怠惰王子の迷宮都市改革~癖ツヨ騎士を添えて~   作:督銘

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第7話

 トーマス達が部屋を去り、静寂が戻る。 バタン、と玄関の重い扉が閉まる音が響いた瞬間、張り詰めていた糸が切れたようにティナがその場にへたり込んだ。

 

「ひ、あ……う、ぅ……っ」

 

 室内にはティナの嗚咽が木霊する。小さく震える肩。床に涙がポタポタと染みを作っていく。

 ……流石の俺でも、泣いている女の子を放置するのは無理だ。

 俺は椅子から立ち上がり、ティナの横で壁にもたれる。

 

「大丈夫か……?」

 

 いや、大丈夫じゃないのは分かるんだけど、こういう時どういう言葉を掛けるべきか分からなかった。

 

「アレクシス、様……ごめんなさい、私、あんな……っ。私、ここに居ちゃいけない人間なんです……っ!」

 

 ティナは顔を覆い、消え入るような声で絞り出した。 隣に立つルカが、いつもの気怠げな雰囲気を消し、真剣な目でティナを見つめている。

 

「……トーマスとは何か?」

 

 暫し沈黙が流れた後、ゆっくりとではあるがティナは語り始めた。

 

「……私の両親はこの街で、食堂をやってたんです……常連も居て、順調だったんです。でも、あの人が来て全て壊れてしまった」

「それが、トーマスというわけか」

 

 ティナは静かに頷く。

 

「突如現れたあの人は、ここの貸主は今日から俺だと言い、一方的な賃料の値上げを行いました。私は抗議したんです『そんな無理です、少しでも下げて欲しい』って、でも無視されるばかりで」

 

 典型的な地上げの方法だな。碌に管理されていない都市の弊害というべきか。

 ……いや、適切に管理していたとしても並の貴族ならただの平民と金を持つ商人。どちらの意見を優先するかと言えば答えは決まっているようなものか……。

 

「それに、ガラの悪い人達も出入りするようになって常連さんはどんどん離れて行って……そんなある日、買い出しに行って店に戻ると焼けていたんです……店も両親も」

 

 ガラの悪い連中も店の火事も状況証拠的には賃上げに従わなかった見せしめだろうな。

 本当に……嫌になるほどこの都市は腐っている。全てを壊すレベルじゃないと直せないほどに。

 

「それからもあの人は『災難だったねぇ、君のことは放っておけない。こちらへおいで』と私のことを追いかけて……」

 

 なるほど。そうやって逃亡を続ける上でこの屋敷に流れ着いたのか。

 

「だ、だから私はここに居ちゃいけないんです、ここに居たら今度はアレクシス様にご迷惑が」

「そうやっていつまでも逃げるんスか?」

 

 ルカの鋭い言葉にティナの言葉が詰まる。ルカは腰に手を当て、溜息を吐く。

 

「逃げて、追いかけられて、また逃げて。面倒くさくないスか? こういうのは大元を綺麗さっぱりしたほうが楽っスよ」

 

「で、でも私にはそんな力……」

「何言ってるんスか、うちに面倒くさがりだけど頭のキレる殿下がいるじゃないスか」

「え?」

 

 ルカはこちらに目を向けると、そのお茶目さをたっぷりにウィンクする。

 

「貴族として自分の『メイド』にちょっかいかけられて何もしないって言うのは沽券に関わるスからねぇ?」

 

 俺は貴族の体面とかあんまり拘るタイプではないけど……ここは乗ってやるか。

 腕を組みながら一つ頷く。

 

「まぁ、そうだな」

「ほら、殿下もこう言ってるわけですし」

「で、でも……」

「かぁ~! 卑屈っスね! ほら、立つっスよ!」

 

 ルカは強引にティナの手を引っ張り、立ち上がらせる。

 そしてティナの頬を摘まみ強制的に笑みを作る。

 

「良いっスか? ティナはせっかく可愛いんスから前を向くべきっス。下向いてちゃその可愛い顔が見えないじゃないスか。可愛いは自信から来るんスから」

「ふ、ふぁい」

 

 ティナが言葉足らずではあるが頷くのを確認してから、ルカはパッと手を離した。

 

「安心して良いっスよ! それに、殿下の事っスから、もう方法とかは考えてるわけっスよね?」

 

 そういってルカはこちらを見る。

 

「そりゃあ、もちろん何通りか考えてはいるが……あっ」

 

 突然の閃きが脳内を駆け巡る。これは良いかもな、うん。大胆で……なにより効率が良い。

 

「ふふん、殿下悪い顔してるっスよ?」

 

 ルカは肩に手を回しながら身を寄せる。上目遣いでニマニマしている。

 

「そう言いながらもルカも楽しそうじゃないか?」

「そりゃ、もちろん。何年殿下と一緒にいると思ってるんスか」

「「フフフフ」」

 

 二人して黒い笑いがこみ上げる。

 

 おっとティナを置いてけぼりにしてしまったな。

 

「まぁ、ティナ安心して良いぞ。後の事は俺達に任せてもらおうか」

 

 サボりぐせのある俺ではあるが、良いイタズラを考えたせいかやる気はある。

 いや、もしかしたら宮中で実態の見えない書類仕事をするよりも、こうやって目の前の少女を救うことにやりがいを感じているのかも……まさかな。

 

「じゃ、ルカ。行くか」

「了解っス!」

 

 ルカを伴って、部屋を出て行こうとする。

 

「あ、あの」

 

 ティナに呼び止められ、半身だけ振り返る。

 

「ありがとうございます……お気をつけて」

「……あぁ」

 

 手で軽くひらひらと振ってその場を後にした。

 

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