その魔法少女、死霊魔術師につき   作:やーなん

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ステージ2

 

 

 

「ここを自由に使えよ。盛大に葬式までして実家には帰れないだろ?」

 

 モルグ、地下死体安置所──エンバーマーは工房と言うが──から上がるとそこはどこかの山奥の廃病院の廊下だった。

 

 寂れた廃村が見下ろせる場所にそこは存在しており、療養施設も兼ねているのか自然が豊かな場所に建てられていたのだろう。

 ただ一般人からすれば不便な立地だった。

 

「……そうね」

「ところでお前、いつまで変身してるんだ?」

 

 エンバーマーは顎をしゃくり、陽菜──イグニスを示しながら尋ねた。

 

「変身を解くと、弱い自分に戻ってしまうもの」

 

 彼女は目を逸らして、後ろめたそうにそう呟いた。

 

「ああそう。まあ好きにしろよ」

「そう言うあんたは変身を解かないの?」

 

 医療ドラマでも見る手術衣や薄いゴム手袋、マスクや手術帽を付けたままのエンバーマーに、イグニスは言った。

 

「ああ、これは普通に手術用の奴だよ。私は変身しないと魔法が使えないほど、不自由してないんでね」

「流石にそれが魔法少女の衣装じゃなかったんだ……」

 

 ちょっと合点がいったような、そうではないような気もするイグニスだった。

 

 エンバーマーが手術衣などを脱ぐ。手術帽を脱ぐと、まとめられたロングヘアが重力に従い背中に垂れる。

 小柄で地味な、目立たない少女だった。

 そしてその強烈なキャラとミスマッチするように、手術衣の下は普通の学生服の白いシャツとチェックのスカートだった。

 

「知ってる学校の制服だ……」

「お前、享年は?」

「……16だけど」

「なんだ、タメか」

 

 前世の年齢を足せば三十半ばを過ぎているが、わざわざそれを言って張り合うほど、イグニスも大人げなくはなかった。

 だが、その時、イグニスは空腹を感じた。

 

「……お腹空いた。こんな身体でも、お腹が空くのね」

「生理現象はバッチリ生前のままだぜ」

 

 ゾンビなのに、とイグニスはぼんやりと思った。

 イグニスの肉体は、彼女には理解不能の魔法の産物で構成されていた。

 

「ゾンビの身体だから、人間を食えとか言わないよね?」

「馬鹿かお前」

 

 聞きたくも無いのに、呆れたエンバーマーは説明を開始した。

 

「お前の身体は複数の人間のパッチワーク、及び人工物に代替されている。

 お前の自前の肉体はどこにも無いからな」

「……その“複数の人間”ってのはどこから調達したの?」

「幾らでもいるだろ、ゲダモノの犠牲者は」

「ッ!?」

 

 ゲダモノは災厄だ。事前に出現を予想できない。常に犠牲者は発生する。

 大抵はあの赤黒いスライム状の物体に呑まれて即死する。

 だが、飛び散った粘液の一部が直撃し、原形を保ったまま命を落とすこともある。

 

「この、外道!!」

「おいおい。まさか呪文を唱えれば勝手に身体が出現するとでも?

 お前の命は複数の人間の命を頂いているんだよ。私はただ有効活用してるだけだ」

 

 エンバーマーは悪びれもせず、怒りを露わにするイグニスに肩をすくめてみせた。

 

「それに、あの天使野郎も言ってただろ。

 倫理を守ってる状況じゃねぇって」

「……くッ」

「それに、お前さんの可愛らしい元の顔みたいに整形してやったのは私だぞ。感謝してほしいくらいだね他人の顔のままの方が良かったか?」

「……そこまでして、生きたくない」

「そうかよ。じゃあその分、市民の皆さんにゲダモノに襲われて死んでくれって頼めばいいじゃねえか」

 

 死者に、エンバーマーに使役されて命を繋いでいるイグニスは何も言えなかった。

 

「ま、今は何か食おうぜ。今日は奢ってやるよ」

 

 イグニスは黙ったまま何も言わなかった。

 無言が、彼女のせめてもの抵抗だった。

 

 

 

 §§§

 

 

 二人は変身すれば飛行などお手の物。

 近くの街のハンバーガーチェーン店に二人は入った。

 奇しくもそこは、先日蘇ったイグニスの初陣を飾った駅のある場所だった。

 規制線が張られ、空からでも災害の爪痕が生々しく残っているのが見えた。

 

「……美味しい」

 

 チープなジャンクフードの味が、仮初でも生きている実感をイグニスに与えた。

 昼時のハンバーガー屋は昼食を取りに来た学生やスーツの大人、近所のおばさんが席に座って各々の時間を楽しんでいた。

 

「それよりお前、その格好のままで良いのかよ」

「恒常魔法の認識阻害に多めに魔力の比重を入れてるから、今の私は石ころみたいに誰も気にならないわよ」

 

 だから自分がこんな姿で戦っても、()()()()()()()()()、としか思われない。

 どんな見た目か、色か、戦い方かさえも、他人からは分からないだろう。

 

「それに、誰かに見せられるわけないでしょ。こんな身体」

 

 身体中、縫い後だらけ。肌の色は縫い目ごとに微妙に異なる。

 腕は左右で不揃いだし、体幹も微妙に安定しない。

 

 その違和感が、この身体が自分のものではないと、如実に物語っていた。

 

「そりゃあ、面白くねぇな。お前は私のアート、作品だぞ。衆目を集めねぇとお披露目にならないだろうが。

 ま、流石に戦闘中はそんな余裕はねえか」

「アート、作品ですって?」

 

 イグニスはエンバーマーの物言いに拳を握り締める。

 

「私があなたのモノだって言いたいの!?」

「いいや? 自由意志はお前のもんだ。そうじゃないと意味が無い」

「意味が無い?」

 

 イグニスは彼女の感性が、価値観が理解できなかった。

 

「お前、リェーサセッタのところを通って来たんだろ?」

「……じゃあ、あんたも?」

 

 あの時はイグニスも混乱していたから聞き流していたが、目の前の外道もまた、あの女神にこの世界に送られた存在だった。

 

「私はあいつに聞いてみたんだ。天国はありますか、って。

 なあなあ、あの女神、なんて言ったと思う!?」

「さあ」

「“まだ出来ていない”だってさ!!」

 

 ぎゃはははは、と彼女は笑った。

 一瞬周囲の視線を集めたが、女子高生なんて騒がしい生き物だ。誰もが興味を失った。

 

「私が死霊術に傾倒したのは、天国の存在を証明したかったからだ。

 私の周りには神様を信じてるってアホどもが沢山いたからよ、本当に天国があるのか見てみたかったんだ」

「で、実際に死後の世界に行けた、と」

「なあ、こんな面白ぇことはないだろ?」

 

 エンバーマーは楽しくて楽しくて、可笑しくて可笑しくて仕方ないというように愉悦の表情をしていた。

 

「神様の為でーす、聖地を取り戻しまーす、こいつは魔女でーす!!

 そうやって誰かを殺した神様に忠実な敬虔な教徒って連中は、天国には行けないただの人殺しってわけだ!!」

 

 彼女は手を叩いて、嘲笑っていた。その陰に、憎悪があるのはイグニスにも察せるほどだった。

 

「ならそれを知らしめねえといけないだろ?

 それが私の“冒涜(アート)”なんだよ」

「あんたの性根が腐りきってるってのはわかったわ」

 

 イグニスは軽蔑しきった視線で、彼女を見やりそうぼやいた。

 

「くくく。お前も、そのひとつだ」

「なんですって?」

「だって魔法少女ってのは、希望の象徴なんだろ?」

 

 エンバーマーは紙ストローからジュースを啜り、それを極上のワインを味わうかのように舌で転がした。

 

「お前が、そんな姿になってまで、外法に頼ってまで、生き返って正義を為すんだ!!

 正しい方法で、正しいことをしていると信じ切ってるような連中の顔が、どんな風に歪むと思う!? 嗚呼、なんて冒涜的(アーティスティック)なんだ!!」

 

 この外道にとって、イグニスは他人を滑稽にして嘲笑う為の作品(どうぐ)なのだ。

 その事実を突き付けられても、イグニスの心は凪いだままだった。

 

「……あんたの動機はどうでもいいわ。それが人に仇なさない限りは」

「安心しろよ。これでも前世は警察の捜査協力とかしてたんだぜ。

 未解決の殺人事件をいくつも解決させてやったんだ。ブードゥーのゾンビみたいに辱めることはしねえって」

 

 まあだからよ、と彼女は背もたれに肩を預けて肩を竦める。

 

「誓って、私の持てる技術の全ては、この世界を救うために使ってやるよ」

「あんたが誓う相手って誰なのよ」

「おっと、一本取られた」

 

 ポン、とイグニスのツッコミにエンバーマーは手を叩いた。

 

「でもよ、まだ正直言うと、お前の完成度に疑問があるんだよ」

「……まだこれ以上何かをするつもりなの?」

「お前だって全盛期の身体で戦いたいだろ?」

 

 それはお互いにとって切実な問題でもあった。

 ゲダモノと戦うのは、イグニスの担当。その性能は犠牲の数に直結する。

 

「体感全盛期の七割ってとこかしら。正直、ツギハギだらけでよくここまでって感じね」

 

 他人の身体のパッチワークで、最強の魔法少女の七割の性能を引き出せるだけ、イグニスは素直にその腕前だけは認めていた。

 

「やっぱりか。人間の身体って器は、魂の形に定着してんのさ。

 だから別の器に魂を入れても、齟齬が生じるんだわ。

 つまり、お前って言う作品は完璧じゃねぇ」

「やめてよ、これ以上どんな外法を使うつもり……」

 

 イグニスが本気で嫌がっていると。

 

「おい、大丈夫かよ」

「ああ。ちょっとかゆいだけだ」

 

 二人の視線が、近くで昼食を取っている学生に向けられる。

 

「ああくそッ、かゆい、かゆいぜ!! ああ!!」

「お前、昨日のゲテモノを近くで見てから未知の病原菌でも貰ったんじゃね?」

「だって、あんなシーン滅多に撮れないだろ!!」

 

 そんな風に言い合いつつも、男子学生は頭や首を掻きむしる。

 

 真っ赤な傷跡が出来るほどに。

 

 ガリッ、と、爪が皮膚を深く引き裂く嫌な音が響いた。

 男子学生は既に白目を剥いていた。血の滲む首筋を狂ったように掻きむしる彼の指先から、ぽたぽたと黒い液体が滴り落ちる。それは血ではない。あの駅前を埋め尽くしていた、コールタールのような粘液だった。

 

「お、おい、お前、大丈──」

 

 友人が顔を青くして手を伸ばした、その瞬間だった。

 

「かゆい、カユイ、かゆ、か、ア、ガ、──」

 

 男子学生の喉から、人間のものではない、濡れた獣のような濁った音が漏れる。

 ぎゅるり、と彼の両目が眼窩の中で一回転するように不自然に動き、白目を剥いたかと思えば、その中心の瞳孔がジャックナイフで裂いたように縦に割れた。

 濁った黄色の眼球が、恐怖に凍りつく目の前の友人を捉える。

 

「うま、そう!!」

 

 直後、彼の身体の中で、凄まじい破壊の音が鳴り響いた。

 

 ばき、ぼき、ごき。

 

 それは関節の可動域を完全に無視した、肉体が崩壊する音だった。

 背骨が不自然に逆S字に湾曲し、ミキミキと皮膚を突き破るように肩甲骨が異常に肥大化していく。

 学生服の繊維を引き裂いて現れたのは、人間の肌ではなく、赤黒い泥と血管がドクドクと脈打つ、悍ましい化け物の肉だった。

 

 糸で吊るされた壊れた人形のように、首を真後ろにまでねじ曲げながら、彼は──否、“それ”は、口を裂けるほど大きく開いた。

 隙間から覗くのは、何重にも生え揃った鋭い牙だ。

 

 周囲の客が何が起きたのか理解できず、持っていたポテトやバーガーを落として硬直する。

 その静寂を切り裂いて、イグニスがガタリと席を蹴立てた。

 

「みんな、逃げて!!」

 

 認識阻害の魔力を振り払い、深い血の色の装束を翻して叫ぶ。

 

「──ゲダモノよ!!」

 

 

 

 ゲダモノとは、空から時空の孔を開けて滴り落ちる災害だけを差すモノではない。

 それは特異事象災害、と明確に分類されている。

 

「ゲダモノは環境に合わせて進化する」

 

 イグニスは怪物と化した男子生徒を道路に押し出し、戦闘を開始している。

 

「異界から墜ちたあのスライムは、最初こそは腐食性の高温の物体として顕現する。

 だが同時に、すぐにこの世界の環境に急速に適応し始める」

 

 エンバーマーは紙ストローを食み、紙コップのジュースを啜る。

 

「そのほんの一欠けらが飛び散り、運よく生物に害することなく付着した場合、ゲダモノは対象に──寄生する」

 

 ゲダモノの非常に厄介な特性が、それだった。

 

「これらは四つの段階に応じて進行する。

 ステージ1、症状が無自覚に進行し一日か二日で次の段階に移行する。この時点で手遅れだ。

 ステージ2、対象は理性を失い、ゲダモノの完全な宿主になる。

 ステージ3、ゲダモノは寄生した生物を模倣し始める。この時、ゲダモノは厄介なことに知性を獲得する。

 そして、最終段階。ステージ4は……」

 

 エンバーマーは医者のように目の前の症例を“分析”していた。

 

「そうしてゲダモノに寄生されて誕生した化け物を、誰が呼んだか“怪人”だとよ。この国の連中、ニチアサに毒されすぎじゃねえの?」

 

 ステージ2の寄生体は、好戦的なグロいヒグマ程度の脅威度だ。

 だが、ステージ3は違う。

 

 最強の魔法少女、イグニスが相打ちを覚悟しなければならないほどの化け物だった。

 

 

 

 路上で、イグニスと怪人が踊る。

 

「ガアアアアアアアアッ!!」

 

 ステージ2へと変貌した男子学生。いや、赤黒い筋肉と泥の塊と化した怪人が、アスファルトを爆裂させて跳躍した。ヒグマを遥かに凌駕する質量が、鋭利な爪を振り下ろしてイグニスに襲いかかる。直撃すれば、並の人間など一瞬で肉片に変わる一撃。

 

 だが、不気味なほどに冷静なイグニスの視界には、その軌道がスローモーションのように映っていた。

 変身に伴い脳内に強制インストールされた“近接戦闘用パッケージ”が最適解の回避ルートを冷徹に弾き出す。

 

 イグニスは上半身を真横にずらし、怪人の爪を紙一重で回避した。

 空振った爪が路面を深く抉り、アスファルトの破片を飛ばしながら激しい火花を散らす。

 

 昼下がりの街並みは、悲鳴と混乱に満ちていた。

 誰もが油断していたのだ。昨日あんなことがあったから、今日は大丈夫だと。二日連続でジェット機が、隕石が落下する確率を考慮する人間はいない。

 

「シッ──!」

 

 イグニスの挙動は、回避から反撃への移行に一切の淀みがない。少なくとも、素人目には。

 踏み込んだロングブーツが路面を捉えると同時に、白銀のロングソードが下から上へと、怪人の巨体を切り裂くように跳ね上がった。

 

 肉を断ち、骨を叩き割る鈍い感触。

 しかし、イグニスの脳に伝わるはずの“手応え”や“衝撃”はという生理的に不快感を催す電気信号は、恒常魔法のフィルターによって綺麗に遮断されていた。ただ、冷徹なデータとして標的に明確なダメージを与えた、という事実だけが意識に更新される。

 

「アガッ、ギ、ガァッ!?」

 

 胸元から肩口までを深く一文字に裂かれ、怪人がおぞましい悲鳴を上げる。傷口から吹き出すのは赤い血ではなく、ドロドロとした黒い泥だ。怪人は痛みに狂い、手当たり次第に周囲のガードレールをなぎ倒しながら、太い腕を振り回して暴れ狂った。

 幸い、もうこの周辺の人々は逃げ出している。被害は無い。目の前の怪人と化した被害者以外は。

 

 全盛期の七割。

 確かに、かつての自分なら、もっと一撃の威力が重く、もっと滑らかに、戦えていたはずだった。

 今の肉体は、他人のパーツを強引に繋ぎ合わせたパッチワークだ。激しい動きのたびに、右腕と左脚のタイミングがコンマ数秒ズレるような、底寒い違和感が常に付きまとっている。

 

「(それでも──負けるわけにはいかない!)」

 

 陽菜──イグニスの強い意志に呼応するように、白銀の刃にどす黒い真紅の業火が宿る。

 

「これで、終わりよ」

 

 イグニスは地を滑るように間合いを詰めると、暴れる怪人の懐へと潜り込んだ。

 すれ違いざま、一閃。

 

 熱波が路上を駆け抜け、ワンテンポ遅れて怪人の巨体が斜めにずり落ちるようにして、どさりと崩れ落ちた。切断面からは激しい炎が噴き出し、怪人の肉も、その内側にあったゲダモノの泥も、容赦なく消し炭へと変えていく。

 

 戦闘開始から、わずか数十秒。

 ステージ2の怪人は、かつて最強と呼ばれた魔法少女の残影の前に、文字通り手も足も出ずに屠られた。

 愚かしくも、魔法少女の戦いをその眼で見ようとしていた人々が、歓声を上げる。その愚行が、彼のような悲劇を生んだと言うのに。

 

「ふぅ……」

 

 イグニスが剣を引くと、刃に纏っていた炎が煤のように消えていく。

 肩を上下させ、荒い息を吐き出す。肺の機能は生きている。だが、この息苦しさは肉体的な疲労というよりも、魂と器の齟齬がもたらす精神的な拒絶反応に近かった。

 

「おー、パチパチパチ。やっぱりお前、動くと最高に映えるなぁ!」

 

 ハンバーガー屋の店内から、いつの間にか移動していたエンバーマーが、のんきに手を叩きながら歩み寄ってくる。

 彼女は変身していた。認識阻害のせいで、周囲を遠巻きに囲み始めた野次馬たちには、彼女の姿は“魔法少女の仲間”ぐらいにしか思われていないようだった。

 

「ステージ2相手なら、そのツギハギボディでもオーバーキルか。良いデータが取れたな」

「……あんたね、あれは元は普通の人間だったのよ。あんた、よくそんなに冷静でいられるわね」

 

 イグニスは消えゆく灰を見つめながら、拳を握りしめた。

 さっきまで、ただの男子学生だったのだ。それが、一瞬で化け物に変えられ、人類の敵として処理された。

 

「冷静も何も、あれはもう手遅れだった。あれはもう人間じゃねぇよ」

 

 エンバーマーの言い分は頭では理解していた。だがイグニスは──陽菜そう簡単に割り切れなかった。

 いつもそうだった。変身を解いた後、罪悪感に苛まれる。

 

「なあ、あれ、イグニスじゃね?」

「うそッ、でも死んだはずじゃ!?」

 

 そんな野次馬の囀りに、イグニスは内心億劫になる。今はそんなことに対応している気分ではなかった。

 そして何より、皆の理想の魔法少女は死んだのだ。

 

「行きましょう、エンバーマー」

「おう、そうだな」

 

 不意の“お披露目”に、エンバーマーは少しだけ面白そうにしていた。深紅の衣装を翻し、イグニスは認識阻害を強めて飛行する。

 

 

 イグニスの亡霊が現れたと、世間で噂になるのはすぐのことだった。

 

 

 

 

 




高評価、ありがとうございます。需要があって何よりです。

活動報告にも書いたのですが、この作品は実験作の意味合いが強いので、しばらく更新を続けるつもりです。
感想や更なる高評価があれば、作者も喜びますのでよければお願いします。

それでは、また次回!!
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