やられ役になってたまるか〜〜 黒き魔女へと堕ちるまで 作:瑠璃1
こちらに手を伸ばしてくる男
「誰!‥‥いややめて!‥‥‥殺さないで!」
全身がこの世界に拒絶を示し震え続ける。自分を守るために、全身を隠すように丸める。
あれが、もしあの化け物と一緒だったら、俺を地獄へ誘うために手を伸ばしてきているんだ、あの時は助かったけど、今度こそはダメかもしれない、もしそうだとしたら、家に帰れないまま『死ぬ』
ーーー怖い‥‥怖い‥‥怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわい、こわ「大丈夫だよ‥あなたを虐める人はいないよ‥」
「え?」
誰かが、優しく穏やかな声で安心させようと、俺を抱きしめてくれた。
「‥大丈夫‥大丈夫‥ここは、私の家だよ‥‥安全な場所だから‥」
(‥‥暖かい‥心地がいい‥)
恐る恐る、顔を上げる。
そこには、全てを癒して包み込む湖のような瞳が、俺に対して、慈しみを持つ目で見てくれている。
服が汚れる事も厭わずに、涙で溢れる顔をそっと拭き取り、地獄に咲く一輪の花のような笑みを浮かべた。
「‥ほら‥これで可愛い顔に戻ったよ♪」
とくん
その笑みに対して、俺は震える体が嘘のみたいに止まり、代わりに全身が真っ赤に染まる感覚に襲われる。
「‥‥ふぇ?」
「‥ふぇーーぇ!!」
バタン?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数時間後
「‥‥とこ‥‥‥女の子‥」
「‥見た‥‥‥か」
「‥‥うん?」
木の天井が見える。俺の家の天井じゃない
?あれ俺って何してたんだっけ?確か徹夜でゲームをして、ふて寝したんだったっけ?取り敢えず起きて、大学に行かないと
(あぁ!絶対遅刻だ!)
バァン
「ハァ!え?ここどこ!」
「‥あ!やっと起きた!お母さんお父さんあの子起きたよ!」
「おぉ!起きたのか」
「あら♪起きたのね。じゃあご飯にしましょうか♪」
ドタドタと音を立てながら、驚きで硬直している俺にベッドを囲む形で詰め寄ってきた。
俺は突然、声をかけられ目を回し、肩をびくりと振るわせながら、引き攣った声で返事をしてしまった。
「‥‥‥はいっ!」
「‥フフッ、それじゃあご飯の準備をするから、シエルにこの家を案内してもらいなさい♪」
「ほら、あなたはまだ仕事片付いてなかったでしょ。さっさと片付けてみんなでご飯を食べましょう♪」
「はーーーーーい」
「ほら、一緒にいこっ!この家を探検するぞーーー!」
「お、俺はもう仕事が終わっているからこの子達と一緒に探検してくるよーーー」
「あら?あなた、まだ仕事は片付いてないって聞きましたけど?どこに行くと言うんですか?(ピキッ)」
「ま、まって母さん本当に終わったって、あっ、あーーーーー」
「よっし!まずはどこから案内しようかな♪」
「フフッ、と言っても全然広くないんだけどね」
「あ、あの、ちょっと待って! 待ってよ。そもそもここは、どこなんだよ?」
俺は、掴まれた手をベッドから強引に引きずられて、このシエル?という子を追いかける形で、必死にこの状況について聞こうとしてるのにこの子全然話を聞いてくれない!
「うん?ここ!ここはね。すいげつ村だよ」
突如先ほどまでのわんぱくさは、嘘のように、彼女は振り返った。
黒く煌めく髪をふわりと靡かせ、その綺麗な瞳を爛々と輝かせながら、自信満々な笑顔でそう言い放った。
とくん
「‥‥ッ!だからそもそもすいげつ村ってどこなんだよ?」
「えぇ、もしかしてすいげつ村のことなんにも、知らないの?」
ニマニマしながら、煽るような笑みを浮かべ、彼女は覗き込む形で俺にズイッと顔を近づけてきた。
目の前に迫る綺麗な顔に思わず、ドキッとしてしまうが、いやいや今はそれどころじゃない。首を横に振りながら、この得体の知れない世界について問いただしてやろうと腹をくくった。
「‥だ・か・ら・ここは、日本じゃないのか!?」
「日本?ってなに何処かの集落のこと?」
ボソリ
「‥‥‥ッ!やっぱりここは、違う世界なんだ」
(‥ハハッ‥‥俺の‥気のせいじゃなかったのか)
「ねぇねぇ、それよりあなた何処から来たの?この辺の子じゃないよね」
そうだよな、こんな場所、聞いたことも見たこともない、それにあの化け物が現実にいるかとも思えない、だとしたらここは、異世界?なのか。
‥‥だとしたら、現実の体や両親にはもう会えない。このままこの世界で暮らすしかないのか。
俺は腹の底から湧き上がる憤りを抑えきれずに、顔を伏せたまま思わず叫んでしまった。
「だったら、俺って一体なんなんだよ!?」
ビクッ!!?
「ど、どうしたの?お腹でも痛いの?」
「ち、違うんだ。ごめん、気にしなくていいからさ」
いきなり叫んで彼女を驚かせてしまい、俺は慌てて苦笑いを浮かべながら『大丈夫』と取り繕うことしか出来なかった。本当は大丈夫じゃないと自分自身が一番わかっている。
だけど‥‥なぜか、彼女の前だけは、弱い情けない自分を見せたくなかった。
「ご、ごめんね。俺は大丈夫‥‥だ」
ガシッ!!
「大丈夫じゃないよね。だってそんなに泣いてて大丈夫なわけないよ。まだ怖かったんだね。‥‥大丈夫だよ。貴方が泣き止むまで、ずっと傍にいるよ。だから今だけは、私の胸の中で泣いててもいいよ」
「あ、あーーーーーーーーッ!!?」
彼女の温もりに包まれた瞬間、これまで抑えて来たダムが決壊したように涙が溢れ出した。俺は幼い彼女に顔をうずめて、子供みたいに泣き出してしまった。
「ここって何処なんだよ‥‥ッ!?なんだよあの化け物は‥‥ッ!?なんで俺、女になってんだよ‥‥ッ!?‥‥母さんと父さんに会いたいよぉ‥‥ッ」
ヒックと、勝手に出てくる歪む息を吐き出しながら、胸の奥から湧き出てくるぐちゃぐちゃな感情を彼女に吐き捨てる。
「なんで?なんでそんなに、優しくしてくれるんだよ!」
「大丈夫、大丈夫だからね‥‥‥。心配しないで、たくさん泣いていいんだよ‥‥‥。此処には貴方をいじめるものなんて何一つないんだから」
服が汚れることも気にせずに、俺の弱音を最後まで優しく抱きしめてくれた。