アルティメットライフフォーム   作:感謝君

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思い付きで書きました。
似たような作品あったら教えてください。








第一話

 

 

春特有の、うららかな陽気が部屋の窓から差し込んでいた。

 

 

本来なら、大学四回生という人生の岐路に立たされた俺──────高橋恭平は、シワ一つないリクルートスーツに身を包み、品行方正な就活生の仮面を被って街を奔走していなければならない時期だ。

 

 

 

だが、俺がしていたことと言えば、実家の自室のベッドで寝返りを打ち、昼過ぎまで泥のように惰眠を貪ることだけだった。

 

 

 

迫り来る『社会人』という名のモラトリアムの終焉。

 

 

考えるだけで胃がキリキリと痛むような憂鬱な日常。

 

 

しかし、神は俺を見捨てなかった。

 

 

いや、世界を味方につけたと言うべきか。

 

 

突如として、最高にエキサイティングで不謹慎な「朗報」が、この退屈な日常を木っ端微塵に吹き飛ばしたのだ。

 

 

 

そう、どうやらゾンビパンデミックが発生したらしい。

 

 

 

就職活動という、日本社会が作り上げた最高峰のクソゲーに参加しなくて済む。

 

 

 

その一点において、俺はこの世界の崩壊をどこか冷めた、それでいて奇妙な高揚感を持って受け入れていた。

 

 

 

ただ、一つだけ誤算があるとすれば、この厄災のルールが少々ハードモードすぎる点だろう。

 

 

 

映画や漫画によくある、足を引きずりながら「あー……うー……」と弛緩した声を漏らす、あの愛すべき『死に損ないタイプ』なら、どれほど楽だったか。

 

 

 

現実に現れた化け物どもは、そんな生易しい代物ではなかった。

 

 

 

獲物を見つければ、狂犬のごとき速度で四肢を駆動させ、アスファルトを蹴って肉薄してくる。

 

 

 

痛覚を失い、ただ目の前の生肉を貪り喰うことだけに特化した、バイオ○ザードもかくやという戦闘狂(バトルジャンキー)の群れ。

 

 

 

それが、現在のこの世界の新しい住人たちだった。

 

 

 

「……グガッッ……! ガ、ブ、ルゥッ……!」

 

 

肉塊と化した化け物が、コンクリートの地面に頭部を叩きつけられ、最後の不快な音を漏らして動かなくなる。

 

 

 

俺はその凄惨な死体を冷ややかに見下ろし、ふぅ、と小さく息を整えた。

 

 

「……まぁ、いい準備運動にはなったか」

 

 

右手に握られた鉄パイプを軽く肩に担ぎ直す。

 

 

かつては工事現場の足場か何かに使われていたであろうその金属の棒は、今や赤黒い肉片と脳漿でべっとりとコーティングされていた。

 

 

 

俺の視線の先、ひび割れた道路の奥には、数え切れない数の化け物たちが息絶えた様子で累々と重なり合っている。

 

 

 

首が異常な方向に折れ曲がったもの、胸部が陥没したもの、頭部が完全に破裂したもの。

 

 

 

それらすべてが、つい数十秒前まで俺に襲いかかっていた狂戦士たちの成れの果てだった。

 

 

 

静まり返った街に、ポケットの中で震えるスマートフォンのバイブ音が異様に大きく響く。

 

 

 

画面を見ると、ディスプレイには『親父』の二文字。

 

 

混乱の極みにある世界で、辛うじてまだ繋がっている貴重な電波を拾い上げ、画面をスワイプした。

 

 

 

「あっ、親父? 今どこいんだ?」

 

 

『恭平か!? 無事なのかお前! 俺は今、市役所の近くにある指定避難所の体育館にいる! ここはまだ警察もいて安全だ、お前も早く────』

 

 

受話口から聞こえる父親の声は、予想通り酷く動転していた。

 

 

 

背後からは、大勢の人間が泣き叫び、怒号をあげる喧騒が雑音として紛れ込んでいる。

 

 

 

俺はふん、と鼻を鳴らした。

 

 

 

「あー、あそこの避難所か。悪いこと言わないから、人が多いところは避けた方が良いぞ。一匹でもあの化け物に忍び込まれたら、閉鎖空間なんて一瞬で崩壊するからな」

 

 

 

『な、何を言っているんだ! ここには武器を持った警備の人間もいるんだぞ!』

 

 

「その武器が通用する相手じゃないってのは、外を見てりゃ分かるだろ。

……まぁいいや、とりあえず急いでそっち向かうわ」

 

 

『バカ言え! 外はバケモノだらけなんだぞ! 危ないからやめろ!』

 

 

「大丈夫大丈夫。親父はなるべく人が少なくて、いつでも外に脱出できる位置で待機しておいてくれ。死ぬなよ」

 

 

父親の悲痛な制止の声を遮るようにして、通話終了のボタンを押す。

 

 

 

液晶画面に触れた指先が、ゾンビの返り血で真っ赤に染まっていた。

 

 

生温かく、鉄錆の臭いが鼻を突く液体が、スマートフォンのガラス面を汚していく。

 

 

「……汚ぇな、マジで」

 

 

顔をしかめ、俺は手近に転がっていたゾンビの頭部を、八つ当たり気味に思い切り蹴り飛ばした。

 

 

サッカーボールのように放物線を描いた頭部が、近くの電柱に激突してぐしゃりと嫌な音を立てて弾ける。

 

 

 

ズボンの裾で指先を雑に拭うと、俺は親父がいるという避難所へ向かって歩き出した。

 

 

 

壊滅しつつある街の風景は、どこか現実味を欠いていた。

乗り捨てられ、煙を上げる車の数々。

 

 

 

あちこちから上がる悲鳴と、それを追う化け物たちの獣じみた咆哮。

 

 

 

そんな地獄絵図の向こうから、また新たな足音が近づいてくる。

 

 

「チッ……また雑魚かよ」

 

 

吐き捨てるように呟き、歩調は緩めない。

 

 

前方の路地裏から飛び出してきたのは、計四体のゾンビだった。

 

 

 

血走った目を爛々と輝かせ、人間の肉を求めてよだれを垂らしながら、猛烈なスピードでこちらへ突進してくる。

 

 

 

その動きはまさに肉食獣そのものだ。

 

 

だが、俺の心にあるのは恐怖ではなく、ただの気だるさだった。

 

 

「オラァッ!」

 

 

一歩、踏み込む。

 

平均的な成人男性なら片手で持つことすら苦労する、ずっしりと重い鉄パイプ。

 

 

それを、俺はまるで軽い紙切れか指揮棒でも扱うかのように、雑かつ豪快に振り回した。

 

 

 

遠心力と圧倒的な質量を乗せた一撃が、先頭のゾンビの側頭部を捉える。

 

 

 

硬い頭蓋骨がガラス細工のように容易く粉砕され、二体目の顔面へと直撃した。

 

 

 

巻き添えを食う形で二体が同時に吹き飛び、路面のコンクリートへと激しく叩きつけられる。

 

 

 

返す刀で、残りの二体の足を狙って鉄パイプを真横に一閃。

 

 

 

凄まじい衝撃波と共に、ゾンビたちの膝から下が文字通り「消し飛んだ」。

 

 

 

バランスを崩して地面に這いつくばった化け物どもの頭を、歩みのついでに容赦なく踏みつぶす。

 

 

 

熟しきったスイカが割れるような感触が、靴底を通じて伝わってきた。

 

 

 

パンデミックが発生してからというもの、俺の身体には明確な『異変』が起きていた。

 

 

 

明らかに、人知を超えた膂力を発揮しているのだ。

 

 

俺の体格は、身長169cm体重90kg以上。

 

 

お世辞にもスタイリッシュとは言えない、いわゆる「筋肉デブ」といった具合だ。

 

 

 

パンデミックが起こる前から体格はそれなりで、惰性でやっていた筋トレや、元々の遺伝もあって、筋力自体は常人の倍程度はあった。

 

 

 

だが、それにしても今のパワーは異常だ。

 

 

鉄パイプを軽く振るだけで衝撃波が生まれ、人間の骨を容易く粉砕し、肉塊へと変える。

 

 

リミッターが完全に外れたかのような、圧倒的な暴力の権化。

 

 

「まぁ、こんな時に限っては都合が良い」

 

 

背後で、生き残った一般人たちが、腰を抜かした様子で俺の背中を見上げていた。

 

 

彼らの目にあるのは、ゾンビに対するものとはまた違う、怪物を目撃したかのような恐怖の色だ。

 

 

だが、難しいことは考えない主義の俺は、そんな逃げ惑う一般人を横目に、ただひたすら目の前の化け物を粉砕していく。

 

 

この異常な力が何なのか、世界がどうしてこうなったのか。そんなことはどうでもいい。

 

 

 

今はただ、五月蝿いゾンビどもを蹴散らし、目的地へと歩みを進めるだけだった。

 

 

 

 

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