リトルステラのゼラニウム   作:ゆきますく

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真っ白のキャンバスみたいな日々に、少し色が足されるだけで、鮮やかに見えてしまう。
でも、きっと、それだけじゃない。それだけじゃない何かが、視線を手放さない。
見つめてしまう。目で追ってしまう。その姿を、その背中を。




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「どうして、貴方は『ロミオ様』でいらっしゃるのですか……? その名前を捨て……いえ、せめて私を永久に愛して下さると誓っていただけるのなら、私もキャピュレットの名を捨てて貴方をお慕いいたしますのに……」

 

「どうして……どうして貴方は『ロミオ様』でいらっしゃるのですか! その名前さえお捨てになってくだされば! せめて! 私への愛を永久にお誓いいただけるのなら、喜んでこの名を捨ててみせますのに!」

 

夜の体育館に響く声。息切れするような熱気の入り混じった空気に、秋の風が、少し空いた窓から吹き込んでくる。夏の名残と、冬の予兆を携えた風。そんな中で、汗を振り払いながら役を務めきる彼女の姿を見つめていた。

「どっちが、良かった、ですか?」

「優劣つけがたいな」

「え?」

「どっちの解釈も、きっと正しい。自分の運命を呪ってロミオに何とかしてほしいと願う儚いジュリエットも、自分には運命に抗う覚悟があるのだから共に行こうと言う力強いジュリエットも」

脳内にさっきの姿を映しだす。二つの姿を思い浮かべて、イメージ上のジュリエットの姿に重ねてみる。どちらもしっくりくる。どちらでもいい。なら。

「だから、はっきりしないな」

「それじゃ、お芝居にならないんですけど……」

「うーん、じゃあ、田中さんはどう思う?」

「私、ですか?」

「うん、愛する相手が、どうしようもないことで離れて行ってしまいそうな時、運命を呪って相手に切り開いてもらうのを待つのか、それとも、共に切り開こうと覚悟を決めるか」

その問いに、田中さんは開いた口を閉じた。ステージの上で力なく座り込んでいたが、膝を抱えて綺麗な三角座りに座り直すと、床を見つめたまま動かなくなった。しばらくそれを見ていたが、時間がかかるだろうと思い、俺も体育館の床に胡坐をかいた。

 

「私は、きっと、待ちます」

 

徐に、姿勢を変えずに、呟いた。

 

「私に、彼をどうこうするよう指図するなんて、きっとできないと思うから」

「なるほど。じゃあ、ロミオが未来を切り開けない人だったら?」

「それは……もう、諦めます。そういう、運命だと思うので」

「運命、か」

胡坐をかいたまま、両手を後ろについた。天井を見上げてみる。イメージを描いてみる。本番の真っ暗なステージで、スポットライトを浴びて、衣装を見に纏い、ロミオに向かって叫ぶ彼女の姿は、意に沿った儚き少女か、意に反した強き少女か。

そんなの、決まってる。

「じゃあ、やっぱりジュリエットも待つんだよ。きっと、いつまでも」

「いつ、までも……」

「これは田中さんが演じるジュリエットだ。ただのジュリエットじゃない。田中さんらしくていいと思う」

「それは……そんなので、いいんでしょうか」

「そんなのって、人聞きが悪いな。文化祭の出し物として、これ以上ない選択だと思うけど」

「だって、きっとシェイクスピアはもっと大人の恋愛として描こうとしてるのに――」

「そこ、そこだ。大人である必要なんてないだろ」

体を起こす。と同時に、彼女に思わず指をさす。彼女も姿勢を崩して前のめりになっている。答えるなら、今だ。

「大人になってしまったら、きっと今の田中さんの気持ちは入らなくなってしまう。今の田中さんだからこそできる演技があるはずだ」

ステージ上で、俺の答えに面食らったように、目を見開いて静止している彼女の姿を、フロア側から見上げてみる。確かに、俺は演技は素人……というかしたこともないし、演出だってしたことないけれど。とはいえ、意見を求められてるんだ、自信ない姿は見せたくない。

それに。

 

「あと、そっちの方が、きっと意味がある」

 

これはあくまで出し物だ。文化祭の演目のひとつなんだ。それなら、上手いとか、原作に忠実とか、そんなことよりも大事にすることは、たったひとつだ。

 

「田中さんの演じるジュリエットは素敵だろうけど……それより、みんな、ジュリエットを演じる田中さんが見たいんだ、多分」

 

 

 

「……分かりました。とりあえず、やってみます」

「よし、じゃあまずはさっきのシーンから行くか。ここまで見たんだし、最後まで付き合うよ」

「はい、お願いします」

少し考え込んだかと思うと、次に目を上げた時には力強い笑顔だった。きっと、その奥底に宿る考えは、これからの演技にぶつけられる。息を一度だけ飲んだ。

さあ、最後の追い込みだ。

 

 

*

 

 

「これで全部か?」

「そう、ですね」

「やっと終わったなぁ……ここまで長かった」

なんだかんだ全部の台詞を読み直したため、気づけば夜の十一時だった。あれから五時間近くはやっていただろうか。思うと、時の流れは早い。二人して体育館のフロアに寝転がった。台本を床に置いて、読んで、ステージに登って、演じて、見て、話し合って……何度も繰り返した結果、全身が疲労感に襲われていた。少しの熱気が体の中から溢れて包み込む。動くことを忌避し続けてきた足に乳酸が駆け巡る。着ていた制服のシャツの裾を出してパタパタと仰いだ。十月の未熟な木枯らしが心地いい。こんな感覚は、久しぶりだった。

「そういやさ」

目を閉じると、全身の疲れが頭の中をクリアにしていく。その時、消化しきれなかった疑問がひとつ。

「なんでクラスの子は練習残ってないんだ?」

「あー……いえ、別に深い意図はないんですけど」

「聞いちゃまずかったか?」

「そういうのじゃないんですけど……私があまり練習に参加してなくて」

右隣で寝転がる田中さんの表情は見えない。こちらを気にかけることなく、天井を見つめていた。

「なんか、私だけ張り切ってるみたいで、ちょっと変というか、一緒に練習しづらくて」

あはは、と付け加えたような笑いを挟んで、ふう、と息をつく。その声は、やはりどこか寂しそうで。

「最初の体育館練習の時には、台詞や場面は全部覚えていったんです。でも、みんなはまだ全然で、私だけ張り切ってて、みんなとペースが違って、このままだと和を乱しそうって思ったら、気づいたら抜け出してたんです」

「……うん」

「みんなにとって、この劇はそんなに魅力的じゃなくて、たぶん、出し物のひとつで……だから、計画で決めてた通り、今日は六時までの練習だったので、それで解散でした。私もそうすればよかったんですけど、なんか、入りづらくて。結局みんなが帰るタイミングで入れ替わって入ったんです。ただの我儘だと言われれば、そうです。だから本当は私がこんなことしても意味はなくて……むしろ、みんなは楽しくやれればいいのに、私だけ張り切ってて場違いっていうか」

「……そう」

「だから、副会長のさっきの話は、ちょっと驚きました。私、勘違いしてたんですね。シェイクスピアを本気で再現しようとしてたけど……みんなは、そんなこと求めてなかったって、なんだか納得しちゃいました。私……馬鹿だなぁ。ずっと空回りして……」

「……そうか」

「結局それからも、委員会の仕事だなんだって言い訳して、体育館練習一度も行ってないんです。クラスの子とも劇の話をしないようにしてて……もう少し気を緩く持って、合わせておけば良かったですね。こんなことなら、もっと早く気づけば良かったなぁ」

天井のスクリーンにクラスメイトの姿を思い浮かべているであろう田中さんに、目を奪われる。そして、眉に力が入るのが分かる。

「そんなこと、ないんじゃないか」

「え?」

言葉が止まったのを確認してから、視線を天井に戻した。

「まるで、誰もついてこない、みたいな言い方。残酷じゃない? だって……中には、今も必死に台本を読み返してるやつがいるかもしれないし、合わせられるように頑張ろうって思ったやつだっているかもしれない」

溢れ出る言葉を、宙に投げてみる。熱気を帯びたそれを、投げる方向や意味を考えないまま放り出してみる。隣を見ると、田中さんは何か反論しようとしたのか――口が開いて、止まった。思い当たる節があるのかもしれない。再び思考の海に沈んでいく田中さんを横目に、俺は大きく息を吸った。体から熱気が抜けていく。

「……見てたんですか?」

「いいや、全く。だから何の根拠もないけどさ」

「そ、そうですか……」

「まぁでも、あながち間違ってないと思うけどな」

あんまり感じることのない、満ち溢れる自信を言葉に忍ばせると、顔が綻ぶ。根拠がないのにこんなこと言うの、普段なら絶対にしないけれど……こんな時ぐらいいいだろう? と脳内のもう一人の自分が囁いた。夜の体育館に漂う熱気と床からくる冷たさに、どこか心地よさを感じていた。

 

 

*

 

 

「じゃあ、ここまでかな」

「はい。今日は……ありがとうございました」

「こちらこそ、いいもの見せてもらったよ。ありがとう」

校門の前まで出てきて、軽い会釈をする。スクールバッグを肩から下げた田中さんも、それに応じて、いつもみたいな綺麗なお辞儀ではなく、会釈で返した。

空を見ると、都会の光ですっかり星が見えなくなった、真っ黒の夜空があった。見上げてもまだ視界に入る街灯の光に少しの煩わしさを感じながら、視線を戻した。

「さっきも確認したけど、送らなくて大丈夫?」

「はい、ここからすぐなので……」

「分かった。じゃあ、気をつけてね、十一時過ぎてるし」

「そう、ですね。副会長もお気をつけて」

「ありがとう。じゃあ、明日楽しみにしてる」

「はい。また明日」

 

 

*

 

 

文化祭当日。他校からも人が来ていることもあってか、校舎内には、人・ヒト・ひと。どこもかしこも人だらけで、その蒸し暑さを避けるように生徒会室の扉を叩いた。

「なんだ、副会長か」

「なんだってなんだよ。会長こそなんでこんなところに」

「僕は店番ローテ外してもらってるからね」

「店番? ああ、クラスのか」

「そう。うちは射的と焼きそばの模擬店だよ。副会長のところは?」

「クレープの模擬店やってるって言ってたな。ルーレットで当たりつき、らしい」

「らしいってどういうこと……? まさかほとんど関わってないとか……?」

「まぁ、こっちで忙しかったから」

「全然でしょ……むしろこの部屋でぐうたらしてることの方が多かったじゃん」

「案出したのは俺だから。採用されたかまでは知らなかったんでさっき聞いただけだが」

「酷すぎる」

最後の文化祭がこんなのでいいのか、なんて二人して笑いながら、俺も会長の近くに腰掛ける。

「そういや、今年はうちの先生たち張り切っててさ」

「何かあったっけ」

「なんか、どっかのアイドル事務所のゲリラライブやるんだって」

「そんなの言ってたか?」

「聞いてないけど、今朝先生から放送部に連絡あったんだって。校内放送で連絡流してって」

「まだかかってないよな?」

「うん。あんまり早いと人が殺到するからって、三十分前に流すらしい。部長から聞いたよ」

「へえ」

冷蔵庫にあった紅茶をとって、ひとくち。自分のところの文化祭なのにどこか遠いところの話のように思えるその話を聞き流して、紅茶の香りと甘さを噛み締める。

「でも、なんか可哀想な話でさ」

「ん?」

「そのライブの関係で、舞台発表の予定がちょっと変わるらしくて」

「……ライブ、いつ?」

「えっとね……あ」

 

「ちょうど、田中さんの手前だ。ライブが終わったらすぐ、『ロミオとジュリエット』だよ」

 

 

*

 

 

確かに、会長の言う通り、放送がかかった。765プロ、というアイドル事務所のゲリラライブらしい。人がぞろぞろとグラウンドの方へ流れていく。

人混みをかき分けて、まだ発表が始まっていない体育館に足を踏み入れる。最後の準備や調整のためにがちゃがちゃと音が満ちる空間。ここにいるはずだ、彼女は。そう信じて、2-Aのクラスを探す。劇だから、ステージの近くだろう。早歩きだった足は、駆け足に。焦った呼吸が乱れて、視界の端から端を隈なく探す。

見つけた。2-Aだ。

「田中さん、いる?」

「琴葉なら……あれ、いないね」

「田中なら朝はいたぞ」

「うん、で、しばらくみんなで文化祭見て回ろうってなって」

「私琴葉ちゃんと一緒に回ったよ?」

「お昼挟んで、ここに集合ってなってたんですけど……」

「それから、見てないか」

「そう、ですね……すいません」

「いや、いいんだけど。……リハーサルとか、やった?」

「それが……まだ」

「琴葉、結局あれからも残ってやってたんだよね?」

「らしいね。今朝眠そうだったよ」

「大丈夫かなぁ……あと十五分でリハーサルなのにぃ」

「え?」

「ほら、アイドルのライブがあるとかで、予定がちょっと変わって、リハーサルが早まってるんです」

「琴葉とまだ合わせてないの、やっぱり不安だよね」

「きょ、今日まだ琴葉ちゃんと劇の話してないよ……!」

「あれから練習できてないし、ちょっと避けられてる感じあったしなぁ」

「でもでも! 琴葉が最後まで練習してたなら、きっと大丈夫だよ!」

「そうそう、大丈夫だろ、田中なら」

「無責任なこと言わないでよ!」

「私……やっぱり探してこようかな」

「ちょっと! 明美までいなくなったら本当に進まなくなるから!」

「監督はゆっくり腰据えて待っててくれよ。ここは俺ら男子が!」

やっぱり。色んなことに合点が入った時、必要なピースがここにないことだけがはっきりと分かる。

伝えなきゃ、ちゃんと。

「いや、俺がいくよ。用があるのは俺もだし」

「え?」

「いや、でも……」

「生徒会としてのことなんだ。十五分後だったな? 必ずここに連れてくる」

「す、すいません……よろしくお願いします」

 

とりあえず思いつくところへ行ってみるか。タイムリミットを背中で感じながら、左足で強く体を前へ押し出した。

 

 

*

 

 

しかし、案外変なところにいるもので。

「田中さん?」

「え、あ、副会長。ど、どうされたんですか、そんな急いで」

文化祭の間は人がいなくなる、一階職員室前の廊下。中央階段に向かうその背中を見た時、足の力が抜けそうになった。四階までの往復で息が上がり、顔からも汗が吹き出している今の俺は、さぞ不気味に映っただろう。

「よかったぁ……どこ行ったのかと思って心配した」

「え? わ、私を探してたんですか!?」

「そうだ。……とにかく、ついてきて」

「え!?」

「間に合わなくなるから!」

中庭の時計を見ると、リハーサルまであと五分。早く行かないと。左手をとって、そのまま中央階段を駆け上がる。

「ちょ、ちょっと待ってください! 何が何だか……」

「リハーサルに間に合わなくなる、急ぐぞ!」

「リ、リハーサルってまだあと三十分もありますよ!?」

「予定より早まってるから、あと五分しかない!」

「え、そんな――」

声を聴くことをやめて、渡り廊下を抜ける。人混みが視界に飛び込んでくるのを、必死にかき分ける。なんとか通路まで辿り着いて、一息。体育館の扉の目の前。重厚なそれの向こうに、まだ準備の喧騒が広がっている。

 

大きく一度空気を吐き出す。力を抜くと、新鮮な空気が体の中に入ってくる。右にいる彼女に向き直る。

 

「田中さん」

「え、は、はい」

「クラスのみんなのこと、心配してたけど……やっぱり、予想通りだった。ちゃんと、みんな頑張ってた」

「……はい」

「だから、精一杯、できる限り、やってきたらいい」

「それを、伝えるために?」

「最後まで付き合うって言ったからな」

「そう……ですか」

「直前にアイドルのライブがあるらしいが、そんなの気にすることない。田中さんの演技は……それをきっと塗り替えるほどだから」

 

リハーサルの前に、どうしても、彼女のクラスを見ておきたかった。その思いだけで来たが、少しお節介だったような気もした。だけど、今ここでそれを崩してどうする、と自分から自分に向けられる戒めの視線が蘇る。今は、この時だけは、自信がないことを悟られないように。

 

「わかり、ました」

「本番、早まったらしいけど、楽しみにしてるから」

「……はい。ちゃんと、見ていてくださいね?」

 

 

*

 

 

送り出した後、しばらくして携帯が鳴った。生徒会しか使えないそれに連絡が入るということは、仕事だ。グラウンドに呼び出され、ライブ後の誘導を担当することになった。有名なアイドルのライブということもあり、人の量が校内より多く感じるほどで、声と足音と熱狂で埋め尽くされ、聴覚すら逃げ場がない。

その終わりが告げられた瞬間、揺れ動く影と熱気に押しつぶされそうになりながら、校舎についた時計を見つめる。あと数分で始まる。田中さんの、ジュリエット。自分のことのように、胸の奥から湧き上がる不安と期待が入り混じった濁った感情を、騒音の中でただ一人抱き続けていた。

「どうしたの、そんなに焦って。何か困ったことでも?」

そんな時、揉まれる人混みの中から、背中に呼びかける聞き慣れた声。

「いや、困ったことはないんだが」

「……って、わかってるよ。田中さんの劇だろ? いってきなよ」

「え?」

「なんか色々関わってるんだって? 書記の子が言ってたよ」

「ああ……まあ、そうだな」

「ここはなんとかしておくからさ」

「すまんな、貸しひとつだ」

「気にするなよ。ほら、早く」

「……ありがとな」

 

息を切らし、階段を登った先、体育館の二階の通路――運営関係者用入口――からこっそりと入る。うっすらとした人の熱気。息が詰まる空間。中はすっかり暗くなっていて、スポットライトがステージ上に当てられている。しんと静まり返る中で、ただ一人の声が響く。

その主は。

 

「あれはもしや……! ここで見つかってはまずい。隠れていよう」

爽やかな男子の声がして、場面が蘇る。庶民の服に身を包むロミオが、バルコニー下の草むらへと潜り込み、見上げる。さながら、太陽を見つめるように。

 

その時、スポットライトがバルコニーにあたる。奥から現れたのは。

 

 

「ロミオ様、ロミオ様……! どうして、貴方は『ロミオ様』でいらっしゃるのですか……! その名前を捨て……いえ、せめて私を永遠に愛して下さると誓っていただけるなら、私もキャピュレットの名を捨てて貴方をお慕いいたしますのに……!」

 

彼女だ。息を呑むほど張り詰めた緊張と、光を浴びるその姿に言葉を失う。

 

「その言葉……しかと受け取った。我が愛のため、この名などくれてやる。君のために、生まれ変わってみせる」

「誰!? 誰かそこで聞いているの……? それがもしロミオ様でしたら、どんなに嬉しかったでしょう……」

紺と白のドレスを身に纏った彼女が、バルコニーから叫ぶ。がさ、と動いた草むらから、ロミオは舞台袖へと消えていく。ジュリエットの呟きは、儚さを残しながらも輝きを放つ、流星のような意志の強さをもっていた。

 

田中さんは、何を思って、この台詞を読んだのだろう。

練習の時に、何度も読んだ台詞。色んな「ジュリエット」を考えて、そして、田中さんが選んだジュリエット像が一番表れている台詞。

 

彼女の輝きは、決してロミオにだけ向けられたものではなく、観客全員にその輝きの強さを知らしめた。会場は、彼女のその姿に釘付けになる。俺たちの視線は、彼女からスポットライトが消えるまで、その姿から目を離せなくなっていた。

 

 

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