「あ、あの……」
朝の陽ざしの中、元気に高笑いをする魔法少女ゴールドシャワー。
困惑しつつも、サンダーメロウはそんな彼女に話しかけようと一歩踏み出した。
その瞬間だった。
恐らく、転移魔法だろう。
空間がぐにゃりと歪み、“魔法少女”が二人、ゴールドシャワーの目の前に忽然と姿を現したのだ。
強烈な『認識阻害』の魔法が展開されているのか、二人の姿は陽炎のようにブレて輪郭が掴めない。たとえカメラといった機械を通したとしても、不自然な陽炎のようなブレによって、その正体を暴くことはできないだろう。
そして、その得体の知れない“二人”は、そこに居る金ぴか魔法少女を取り押さえるように揉み合い始めた。
「なッ、お二人共、何をなさるのですか!?」
「す、すみません、皆さん」
「……お騒がせしました」
強引にゴールドシャワーの首根っこを掴む者と、周囲にペコペコと頭を下げる者。
直後、三人の魔法少女が立っていた空間が大きく歪み、彼女たちは転移魔法と共に掻き消えた。
「……」
「サンダーメロウ!!」
ポツンと残されたサンダーメロウが唖然としていると、背後の空間が再び歪んだ。
変身を終えたヴェスタが、転移魔法で応援に駆けつけたのだ。
「あれ、怪人は……?」
「……怪しい人はいたかな」
「はあ?」
そんなとぼけた返事をしてしまったが、サンダーメロウは確信していたのだ。
あの“二人”の内、一人の魔法少女がメロースパークであると。
認識阻害がかかっていても、声の響きや微かな魔力の波長が、紬の魂にそう告げていた。
だからこそ、どこまでゴールドシャワーたちの存在について言及して良いのか、判断がつかなかったのだ。
「あッ、昨日テレビでやってた魔法少女だ!!」
「助けてくれてありがとー!!」
「うわぁーん、怖かったよぉー!!」
唐突な幕切れに状況を把握できていないのは周囲も同じだったが、とりあえず、目の前に魔法少女が二人いる、ということだけは理解できたらしい。
通学中の小学生たちが、わっと二人に集まって来た。
「ええと、ど、どうすればいいのかなッ」
「とりあえず、隊長さんに連絡して、怪人化したのはヒトだったんだよね? その身元確認とかお願いしないと」
「な、なるほど、わかった」
まだ現場に不慣れであたふたしているサンダーメロウに対し、泣いている子供の頭を優しく撫でながらヴェスタがそう指示を出す。
事象整理課の仕事は、遺体の身元確認も含まれる。
ただ、身元確認が出来る遺体はかなり少ない。特異事象災害の犠牲者は、ゲダモノに吸収されて原型を留めず、その上魔法攻撃で徹底的に破壊される。
遺体と対面できるのは、まだマシな死に方と言えるだろう。この残酷な現実が、特対庁の日常だった。
二人が連絡を入れると、すぐに事象整理課の人員が到着した。
作業服の職員たちが手際よく現場を保存し、居合わせた人間に事情聴取を始める。
「ご、ゴールドシャワーです!! あのゴールドシャワーが現れて、怪人を金ぴかにしたんです!!」
「ほ、ホントです、動画もありますッ!! あのゴールドシャワーが生きてたんだ!!」
興奮冷めやらぬ一般人から、そんな証言が次々と飛び出し始めた。
なお、動画を撮っていたという者は、職員たちから「スマホなど構えていないですぐに逃げなさい」とこっぴどく叱られていた。
「……私もね」
事象整理課の職員の乗ってきた大型車両の後部座席に乗り、二人は一応当事者としてまだそこに残っていた。
「イグニスを見たの。初めて魔法少女になって、ゲダモノと戦った時……。
死んだはずだったのに……。あれは本物だった、あの魔法は、火力は彼女にしか出せない」
ヴェスタはイグニスの熱烈なファンだった。
自分の命を助けてくれたのもあるが、誰よりも強く憧れ、こうして自分も魔法少女として戦いを決意したほどに。
「ヴェスタちゃんも? 私も……。
魔法少女に成る前に、死んだはずだった魔法少女に助けて貰ったんだ。この眼で見た」
サンダーメロウは言葉を選びながら、そう戦友に語った。
「サンダーメロウちゃんも!?」
「うん。この事は、今は内緒にした方がいいと思う。
今は噂になってるらしいけど、どこかの魔法少女の変身魔法かもしれないから」
海外の魔法少女に、自分の姿を自由に変化させる魔法の持ち主が存在する。
サンダーメロウはそれを例に挙げて、口止めを図った。
「……そうだね。少なくとも、今は不用意な発言はしない方がいいよね。
でも、だけどさ……」
ヴェスタの瞳には、熱い輝きが満ちていた。
「もしかしたら天使様が言ってた怪人対応の部隊がゴールドシャワーとかだったら……」
「天使様が、彼女達を蘇らせたってこと?」
「わからない。わからないけど……」
ヴェスタは自分の胸に熱い希望の炎が満ちていた。
「もしそうなら、いつかお礼を言わなくちゃ」
サンダーメロウは彼女を見て、最近新しくできた友人を思い出した。
姉の死を心から悼んでくれた、自分がこの世界を守るために戦う理由のひとつ。
「うん、そうだね……」
サンダーメロウは膝の上で両手を握り締めて頷いた。
会いたかった。もう一度会って、感謝を伝えたかった。
まだまだ伝えることは、伝えたいことは全然足りない。
二人の新人魔法少女の胸に、かつてない希望が満ちていた。
彼女達が抱いたその希望は、ゴールドシャワーの白昼堂々の帰還を発端として、やがて日本中に熱狂となって広がり始めることになる。
だが、当事者たちはまた、別の事情を抱えていることはまだ誰も知らないのだった。
§§§
「希来里、あんた何してるの!?」
転移魔法で隠れていたビルの屋上の裏手で、イグニスがゴールドシャワーに詰め寄っていた。
「なにって、怪人を倒したのですよ?
それを周知して人々を安心させただけです」
彼女の主張は、ある意味で至極真っ当だった。
ゲダモノの出現は人々に不安をもたらす。それを撃退し、人々に『希望』を知らしめるのは、生前の彼女たち魔法少女が自らに課していた役割だったからだ。
「分かってるの、私達は死人なんだよ!!」
「……陽菜ちゃん、落ち着いて」
メロースパークに変身していた紫織は、声を荒らげるイグニスを宥めてから、ゴールドシャワーに静かに向き直った。
「希来里ちゃん。
私達はエンバーマーさんの魔術で蘇った。
だけど、それは本来あってはならないことよ。ヒトは、一度死んだ人間は復活してはいけない。
死者の蘇生は、人類が太古から求めていた究極の悲願のひとつ。
それが実際に可能だって世間に知れ渡ったら、それはゲダモノよりもずっと恐ろしい災厄に繋がるわ」
メロースパークは諭すように訴えた。
ゲダモノに悪意はない。ただの災害だ。だが、人間には欲望があり、悪意がある。
死者蘇生が体系化された技術として実現できると知れれば、それは人類にとって悪夢となる。地上は死者で溢れかえり、命の循環が絶え、資源を食いつぶし、土地を奪い合う戦乱をもたらすだろう。
「……私達は、禁忌の存在なのよ」
メロースパークは自分たちが存在してはいけないと、強く認識していた。
「……申し訳ありません。思慮が足りませんでしたわ」
ゴールドシャワーは、素直に頭を下げてみせた。
「うん、ごめんね。貴女も私達が蘇らせてしまったのに、強く言って」
「ですが、紫織さん。その上で、理解できないことがあります」
顔を上げたゴールドシャワーは、メロースパークをまっすぐ見据えて言った。
「エンバーマー様はこれから、数多の魔法少女を蘇らせるでしょう。
既に亡くなった彼女達から了承を得られないのは仕方ありません。
では、今生きている彼女達は?」
ゴールドシャワーは魔法少女の武器と顕現した扇子を手で弄びながら、二人に尋ねた。
「今生きて戦っている魔法少女に、己の死後に復活の了解を取らないのは不誠実ではありませんか?」
それは他でもない、自らの蘇生を望んでいなかったゴールドシャワーの率直な意見だった。
「希来里、じゃああんたは、これからは魔法少女だけを生き返らせます、そう言ってどれだけの人間が納得すると思うの?
ゲダモノによって大勢の人間が死んでいるんだよ。じゃあうちの家族も生き返らせてくれ、そう言われないわけがないでしょ!?」
イグニスだって、ゴールドシャワーの言い分は理解できる。
だが、死者を蘇らせる方法があると言って、それを魔法少女だけに使うとなれば、それはただの特権でしかない。
「では魔法少女しか蘇らせられない固有の魔法、ということにすればいいではありませんか。
私も製薬グループを束ねる金剛寺家の人間。
特定の病の特効薬にどれだけの利権や思惑が絡んでいるのか、知らないわけではありません」
ゴールドシャワーの主張はそうだった。
例えば、ガン。日本人の死因の第一位。
それが魔法少女の魔法で治せます、となったらどれほどの衝撃が日本に、いや世界に波及するだろうか?
世界中に何十万人という、ガン利権と揶揄されるほどの、その仕事に携わる人間が路頭に迷うだろう。
それが日本なら世界中からガン患者が殺到し、この小さな島国はパンクするだろう。
そして、ガンを治療できる魔法少女を出せ、とそこら中で大騒ぎをするのだ。
暴動が起こり、治安が悪化し、関係のない死者が大勢出るだろう。
社会のトップ層にいたゴールドシャワーこそが、人間の欲望の果てが無い事を誰よりも理解していた。
「希来里ちゃん、それは多分無理があるよ……」
「では天使様がそう仰ったと言うことにすればよろしいではありませんか。
あの御方に、人類は逆らえません」
「……」
メロースパークは言い返せなかった。そもそも、エンバーマーの技術の恩恵を最大化しようと言い出したのは彼女だ。
この世界にとって、天使の差配は絶対だった。
魔法少女の力を研究し、国家の軍事力や技術に転用しようとした国は過去に幾らでもあった。国家の安全保障としては当然の行為だ。
だが、天使はそれの一切を赦さなかった。
自分が与えた魔法の力を研究し、技術に転用することを赦さなかった。
魔法の力は、この地球に本来あり得ざる力。
天使はそれを、ゲダモノという災厄に際し緊急避難的に貸し与えているに過ぎない。
それを超えた運用を行うなら、その国の人間に魔法は与えない。
それがこの世界の、絶対的な『管理者』としてのスタンスだった。
「……わかったよ」
「紫織さん!?」
メロースパークが許容するような言葉を吐いたことに、イグニスは目を丸くした。
「その辺りの設定は、広報課の人達と協議しよう。エンバーマーさんのしていることはどう言い繕っても、最低でも死体損壊罪。遺体をどこからか調達していることからして、死体遺棄も含まれる。だから彼女本人は絶対に表に出さない。政府との協議にも顔を出させない」
メロースパークの瞳に、かつて日本を導いた魔法少女としての理知的な光が宿る。
「政府には、倫理的にアウトな方法で魔法少女だけを蘇らせる魔法の存在だけを明かす。……それでいいかな?」
「ええ、それで行きましょう」
ゴールドシャワーの行動は行き当たりばったりだったが、結果としてこれは仲間内で必要な方針決定となった。
芸術家気質のエンバーマーは、こういった政治的駆け引きを煩わしいと思うタイプだろうから。
二人は、まだ不満そうなイグニスの方を見やった。
「……紫織さんは、日本の魔法少女に関する法律やルール作りの切っ掛けを作って、その内容にまで関わっているって聞いてる。
だから、紫織さんがそう言うなら、私は従うよ」
「うん、ありがとう。陽菜ちゃん」
感謝を述べるメロースパークに、イグニスは首を横に振って見せた。
「ううん。私は戦うことぐらいでしか役に立てないから。なんだか面倒ごとを任せちゃって、ごめん」
「それはこっちの台詞だよ。紬と私、天使様は才能が紬の方が優れているって言ってたけど、本当だった。
私にあんな威力の魔法は出せない」
メロースパークは、同世代の魔法少女と比べて明らかに魔力出力の劣る魔法少女だった。
彼女の代名詞であるネイルガンを使った電撃誘導も、魔術理論で言えば「照準プロセスを
そんなややこしいことをする魔法少女は彼女だけだった。
彼女の妹のサンダーメロウは、指定した位置にドッカンドッカンと極大の雷を落とせる。
明らかに出力が違いすぎる。
ヴェスタも優れた火炎魔法の使い手だが、全盛期のイグニスに比べれば見劣りしてしまう。
ゴールドシャワーなんて、対象を黄金に変えるなんて無法を平然と行っている。
天使に見出される魔法少女の強さは、明確に劣化しているのだ。
それは、一回り才能が劣る、と天使に直接告げられたメロースパークが誰よりも生前から実感していた。
だからこそ、メロースパークは生前に自分なりの戦い方を見出し、日本に希望を与える方針で活動をした。
そう言った理由もあり、『第一世代』とも言うべき今亡き戦友たちを、現世に呼び戻すと言う“悪逆”を是としたのである。
「天使様は、次は性格に難があっても意欲があるなら才能を優先して魔法少女を動員するって言ってたけど……。
そもそも、魔法少女になんてならない方がいいのよ」
天使が魔法少女を選ぶ際、“質”を優先していた。
それは才能ではなく、人類への奉仕者としての“純粋さ”だった。
今いる魔法少女たちは誰もが、日本に、人類の為に迷いなく戦いに身を投じていることからそれは明らかだった。
「……そうだね」
イグニスは頷いて見せた。
だがそれは、幼い少女である前提を覆い隠すモノではなかった。
イグニスはゲダモノとの終わりのない戦いに、心折れてしまった魔法少女が何人も居るのを知っている。
彼女の戦友にも、自分の日常を犠牲にすることを耐えられず、引退を決意して魔法の力を天使に返上してしまった。
魔法少女になど、ならないに越したことはないのだ。
「そうでしょうか? 私は天職だと思ってますけど」
なお、このゴールドシャワーは自己顕示欲の塊で、注目されることを楽しんでいた模様。
そんな彼女に、何とも言えない表情を向ける二人。このぐらい図太くなければ、魔法少女に向いているとは言えないのかもしれない。
「……あ、広報課の課長さんからもう連絡が来た」
メロースパークは、例のブラックカードで購入したスマホの捨てアカウントのメールアプリに、着信があったことに気づいた。
「今日の夕方に会おうってことになったけど、みんな大丈夫だよね?」
メロースパークは自分だけでなく、三人で会おうと誘った。
「うん。見た感じ、現場の子たちもちゃんと隊長さんの言うこと聞いているし、ここから離れても大丈夫そう」
歴戦の魔法少女であるイグニスは、現場対応している魔法少女の動きに問題はないと太鼓判を押した。
「おほほほ、ついにこの魔法少女ゴールドシャワーの再始動の始まりですわね!!」
「希来里ちゃん。今回は人命が掛かってたからいいけど、ちゃんと相談して行動してよね?」
「ええ、分かっていますわ」
メロースパークに念を押され、ゴールドシャワーは扇子を広げて口元を隠した。
「ですが、私にとって必要な事だったと、分かって下さいませ」
「え、どうして?」
「今頃……先ほどの事はSNSでトレンドになっていることでしょう」
イグニスが尋ねると、ゴールドシャワーは扇子で隠れた口元を歪ませた。
「私を殺した者は、私の生存を知って蒼白になっている頃でしょうね。おほほほ……」
「……」
「……」
もしかしてあれは計算ずくだったのでは、と二人は心穏やかならぬ気分でそう思ったのだった。
§§§
魔法少女達に魔法の力を与える存在、彼女達が“天使”と呼ぶ管理者は、次の魔法少女の候補を見定めていた。
魔法の才能は、魂に依存している。
走るのが速い、語学の習熟が速い、それらと同じだ。
それらは人間が“人間”として誕生する瞬間に、ランダムに決定する。
そこから性格を考慮すると、候補は限られる。
だが、この完全にランダムの才能は、ひとつのあるルールが存在していた。
それを解明した文明は、ドッペルゲンガーの法則、と呼ぶ。
例えば、並行世界の地球Aと地球Bが存在するとする。
その二つには、必ず共通した同じ才能を持つ魂が存在する、という法則だ。
つまり、地球Aにイグニスが居れば、地球Bにもまたイグニスと同じ才能の持ち主が居ると言うことである。
天使は、いや『管理者』たちはそれをリスト化し次元を超えて共有していた。
だがイグニスと同じ才能を持っていたとしても、その才能が開花する境遇とは限らない。
同じ才能を持つので、似たような人生を歩む可能性が高いが、それだけだ。
そんな中で、“質”より才能で候補を選ぶ場合の、どの世界でもリストのトップに存在する魂の持ち主が居た。
この人物に魔法を与えるのは正直躊躇われるが、この緊急事態にその才能を腐らせるのも惜しい、という微妙なラインとして扱われているのが、リストがこれだった。
天使は一抹の懸念を抱きつつも、その人物の前に降臨した。
『西念 理亜よ。端的に要件を──』
「ロイド君、ロイド君!!」
そこはピンク一色の部屋だった。
所狭しと魔法少女グッズで埋め尽くされ、特にメロースパークの公式グッズが部屋の一部を占拠していた。
「なんだよ、理亜」
恐らく外国人とのハーフらしい顔立ちの少年は、うんざりした顔で裁ちばさみを握り、布を切っていた。
いや、切らされていた。
どうやらデザイン画から何らかの衣装を作成させられている最中のようだった。
「ロイド君、ロイド君!!」
「だからなんだよ!! お前が魔法少女の衣装を作れって言ったんだろうが!! 邪魔すんな!!」
「天使様、天使様だよ!! ついに私が、魔法少女サイネリアになる時が来たんだよ!!」
「ついにヤクでも決めたか、このバカ女」
誰もいない空間を見つめて興奮し、作業中の少年の袖を引っ張っている少女に、少年は全く取り合わない。
「つうか、なんでサイネリアなんだよ。本名もろバレじゃねえか、俺が天使様ならお前にだけは魔法なんて与えないね。
お前みたいな痛い奴は一生コスプレで満足してろよ」
「ロイド君のバカ!! バカバカバカ!! キライ!!」
「あっそ。じゃあ俺はお前のお守りも卒業だな。あー、清々するわ」
『……』
天使は、他の世界の管理者から共有されていた通りの性格だと判断した。
ここまでどの世界線でも大して変わらない傍若無人な性格の持ち主も珍しい。
『魔法少女サイネリアよ。お前には類稀なる魔法の才能がある。
それを使い、ゲダモノと戦ってはくれないだろうか?』
「うん、理亜はゲダモノと戦う!! 魔法少女になる!!」
『……では、お前に魔法の力を与えよう』
天使が少女に魔法のプリセットを与えた直後だった。
少女は瞬く間に、サイネリアの花の花弁のようなドレス姿に変身した。
彼女の幼馴染たる少年は、その光景にあんぐりと口を開けた。
「……嘘だろ」
「ロイド君!! ロイド君!! さっそくゲダモノを倒しに行こう!! 怪人はどこかな!! どこかな!!」
「こんな奴が魔法少女に選ばれたって……? 地球は終わりだ」
『樫尾 ロイドよ』
絶望している少年の前に、天使は己の姿が見えるようにした。
「うわ、ホントに天使だ……」
『天使ではない。私はこの世界の管理者だ』
「いやどっちでもいいよ。あんた正気かよ、こいつに魔法とか一番与えちゃダメな奴だろ」
『……いざという時は取り上げる。
だがそれまでは、上手くお前がコントロールするのだ』
「結局俺はこいつのお守りなのかよ!!」
「見て見てロイド君!!」
魔法少女サイネリアは、いかにも女児向け魔法少女アニメに登場するようなステッキを顕現させ、無邪気に振るった。
──それだけで、轟音と共に分厚い壁一面が吹き飛んだ。
「……」
『……』
「ロイド君!! 魔法少女サイネリアのオープニング曲作って!!」
「衣装づくりの次は作詞作曲かよ……」
もはや彼女が壁をぶち破り、外の景色が丸見えになったことに対するツッコミすら湧いてこなかった。
「適当にAIに作らせるか……」
「ねえ、ゲダモノは? 魔法少女サイネリアはゲダモノを倒すの!!」
「そんなのゲダモノに聞けよ!!」
天使に実体があれば、間違いなく頭痛を覚えていただろう。
爆音を聞きつけた使用人らしい侍従たちが慌てて部屋に入って来て、吹き飛んだ壁の惨状に腰を抜かしている。
『……頼むぞ、樫尾 ロイドよ』
天使はもう、そう丸投げ同然に告げる他なかった。
陰鬱な作風の今作に、一石を投じる魔法少女を投入。
作者の作品で魔法少女と言ったら、魔法少女サイネリア。と、ロイド君。メンタルもパワーも屈指です。
希来里を超えるトラブルメーカーとして機能してくれるでしょう。
今作の魔法少女たちは、少々お行儀が良すぎますので。
念願の赤評価バー、ありがとうございます!! 感想もお待ちしております!!
ではまた、次回!!