない状況を作り出されたら、右腕を防ぐが故に他の防御を捨てなければならなくなる。
「クソッ。これだからなまじ強い魔導士との戦闘は嫌いなんだ」
「何だ。もう降参か?」
グレイが言う。
「ただの戯言だよ。少し見積もりが甘かった」
「へぇ、Sランク魔導士にそう言ってもらえるとは光栄だね」
皮肉に皮肉で返してくるグレイ。
「調子に乗るな。あくまで俺だからこそだ。他には通用しない」
「上げといて下げんのかよ」
げんなりとした様子だが気になどしない。
「事実だ。俺は他のSランクと比べれば“最弱”だからな」
そう、この身に魔術の才など無い。
ましてや剣の才も無い。
戦闘における才など二流までしか身に付かない。
故に最善の状態を作り上げてからの戦いで漸く勝ちを収めるしかない。
その為の布石は
「少し本気を出すか。―――
両手を前に突き出し、空に幻想を編む。
剣の丘に埋没し、引き抜いたのは二振りの無銘の剣鉈。
両腕をダランと垂らし構えを取る。
「本気、ね。なめられてたのか?」
グレイの問に悠然と答える。
「いや。君達は俺より遥か強い。ただの“喧嘩”から“戦闘”にランクアップしただけの違いだ」
この身に慢心など無い。
この世界の魔導士に比べれば、俺は遥かに劣っているのだから。
「来い。お前達の答えが正しいか証明して見せろ」
「言われなくても―――」
「やってやるぜ!!」
芸が無く突っ込んでくるナツ。
その手には炎を纏っている。
「火竜の鉄拳っ!!」
突き出してくる拳を僅かに身を引きながら回転させ、その遠心力を使って剣鉈の棟で後ろから首を叩く。
「ガッ!」
「突っ込んでくるだけの攻撃なぞ二度も見せられれば返し技の一つは考え付く」
身体は地面に崩れようとしているがナツは意識を保っているようだ。
だが止めを刺す必要は無い。
「アイスメイク〝
殺到する氷の槍が俺が避けた場所に突き刺さる。
その衝撃に吹き飛ばされ、ナツは顔面から地面に叩きつけられる。
「グゲッ」
「チッ。邪魔なんだよ炎野郎」
両方を相手にする必要など無い。
二人の魔導士を相手にするなど苦行でしかないが、この二人の場合は戦力は一人分として数えていい。
本来チームでの戦いは仲間を巻き込まない様にするがこの二人にはそれが無い。
何故ならこの二人ひたすらに相性が悪い。
例えるなら蒼崎の姉妹。
……いやそれよりは下か。
まあ放っておけば必ず潰し合いを始める。
最も脅威の方が潰れてくれたし、こちらの方が遣り易い。
滅竜魔法なぞ訳の解らないモノを剣で受ける気にはならない。
「さて始めるか」
「……さりげなく酷いな。お前」
「さあ?何の事だ」
再び構えを取り、迎撃に備える。
「アイスメイク〝
放たれる氷の槍。
この魔法はグレイを中心に巻いてくる様に飛んでくる。
ならば中央を駆け抜けるのが最良。
魔力ブーストを上げ、氷の槍の間を駆ける。
飛来してくる氷の槍を剣鉈で弾きながら距離を詰める。
効果が無いと見ると、グレイは氷の槍を解く。
「クソッ!
氷の造形魔法で作られた砲撃が跳ぶ。
即座に剣鉈の投影を破棄。
「―――
撃鉄を打つ音と共に現れたのは細身の西洋剣。
聖騎士ローランが持ち、決して折れず、切れ味の落ちないといわれた宝具 。
〝不滅の刃〟デュランダル。
それを飛んでくる氷の砲撃に縦に斬りかかる。
「おおおおぉぉぉぉ!!」
声を上げながら、剣の柄を握り締め押してくる勢いに逆らい駆け出す。
左右に分かれる氷塊を見てグレイは氷の砲撃を解き、距離が縮まった俺との迎撃に入る。
グレイが造形魔法で作り出した氷の双剣を見た瞬間、デュランダルを破棄し更に投影。
作り出すのは弓兵が最も信頼を置く陰陽の双剣。
太極図を表すその剣の銘は干将莫耶。
白黒の短い双剣を振りかぶる。
氷の剣と鉄の剣がぶつかり合う。
薙ぎを受け、払い、一撃。
突きを反らし、押しのけ、一撃。
こちらが守勢に徹するに対して、グレイは氷の剣を振り回すだけ。
純粋な剣士同士の戦いならば互角どころか不利になっているだろうがグレイに対してそれは無い。
グレイは造形魔導士だから本来クロスレンジでの打ち合いなど想定していない。
打ち合いに持ち込めば勝手に焦り始める。
更に言えばグレイの造形魔法は左の掌に右の拳を乗せるという動作を行い発動させるモノが多い。
こうして打ち合いに持ち込むことで他の造形魔法も封じられる。
そしてこちらは最小限の動きだけで、グレイは力任せに大振り。
こんな事を繰り返していれば―――
「ハァ、ハァ……クソッ。何でテメェは息が上がってねぇんだ」
「経験の差というやつだ」
疲労が溜まってくる。
集中力も途切れてくる。
一瞬気が緩んだ瞬間に回し蹴りで脚を払う。
「ウォ!?」
態勢を崩され、素早く立ち上がろうとしたグレイの首に白剣を宛がう。
「まだ続けるか?」
「いや。降参」
短い返答の後、グレイは地面に転がりゼェゼェと荒い呼吸をする。
ナツはまだのびたまま。
「それだけ強けりゃ、力がありゃアイツだって守ってやれるだろう?何でアイツの傍にいてやら無いんだ」
グレイから不意に放たれた言葉に思ったように返す。
「俺が強いなど有り得ないな。お前が弱いだけだ。それにな、
長い沈黙の後、ふと思ったことを口にする。
「お前にエルザを任せたいと言ったら如何する?」
「断る」
即座の返答。
期待はしていなかったが。
「アイツの隣を歩けるのはお前だけだろう」
またその話か。
いい加減聞き飽きた。
「俺は準備があるのでな。先に帰る。ナツはお前が背負って帰れ」
踵を返しその場を立ち去ろうとする。
最後に耳に入ったグレイの言葉が妙に印象的だった。
「何で爺さんが三日与えたのか考えろよ」
子供が妙に悟ったように言いやがって、と内心毒づいていた。
あれぇ?
今回で本編にとぶはずだったのに。
戦闘にかなり尺取られました。
次回まで過去編は続きそうです。
お楽しみに。