「それでは」
御者の男が頭を下げ、ガラガラと車輪を回す音が遠ざかっていく。
俺は手荷物を抱えたまま、立ち尽くす他なかった。
思わず小声で呟く。
「やっぱり……左遷だったかも」
規模こそは大きいものの、庭なんて碌に手入れされてなくてボーボーだし、壁に穴が開いてて窓ガラスなんて吹き抜けだ。こ、ここが俺の住む家……? 家というか幽霊屋敷と言うほうが適切な気がする。
「あちゃー、酷い有様っスね?」
ルカはそのまま歩いていき、壁をトントンと叩いてみる。すると、家の壁がボロボロと崩れ落ちる。
思わず頭を抱える。
「家がこんな状態だとは、使用人たちはおそらく……」
「逃げたっスね」
聞きたくなかった。多分そうだろうなと思っていたが、認めたくなかった。悠々自適に暮らす俺のプランが……迷宮都市恐るべし。
「まぁ、ここで突っ立ってもしょうがないですし? 何も変わんないっスから、さっさと中入るっスよ」
今はこのルカのマイペースさがせめてもの救いだ。
ギィィィイイイという鈍い音を響かせながらドアが開く。本来なら調度品を並べ客を出迎える場所のはずだが……絵画などは剥がされ、シャンデリアなどは残っているもののボロボロで蜘蛛の巣が張っている。
内装も酷い様ではあるが、外観の悲惨さである程度想定していたためそこまでショックはない。
とりあえず、今日寝れる場所だけでも探さないとな。
そう思って一歩を踏み出すが、ルカは入り口付近で立ち止まっていた。
「ん──?」
ルカは周囲をキョロキョロと見渡す。
「どうかしたか?」
「そうっスねぇ……誰かここにいるっスよ」
近衛騎士としての感覚が冴えているからなのか。ルカは何者かの存在を感じとった様だ。
俺はそそくさと踵を返し、ルカの背後に隠れる。
「大丈夫なのか?」
「う~ん、気配的に危ない感じはしないんスけど……こっちかな?」
そういってルカは中央に向かって歩き出す。中央に備えられた階段を上っていく度に、ギシギシと心許ない音が鳴る。
蝋燭も灯っておらず月明かりに照らされた廊下を進み、ふとルカが足を止める。
「ここっスね」
ルカはさっと剣を抜き──何をするかと思えば足を振り上げ、勢いよくドアを踏み抜いた。
バタンと大きな音を立て、埃が宙を舞う。部屋の中からは微かに「ひぃ」という声が聞こえた気がした。
ルカが先頭で入っていき、俺もそれに続く。
室内には……。
3つの人影が部屋の隅で固まっていた。
ボサボサで目元を覆うほどの髪の少女が、2人の子供を庇うように抱きしめ、怯えに満ちた目線でこちらを見つめていた。
彼らは一体……。
そう考えていると、少女が震える声で話しかけてきた。
「あ、あの。どちら様でしょうか……?」
いや、それはこっちのセリフなんだが……。