その魔法少女、死霊魔術師につき   作:やーなん

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火葬のイグニス

 

 

 

 眠る必要の無い私にも、意識して寝ようとすれば微睡みが訪れる。

 そんな中で、私は最近、不思議な夢を見るようになった。

 

 

「……思えば、本当に遠くまで来ちゃったね」

「ええ、本当ですね」

 

 夢の中で、私は紫織さんと並んで空を見上げていた。

 いや、そこにあったのは空は空でも、漆黒の“星空”だった。

 

 見上げる宇宙の中心には、青い、ひどく蒼くて美しい星が、ぽつんと浮かんでいる。

 

「ここなら安全なんだよね?」

 

 私が言った。

 

「ええ、なにせここは、月の領域ですから」

 

 メロースパークに変身している紫織さんが答えた。

 なんと、私は月から地球を見上げているらしい。

 ツッコみどころが大きいのがまた夢の中の世界らしい。どうやって私達呼吸してるんだろうか。

 

「結局、私達って死んでも戦い続ける運命なんだね」

「陽菜さん、貴女の場合は宿命なのでしょう」

 

 どこか達観した表情で、紫織さんは私を見ていた。

 

「『火葬の』、ここに居たのか」

 

 火葬。それが私の呼び名だとすぐに分かった。

 振り返ると、そこにはリェーサセッタ様が立っていた。だけど、その瞳は澄んだ碧眼だった。

 

 だが、その立ち姿はひどく弱々しく、今にも消え入ってしまいそうなほど儚げだった。

 

「大勢の死傷者が出たようだ。弔ってくれないだろうか?」

「……うん、わかりました」

 

 私が月面を歩くと、そこは奇妙なことに、難民キャンプや野営地のような場所になっていた。

 老若男女の人間はもちろん、犬や猫などの数多の動物、さらには人間とは思えない異種族の外見の者達までが入り乱れ、怪我人を運んだり武器を直したりと、忙しなく働いていた。

 

「やあ、火葬の。頼む」

「お前が来てから土(・)葬(・)の(・)が捻くれてる、声を掛けてやってくれ」

「よう、悪いな。私達の仲間を、弔ってくれ」

 

 すれ違う人々や、人語を話す動物や、異種族の姿の者達からも、声を掛けられる。

 

 やがて私は、救護所のような粗末なテントの前に出た。そこには、うず高く積み重ねられた多くの死骸があった。

 ヒト、動物、異種族……。無惨に転がる『死』という結果の前に、種族の境界など無かった。

 

 私は彼らを燃やした。ゲダモノにそうするように。真っ白な炎で。

 

 ああ、だからか、と私は思った。

 私が“火葬”と呼ばれている理由。

 

 大勢のゲダモノに呑まれた遺骸を焼き払った私に、それは相応しい呼び名だった。

 

「地上は今、大災害の神々の出現によって全ての生命が滅びの危機を目の当たりにしつつある」

 

 テントの近くで、多くの者達が輪になって合議をしていた。

 そこにはリェーサセッタ様もいた。

 

「我ら、矮小なる命に過ぎなくとも、生きることを止める理由にはならない。俺達の心臓の鼓動が動く限りな」

「だが、山に向かって石を投げるのは愚か者のすることだ」

 

 重々しくそう言ったのは、大山の如き巨躯を誇る狼のような犬だった。

 すごいな、もふもふしたい、と夢の中の私は少し呑気なことを考えていた。

 

「ああ、故に、“英雄”を選ぶことになった。

 災厄に立ち向かう、勇猛で恐れを知らぬ、戦いを専門とする武の神を」

 

 そこで、合議の中心に座っていた赤ら顔の大男が私に気づき、こちらを向いて問いかけてきた。

 

「おお、イグニスか。火葬の、お前は己の英雄に、誰を選ぶ?」

「────―」

 

 私は……。

 私はその時、誰の名を口にしたのだろう?

 

 

 §§§

 

 

「私の英雄か……」

 

 私は世間から英雄であると持ち上げられている。

 そんな私にとっての英雄とは、一体誰なんだろう?

 

 そんな疑問を頭の隅で転がしながら、私は生前の自分の実家──そのすぐ近くの路地裏へと音もなく降り立った。

 そこは、何の変哲もない、ただの平和な住宅街の一軒家だった。

 

 そんな疑問を頭の隅で転がしながら、私は生前の自分の実家──そのすぐ近くの路地裏へと音もなく降り立った。

 そこは、何の変哲もない、『相賀(そうが)』と表札が門柱に掲げられた、ただの平和な住宅街の一軒家だった。

 

 予想通り、車庫には車が無い。両親は共働きなので、平日のこの時間には二人とも不在だ。

 中に入って顔を合わせるつもりはない。ただ、二人が元気でいる気配だけでも感じたかった。

 

 あの二人は私の、人生で『二度目』の両親だった。

 だからと言って親子の間に隔意は無かったし、私は普通の子供として、二人にありのままの愛情を注がれて育てられた。

 

 いや、でも、前世で二十歳まで生きた大人の精神のまま、もう一度小学生をやり直すのは、正直やっぱりキツかった。

 小学生の頃は周りより精神年齢が高い分、テストも人間関係もイージーモードだったけど、中学時代で成績が良かったのは最初の一年目だけ。

 

 なんだよ微分積分って。いくら自分に要領が悪い自覚があるとはいえ、意味わかんないんだけど!!

 精神は大人でも、頭脳のスペックが上がるわけじゃないのだ。

 

 結局、私は中の上くらいの平凡な成績で、地元の高校に進学することになった。

 前世では受験に失敗して私立の高い学校に滑り止めで入学する羽目になったけど、今回は公立の学校に受かったから、学費の面で両親にあまり負担を掛けずに済んだことだけが幸いだった。

 

 私には将来の夢も目的も無かった。

 紫織さんのような秀才になれる、熱量も熱意も無かった。

 

 普通、二度目の人生なら前世の経験を生かして、なんかそう、……色々するじゃん? アニメとか、漫画とかじゃ。

 

 でも、私にはそんな要領の良さも、崇高な目標も無かったんだ。ただ平和な日常を、ダラダラと生きたかっただけ。

 

 転移魔法を使って、実家の中へと足を踏み入れる。

 懐かしい、我が家の匂いを感じて、それを胸いっぱいに吸い込んだ瞬間、自分が本当に帰ってきたことを実感して……私はたまらなくなり、暗い玄関でへたり込んで、少しだけ声を殺して泣いた。

 

 涙を拭って見回した家の中は、何も変わっていなかった。

 二階にある私の部屋も、あの日、最期に出て行った時から時計が止まったようにそのままだ。

 

 どうせ両親も今更私の私物など確認しないだろうから、ゲーム機とかスマホとか、持って帰ることにした。*1

 

 最後に、私は一階の仏間へと赴き、仏壇の観音扉を静かに開いた。隣に増えているもう一つの仏壇には目を向けたくはなかった。

 そこには、私がまだ幼い頃に亡くなった、お爺ちゃんの遺影が飾ってある。

 享年九十を過ぎての、大往生だった。

 

 若い頃に徴兵されて、外国の戦地でどう戦ったのか、生前よく話してくれた。

 いや、多分ボケてたんだと思う。十歳にも満たない私に、延々と自分の武勇伝を話していたんだから。

 私は、うんうんと聞いて、いつもお小遣いを貰っていた。

 

 年相応に子供だった私にも、印象的な話として覚えていることがあった。

 

「敵の爆撃でよ、味方がバタバタ死んだんだ。ワシは偶々塹壕の奥に居たから助かった。だが、その後が大変でよ。味方の死体を埋めなきゃなんねぇ。だけど上官の野郎は、火葬に使う燃料もケチれときた。しかたねぇから、そのまま土に埋める他なかったんだ」

 

 お爺ちゃんはそこで、ひどく遠くを見るような目をした。

 

「だが、それから何日か経つと、仲間を埋めた地面がボコッ、ボコッて不自然に隆起するんだ。どうしてだと思う? ……土の中でウジが湧いて、腐敗ガスで死体が膨れ上がってやがるからだよ」

 

 幼い私には、いや、前世を含めてそれなりに生きた私でも、想像を絶する話だった。

 お爺ちゃんは、恐らく何人もの敵兵を殺したはずだ。

 

 リェーサセッタ様は、お爺ちゃんを地獄行きにするんだろうか。

 そうだったら、嫌だな。もし次会ったら聞いてみよう、と思った。

 

 私は仏壇に線香を供えて、チリンと鐘を鳴らしてから手を合わせてお爺ちゃんの冥福を祈った。

 

 そうしていると、車庫に車が入って来た気配を感じた。

 ああママ辺りが家に書類を忘れて慌てて帰って来たパターンかな、と私は思った。

 

 私は親に見つからないように、転移魔法で逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 慌てて書類を取りに帰った陽菜の母親は、線香の匂いに廊下で足を止めた。

 

「……陽菜?」

 

 普段は閉じている筈の、仏間の仏壇が開いている。

 そこには仄かな熱を持った線香が、まだ半ばまで残り、細く静かに煙をくゆらせていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 魔法少女コールドミスト、朝霧 冬華。私の戦友にして、親友。

 たった一年足らずの間だったけど、無二の友人だったと思っている。

 

 私はあいつに蘇らせられた後、真っ先に彼女の安否を確認した。

 ただ、政府の公式サイトの魔法少女一覧に彼女の名前は無かった。

 

 死亡しているわけではないはずだ。そうだったら公表されているだろうから。

 ネットでは魔法少女を引退したとして、話題になっていた。

 

 日本では四人目の引退者になる。

 

 私は不安になって、彼女の家に向かった。

 彼女の家は私の家から歩いて五分の所にあった。

 

 私も生前はよく遊びに行ったものだった。

 

 だけど、彼女の家の前に着いてから、はたと今日は平日だと私は気づいた。

 でも、彼女の通学用の自転車が置かれていた。

 

 もしかしたら、今日は家に居るのかな、とそう思ったのだけど。

 

【ふとその時です!! 朝霧家の玄関の扉が開いたのです】

 

「冬華、外出できるようになってくれたのは嬉しいけど、あまり無理をしてはダメよ?」

「大丈夫だよ、お母さん。もうあんなことしないって」

 

 冬華と、彼女のお母さんが玄関から冬華を送り出していた。

 玄関の扉を閉めて、私服の冬華が自転車に跨って門前から出てきた時だった。

 

「えッ」

「やっほ、冬華」

 

 私は軽く手を挙げて彼女に呼びかけた。

 

 ……冬華はガッシャンって自転車ごとひっくり返った。

 

 

 

「ほ、本当に、陽菜なの?」

「うん……」

 

 近くの公園のベンチに座って、冬華は動揺を隠すようにカバンからお茶を飲んだ。

 

「……ちょっと特殊な魔法で、生き返っちゃった」

「貴女が陽菜なら、その証拠を見せて」

「いいよ」

 

 冬華は私の姿を見て違和感を感じてるようだった。

 誰よりも傍で戦ってきたから、私の身体の微妙な違いを察しているんだと思う。

 

「ほら、これ」

 

 私は掌から、鞘からそうするように大剣を引き抜いた。

 それは魔剣。魔剣イグニス。異なる可能性の、私そのもの。──そして、“契約”の証。

 

「これを見てるのは、天使様と冬華だけでしょ」

「……ホントに、陽菜なの?」

「うん」

「う、ううう、ううッ」

 

 冬華は私だと確信してくれたのか、俯いて泣きはらし始めた。

 私は彼女の隣に座って、彼女が泣き止むまで背中をさすり続けた。

 

 

 それから、お互いの事を話した。

 冬華は私が死んで以来、ずっと引き籠っていたらしい。

 酷いトラウマを負って、自殺を試みたほどだったって、泣きながら話してくれた。

 

 ショックだった。

 冬華は私の知る限り誰よりも強い魔法少女だったから。

 

 もし彼女が亡くなっていたら、きっと紫織さんよりも優先したかもしれない。それぐらい、私は彼女を信頼していた。

 

「死者を蘇らせる魔法少女……」

「うん。世間には公表できない方法になっちゃうけどね。でも、私はこの間一人でヒト型怪人を倒せたし。

 ……あいつの力は本物だよ」

「わからない」

「え?」

 

 冬華は私の顔を覗き込みながら、こう言った。

 

「なんで、死んだ後も戦おうとするの?

 わかってるでしょ、どうせ地球はゲダモノに埋め尽くされて、私達は滅びるしかないって」

「……そうかもね。紫織さんはあと五年持つかどうかって言ってたし」

「紫織さんもいるんだ」

「うん、私は考えるのが苦手だから、頭脳担当って感じ」

 

 私は開き直って、あっけらかんと言ってのけた。

 

「どうせ滅びるなら、私たちの戦いに、なんの意味があるの」

「……ねえ、冬華。正直さ、私も嫌になったんだ。何で死んでまでゲダモノと戦わないといけないんだって。

 あはは、蘇ってからずっと変身も解いてないんだ。呆れちゃうよね」

「そんなの当たり前じゃないッ」

「でももう、そんなバカらしいことを言うのは終わりにするよ」

 

 私は蘇ってからずっと続けていた変身を解いた。

 

 同時に押し寄せる、罪悪感、恐怖、悲しみ。

 私はそれに堪えるように笑って、それでも涙は堪えきれなかった。

 

「もう大丈夫だよ、冬華。私があなたを絶対に守るよ」

「──ッ!?」

 

 この苦しみを、冬華にだけ押し付けてなんていられない。

 私達は最高の相棒で、私の二度の人生で初めての無二の親友だから。

 

「私、決めた。必ずゲダモノを全部焼き尽くしてやる。

 冬華の目の前に、二度と奴らが現れないようにする」

「やめて、やめてよ、陽菜ッ」

 

【冬華は思ったのです。もう私が相棒じゃないみたいな、そんな言い方は止めてほしい、と。ですが愚直な陽菜は優しく笑うだけでした】

 

「あなたがそんな風だと、私が惨めになるじゃない……。私だけゲダモノから逃げたって!!」

「なんで? ゲダモノから逃げるのは当たり前のことじゃん」

 

【違う、そんなことを言いたいんじゃない、と冬華の心の傷口は血を流し、その痛みが本音を妨げていたのです】

 

「蘇ってから色々と考えてたんだけどさ。やっぱり私は生前の生き方を変えられそうにないよ。

 私はイグニス。“火葬”のイグニス。その名前を背負って、これからも戦う。冬華はそんなことしないでいいよ、一応頼れる仲間もいるし、冬華は普通の生活に戻って」

 

【読者の皆様におかれましては、もう気づいているでしょう?

 陽菜ちゃんは、イグニスは、冬華ちゃんの事なんて見ていないのです。自分の現状に納得する為に、知り合いに愚痴って自分の感情を整理する為に、彼女を利用したのです】

 

【陽菜ちゃんは冬華ちゃんのトラウマを抉って、焼きゴテを押し付けたに過ぎないのです。

 まさしく、死化粧屋さんの作品に相応しい、二人の思い出に対する“冒涜”だったのです】

 

【陽菜ちゃんが冬華ちゃんに出会って、奮起する。これはそんな、美しい物語などではないのです。どこまでも等身大な、自分の事で精いっぱいなだけの、どこにでもいる矮小な二人の少女のすれ違いに他ならなかったのです】

 

「……行かないで、陽菜」

 

 か細い声で、俯く冬華の言葉に私は胸を締め付けられる思いだった。

 

「ねえ、冬華」

 

【ですが、それでも。二人の絆に嘘は有りませんでした】

 

「これを、冬華が持っててくれる?」

 

 私は魔剣を再び抜いて、冬華に預けた。

 

「でも、これって」

「それも、“私”だから。それの存在は、他の仲間にも教えられない。絶対の切り札だから」

 

 この魔剣は、私自身。

 必要ならいつでも手元に戻せる。これまではずっと、私の中にしまってあった。

 

 でも、これは本当に切り札なんだ。

 私でもこれを使ったら、手加減なんて出来ない。

 周囲をまるごと焦土にしてしまう。

 

 だからあの時も使えなかった。

 あの廃ビルであの魔人と戦った時も、エンバーマーに止められるまでもなく。

 

「あ、危ないから布とか巻いた方がいいよ」

「こんなにかさばる物、どこに置いておけばいいのよ……」

 

 そこで初めて、冬華は小さく笑った。

 それを見て、私はようやく安心できた。

 

 その時、冬華のスマホが鳴った。

 

「あ、樫尾君からだ。まだ来ないのって理亜がダダこねてる、か。行かないと」

「……じゃあ、私はもう行くね」

 

 どうやら、冬華に用事があるらしかった。

 

 ……冬華が魔法少女に復帰することは、きっと無いと思った。

 だから、私は彼女のいつか来る死後に安寧を、人として迎えることを望んだ。

 

「陽菜……また、会えるよね」

「それは大丈夫、今の私、残機持ちだから!!」

 

 ベンチから立ち上がった私を見上げてくる冬華に、私は笑って返した。

 

 

 冬華と別れて、飛行魔法で私は拠点へと向かう。

 やっぱり彼女の顔を見て良かった。私は迷いを捨て、清々しい気持ちでいられた。

 

 私は、両親や親友の為に戦う。

 最初から思い悩む必要なんて無かったんだ。

 

 私はそれくらい、単純な方が良いんだ。

 

 うん。私はもう、躊躇わない。

 

 

 

 

 

 

 

【かくして、魔法少女イグニスの心に、再び灯火が灯ったのです。え、コールドミストはどうなったかって? それはまた、別のお話……】

 

「二代目よ」

「はい、なんですか?」

 

 舞台の壇上で、台本を広げていた黒子の少女が、観客席に座る冥府の女主人に目を向ける。

 

「まさかアレが、“火葬”のだったとはな」

 

 遠い目になって、彼女は奈落のような瞳を細めた。

 

「ええ、彼女が自覚をするのももうすぐでしょう」

 

 少女は台本を閉じた。タイトルは、“火葬のイグニス”。

 

「それよりも、朝霧 冬華の事だ。

 あれの裁可は我が権能によるもの。それを横取りするのは、我々のルールに反する。あれは私が地獄行きを決めたのだ、口を挟むことなどこれっきりにしてほしい」

「ええぇ、でも、人手はどこの世界も足りませんよ?

 現在ゲダモノは150以上もの世界を侵していますから」

「そんなことは承知している。

 だが、それとこれとは関係無い。私の仕事の邪魔をするなと言っている」

 

 女神リェーサセッタは、目を細めて黒子の少女に警告を発した。

 

「……リューちゃん。──誰にモノを言っているんです?」

「ッ!?」

「そのルールとやらって、お前達格下の神々が勝手に決めたことじゃないですか。高々人間の悪なんてみみっちいものを司ってる程度のあなたが、この私に意見するんですか?」

 

 神々の領域において、神の格とはその支配領域に依存する。

 その中で人間の“悪”という広大な領域を支配する彼女でさえ、国家で例えるなら大領主に過ぎない。

 

 そう、国家で例えるなら。そこには“王”が居なければならない。

 絶対なる、全知全能を司る神々の王が。

 

「……申し訳ありません、二代目。二代目、暴君……女王様ッ」

 

 だから彼女は、伏して慈悲を乞う立場でしかないのだ。

 

「まあまあ。顔を上げてよリューちゃん。私とあなたの仲じゃありませんか♪

 ゲダモノの対応はこの間の合議で一致団結するって決まったし、戦時対応ってことで許してね♪」

「……はい」

 

 女神リェーサセッタは思った。人々は自分を神であると崇め、そう振る舞ってきた。

 

 だが、笑ってしまう。自分など決して神などではない、目の前の存在に比べれば!!

 

「私は可能な限り犠牲を減らす方向で頑張りますけど、流石に別の神話の存在相手には私の権能も及びません。

 私でさえ、ゲダモノとの勝敗は予測できません。今は一人でも、英雄が必要なのです」

 

 少女の姿をした、“運命”そのものが語る。

 

「まあ、惨いことをしている自覚はありますけどね……」

 

 だが、それが運命というものである。

 

「しかし、こちらの準備も整いつつあります。

 名だたる武神たちが、ゲダモノの神話領域に攻め込む準備を着々と進めています。人々には今は耐えて、としか言えないのが歯がゆいですねぇ」

 

 ゲダモノは、目の前の全能なる者でさえ手こずる相手。

 準備を怠るわけにはいかない。

 

「リューちゃんにとっては、久しぶりの大戦ですね」

「……ええ」

 

 神々が団結して、災厄と戦う。

 それはまだ冥府が出来るずっと前の、随分懐かしい出来事だ。

 

「お前を待っているぞ、火(・)葬(・)の(・)」

 

 神々の決戦は、間近に迫っている。

 リェーサセッタは、懐かしい名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

*1:
どうせスマホは解約されてるだろって? この時は感傷に浸っててそんなこと思い浮かばなかったの!!





皆様、しばらくぶりです。
先月から外耳炎を発症し、痛くて執筆もままならなかったのですが、なんとか痛みは治まったので、更新を再開したい所存です。

次回は、希来里の番になりますね!!

ではまた、次回!!

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