怠惰王子の迷宮都市改革~癖ツヨ騎士を添えて~   作:督銘

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第6話

 眼前に立つトーマス、その背後で並んでいる武装した集団にも目を向ける。

 

「彼らは?」

「あぁ、彼らはわたくしめの護衛でございます。何分治安の悪い都市ですので」

「……なるほど」

 

 トーマスはそう言って弁明するが……嘘だな。

 治安が悪いとはいえ一人に対して二十人は過剰だろう。俺なんて一人だし……。

 どちらかというと護衛ってよりは武力を示したいのであろう。

 

「アレクシス殿下、もしよろしければ中に入っても?」

 

 武力を示しておきながらも対話を求めてくるか。

 ルカに視線を送ると、ルカも一つ頷く。ここは話を聞くしかあるまい。

 

「分かった、殺風景ではあるが歓迎しよう……あぁ、ただし護衛は一人までで頼む」

 

 そう伝えると、トーマスはチラリと確認すると先ほどと同じように下脾た笑みを張り付ける。

 

「えぇ。もちろんでございます」

 

 こいつ、ルカが美少女だからって舐めたな。まぁ、中身はバリバリの武闘派なんだけどね! 

 

「おい、そこのお前荷物を持ってついてこい」

 

 トーマスは振り返り顎でくぃっと指示を出すと、護衛の中から一人がトランクを手に持ち近寄って来る。護衛が合流するのを待ってから、トーマス達を引き連れ屋敷へ戻る。

 

 先ほど、昼寝に使っていた一室にトーマス達を案内する。ここには椅子があるからな。

 俺がまず椅子に掛け、それに続いてトーマスも腰掛ける。それぞれの護衛がその背後に立つ。

 先に口を開いたのはトーマスだった。

 

「まず、アレクシス殿下にはお近づきの印にこちらを」

 

 そう言ってトーマスが目配せすると、護衛が頷きトランクを抱え前に出る。

 護衛はカチと金属の音を響かせながら、木の蓋を開ける。

 中に金貨がジャラジャラと音を立てながら詰まっていた。遠回しな表現を使っていたが、これはつまるところ賄賂だろう。

 それにしても結構な大金じゃないか。それこそ俺が父親から貰った金額の10倍以上ある。これだけで当分暮らしていけそうだ。

 

「これはわたくし個人から殿下へのお気持ちでございます」

 

 トーマスはニヤリと笑う。その顔には見覚えがある。俺を利用しようとしている宮廷貴族たちが良く見せていた顔だからな。

 

「これはこれは……助かるよ」

 

 まぁそれはそれとして貰えるものは貰っておこう。

 ルカに目配せすると、ルカは一つ頷いてから護衛からトランクを受け取る。

 俺が受け取ったのを確認してからトーマスは笑みを深める。ルカが背後に戻ってから俺も返すように笑みを浮かべる。

 

「いやぁ、それにしてもこの都市にもトーマス殿のような素晴らしい商人がいるとはな」

 

 そう褒めると、トーマスは「いえいえ」と軽く笑う。

 

「今まで溜まっていた『税金』を纏めてすぐに納めてくれるとはね」

 

 瞬間トーマスの顔が固まる。

 

「なっ、いやいや……これは殿下へのわたくしの個人的な……」

 

 トーマスは顔色を青くして、前屈みになる。トーマスは食って掛かるが、俺は顔を動かさずにルカの方をチラっと見る。

 

「ん? 何か言ったかな?」

 

 勘の商人ならこれで気づくはずだ。

 そして、トーマスも何かに気付いたようで椅子に深く座り直す。

 

「あ、あぁ……そうでした。これは税金でございます」

 

 トーマスは緊張した様子でハハッと笑う。

 トーマスは勘違いしたはずだ。ルカが王家からのお目付け役だと。現状であれば遠回しの表現を使っていたこともあって、言い逃れ出来る余地はある。そのためトーマスも気付いた瞬間に慌てて乗っかって来たのだろう。

 まぁ賄賂を貰ったとあれば後々面倒になるかもしれん。でも相互で税金という認識なら問題はない。

 それに、ここらへんの立ち回りと言うか交渉術は宮中政治を躱し続けてきたからな。まさかこんなすぐ役立つとは思わなかったが。

 

 トタトタと廊下を走る音。

 バタンと勢いよく開かれた扉から慌てた様子のティナが飛び出してきた。

 

「ア、アレクシス様。外に怖そうな人たちが──」

 

 あぁ、しまった。ティナ達に言うのを忘れていた。

 

「すまない、伝えるのを」

「おやおやおや……ティナではないか」

 

 言葉は遮られ、トーマスは椅子から立ち上がる。そのままティナに近寄っていき肩に手を置く。

 ティナと知り合いだったのか? 

 

「まさか、ここに居たとはなぁ。心配したのだぞ?」

「は、はい……すいませんトーマスさん」

 

 ただ知り合いというには、あまり関係は良くないようだ。ティナは怯えた様子で服の裾をギュッと握りしめ肩を震わせている。

 

「どうだ? わしの所に来る決心はついたか?」

「そ、それは──」

 

 ティナの声が震えている。

 

「トーマス殿、うちのメイドになにか?」

「メ、メイドですと?」

 

 トーマスは驚いた様子で振り返る。

 

「彼女はこの俺が正式に雇っているメイドだが、何か問題でも?」

 

 まぁボロボロの服に手入れのされてない髪。見てくれはメイドには見えないだろう。しかし、彼女は俺が雇ったのだ。雑役をこなす下っ端使用人というのが正確な所ではあるが、メイドということにしておけば俺の反感を買うのを恐れて引き下がるだろう。

 トーマスはチラリとティナの方を見やると、いつもの気味の悪い笑みを浮かべて頭を下げる。

 

「そうでしたか……いやはや失礼しました」

「いやいや、構わないさ。でも、トーマス殿がそう思うのも無理はない……ここはメイド服も足りない物も多すぎるからな」

 

 ベッドも食器も満足にないしね。

 トーマスも一つ頷く。

 

「えぇ、そのようですな……」

 

 ティナとは浅はかならぬ繋がりがあるようだが、本人が怯えているし、場所を変えるべきだな。

 

「そこでだ、話の続きはトーマス殿の商会で行わないか? 俺としてもトーマス殿の商会を見ておきたいし、調達したいものもあるかもしれん。それに、此処では何かと周囲の目がな?」

 

 そういってルカの方をチラリと見る。

 まぁこれで意図を察してくれるはずだ。

 

「……そうですな。では少々お待ちを」

 

 そう言ってトーマスは懐から紙とペンを取り出し、サラサラとペンを走らせる。

 描き終えたソレを手渡してくる。

 髪には大雑把に描かれた地図と商会の位置を表すであろう丸が描かれていた。

 

「こちらでお待ちしております」

 

 トーマスは立ち上がって胸に手をあて深々とお辞儀する。

 

「あぁ、また後で」

「えぇ、では」

 

 そう言ってトーマスは護衛を伴って部屋を後にしようとする。

 部屋を出る際には、壁際で震えるティナねっとりとした視線を向ける。

 

「またな」

「……」

 

 ティナは何も言わずただ下を俯くのみだった。

 

 

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