その魔法少女、死霊魔術師につき   作:やーなん

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蘇る黄金

 

 

 

 金剛寺家のルーツは、江戸時代の薬問屋『金剛寺屋』であるとされる。

 その屋号の由来は、時の権力者や貧しい庶民に医療を施していた施薬院と呼ばれるタイプの寺院の下請けであったからであり、あるいは、その施薬院で辣腕を振るっていた高位の僧医が金剛寺出身であったからだとも言われている。

 

 明治維新の波を乗り越えると、彼らは蓄積された製薬と医療の技術、そして独自の知識をもとに巨万の富を築き上げた。やがて重工業にも手を広げ、日本を代表する巨大な財閥の一つとして他財閥と熾烈な覇権争いを繰り広げることとなる。

 

 しかし、第二次世界大戦後のGHQによる財閥解体が、金剛寺家に転機をもたらした。

 軍需産業とも結びついていた重工業に手を出していた金剛寺財閥は、国家の戦争に加担したとして厳しく追及された。

 

 以来、金剛寺家は実家と経営を分けた。

 表向きは女性当主を擁立して財閥解体の指示に恭順したポーズをとりつつ、その裏では、全ての特許と土地の所有権を女系当主が握るという強固な支配構造を完成させたのだ。

 

 かつて財閥を形成した創業者一家が今なおグループ会社に暗黙の圧力をかけるように、金剛寺家は現在も、日本の医療・製薬業界の根幹に絶大な影響力を有している。

 

 しかし、その女系当主によるグループ会社の統治は、女王蜂と働き蜂と揶揄された。

 その最大の理由は、歴代女性当主たちが皆、傑物だったからである。

 

 日本がまだ色濃く男尊女卑の時代、亭主関白が当たり前であった昭和の時代にすら、社会を牛耳る大の男たちが、金剛寺家の若き女当主に平伏し、ぺこぺこと頭を下げていたのである。

 

 

 

 金剛寺家に婿入りした弦一郎もまた、例外ではなかった。

 彼の妻・希林もまた、当主として女傑。彼は妻に口答えしたことなどなかった。

 

 傍から見れば、それは夫婦というよりも女王と忠実な執事のようだった。

 しかし、その間に愛が無かったわけではない。彼らが四人もの子供を儲けたという事実が、何よりの証左であった。

 

 だが、希来里がまだ幼い頃に彼の妻が病でこの世を去ると、弦一郎は目に見えて憔悴した。それからというもの、彼は妻の面影を強く残す末娘の希来里を溺愛した。

 彼女の年の離れた優秀な三人の兄たちもまた、ただ一人の妹を深く愛し、慈しんでいるように見えた。

 

 それが虚像であると、希来里は突き付けられたのだ。

 

 ドアを開け、死から蘇って初めて直面した父の姿に、希来里は息を呑んだ。

 自分は、一体どれほどの永い間、亡霊として彷徨っていたのだろうか、と錯覚するほどだった。

 

 御年六十一歳のはずの父・弦一郎は、まるで八十歳手前の老人のように髪が真っ白に染まり上がり、頬は骸骨のようにこけて痩せ細っていた。

 実際には、希来里の死からまだ半年も経っていないというのに。

 

 異常なまでの父の憔悴ぶりに、希来里は悲壮な表情を浮かべて駆け寄ろうとした。

 

「お父様ッ!!」

「希来里……? 希来里だと言うのか」

 

 彼女の父、弦一郎は自分の娘を見て、死者が蘇ったなどと思わなかった。

 

「誰に送られてきた。目的はなんだ?」

 

 憔悴してなお、彼の眼は確かだった。

 強力な認識阻害に阻まれてなお、希来里の肉体が自前ではないと見破ったのだ。

 

「なぜ、我が娘を冒涜する。死者は蘇ることはないのだ」

「お父様……、私です」

 

 そこで希来里はようやく、自身にかけられた認識阻害の魔法を自らの意思で弱めた。

 だが、父・弦一郎の怯えと敵意に満ちた視線は、何一つ変わらなかった。

 

「……お父様。これを」

 

 希来里は静かに歩み寄ると、部屋の端に置かれていた花瓶から、見舞い品の白い百合をひと房手に取った。

 そして、その奇跡をもって自らの魂を証明してみせた。

 

「その魔法はッ」

 

 弦一郎が驚愕に目を見開く。

 希来里の手の中で、生花の百合が一瞬にして黄金の造形物へと変貌したのだ。

 物質変換。それこそが、彼女が魔法少女『ゴールドシャワー』であった証明だった。

 

「希来里、お前なのか……」

「はい。お父様。おめおめと黄泉平坂を這い降りて、この醜い姿で現世へと戻って参りました」

「わ、私を恨んでのことか!?」

 

 娘の言葉を聞いた途端、弦一郎は怯えたように後ずさり、錯乱し始めた。

 

「お前の死を、家の不祥事だとして伏せた私に恨み言を言いに来たのか!?」

「お父様、私の話を聞いてください!!」

「やめろッ、やめてくれッ」

「お父様ッ!!」

 

 拒絶の言葉と共に、希来里の手から黄金の百合が滑り落ちる。

 永遠を象徴するはずだった黄金の造形は、床に落ちた衝撃でパラパラと脆く崩れ去り、跡形もなく塵となって消えた。それが彼女の心境を表しているようだった。

 

「このままじゃ埒が明かないな」

 

 背後で状況を見守っていたエンバーマーが、ひどく面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「いや、普通死者が蘇って会いに来たら取り乱すでしょ……」

「きっと希来里ちゃんのことで負い目があるのでしょうね」

 

 イグニスと紫織は、彼を不憫に思っていた。

 溺愛した娘が亡くなったと思ったら、ツギハギの身体で会いに来たのだ。

 ホラー映画のワンシーンも同然だった。

 

「お、希来里。これがお前の母親か?」

「えッ、ええ」

 

 エンバーマーは怯える弦一郎など意に介さず、ベッドのサイドテーブルへ無遠慮に近づいた。そこには、若い頃の両親が並んだ写真立てが飾られていた。

 そして、その手前には、大切に保管されているであろう結婚指輪の入った小さな飾り箱。

 

「ちょっと借りるぜ」

「ちょ、ちょっと!?」

 

 なんと彼女はパチンと飾り箱を開けると、その中にあった前当主の指輪を自らの指にはめ、悠然とキセルを咥えて窓辺へと歩き出したのだ。

 こんな異常な状況で、勝手に人の遺品を身につけて煙草を吹かし始める魔術師。混乱の極みにいた希来里は、どこから物申せばいいのか分からず言葉を失った。

 

 だが、その時だった。

 

 ぐらり、と窓際に立つエンバーマーの身体が、糸の切れた操り人形のように不自然に傾いた。

 

 何が起こったのか、誰も理解できないまま。

 次の瞬間、彼女の身体はピタリと直立した。

 

「その体たらくはなんですか、弦一郎さん」

「──!?」

 

 窓から振り返ったその声は、いつもの気怠げなエンバーマーのものではなかった。

 いや、そこにエンバーマーはもう()()()()()

 

 誰もが、その圧倒的な存在感に息を呑み、気圧された。

 姿形はエンバーマーのままだというのに、その真っ直ぐな立ち姿、滲み出る気品、そして空間を支配する覇気。その全てが、先程までの彼女とは全くの別物へと変貌していたのだ。

 

「弦一郎さん。それが私の選んだ伴侶の取るべき態度ですか、と聞いているのです」

「き、希林さん……貴女なのか?」

 

 金剛寺 希林。金剛寺家の前当主がそこに立っていた。

 

「れ、霊媒術……遺品を触媒にして、自分に前当主の御霊を下ろしたのですか!?」

 

 エンバーマーが行ったことを、紫織は察して驚愕する。

 

「嘘でしょ……」

 

 死者の魂を降霊するのは、日本でもイタコとして有名である。

 それを実際に目にして、イグニスはあんぐりと口を開けていた。

 

「……ハッキリ言います。見損ないました」

 

 女王の瞳が、老いさらばえた伴侶を見下ろしていた。

 

「も、申し訳ないッ、申し訳ないッ、私が弱いばかりに」

「本当に、お母様なのですか……?」

「ええ、希来里。私がお前を見間違えたりするわけがありません」

 

 そして、希林はおもむろにベッドに歩み寄った。

 

「希林さ──」

 

 女傑の容赦ない、渾身の張り手が弦一郎の頬を打ち据えた。

 

「それでも金剛寺家の人間ですか!!」

「ッ!?」

「情けないッ、情けなくて涙が出ますッ」

 

 希林の──エンバーマーの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。彼女は己の伴侶の不甲斐なさに、本気で涙していたのだ。

 

「弦一郎さん、貴方だけでしたね。五件もお見合いを破談にした私に、この結婚指輪を持ってプロポーズをしたのは。

 周囲は私の事を男のようだと思っていたのに、周囲はそう言う時だけ女扱いして嘲笑っていました。

 しかし貴方はそんな私を気高いと仰った」

「希林さん……。あなたにとって、有象無象に過ぎない私を、貴方は伴侶に選んでくれた……」

「ええ、私の顔をまっすぐ見る男は、貴方だけでしたから」

 

 幼い頃に母を亡くした希来里にとって、両親の馴れ初めや夫婦としての確かな絆の記憶など一つもなかった。

 それが今、魔術師の身体を通じて、熱を帯びた言葉として語られている。

 

「そんな貴方が、娘の顔すらまともに見られないとは。見下げ果てたものです。そんな貴方など、見たくもなかった。

 貴方のそんな姿を見る為に、この私は現世へ呼び戻されたわけなのですね」

「希林さん、私は、私はッ」

「……どうやらもう、時間のようです」

 

 滂沱の涙を流して崩れ落ちる夫から、女傑は静かに視線を娘へと向けた。

 

「希来里。苦労を掛けますね。我が息子の過ちを、貴女が正すのです」

「お母様ッ!!」

 

 希来里は飛び出すように母親に抱き着いた。

 だがその言葉は、暗にお前を殺したのはお前の兄たちである、という決定的な事実を示していた。

 

「冥府に座する、かの御方から全て聞いています。

 貴女もこれくらいに大きくなったのでしょうか」

「はい、はいッ」

「金剛寺家の次期当主として、良く最期まで戦いました。貴女は私の誇りです」

「お母様ッ、行かないで、また私達を置いて──」

「そのような軟弱なことを言ってはなりませんッ!!」

 

 希林は、今度は娘である希来里の頬に、容赦なく渾身の平手打ちをブチかました。

 希来里は病室の床に派手に倒れ込み、痙攣している。

 

「もう、私は誰の呼び出しにも応じません。正真正銘、これが最期です」

「希林さん……」

「男がそのような生娘のような言葉を吐くなッ」

 

 ばちんッ!! と、三度目の衝撃の瞬間を、後ろの二人は見てられずに目を逸らした。

 

「では、二人共。先に冥府の列にて、かの御方の裁定を待つことにします。それでは、ごきげんよう」

 

 淑女の立ち姿をしていた希林が、ぐらり、と揺れる。

 

「……お二人さん、終わったか?」

「……ええ」

 

 そうか、とエンバーマーは頷いた。

 

「とんだパワハラ女だったな。昭和の女って怖いねぇ」

「いや、あれはあの人がスゴイだけだと思うよ……」

 

 へらへらとしたいつものエンバーマーに戻ったのを確認し、イグニスはぼそりと言った。

 

「ほらッ、返すよ」

「……」

 

 結婚指輪を投げ返され、弦一郎は呆けたような表情でそれを受け取った。

 

「……すまないが、少し独りにさせてくれ」

 

 憔悴した男は、絞り出すようにそう呟いた。

 

「……分かりました。行きましょう。皆さん」

「ええ、そうですね」

 

 希来里に促され、紫織は頷いて他の二人と共に病室から出た。

 希来里もまた、夫婦の写真を見ている父親を一瞥してから、廊下へと出ることにした。

 

 

 

 §§§

 

 

「死者との対話、か。そうだよね、こうして私達を仮初の肉体に下ろせているんだから、それくらいできますよね」

 

 紫織はある種の畏怖を込めた眼差しでエンバーマーを見やった。

 

「今回みたいに正しい使い方をしてくれれば、私も一々突っかかる必要が無くなるんだけど……」

「だから、私は元々警察の捜査協力とかしてたんだってば」

「……ああ、言ってたね、そういえば」

「私だって私なりに正しい使い道を模索してんだよ。そっちの方が気分よく冒涜(アート)に専念できるしな」

 

 悪びれずに言ってのけるエンバーマーに、イグニスは何か言いたげに口を尖らせたが、結局それ以上は追及しなかった。

 

「エンバーマー様。色々と不満はありますが、ひとつだけ」

「なんだよ」

「お母様が何の未練もなく、彼岸に辿り着けたのだと。それを知れただけでも、こちらに戻って来て良かった」

「……そうかい」

 

 死から蘇って以来、ずっと精気のなかった希来里の瞳に、キッと強い光が宿っていた。

 彼女は居住まいを正し、堂々と胸を張る。

 

「私は、お母様のように強い女になります。金剛寺家の当主候補だった者として、恥ずかしくない振る舞いをしなければなりませんわ」

「やっと昔の希来里が戻ってきたよ」

「あら、陽菜さん。そちらこそ、以前より立ち振る舞いに陰りが見えていますわよ。もう少しシャキッとなさいな」

「ああホント、希来里はこういう奴だったよ」

 

 かつてと変わらぬ、いや、それ以上に容赦のないお嬢様特有の物言いに、イグニスは半眼になりながらも、安堵したように少しだけ微笑んだ。

 

「魔法まで金ぴかでさ。黄金が作り放題とか、お金持ちが持っていい魔法じゃないでしょ」

「黄金化の魔法は長持ちしませんわ。知っているでしょう?」

「でも、何で粉々になるんだろうね。元の形に戻ったりしないし」

 

 二人の会話に、紫織が疑問を挟んだ。

 

「そいつは単純な理屈だ。吊り合いが取れねぇからさ」

「吊り合い、ですか?」

「ああ」

 

 エンバーマーは頷いて見せた。

 

「知ってるか、現代の科学技術でも、黄金の精製は理論的に可能なんだぜ」

「え、マジで?」

「ああ。途方もない莫大なエネルギーを使用するとされるから、割に合わないってことになってるが。

 希来里の魔法は、その過程を無視してる。ってことは、その分の揺り戻しが来るってことだ」

「……なるほど。右に大きく振れた振り子が、強烈な勢いで左に戻ろうとする。そういうことですね。

 黄金化した物質が塵になって崩れ去るのは、その魔術的な反動に物質の構造が耐えきれないから、と」

 

 途方もないエネルギーを前借りして精製される黄金。その莫大な負荷の反動により、物体は跡形もない塵と化す。魔法という超常現象でありながら、その理屈は酷く筋が通っていた。

 

「お前らの使う転移魔法も、それが理由で凄く消耗するんだよ。

 魔力の消耗って対価で、安全性を担保してるわけだ」

「え、じゃあ転移魔法の最中で魔力がゼロになったらどうなるの!?」

「肉体がミンチになってはじけ飛ぶに決まってるだろ」

 

 エンバーマーがあっさりと、さも当然のように断言するものだから、イグニスは一気に血の気を引かせて頬を引きつらせた。

 

「転移魔法の危険性は、魔法ってモノの性質を説明する時によく用いられる。

 百キロ先に一秒でワープした場合、その生身に掛かる負荷は時速36000キロ。一瞬で血煙の出来上がりだ」

「なるほど……だから、天使様も空間転移の使用を非推奨としているのですね……」

 

 紫織が納得したように何度も頷いている。

 転移魔法こわッ、っと一人だけ物理的な想像をして慄いているイグニスをよそに、エンバーマーは続けた。

 

「本来はそこから百秒かけてゆっくり転移するとか、衝撃を肩代わりする装置を用意とか、そうやってダウングレードして、現実的な運用路線に落とし込むのが“魔術”って学問なんだよ。

 上位存在から恩寵を受けるために供物を用意する。それも理屈の上では同じだ」

「……先ほど、魔術研究の特区があったと仰ってましたが、エンバーマーさんの前世では、魔法の研究がこっちより進んでいたんですね」

「ああ、こっちの地球と違って、魔法が実在してたからな。時代もこっちより百年ぐらい進んでたぜ」

「え、そうなんですか!?」

 

 イグニスはもう見慣れ始めた光景だったが、紫織の表情に知的好奇心という名の明らかな火が点いたのを悟った。

 

「あとで詳しく教えてください!!」

「つっても、私はずっと研究漬けだったからなぁ」

「私達も、自分達の使う魔法への理解を深めるべきです。

 生前はその為にいろいろと魔法について調べていましたが、全て空振りでしたから」

 

 確かな論理に基づき、しっかりと体系化されている『魔術の知識』に触れ、紫織は水を得た魚のように嬉しそうだった。

 

「だからお前、あんなに色々と博識なのか。

 いいか陽菜。この熱量が平凡と非凡を分けるんだ。俺の親友にも死体を切り刻んで観察するのが趣味の奴が居たが、非凡ってのはあいつの為にあった言葉だと思うぜ」

「……急に私を刺してこないでよ」

 

 流れ弾を喰らったイグニスは、どんな変人だよ、と内心ツッコミながらジト目を向けた。

 

「……案外、皆さま楽しそうですわね」

 

 そんな三人を見て、希来里は少し笑った。

 

「ええまあ、私達は一応するべきことをやり遂げた筈なので。

 何も重責が無いというのは、本当に気楽ではあります」

「日本を代表する魔法少女である貴女が言うと説得力がありますわね」

「一応私も日本を代表してたんだけど……」

「ところで、なぜ私だったのですか?」

 

 希来里はイグニスの視線を無視して率直に問うた。

 

「陽菜さんに紫織さん。前衛と後衛。私でしたら、この二人にスピードに優れた方を蘇らせ、封印係を任せますわ。

 私はどちらかというとサポート向きの後衛。紫織さんと役割が被ってしまいます」

「あー……」

「それはね……」

「……ああ。そう言うことですか」

 

 魔法少女の本来の仕事は、特異事象災害に対処し、被害を防ぐことである。

 であれば、各々の役割を明確にしてチームを組むのがプロというものだ。

 地上に溢れ出たゲダモノを食い止める『前衛』、迅速に孔を塞ぐ『封印係』、そして状況を俯瞰して両者を補佐する『後衛』。その役割分担が最適とされている。

 

 だが、希来里はバツの悪そうに目を逸らす二人の態度を見て、全てを察した。

 

「陽菜さんがそう言う方だとは思いもしませんでしたわ」

「ちょっと!! 誰を蘇らせるか提案したのは紫織さんだからね!!」

 

 まるで友人にカネを無心しにきたのを軽蔑するような視線を向ける希来里に、イグニスは反論した。

 

「冗談ですわ。貴女がた個人では行動も制限されますものね。

 これからどう活動するかまだ伺ってませんが、スポンサーが居るに限りますわ」

「うん、希来里ちゃんも聞いてほしいんだけど」

 

 紫織は彼女に、自分達の運用目的を話した。

 

「怪人対処に特化した部隊、ですか。

 なるほど、理に適ってますわね。私も、犬型怪人に腹部を貫かれた記憶は今も鮮明に残っています。

 その危険性を最小化するべく、私達のような死者を活用するのは適していると言えるでしょう」

 

 希来里は扇子を持っていたらそれで手を叩く動作をした。先ほどから手持ち無沙汰のようだった。

 

「この金剛寺 希来里。喜んで協力致しますわ、死してなお、我らの使命は終わってなどいない。上等ですわね」

「ありがとう、希来里ちゃん」

「うん、ホント助かるよ。頭数的にも、それ以外も」

「任せてください。おほほほ!!」

 

 その笑顔を見てイグニスは、ああ本当に希来里が戻って来た、と心の底から安堵した。

 

「話はまとまったようだな。

 私が死んだらお前らを現世に留めてる術も消えるから、荒事は任せるわ」

「……それはそうなのですけど、エンバーマーさんの場合、その知識を活用する為に完全に後方でバックアップして頂かないと困ると言いますか」

 

 替えが利かない、というのはそれだけで価値がある。

 そう言う意味では、幾らでも死者を蘇らせ、使い潰せるという唯一無二の存在は、彼女達三人をまとめても吊り合わない戦略的価値があった。

 

「いやぁ、仕事の出来る女はつらいねぇ。

 いいか、陽菜。これが必要とされる社会人ってわけよ、お前には、就職の経験がないから分からんだろうがな」

「だから!! なんで何度も私を刺してくるの!?」

 

 イグニスが本日何度目か分からないツッコミを入れ、エンバーマーが意地悪く笑った、その時だった。

 

「君達、もういい。入りなさい……」

 

 病室の中から弦一郎のくぐもった声が掛かった。

 どうやら、彼の中での整理がついたらしい。雑談の時間は終わりのようだ。

 

「はい。では皆さん」

 

 希来里が三人の顔を凛とした表情で見やる。三人も無言で頷き返した。

 決意を新たに、四人は再び扉を開け、病室の中へと足を踏み入れた。

 

 こうして、一度は朽ちた黄金は、哀しみを乗り越え再び気高い輝きを取り戻した。

 

 魔法少女ゴールドシャワー、ここに復活!!

 

 

 

 

 

 




前回と今回、そして次回を本来なら一話で終わらせるつもりでした。希来里編長引きそう……。
なんか書くべきことが多すぎて、長くなってしまいました。私の悪い癖ですね。

順調なら明日も更新します。
よかったら高評価と感想を下さいませ!!

ではまた、次回!!

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