(魔界の)神様(に)転生!そして伝説へ…   作:ぶーく・ぶくぶく

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布告

 

/*/ ロモス国王シナナならびにロモス国政庁より、地上諸国へ告ぐ /*/

 

 

 

このたび、アルキード王国において重大なる事態が発生した。

 

かの国において、天界より遣わされし地上の守護者、竜の騎士バラン殿が、その身の出自と力を理由として捕縛され、処刑されんとしていたのである。

 

竜の騎士は、冥竜王ヴェルザーを封じ、地上と魔界の双方を破滅より救った功績ある存在である。

 

その功績を知らず、あるいは知ろうともせず、恐怖と偏見によってこれを殺害せんとする行いは、地上全体の安寧を損なうものと判断せざるを得ない。

 

よって、ロモス国は大魔王バーン様ならびに魔王ハドラー殿の判断に基づき、竜の騎士バラン殿、その妻ソアラ殿、ならびに両名の御子を緊急に保護した。

 

これはアルキード王国に対する侵略行為ではなく、地上の守護者たる竜の騎士とその家族を不当な処刑より救うための保護措置である。

 

竜の騎士バラン殿は現在、魔界側の庇護下にあり、その身の安全は保証されている。

また、妻子についても同様に保護され、傷一つ加えられていない。

 

各国においては、以上の事実を承知されたい。

 

また、テラン王国フォルケン王におかれては、竜の騎士に関わる伝承と責務を重く受け止める御立場にあるものと推察する。

 

フォルケン王が竜の騎士バラン殿との面会を望まれるならば、ロモス国はそのための会談の場を設ける用意がある。

 

ただし、会談に際しては以下を条件とする。

 

 

 

一つ、竜の騎士バラン殿およびその家族の安全を脅かさぬこと。

一つ、会談の場において武力行使を行わぬこと。

一つ、竜の騎士を地上諸国の都合のみで拘束、処罰、利用しようとせぬこと。

一つ、竜の騎士本人の意思を尊重すること。

 

 

 

ロモス国は、地上と魔界の安定を望む。

魔のものが光の元で生きる道を求めると同時に、地上の守護者が不当に殺されることもまた看過しない。

 

地上諸国はよく考えられたい。

 

竜の騎士を化け物として殺そうとしたのは人間の国であり、

竜の騎士を守ったのは魔界であった。

 

この事実の意味を、各国は重く受け止めるべきである。

 

ロモス国王 シナナ

魔王軍地上総司令 ハドラー

ロモス国政庁

 

 

 

/*/

 

 

 

 ロモス国からの布告は、地上諸国を大きく揺らした。

 

 それは単なる魔王軍の宣伝ではなかった。

 

 ロモス王シナナの印がある。

 魔王ハドラーの署名がある。

 そして内容は、あまりにも重かった。

 

 アルキード王国において、天界が遣わした地上の守護者たる竜の騎士バランが処刑されようとしていた。

 その身と妻子を、魔界が保護した。

 

 この一文は、地上の王たちから言葉を奪った。

 

 なぜなら、竜の騎士は伝説上の存在である。

 

 神々が地上を守るために遣わす、竜の力を宿した守護者。

 その伝承は国によって濃淡こそあれ、賢者や神官、王家の古文書には残されている。

 

 もし布告が事実ならば。

 

 アルキード王国は、地上の守護者を処刑しようとしたことになる。

 

 しかも、それを止めたのは人間の王国ではない。

 

 魔界である。

 

 カール王国では、宮廷に重苦しい沈黙が落ちた。

 

 フローラは布告文を読み終え、しばらく目を伏せていた。

 

「……魔界は、実に嫌なところを突いてきますね」

 

 大臣の一人が苦い顔で言った。

 

「しかし、魔界の布告をそのまま信じるわけには参りません」

 

「ええ。信じるのではありません」

 

 フローラは静かに答えた。

 

「確認するのです」

 

 宮廷の空気がさらに重くなる。

 

 カール王国は、ロモスに対する警戒を解けない。

 ハドラーの統治がいかに安定していようと、ロモスが武力で制圧された事実は変わらない。

 

 だが同時に、魔界側の主張を完全に否定することもできなかった。

 

 竜の騎士を人間が迫害し、魔界が守った。

 

 その構図は、人間側の正義を大きく揺るがす。

 

 パプニカ王国では、賢者たちが古文書を開いていた。

 

「竜の騎士は実在する」

 

「ならば、バランという男がそれに該当する可能性もある」

 

「問題は、アルキード王国の行為だ」

 

「王女と結ばれた異形の男を恐れた、というだけならば人間の感情として理解はできる。だが、もし彼が本当に竜の騎士ならば話は別だ」

 

 パプニカの賢者の一人が、低く言った。

 

「天界の守護者を殺そうとした国。これは神官たちが黙っていない」

 

 事実、神殿関係者の反応は早かった。

 

 魔界の布告を信用するわけにはいかない。

 だが、竜の騎士を処刑しようとしたという一点については、調査せずに済ませることができない。

 

 もし事実なら、それは単なる政治問題ではない。

 

 天界への不敬。

 地上守護の理への背反。

 そして、人間が恐怖によって自らの守護者を殺そうとしたという恥である。

 

 ベンガーナ王国では、商人たちが最も現実的だった。

 

「アルキードとの取引はどうなる?」

 

「ロモス経由の航路は今や重要だ。魔界側の機嫌を損ねて海の護衛を失えば損害が出る」

 

「だがアルキードを切り捨てれば、人間国家同士の信義に関わる」

 

「信義で船は動かん」

 

 商人たちは冷たい。

 

 彼らにとって重要なのは、航路、安全、利益である。

 

 魔界がロモス航路を安定させている。

 ギアガの大穴と海の大結界によって、世界の海そのものがバーンの力に依存している。

 そのうえで、竜の騎士保護の件まで魔界側に道義的優位を取られた。

 

 ならば、少なくとも表立ってロモスを敵に回すのは危険だ。

 

 テラン王国では、フォルケン王が布告を前に長く沈黙していた。

 

 竜の騎士。

 

 その名は、テランにとって重い。

 

 伝承だけの存在ではない。

 国の歴史と信仰に関わる名である。

 

「……面会の場を設ける、か」

 

 フォルケン王は静かに呟いた。

 

 側近が恐る恐る問う。

 

「陛下。ロモスの申し出を受けるのですか」

 

「受けぬわけにはいかぬ」

 

 王の声は重かった。

 

「もしバラン殿が真に竜の騎士であるならば、テランは彼を無視できぬ。まして、人の国に拒まれ、魔界に保護されたというならば」

 

「しかし、魔界の罠では」

 

「罠であっても、行かねばならぬ時がある」

 

 フォルケン王は布告文に目を落とした。

 

「竜の騎士が人間に絶望しているなら、なおさらだ」

 

 そして、最も苦しい立場に追い込まれたのは、アルキード王国であった。

 

 アルキード宮廷では、王も貴族も顔色を失っていた。

 

「ロモスの虚偽だ!」

 

 王は怒鳴った。

 

「魔界が我が娘とあの化け物を奪ったのだ! それを保護などと!」

 

 しかし、重臣たちはすぐに同調できなかった。

 

 問題は、ソアラ王女が生きていることだった。

 バランも、子も、生きている。

 

 そして、あの場でソアラを殺しかけた呪文が放たれたことを、多くの者が見ている。

 

 広場にいた民衆も、兵士も、神官も、貴族も見ていた。

 

 王女はバランを庇った。

 呪文は王女へ向かった。

 そして、マホカンタに弾かれた。

 

 もしあの反射呪文がなければ、ソアラは死んでいた。

 

 この事実は消せない。

 

 しかもロモスの布告は、そこを正確に突いてきた。

 

 アルキード王国は、竜の騎士を処刑しようとした。

 王女ソアラを巻き添えに殺しかけた。

 その妻子を守ったのは魔界だった。

 

 これに対して、アルキードはどう反論すればよいのか。

 

「バランは化け物だ!」

 

 そう言えば、ではなぜ天界の守護者を化け物と呼んだのかと返される。

 

「ソアラはたぶらかされた!」

 

 そう言えば、王女本人の意思を無視したと見なされる。

 

「魔界が奪った!」

 

 そう言えば、では処刑しようとしていなかったのかと問われる。

 

 どの言葉を選んでも、アルキードの立場は悪くなる。

 

 神官たちは困惑していた。

 

 竜の騎士の伝承を認めれば、アルキードは天界の使徒を殺そうとした国になる。

 認めなければ、テランやパプニカの賢者たちと衝突する。

 そして布告を完全に否定すれば、ソアラ王女本人が魔界側から姿を見せた時に破綻する。

 

 外交使節からは、すでに問い合わせが殺到していた。

 

 カール王国からは事実確認。

 パプニカからは竜の騎士に関する伝承照会。

 ベンガーナからは交易上の安全確認。

 テランからは、バランとの面会に関する打診。

 

 どれも、アルキードに味方するものではない。

 

 アルキード王は歯噛みした。

 

「なぜ我らが責められねばならぬ! あれは人ではないのだぞ!」

 

 老臣の一人が、青ざめた顔で答えた。

 

「陛下。その言葉こそが、今は最も危険にございます」

 

「何だと」

 

「魔界はそこを突いております。人ではないから殺してよいのか、と」

 

 王は言葉を失った。

 

 老臣は続けた。

 

「ロモスでは、人と魔物が共に働いていると聞きます。オークが畑を耕し、スライムが水を清め、魔物が人を獣から守っていると。もしそれが事実ならば、魔界側はこう言うでしょう」

 

 老臣の声は震えていた。

 

「人間は魔というだけで殺そうとし、魔界は人と魔の共生を示している、と」

 

 王の顔が怒りで赤くなり、次に青ざめた。

 

 それは、単なる外交上の不利ではない。

 

 物語を奪われる、ということだった。

 

 これまで人間の国々は、自分たちを地上の正義と見なしてきた。

 魔物は恐怖。

 魔界は闇。

 魔王は敵。

 

 だがロモスは、その物語を崩し始めている。

 

 魔物が人を助ける。

 魔王軍が交易を守る。

 大魔王が海を支える。

 そして今回、魔界が竜の騎士とその家族を救った。

 

 その一方で、アルキードは恐怖に駆られて守護者を処刑しようとした。

 

 この構図が広まれば、アルキード王国は単に一つの失策を犯した国では済まない。

 

 地上の守護者を拒んだ国。

 天界の使徒を化け物と呼んだ国。

 王女を守れず、魔界に救われた国。

 

 そう見られる。

 

 アルキード王国は、急速に微妙な立場へ追い込まれていった。

 

 軍を動かせば、バラン奪還ではなく、竜の騎士への再迫害と見なされる。

 魔界を非難すれば、では処刑は正当だったのかと問われる。

 沈黙すれば、ロモスの布告を事実上認めたことになる。

 

 どの道を選んでも、傷は残る。

 

 一方、ロモス城では、ハドラーが各国からの反応を受け取っていた。

 

 ガンガディアが報告する。

 

「カールは調査希望。パプニカは伝承照会。ベンガーナは交易優先で慎重。テランは面会受諾の方向。アルキードは公式抗議を準備中ですが、文面が定まらないようです」

 

 ハドラーは冷たく笑った。

 

「当然だ。奴らは竜の騎士を化け物と呼んだ。その事実を消せん」

 

 ロモス王シナナは、複雑な表情で言った。

 

「ハドラー殿。これで地上諸国の間に亀裂が入る」

 

「入るだろうな」

 

「それを狙ったのか」

 

「半分は」

 

 ハドラーは答えた。

 

「もう半分は、本当に許せんからだ」

 

 シナナ王は目を上げる。

 

「許せぬ?」

 

「バランはヴェルザーを封じた。地上も魔界も救った。それを人間は化け物と呼び、処刑しようとした」

 

 ハドラーの声には怒りがあった。

 

「魔のものが光の下に立つことを拒むだけでは飽き足らず、自分たちを守った者まで異形というだけで殺そうとする。ならば各国に知らしめてやる。人間の正義が、いかに都合の良いものかを」

 

 シナナ王は沈黙した。

 

 ハドラーの怒りは、政治的計算だけではない。

 

 そこには、魔のものとして生きてきた者の痛みがある。

 

 それを理解してしまったからこそ、シナナ王は軽々しく否定できなかった。

 

 ガンガディアは眼鏡を押し上げ、静かに言った。

 

「問題は、この後です。アルキードは外聞を守るため、バラン殿の返還を求める可能性があります。あるいは、王女ソアラ殿を返せと主張するかもしれません」

 

「返すと思うか」

 

「いえ」

 

 ガンガディアは淡々と答えた。

 

「返せば処刑未遂の続きを許すことになります。魔界側の道義的優位も失われる。むしろ、テラン王フォルケンとの面会を先に実現すべきでしょう。竜の騎士に関わる権威を、アルキードではなくテランに接続する」

 

 シナナ王が呻くように言った。

 

「人間の国同士の関係を、魔王軍が組み替えておる」

 

「陛下」

 

 ガンガディアは穏やかに言った。

 

「すでにロモスも、その組み替えられる側ではなく、組み替える側におります」

 

 シナナ王は目を閉じた。

 

 それは苦い言葉だった。

 

 だが、事実でもあった。

 

 ロモスは敗れた。

 けれど滅びなかった。

 今やロモスの名で、地上諸国へ布告が出されている。

 

 人間の王の印と、魔王の署名を並べて。

 

 ハドラーは地図を見下ろした。

 

「アルキードはしばらく動けん。カールとパプニカは調査に来る。ベンガーナは利益で動く。テランはバランとの面会を望む」

 

「はい」

 

「ならば、次はこちらが場を用意する」

 

 ハドラーは言った。

 

「竜の騎士を化け物としてではなく、地上の守護者として迎える場だ。アルキードに奪わせはせん」

 

 シナナ王は、静かにハドラーを見た。

 

「ハドラー殿。バラン殿を本当に守る気なのだな」

 

「当然だ」

 

 ハドラーは即答した。

 

「魔界は、功ある者を見捨てぬ」

 

 その言葉は、ロモス王の胸に重く残った。

 

 魔界は恐ろしい。

 大魔王バーンも、魔王ハドラーも、危険な存在である。

 

 だがその魔界が、竜の騎士を救い、妻子を守り、功績を認めた。

 

 一方、人間の王国は恐怖に負けて処刑しようとした。

 

 この事実は、地上の政治を変える。

 

 ロモスから放たれた一枚の布告は、剣より深く地上諸国を斬った。

 

 魔界は敵か。

 人間は正義か。

 竜の騎士を化け物と呼んだ国に、地上を代表する資格はあるのか。

 

 その問いは各国の宮廷に突き刺さり、特にアルキード王国を逃げ場のない沈黙へ追い込んでいった。

 

 地上の政治は、すでに魔王軍の武力だけで動いているのではない。

 

 言葉で動き始めていた。

 





あ、オーザム抜けた
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