「……この館の主って所かな」
そう教えると、少女は勢い良く頭を下げる。
「す、すいません! 幽霊屋敷と有名でしたので、誰も住んでないものとばかり……」
やっぱ住民には幽霊屋敷と認識されてたんだな……。
「あ、あの! すぐに出て行きますので、お許しいただけないでしょうか……?」
少女は顔を上げ、その前髪から僅かに覗く目尻には水の玉が浮いている。
法に則れば貴族の屋敷に無断に侵入することは重罪だ。
しかし、この状態の屋敷を見て誰が貴族の屋敷だと思うだろうか? そう言う点で言えば彼女らに故意性はない。
「責めるつもりはない」
そう伝えると、少女は再び頭を下げる。
「あ、ありがとうございます! ほら、みんな……行くよ」
「う、うん」
少女は立ち上がって、2人の子供たちを連れて脇を抜けて行く。
少女もそうだが、子供たちの衣服は煤汚れでボロボロだ。夜風が吹き抜けるこの街で、この薄着では夜が明ける前に凍えてしまうだろう。
すれ違いざま、去っていこうとする少女の背に声を投げかける。
「……行く当てはあるのか?」
少女はビクッと肩を震わせながら振り返る。
「い、いえ……ありません」
少女は不安そうに胸の前でギュッと両手を握る。その細く窶れた腕を見ると、さすがに少しばかりいたたまれなくなる。はぁ、しょうがない。
俺は頭を掻いてから足下の床を指さす。
「なら暫く君ら全員ここに泊まるか?」
「……いいんですか?」
俺は一つ頷く。
「あぁ、無論タダというわけにはいかない。この屋敷の掃除を頼みたい。対価は屋根付きで寝れる環境と……流石に飯も出す」
飯を食わねば仕事もできないしな。余り多くはないが、王都から出るときにお小遣いを貰っていた。致し方ない。
少女は信じても良いものか悩んだ様子だ。そんな中、服の裾を子供たちがギュッと掴む。少女は少しホッとしたような表情を浮かべてがら頭を下げる。
「不束者ですが、ぜひ宜しくお願い致します」
なんかそれは意味合いがまた違ってくる気がするが……まぁ、いいか。
「優しいスね」
隣に立つルカがボソッと呟く。
「……使用人もいないし、彼女らを雇えば俺がサボれるからな」
ルカと二人だけでこの膨大な屋敷を掃除するというのは想像したくもない。
そう、これは優しさなんかじゃなくなてギブアンドテイクだ。至極真っ当な経営判断である。
ルカはそんな俺の精一杯の言い訳を見て、すべてを見透かしたようにフッと軽く鼻で笑った。
「まぁ、そういうことにしといてあげるっス」
緊迫した空気から解放され、少女と子供たちが抱き合って涙を流しながら喜んでいる。そんな様子を眺めながら、俺は照れ隠しも兼ねて、不貞腐れたように肩でルカを小突いた。