その魔法少女、死霊魔術師につき   作:やーなん

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紡がれた稲妻

 

 

 

 朝、被災地からほど近いビジネスホテルの一室で紬は目を覚ました。

 

 遮光カーテンの隙間から差し込む朝日が、真新しいシーツを照らしている。

 彼女はスマートフォンで時間とこの自治体の災害情報を確認し、手早く身支度を整えると、ホテルの朝食券を持って一階の食堂へと赴いた。

 焼き立てのパンと淹れたてのコーヒーの香りが漂う空間。ここのビジネスホテルは朝食に力を入れているらしく、品数の多いしっかりとしたビュッフェ形式で食事ができるようだった。窓の外に広がる焦土が嘘のような、穏やかな日常の風景だ。

 

「おはよう、紬ちゃん」

「うん、おはよう。一花ちゃん」

 

 少し遅れて、魔法少女ヴェスタこと一花が食堂にやってきた。

 お盆にサラダやスクランブルエッグ、トーストを乗せて向かいの席に座る。徹夜で灰の海を焼き払う作業に従事していた彼女の目元には、微かに隠しきれない疲労の色が滲んでいた。

 

「もう交代の時間か。じゃあすぐにあっちに行かないと」

「うん。次は一時に交代で、それまでにお昼は食べておくから。

 学校が終わったら真白ちゃんが夜まで見張りをしてくれるって」

「じゃあ、今日の寝ずの番は私がやるね」

「あ、いいよ。夜は私で。一応年上だし、三度目だから慣れてるし」

「そんな、気にしないでよ」

 

 無理をして先輩風を吹かそうとする一花に、紬は温かい言葉を返す。二人は歳も近いからか、すぐに打ち解けていた。

 

「現場には事象整理課の人達があるから、指示に従ってね。

 一応ずっと変身したままで居た方がいいよ。魔法少女が見れるって野次馬とか結構来るし」

 

 一応魔法少女の先輩として、一花は注意事項などを紬に教授した。

 

「うん、わかった。正直一人じゃないのは心強いね」

「そうだね。でもあっちのお仕事は私達と違って三日じゃ終わらないから、邪魔はしないように。

 私達と違って戦えないからって、軽んじちゃダメだよ」

「まさか。マジカルサマーちゃんじゃあるまいし」

 

 とんでもない、と言わんばかりに紬は首を横に振った。

 マジカルサマーとは現役の魔法少女の一人で、動画配信者。過激な毒舌キャラが売りの、ファンもアンチも多い人物だ。

 

「ああ、マジカルサマーね。私も配信見てるよ。

 あの子もメロースパークのファンだって公言してたから、紫織さんが亡くなってから荒れるようになったんだよね」

「……そうなんだ」

 

 紬は主に切り抜きやショート動画でしか彼女を知らなかったため、その毒舌の裏にある喪失感までは知らなかった。

 身近な、あるいは憧れの魔法少女がある日突然いなくなる。それは残された少女たちの精神を、容易く歪めてしまうのだ。それを紬自身、よく知っていた。

 

「あ、そうだ。怪人が現れたら必ず連絡してよね。

 一人の時は牽制とかして、時間を稼ぐように。必ず複数人で対処すること。

 私も連絡を受けたら転移魔法でそっちに行くから」

「転移魔法で? あれって消耗が激しいんじゃ」

「うん。でも消耗は距離に比例するみたいだから、現場から近いこの辺りなら余力が残るくらいは魔力は持つから大丈夫」

 

 怪人が出た際の注意事項を、紬は真剣な表情で頭に刻み付ける。

 

「うん、わかった。ありがとう、一花ちゃん。色々教えてくれて」

「ううん。私も前回に出た時に先輩に教わったの。ほぼ受け売り」

 

 一花は真剣な表情で謙遜し、そう返した。

 だがそれは、特異事象災害という地獄の現場で血を流し、生き残ってきた魔法少女達によって連綿と受け継がれてきた、重みのある貴重な経験則だった。

 

「あれ、そう言えば、天使様は怪人専門の部隊を編成したって言ってなかったっけ?」

「あ、そう言えば昨日も言ってたね」

 

 現場の魔法少女の負担を軽減するために、という名目で天使が語っていたことを二人は思い出した。

 

「そっちと協力した方がいいと思うけど、何処に居るのかな」

「うーん、それだよね。味方の位置情報ぐらい天使様も教えてくれればいいのに」

 

 天使の融通の利かなさに、一花は溜め息を漏らした。

 

「まあ、怪人が出た時にわかるでしょ。

 怪人は一体だけしか現れないと限らないから、人数が居るのは助かるし」

「あー、そうなんだ。

 そうだよね、アニメや特撮じゃないんだから、一度に何体も出る時もあるのか」

 

 相手は知性の無い怪物。

 魔法少女の変身シーンに攻撃しないみたいなお約束を守ったりしない。

 

「それじゃ、気を付けてね」

「うん、行ってくる」

 

 紬は空になったトレイを食堂の返却口に返し、そのままビジネスホテルの自動ドアを抜けた。

 朝の清々しい空気から一転、焦げたコンクリートと微かな血の匂いが混じる被災地へと、彼女は静かに足を踏み入れていくのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 特異事象災害の被災地特有の空気感と言うモノを、紬ことサンダーメロウは初めて味わった。

 

 一晩が明けても、見渡す限りの灰の山からは陽炎が立つほどの熱気が漏れ出している。焦げたコンクリート、溶けたアスファルト、そして何より、ゲダモノの体液と生物の組織が炭化した鼻の奥を突くような悪臭が立ち込め、嗅覚が麻痺してしまいそうだった。

 

「これから、下水道の探索に向かう」

 

 元自衛官の隊長の前に、重装備の防護服を身に纏う職員たちと並び、サンダーメロウはブリーフィングに参加していた。

 ただ地上で怪人の出現を待っているだけだと思っていた彼女は、想像以上に過酷な現場の空気に、隠しきれない緊張を抱いていた。

 

「サンダーメロウちゃんは今日初めての参加だから説明をするが、ゲダモノは腐食性の粘性を伴う未知の生物だ。

 人間を吸収し、増殖を始めた直後からこの性質を徐々に喪失していくが、“異界孔”から垂れ流れる原液のその下はドロドロに溶けて陥没してしまう。

 その際に粘液が下水道に進入し、そこに住むネズミなどの小動物に寄生するパターンが存在する」

 

 下水道に住む生物と聞いて、うげぇ、とサンダーメロウは顔を引きつらせた。

 ネズミだけならまだマシだ。もっと最悪な、暗がりを這い回る黒光りする生物の怪人化など、想像したくもない。

 

「ハッキリ言って、非常に低確率だ。

 ゲダモノの粘液は人間でもほんの僅かが飛散しただけであっても高熱と腐食性でほぼ即死する。

 小動物や昆虫のような生物が耐えられる可能性は低い。だが無い訳ではない。

 外国ではネズミ型怪人、通称“ハーメルン”の異常繁殖によって町一つ焼き尽くすことになった事例が出ている」

 

 その話は、サンダーメロウもニュースで聞いたことがあった。

 怪人に固有の名称が付けられ、各国の機関に情報共有が成されるなど、非常に稀で、かつ最悪のケースだ。

 

「ゲダモノは哺乳類に好んで寄生するとされるがバッタ型怪人、通称“アバドン”を始めとした、繁殖性の高い生物に寄生する例は少なくない。

 そしてその場合、怪人化の速度は人間に寄生した場合より圧倒的に早い。これは純粋に体積の違いだと言われている」

 

 人間の場合は、完全に怪人化するまでに最低でも一日は要すると言われている。

 だが、それよりも小さい生物は、ゲダモノによる細胞の支配がより早く完了してしまう。

 人類は払ってきた夥しい犠牲と引き換えに、特異事象災害に対するそういった幾つかのパターンを蓄積していた。

 

「下水道探索の目的は、それらの兆候を捜索することだ。

 怪人化した生物は非常に好戦的であり、進化の為のエネルギーに飢えている。

 もし連中が存在する場合、我々を餌と見なしその遭遇率は100%だ。

 各自、自衛用の装備の確認を怠らないことだ」

 

 ブリーフィングに参加している探索部隊の大人たちの顔に、色濃い緊張が走る。

 もし狭い下水道でネズミ型怪人の群れに遭遇した場合、重火器を持たない彼らではまず助からないからだ。

 

「確認事項は以上となる。質問がある者は?」

「はい。ひとつだけ」

 

 サンダーメロウは、素朴な疑問を抱いたので手を挙げた。

 

「ふむ、サンダーメロウちゃん。なにか疑問でもあるのかい?」

 

 隊長は、流石に子供相手には気遣って、張り詰めた空気を少し緩めた柔らかな口調で促した。

 

「ゲダモノは哺乳類に好んで寄生するんですよね?

 だったらどうして、クジラとかを標的にしないんですか?」

 

 クジラ。地球上で最大の哺乳類。

 その体積は人間とは比べ物にならず、多少の粘液が当たったところで、人間よりは遥かに高い耐久性を持っているはずだ。海に落ちたゲダモノがクジラを取り込めば、それこそ手がつけられなくなるのではないか。

 

「それは単純に、ゲダモノが海水で冷却されることを嫌っているからでしょう」

 

 ブリーフィングに関係無い、第三者の声が現場に響いた。

 

「ゲダモノの粘液は水と混ざらない、塩分を含むなら尚更。

 確かにクジラはゲダモノにとって魅力的な餌でしょうが、標的にするには海中と言う条件も悪い上に、機動力が高い」

 

 そこに立っていたのは、何処にでもいるような、スーツ姿の爽やかな青年にしか見えない男だった。

 だが、サンダーメロウは顔を盛大に引きつらせ、血の気が引くのを感じながら彼を見ていた。

 

「な、なんであんたが、ここに!! ──“魔人”である、あんたが!!」

 

 彼女は震える指を差して、彼に叫んだ。

 

 そう、彼は先日、目の前の彼女を拉致した魔人だったのだ。

 

「日本政府と取引をしました」

 

 彼は爽やかな好青年に見える表情で、そう答えた。

 

「人類に危害を加えない。ステージ4に移行しない。ゲダモノ研究に協力する。政府の監視を受け入れる。

 そう言った条件で、特異事象災害の対処のアドバイザーとなることが決まりました。

 与えられたコードネームは“色欲(ルクスリア)”です」

「何が取引だ」

 

 隊長は、目の前の怪物を侮蔑の視線を送っていた。

 

「貴様は日本国民を人質にしただけだ。人間の皮を被った化け物が」

「あれは交渉を円滑に行う為のブラフです。

 事実はどうあれ、私は人類に危害を与えるつもりはありません。たとえあなた達が裏切ろうともね」

「……嘘でしょ」

 

 サンダーメロウは膝を突いて、がっくりとうなだれた。

 自分の最悪のストーカーが、公的な立場を得て接近してきた。

 誰であろうと絶望的な気分になるだろう。

 

「あー、お嬢様。まあ元気出せよ」

 

 職員たちと共に行儀よく並んでいるオークの集団から、伊達オークが憐れむようにそう言ったのだった。

 

 

 

「あんたらは後ろから道案内してくれ。いざって時は俺らを文字通り肉盾にするんだ」

 

 オークと職員の混成部隊が、次々と下水道へと進入していく。

 流石にサンダーメロウが対処するのは、下水道で怪人が発見されてからのようだった。

 

「また会えましたね、紬さん。いえ、今はサンダーメロウと呼ぶべきでしょうか」

「近づかないで、化け物!!」

 

 にこやかに笑う青年を、サンダーメロウは手ひどく拒絶した。

 

「その反応は、おかしいですね。

 私は貴女に宣言した通り、人類に一切の危害を加えていない。

 それどころか、貴女住む世界を守るために人間達の前に姿を晒した。

 私の誠実さがなぜ伝わらないのでしょうか?」

「俺に聞くなよ、クソ化け物」

 

 隊長は彼を視界に収めるのも不快なのか、舌打ちをして煙草を吹かし始めた。

 

「そもそもあんた、ゲダモノじゃない。

 なんで他のゲダモノを倒す協力をしてるのよ!!」

「サンダーメロウ。それはあなたの見識不足だ」

 

 青年は怯えるサンダーメロウに淡々とこう言った。

 

「例えばライオン。彼らはオス同士で争い、メスの群れを奪うことがあります。

 その際に、前のオスの子供は殺してしまうのです」

「ッ!?」

「私の望みは人類の共存です。この地に降り注ぐ、他の同胞は邪魔者なのですよ」

「……」

 

 ゲダモノは悪意なく、地上に降り注ぐ災厄。

 それは結果的に、人類を破滅させる要因だ。

 目の前の魔人にとって、それは面白くないのだろう。

 

 いや。

 

 あの災厄がサンダーメロウを害する可能性があるのが、許容できないだけだろう。

 

「……」

 

 紬は、サンダーメロウは思考を巡らせた。自分が姉ならどうするか?

 目の前の化け物は、少なくとも彼女を無理やり手籠めにするつもりはない、その程度の誠実さを見せたのは認めなければならなかった。

 いいや、魔人の行動原理の全てが『サンダーメロウから嫌われるような行動は取らない』というルールに縛られているのは明白だった。

 

 であれば、利用できる。

 今の自分はサンダーメロウ。人類の為に戦う、魔法少女なのだ。

 現場で働く職員たちは、今も不衛生な下水道に入り、命の危険を承知で怪人を捜索している。

 

 魔人は、本当に危険な相手だ。やろうと思えば首都圏ぐらい滅茶苦茶にできる。

 そんな相手を制御できるのなら、それは人類の、或いは姉にも出来なかった、自分の為すべきことかもしれない。

 

「……いいわ」

 

 サンダーメロウは覚悟を決めた。

 いや、家族や友人の為に戦うことを決めた彼女は、とっくに世界に命を捧げている。

 魔人と言う存在の危険性を排除できるなら、それは英雄的魔法少女、イグニスにも匹敵する偉業だ。

 

「一先ず、あんたを信じてあげる」

「ふむ」

 

 怪物は、サンダーメロウの言葉を受けると、手荷物からおもむろに一冊の書籍を取り出した。

 ──有名な恋愛ゲームの攻略本だった。

 

「これは第一のアプローチに成功した、と言えるでしょう。

 では次のプロセス、雑談をして好感度を稼ぐ、一緒に食事に誘う、などのコマンドを行い、サンダーメロウの関心を得る。なるほど」

「……」

 

 サンダーメロウは思った。ああ、本当にこいつ人間じゃないんだな、と。

 そのシュールすぎる光景を、隊長は気味の悪い虫でも見るような目で睨んでいる。

 

「サンダーメロウちゃん、別にこんなのの相手をする必要は無いんだぜ」

「いえ。姉は日本の、人類の為に己を投げ打ちました。

 ちょっとおかしいゲダモノ程度、どうってことはありません」

「……あんたの姉さんのことは、俺達はよく知ってる。

 彼女の死亡確認をしたのも、俺達の部隊だ……」

「そう、だったんですね……」

 

 彼らのような厳つい現場の人間が、自分の姉をよく知り、敬意を払ってくれている。

 その事実に、何とも言えない温かい感情がサンダーメロウの胸に去来した。

 

「その化け物が襲ってきても、俺達が盾になるぐらいはできる。

 それだけの恩が日本には、紫織ちゃんにはあるんだ。いざって時は躊躇い無く俺達を盾にしてくれ。

 そうじゃないと、あの世で紫織ちゃんに顔向けできねぇ」

「いえ、お気になさらず」

「その通りです。存在しない可能性を危惧するのは、精神的な疲労を招くだけです」

 

 サンダーメロウと隊長は、お前の所為だよ、と言わんばかりの表情で魔人を睨んだ。

 

 そうして地上で探索結果を待っていると、規制線の外側がにわかに騒がしくなった。

 

 

「さ、サンダーメロウ様!!」

「かのメロースパーク様の妹様ぁぁ!!」

 

 規制線の向こう側に、異様な熱気を持った集団が現れた。

 全員がメロースパークのアニメ調の公式グッズを身に着け、血走った眼で祈るようにサンダーメロウを見つめている。

 

「なんですか、あれ……」

「ああ、あれか……紫織ちゃんの熱狂的な信奉者だ」

「し、信奉者!?」

 

 隊長は心底呆れてそう言った。

 サンダーメロウは姉が変な連中に付きまとわれるのは常だったので、そんな連中が湧いていることを知らなかった。

 

「知りませんか、サンダーメロウ。

 彼らはメロースパークの死後、彼女を神格化して崇めている新興宗教です」

「し、神格化ぁ!?」

「ええ、メロースパークを現代日本のジャンヌダルクとして、一種の聖女崇拝のような形態で日々彼女の出演したテレビ番組や動画を視聴しているとか」

「現代の新しい形式のカルトじゃん……」

 

 なぜ自分より魔人の方がそんな事情に詳しいのかおいておいて。

 サンダーメロウは困惑の極致に居た。

 

「しかし、考えてもみてください。

 メロースパークは天使という存在から神託を受け、その内容を世間に発信していました。

 彼女自身もまた実力があり、最前線で特異事象災害と戦って非業の死を遂げた。神格化されるのには十分な来歴でしょう」

「た、たしかに……」

 

 言われてみれば、日本版ジャンヌダルクと言われてもおかしくはない経歴だと、サンダーメロウは思った。

 

「彼らは皆、特異事象災害からメロースパークに救われた者達だと言います。

 どの様な形でも、あるいは失ったからこそ、それに縋る。実に度し難く、理解できない感情です」

「ゲダモノにも神様は居るんでしょ?

 あんたは崇めないの?」

「……恐らくですが、アレは人類が想像するような存在ではありませんよ」

 

 そう言った魔人からは、一切の信仰心の類は見当たらなかった。

 そもそも、宗教という概念を理解しているのか怪しい。

 

「ふむ、サンダーメロウとの雑談のコマンドを実行に成功。

 次のプロセスは、一緒に食事を行う。この調子で、これの難易度の緩和に努めましょう」

「……」

 

 サンダーメロウは、もうツッコミを諦めた。

 ここで姉ならどうするかと考え、ファンサービスをすることにした。

 

 姉を応援してくれてありがとう、と一人ずつ手を取って感謝を述べた所、メロースパーク信者たちは涙や鼻水を垂れ流しながら感激していた。

 それと同時に、姉はここまで愛されていたんだ、と実感した。

 どれも現場に来なければわからなかったことだった。

 

 これまでサンダーメロウの、紬の世界は暗く閉ざされていた。

 だが実際は、多くの人間に彼女の姉は愛されていた。

 すべて見えていない、いや見ようとしていないだけだった。

 

 サンダーメロウは彼らの為に戦うことに、何の疑問を抱かなかった。

 それが自分の使命、為すべきことであると、本気で考えた。

 

 そんな時だった。

 

「隊長!!」

 

 この部隊の副官であるオペレーターが、指揮車両から飛び出してきた。

 

「どうした、何があった!!」

「ヒト型怪人です!! ここより5キロ離れた市街から、複数の通報です!!」

 

 被災からもう、丸一日は経っている。

 逃げ遅れた人間にゲダモノの粘液が微量付着し、それに気づかぬまま寄生されて怪人に変異してもおかしくはない時間だ。

 

 副官からタブレットを受け取り、隊長は通報場所の地図を鋭い目で確認する。

 

「マズいな、近くの小学校の通学路だ」

「そんな、今はちょうど登校時刻じゃ!!」

 

 時刻は朝八時前。丁度小学生が集団登校している時間帯だった。

 

「落ち着きましょう、サンダーメロウ」

 

 が、逸るサンダーメロウを諫めたのは、人類の仇敵だった。

 

「まずセオリー通りに、仲間の魔法少女に連絡をするべきです。

 その後、現地に赴き、積極的な攻勢を避けて増援を待ちましょう」

「……そうだな。サンダーメロウちゃん、事態は一刻を争う。行ってくれるか?」

 

 淡々と最適解を提示する怪物に対し、何か言いたげに眉間を寄せた隊長だったが、私情を抑え込み、プロとしてサンダーメロウに出撃を要請する。

 

「はい、今すぐ行きます」

 

 SNSで一花にメッセージを送ったサンダーメロウは、頷いた。

 

「私も共に参りましょうか? 人型の怪人程度なら、私にとって物の数ではありませんが」

「あんたは監視されてる身でしょうが!!」

 

 魔人の提案を蹴って、サンダーメロウは雷光を纏って空高く飛翔した。

 

 

 音速を超える飛行魔法にとって、五キロの距離など二十秒にも満たない。

 だが、怪人の剛腕は子供の身体など容易に引きちぎる。

 一人殺すのに何秒掛かる?

 もし、私の到着が間に合わなかったら?

 

 最悪の想像を振り払い、サンダーメロウは雷鳴と共に通報地点の交差点へと降り立った。

 

「怪人は、どこ──」

 

「おーっほっほっほ!!!」

 

 そこに居たのは、血に飢えた恐ろしい怪人などではなかった。

 

 黄金の、人型のグロテスクなオブジェだった。

 周囲には登校中の子供たちや、偶然居合わせた通勤客たちが彼女を見ていた。

 

 黄金色に輝く縦ロールの髪をふわりと翻し、中世の貴婦人のような時代錯誤の優雅なドレスを身に纏った魔法少女。

 

「通学路の安全を脅かす怪人は、怪人は、この魔法少女、ゴールドシャワーが見事退治してみせましたわぁ!!!」

 

 唖然とするサンダーメロウは、死んだはずの魔法少女の出現に戸惑った。

 だが、そんな死者だった者にスマホのカメラを向ける者が多くいた。

 

 黄金のオブジェが、崩れ去って無価値な塵と化す。

 

 そんなそんな自己顕示欲の塊のような高笑いを浮かべるゴールドシャワーを遠目に見ながら、ビルの屋上の影で頭を抱える仲間二人が居たそうな。

 

 

 

 

 





ロリコン魔人、当初は悪役で出したのですが、ふと思ったのです。
こいつ、味方の方が面白くね、と。その方が紬と絡みが増えるしね!!

皆様からの高評価、本当に励みになりました!!
でも昨日、この作品が日刊ランキングに載ってる夢をみました。作者が執筆に熱中してるときはままあるのですが、10評価一個も無いのに無理っすよね……。
なんとか明日も更新する予定なので、ぜひ良ければ感想や高評価を何卒お願いします!!

ではまた次回!!

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