その菊、手折られず   作:もちがゆ

11 / 22
其十一 ノビリティフィールド 1

開始の合図と同時に、視界一杯に灰が舞い散った。

攻撃か、それとも目くらましか、一瞬の判断に躊躇し、黒髪の少女が後ろに飛び退る。

 

まずはその特性を見極める。

 

そう判断した彼女は、跳躍に宙返りを加え回転の反動を利用し暗剣を投擲する。

しかし、弾丸の様な速度で飛来するその黒鉄の刃を、触腕の様に変形した灰の一部が一薙ぎで払い落とした。

 

(自分の意志で動かせるのか……!)

 

 着地と同時、再び暗剣を連続投擲しつつ、手近にあった巨岩の裏に回り込む少女。

 

(私の持つ遠距離の攻撃手段では効果は薄そうだ……やはり接近戦に持ち込むしか……)

 

 対抗策を練り、実行へ移そうと試みた時だった。

 

「残念だけど、そんなに考える時間なんて与えないわよ!」

 

 ――!?

 

 突如、背にしていた大岩が丸ごと消え去った。

 否、崩されたのだ。

 

(灰が触れている場所から岩が崩壊している?!)

 

 振り返れば最後の岩塊が灰に呑み込まれ、跡形も無く消えていくところだった。

 

(いや、消えているのではない、灰にされている!)

 

 目を凝らして見れば、消えているように見える箇所から新たな灰が生み出されているように映った。

 その証拠に、相手を取り巻いている灰の群れが一回り大きく、濃く見える。

 

「灰刃・散」

 

 灰の一部が次々と、先程投げつけた暗剣のような形に圧縮され、少女に向けて撃ち出された。

 

(器用なやつだ!)

 

 少女は内心で舌打ちすると、自身の得意とする高速の歩法で的を絞らせないように回避していく。

 残像の輪郭さえハッキリと目に映る連続の瞬歩で被弾こそないものの、相手の攻撃が止む気配も無い。

 そのまま持久戦になれば少女に不利。

 そう見えた時だった。

 

――縛道の二十一 赤煙遁

 

 

 少女の残像の内一体が地に手を突くと、そこから赤色を帯びた煙が急速に辺りに広がる。

 最初に自らが行った、視界を埋め尽くす目くらましに、ここで初めて灰の、相手の動きが止まった。

 

――縛道の四 這縄

 

 続いて少女の両手から縄状の霊子が伸びる。

 本来、相手に巻き付けて動きを封じるその縛道は、しかし二本とも灰を操っている術者を避け、その背後にあった岩塊に巻き付いた。

 

「しまっ――!?」

 

 黒髪の少女が両腕を振り上げると、その先の這縄により繋がった岩塊も持ち上がる。

 そして間髪入れず腕は振り下ろされ、驚愕に目を見開いた相手に巨岩が飛来した。

 

 相手の、金髪の少女が両手を掲げ、周囲の灰を一纏めの壁にして巨岩を押し止める。

 

「これでもう、灰で防御は出来まい……!」

 

 瞬時に背後に現れた黒髪の少女が白打による猛攻を仕掛けてきた。

 

 金髪の方も手に嵌めていたガントレットで、黒髪の少女の突き、蹴り、殴打を捌きつつ応戦する。

 が、瞬間的なスピードや、無手での攻防の駆け引きには劣るのか、徐々に細かい被弾が増えていく。

 

 その内、上段蹴りを両手のガントレットで受け止められた黒髪の少女が、そこに残像を残し、瞬時に金髪の少女の眼下に現れ、その下腹部を拳で突き上げた。

 

「うぐっ?!」

 

 思わず呻き声を上げ、金髪の少女が地面に手を突き倒れ込む。

 

「終わりだ!!」

 

 その隙を逃すまいと、黒髪の少女が旋風脚の要領で、金髪の頭目掛けて鋭い一撃を蹴り下ろし――

 

「なん……だと……」

 

 突如、二人の立っていた地面が消失……いや、灰になった。

 

「灰破……川流れ……」

 

 驚愕に見開く黒髪の少女の目が、金髪の少女が口の端を吊り上げるのを捉えた。

 

「――一握之灰」

 

 抉れた地面から生成された灰が一塊となり、黒髪の少女を拘束する。

 

 そして金髪の少女は、拘束された彼女に見せつけるように軽く握った拳を突き付けた。

 

「……参った、私の負けだ」

 

 黒髪の少女が降参を宣言するのと同時に、少女たちの背後で支えを失った大岩が地響きを立てて落下した。

 

 

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆

 

 

 

 

「両手からも出来るなら先に言え、バカ者」

「それ言ったら訓練にならないでしょうが」

 

 砕蜂と自分の体に軽く回道をかけていると、彼女が頬を膨らませて子供の様に拗ねてくる。

 

「それにしても、最後の技……私が敵だったとしたらどうなっていたのだ?」

「うーん、本気だったら四肢から分解していって最後には全部灰かな」

 

 私が頭でシミュレートしながら答えると、砕蜂がゾッとした顔で一歩下がった。

 

「私を殺したいのか、バカ者」

 

 いやだから敵だったらの話って言ったじゃん……

 

 

 夜一さんの失踪以降、私と砕蜂は夜一さんの秘密修練場で訓練をするようになっていた。

 

「……しかし、やはり私の課題は決定力不足だな」

 

 腕組みをし、難しい顔をして砕蜂が呟く。

 

「でも、実戦なら雀蜂があるんでしょ?」

「確かにそうだが、実力の拮抗した相手だと蜂紋華が消える前に、二撃目を加える事が難しい場合もあるのだ」

 

 なるほど、と頷く私。

 そう言えば、蜂紋華が実質時間制限なしになってるのは尸魂界(ソウルソサエティ)篇の頃だったか。

 

「なにか……白打でも甚大なダメージを与えられる技があれば良いのだが……」

 

 さすがに瞬閧を今の段階で教えるのはマズイ……わよねぇ。

 

「おい、松本。夜一様は何か言っていなかったのか?……貴様と夜一様はここで蜜月の時を過ごしていたんだろう?」

 

 最後の方で目つきが鋭くなって詰め寄ってくる砕蜂。

 

「何か誤解がありそうな響きなんだけど……」

「じゃあ教えろ!夜一様は斬魄刀に頼らない戦闘方法だ。何か強力な技を使われてはいなかったか?手がかりだけでもいい!」

 

(うーん……ヒント位なら、出しても大丈夫かな……原作だと結局自分で辿り着いてたわけだし……)

 

 私は分かった分かったと答え、砕蜂を引き剝がし襟元を直した。

 

「背中と肩に高密度に圧縮した鬼道を纏って戦う……って言ってたかしらね、多分」

「圧縮した鬼道?なんだそr……」

 

 胡乱気な目で返してきた砕蜂は、しかし言葉を途中で飲み込むと、思い当たる節があったのか考え込んでしまった。

 

 そのまま訓練時間一杯まで砕蜂に付き合い、私たちは地下修練場を後にした。

 

 

 

「すまなかったな長く付き合わせて」

「ううん、こっちも今日は無性に体動かしたかったから……」

 

 実際、藍染に不穏な言動をされて別れた昨日の今日という事もあって、何かしてないと落ち着かなかった。

 

 昨夜一晩中考えても、あの男が何を企んでいるか予想もつかなかった。

 大体作中でも計画を誰にも悟られず、智謀に優れ、そして武勇にも優れたやつだ。

 そんな男の100年間の内で描かれなかった部分などどうして私に推察できようか……

 

 私は私で、砕蜂は砕蜂で、お互い頭を抱えながら歩いていると……

 

「おお、砕蜂こんなところにいたのか!」

 

 突然瞬歩で、目の前に大柄で茶髪リーゼントの男、大前田希ノ進が現れた。

 

「大前田副隊長、どうかされましたか?」

「なんだ、松本副隊長もいたのか!?あんたは急ぎ十番隊に戻った方がいい!」

 

 珍しく慌てた様子の彼に、私と砕蜂が顔を見合わせる。

 

「貴族街に(ホロウ)が出た!それも、浦原喜助の改造虚らしい!」

 

 

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆

 

 

 

 

 貴族街。

 流魂街と異なり、区画整理され景観美しい街並みである瀞霊廷。

 その瀞霊廷の中でも貴族と呼ばれる人々が住まうこの街は、特に広い敷地に豪奢な屋敷が並び立つ、尸魂界(ソウルソサエティ)において最も瀟洒な街区である。

 

 殺気石製の塀で囲われ、各所に設けられた瀞霊廷とを繋ぐ門には昼夜の番が付いている。

 貴族以外の出入りはここで厳しく検査され、例え護廷の隊長であろうと貴族出身でもなければ許可証等を提出しないと基本的に通行は許されない。

 

 そのような理由から、この区画の警備・問題への対処等は代々五大貴族の一柱、朽木家が隊長を務める六番隊に一任されていた。

 

「思ったより数が多いな……!」

 

 虚襲撃の報を受け、隊士複数名を率いて貴族街に入った朽木白哉は、出会い頭の数体をそれぞれ一刀のもとに切り伏せると、屋敷の屋根や塀伝いに移動する大量の虚を見上げて呟いた。

 

 すぐさま他隊へ貴族街周辺の防備を固める応援の要請に隊士一人を向かわせ、残りの隊員には後続の六番隊を待つように指示。

 自身は上空より朽木邸を目指す。

 

 不運な事に今日は体調の優れない副隊長、蒼純は自宅で伏せっており、隊長である銀嶺は貴族の会合に出ているといった間の悪さだった。

 

 逸る気持ちを抑えつつも瞬歩を繰り返す白哉だったが、ふと前方に巨大な霊圧を感じ足を止める。

 

「爺様!」

 

 霊圧の正体は、前方にて破道で数体の虚を吹き飛ばした朽木銀嶺だった。

 

「白哉か、首尾は?」

「虚の数が多く貴族街中に散った為、先遣隊には後続が到着するまで待機と守備を。他隊への応援も要請しました。

私は隊長と副隊長をお呼びしに」

 

 銀嶺は白哉の言葉に短く頷くと、朽木邸の方角を指差した。

 

「ならば六番隊の指揮は儂が執る。お前は屋敷の方を頼む。蒼純と共に家の者を使って分家から縁戚まで、一帯の安全を確保。その後、他貴族家への援護に回れ」

「心得ました!」

 

 銀嶺が姿を消すと同時に白哉もまた動き出す。

 

 霊圧を探ると、目指す朽木邸では既に戦端が開かれている様だった。

 

(父様はここ数日具合が……っ!)

 

 滲み出す不安の影を払拭するように、白哉は動かす足に力を込める。

 

 

 

 漸く屋敷が視界に映った時、庭の方で爆炎が上がった。

 

 動揺で止まりそうになる瞬歩を無理やりに続け、炎の上がった反対方向、瓦解した塀の方へと着地する。

 

「父様!」

 

 そこには瓦礫を押し退けてフラフラと立ち上がる父、蒼純の姿があった。

 

「白哉か……お前は離れていろ……!」

 

 隣に立った白哉に目もくれず、蒼純はその前方に上る煙の元を睨み続ける。

 

 視線の先を追った白哉の目に、煙が晴れ中から現れた異形の虚が映る。

 虚特有の白い仮面を中心に、大輪の妖花の如く幾本もの触腕を生やした、裏返った蛸の様な姿。

 恐らく父の放った鬼道によるものだろう炎に焼かれた触手は超速再生ほどではないがじわじわと痕が治り始めていた。

 

 その身が一瞬屈み、こちらへ飛び掛かろうとした時――

 

 

 破道の五十八  闐嵐

 

 

 蒼純が突き出した両手から、鬼道による風の奔流が放たれる。

 触腕の虚は飛び上がった巨体を吹き飛ばされ、先程の蒼純よろしくその背にあった朽木邸の塀に体をめり込ませた。

 

「父様、私も!」

 

 一瞬の攻防に我に返った白哉が、自らの斬魄刀を抜き放ち、蒼純の前に出ようとする。

 しかし父はそれを手と、普段からは想像もつかない鋭い口調で制した。

 

「お前はコイツとは戦うな!」

 

 塀の壁から触手を器用に動かして身を起こす虚。

 

 

「奴の体に触れると」

 

 

 ――斬魄刀を失う!

 

 

 

 その言葉に驚愕した白哉が後ろを振り返ると、縛道で再度虚を塀に縫い付けた父が。

 

 無手にて向かっていく姿があった。

 

 

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆

 

 

 

 

 砕蜂と別れた私は急ぎ十番隊隊舎に戻ると、後を長木曽三席に任せすぐに動ける隊士を引き連れて貴族街の入り口門前に来ていた。

 

「卯ノ花隊長、それに勇音も!」

 

 既にそこには勇音以下四番隊を連れた卯ノ花列が門内から運び込まれてくる死神や貴族たちに治療を施している姿があった。

 

「どう、中の様子は?」

 

 走り寄って来た勇音に問いかけると、丁度治療を終えたらしい卯ノ花が腰を上げて答えた。

 

「状況はあまり良いとは言えませんね。貴族街への出入りは例え緊急時であっても六番隊しか許されていませんから」

 

 次から次へと門外へ逃げてくる人々の間から、崩れていく建物とそこから飛び出していく虚の姿が見える。

 

「くそ!すぐ目の前なのに!」

 

 思わず身を乗り出しそうになる私の肩を、後ろから掴む者がいた。

 

「待って、既に浮竹隊長や海燕さんみたいに貴族出身の席官たちも加勢に行ったわ」

 

 振り返ると、逆骨都が歯噛みしながら私の肩に乗せた手を強く握っている。

 

「不幸中の幸いと言いますか……何故か虚たちの動きは貴族街の中だけに納まっています」

 

 卯ノ花の言葉に私が眉根を寄せていると、勇音が彼女の言葉を継いだ。

 

「本当よ乱菊。私たちが到着してから、逃げてくる人たちの手当てをしている間、虚は一匹もこちら側には出て来てないわ」

「まるで用があるのは貴族街だけだといった具合にね」

 

 都も続き、私はその虚たちの不可解な行動について考えを巡らせる。

 

「改造虚、だからですか?」

 

 浦原喜助の……と続けると、卯ノ花は頷きをもって返す。

 

「彼は虚の研究と実験も行っていたという話ですし、改造された虚が何かしらの目的の元動かされているのは自明の理。

追放処分への恨みからか、或いはもっと前から仕組んでいたのか……」

 

 いや、これは間違いなく藍染惣右介の仕業だ。

 

 昨夜の発言と、今ならこうやって犯行の全てを浦原さんに押し付けられる。

 

(だとしたら……藍染惣右介の目的は……)

 

 貴族街と言う場所。

 それから昨夜の話を照らし合わせると……

 

(狙いは綱彌代家の保有している霊王の欠片か……)

 

 そしてついでに今後私が綱彌代家に狙われないようにするという事で、感謝の印とするという事なのだろう。

 それにしても貴族全てを巻き込むなんて……!

 

 私が思い至った推論に心の中で悪態をついている時だった。

 

 

 

「なあ、アンタ!あの時の死神だろ?手を貸してくれ!」

 

 

 

 貴族街への門を前にしてただ見ているだけの私たちに声をかけて来た者がいた。

 

「貴方……この間の……!?」

 

 たった今門から出て来たのか、荒い息を弾ませる長身黒髪の少年。

 それは仮面の軍勢(ヴァイザード)事件の前夜に私が補導した、あの貴族の少年だった。

 

「ああ、そうだ。ウチでも戦える人間が応戦してるが、それだけじゃ手が足りねえんだ!」

 

 あの時は暗くて気が付かなかったが、明るい日の下で見るその姿は……

 

「俺は志波家分家の一心だ!入るのに許可がいるなら、この俺の責任で許可を出す!」

 

 本編20年前で描写されていた隊長時代よりも、更に若く、一護そっくりな少年姿の黒崎一心だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。