価値観置き場ー 作:なんで?
「なるほど、俺は孤独な一匹狼だと思っていたが、実際は違ったのか・・・」
「まぁ、人間たるものどこかに属していないと不安になるものさ。わざわざここでアイデンティティの話に跳躍することはめんどくさいからしないけどね。
まぁでも、一人でも大丈夫という気質は本当だろう?」
「一人は大丈夫だが、独りは嫌だというやつだ。」
「まぁ、なんでもいいや。」
「ところで相談なんだが、俺は今、どうしようもない恐怖感や焦燥感に駆られている。」
「本当に唐突だな。あれじゃないかい?勉強が上手くいってないとかそういう話ではない。」
「そうであるかもしれないし、ないかもしれない。とにかく、何故か不安なのだ。」
「不思議だねぇー。睡眠不足ではなさそうだし、ふーむ。きっかけは」
「とある作品に触れた時、胃が痛くなった。」
「あー、そういう。やっぱ、感情移入していたんじゃないかい?」
「いや、そういう単純な話かもしれんが、これが何か解明したいのだ。俺の行動原理を、心理状態を!」
「ふーむ。では一つ一つ確認していこう、君が今したいことは。」
「わからない。叫び回りたいような、何もしていたくないような、そんな気分だ。怠惰と興奮が入り混じったような。
誰かと分かち合いたいし。一人でじっくり考えたい。なんだ、なんだこれは。わからない、分からないからこそ、面白い。」
「多分君は、それに人生を変えられたね。価値観というか、何かに深く感銘を受けたのさ。」
「それは、一見AIを使っているようにも見えた。それがどうしようもなく不安なのだ。もしや、もうあのレベルまで達したのか?いや、そんなはずはない。ないが、その可能性が俺を掻き立ててくる。
しかも、小説にあんな技法があったのか。俺知らない面白さだった。劇的に掻き立ててくるような魔法も魅力的なヒロインもいない。なのに、何故あんなに面白い。」
「そう?テンプレに似た何かではあるでしょ。でも、そうだな、それを真に理解したのがその瞬間なんだよ。」
「俺も、書き上げたい。どうしようもなくその衝動に駆られている。あぁ、これが創作意欲か。
なんだあの面白さは、くそ。」
「そうだねー。なんかモチーフの曲作ってみたら?そしたらもっと面白いと思うんだけどなー。」
「いいなそれ。ただ、性欲から離れた。可愛いさやヒロインから掛け離れた何かを作りたい。でも、その知識が、能力が微塵もない。
俺が書くたびに幼馴染や魅力的なヒロインが出てくる。それはいい、だがそれだけは嫌なのだ。」
もっとだ、もっと欲しい。
「あぁ、何かだ。何かがほしい。心震えるような、これを鎮める何かが欲しい。俺はそれに溺れてみたい。」
「それも、いいかもしれないね。ただ」
彼女はさっき持っていたシャーペンを指差して言った。
「それよりもやるべきこと、あるよね?」
「はぁーーー。いつも通り、か。」
昂ってた腰を下ろし、そっとペンに指を添えた。
「君、私生活の目標は?」
「十万、十万文字書いてみたい。なんでもいいから、ただただ。」
「ふぅーん。いいじゃん。」
「示していきなよ。そういう、価値観置き場ってやつ?」