その魔法少女、死霊魔術師につき   作:やーなん

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今回はAIイラストを使用してます。苦手な人は右上の観覧設定を活用下さい。


表裏一体

 

 

 

 さて、三人目に蘇らせる魔法少女は、ゴールドシャワーこと金剛寺 希来里と決まったわけだが。

 

「インスピレーションが降りて来ねぇ」

 

 血みどろの手術衣を纏ったエンバーマーは、モルグから重い足取りで出てくるなりそう言い放った。

 

「いや、インスピレーションって。ただ身体を繋ぎ合わせるだけでしょ」

「お前は何も分かってねぇ」

 

 イグニスの至極真っ当なツッコミに、彼女は底冷えのする無感情な声で返した。

 

「お前らは私の作品なの!!

 お前らは私の自己表現の為のアートなんだよ!!

 だというのに、お前らと来たら死から蘇ったというのによ!!」

 

 かと思えば、急に激昂して怒鳴り散らし始めた。

 イグニスと紫織は唐突なヒステリーに面食らう。

 

「生への渇望やルサンチマンが足らないんだよ!!

 なんだよ『人々の為にゲダモノと戦います』ってのはよ!!

 もっと生々しい、ドロドロとした負の感情こそ人間の本質だろうがよッ!!」

 

 イグニスは何言ってんだこいつ、と呆れた視線を向けていたが。

 

「……つまり、エンバーマーさんの死霊術とは、死というテーマに対する前衛芸術であり、死体を繋ぎ合わせるのは立体工芸(アッサンブラージュ)ようなものだと言うことですか?」

「そうだとも!!」

「いや、なんで紫織さん、会話が成立してるの?」

 

 なぜか理解が及んでる紫織に対し、イグニスはドン引きしている。

 

「なんだお前、話が分かるな。芸術を学んでたのか?」

「一応美術大学に在籍していました。休学中でしたが、恐らくもう籍は無いでしょうね」

「ほう、面白いじゃねえか。ついてこい」

 

 エンバーマーは機嫌を直したのか、ずんずんと一人で二階への階段を上っていった。

 紫織はそれに続く。一人だけ置いてきぼりにされたくなかったイグニスも、渋々ながら遅れてついていく。

 

 二階の旧病棟。放置された薄暗いその空間には、イーゼルに乗ったカンバスがいくつも並べられており、劣化や埃を防ぐ為か、それぞれに布が掛けられていた。

 

「ここらへんは私の手慰みに書いた絵が描いてある。どう感じるか、言ってみろ」

「……普通にそっちをメインにすればいいじゃないの」

 

 絵が描けるんだったら、わざわざ本物の死体を使わなくても、と思うイグニスだった。

 

「では、拝見します」

 

 紫織は手前のカンバスに掛けられた布を取った。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 それは油絵だった。

 女の肖像画が描かれている。

 

「この人はッ」

「なんだ。お前、こいつに会ったことがあるのか?」

「ええ。死に際の走馬灯のようなモノだと思っていましたが……」

 

 そこに描かれているのは、冥府の女主人。女神リェーサセッタだった。

 紫織は慄きながら、その絵から目が離せないでいた。

 

「この髪の表現を見てみろ。この茶色は本物のミイラを粉砕して抽出した絵具を使った。このカンバス自体も、死体を包んでいた死装束を加工したものだ。

 この奈落のような赤い瞳は凶悪犯の血を使って表現したんだ」

 

 嬉々としてエンバーマーは絵の解説を行う。

 これは絵であると同時に、人間を使った狂気的なアートだった。

 

「タイトルは、『罪を見つめる者』だ」

「少なくとも、貴女が芸術に対して本当に真摯に取り組んでいるのはわかります……」

「だろう?」

 

 芸術家の卵程度でしかなかったが、紫織にもこの絵に注ぎ込まれた労力と執念は理解できた。

 

「他の絵を見せてください」

「ああ、好きなだけ見ろ」

 

 次の絵画に映る二人。

 芸術に疎いイグニスには理解できない世界だった。

 

 

「なるほど、人間が盲目的に信じる天国の否定ですか」

「昔の絵画ってのは、宗教画が主流だっただろ?

 聖職者にとって、文字の読めない庶民に対して、聖書の朗読に代わる訴求性の高いコンテンツが宗教画だった。

 聴覚ではなく視覚に訴えるってのは理に適ってる。人間は第一印象で判断するからな」

「つまり、当時もっとも権力を持っていた教会へのアンチテーゼというわけですね」

「逆張りだって言われればその通りだろうが、私の死霊術もその表現の一つに過ぎない訳だな」

「ええ。だからこそ、残念でもあります」

 

 饒舌に解説をしていたエンバーマーの動きがぴたりと止まった。

 

「あなたの芸術に対する姿勢も、テーマも、素晴らしいものだと思います。

 でも、貴方はその技術の全てを、自分が気に入らない相手を貶める為だけに使っている。それだけが、残念でなりません」

 

 それが紫織の、忌憚のない本心だった。

 技術も、知識も、彼女の表現する世界観も、芸術性も、本物だからこそ惜しいと思っているのだ。

 

「……昔、同じことを袂を分かった親友に言われたよ」

「そうですか……」

 

 どこか切なく、遠い昔を見ているような表情で、エンバーマーは言った。

 ではこれ以上自分が何を言っても彼女の心には響かないだろう、と紫織は思ったのだ。

 

「まあ、ちゃんと教養のある奴との話せたのは久しぶりで楽しかったぜ。

 どうせ天使が呼ぶまですることも無いだろ? 空き時間を芸術に費やしたらどうだ? 必要なモノがあったら何でも言えよ」

「……ええ、ありがとうございます。やることがあるなら、気がまぎれますよ」

 

 どうやら二人の芸術談義は終わったようだ、と、やることが無くてぼんやりしていたイグニスは表情を現実に戻した。

 

「なんか気に入られたんだね、紫織さん」

「いやぁ、どうでしょう……」

「少なくとも私はこんな風に気を使われたことないよ」

「そりゃあ、お前が無趣味のつまんない人間だからだよ」

「悪かったね、前世Fラン大学で!!」

 

 急に横から煽ってきたエンバーマーに食って掛かるイグニス。エンバーマーはそれを、駄々をこねる子供を相手にするように適当にいなしていた。

 その騒々しくも微笑ましいやり取りを横目で見つつ、紫織は再び、最初の絵を見やる。

 

 カンバスの中の、奈落のような赤い瞳と目が合った。

 一瞬、そんな気がした。

 

 

 §§§

 

 

 三人は近くの街のファミレスに移動し、早めの夕食を取っていた。

 単に食事を取る為と言うより、このファミレスは24時間営業でWi-Fiが完備され、ドリンクバーもあるから、という理由だった。

 それもこれも廃病院にまともなインフラが無い為だった。彼女らはこのまま半日は居座る構えである。嫌な客だった。

 

「はあ、紫織さんって本当に人生二度目とかじゃないの?

 私、人生二回目なのに、人生経験薄っぺらなんだけど……累積三十代半ばなんだけど」

「まあまあ、陽菜さんは魔法少女として第一線で活動してきたじゃないですか」

「それって履歴書に書けるの? キャリアになるの!?」

 

 紫織は隣に座るイグニスの嘆きに、苦笑いをするほか無かった。

 

「これだけ頑張ったなら、良い来世が来ると思ってたのに。

 こんなイカレ女に復活させられて……」

「とりあえず、今後の方針について確認をしましょう」

 

 ぐだり、とテーブルの上に顔を乗せるイグニスに紫織は不憫に思って無理やり話題を変えた。

 

「世界中では毎日のように特異事象災害は起こっています。

 ですが、日本に限っては概ね四日から五日からの頻度とされています」

「一年前は五日ごとだって言われてたね」

 

 イグニスはのそりと顔を上げる。

 

「ええ、これはゲダモノの攻勢が強めたのか、ゲダモノの攻勢に耐えかねた国々のしわ寄せを受けている、と言われていますね」

「このペースだと、十年は持たねえな」

 

 鉄板の上のハンバーグにナイフとフォークを入れながら、エンバーマーは事も無げにそう試算した。

 こいつさっきまで死体を切り刻んでたくせに、よくハンバーグなんて平気で食べれるな、とイグニスは内心思った。

 

「ええ、ですが日本は輸入大国です。石油輸出国を始めとした大国が崩壊すれば、加速度的にこの世界は滅びに向かうでしょう。

 ですので、もって五年辺りが現実的でしょう」

 

 日本は現時点ではまだ、平和に見える。

 だが、世界中の発展途上国はすでに地獄だ。ゲダモノに防衛線を突破された国は、核兵器の使用を保有国に要請するほかないと言われている。

 国を追われた人々は難民化して周辺国のリソースを圧迫し、そうして出来上がった人口の密集地に、新たなゲダモノが現れる。完全な悪循環だった。

 

「決して対岸の火事とは言えません」

「で、私らの明確な“終戦”はいつ頃なんだ?

 ハッキリ言って対応は後手後手だ。連中に関する研究も進んでないから有効な対抗策も無い筈だろ」

「それに関しては、天使様曰く」

 

 紫織はメディア対応の為に、徹底的に天使に今後の方針や隠し事は無いかと聞き取りを行った。

 彼はその全てに明瞭に、正確に答えた。

 

「敵は異界の神とその眷属。ならば神々が対応するべきであるし、現在は大攻勢の為に供えている、と」

「まるで、新しい神話だね……」

「……そうですね。私達は新しい神話の時代を生きていると言えるでしょう」

 

 イグニスには想像もできないスケールだった。

 

「なんだよ、結局神頼みじゃねえか」

「仕方ありませんよ。特異事象災害の発生そのものは人間が対応できるレベルを遥かに超えています」

 

 結局のところ、魔法少女達は現場の対処療法に過ぎなかった。

 根本的な解決に、人間は完全な蚊帳の外である。

 

「私達の魔法は、本来この世界には存在してはならない力。

 天使様が大勢にこの力を分け与えないのは、この力に依存する社会を作ってはいけないから、と仰っていました」

「ご立派なことで。その今後の社会とやらが残ってたらいいがな」

 

 だからこその管理者なのでしょう、と紫織は嫌悪感丸出しのエンバーマーに言った。

 

「結局魔法少女と言っても、妖精が住む世界の女王とかが渡してくるメルヘンな力じゃなくて、神様も現場の面倒は見きれないからこれを使って頑張れ、ってわけだ」

「ゲダモノは全ての、人類の存在する神話全ての敵です。理解も、交渉もできないのなら、上位存在の方々に任せるべきでしょう」

 

 つまり、彼女達の住む地球からはどうしようもない、ということだった。

 

「人類の神々が勝つしか祈る他ない、か。天国が出来るのはますます遅れそうだ」

 

 そこまで言ってふと、ああ、とエンバーマーは思い出したかのように言った。

 

「そうだ、お前らはどれくらい現世に留まるつもりだ?」

「……え?」

「創作のゾンビじゃねえんだぞ。永遠にその身体が維持できるわけないだろ」

 

 エンバーマーの極めて現実的な話に、二人は固まった。

 

「やろうと思えば別の身体を作って、乗り換えは可能だ。

 そうすれば、百年だろうと現世に居られる。ゲダモノに滅ぼされてなければな」

「……」

 

 イグニスと紫織は、居心地が悪そうに顔を見合わせた。

 

「お前らだって未練はあるだろ? 私は50年ぐらいは付き合ってやるよ」

「私は、ゲダモノが倒れるまででいいです」

 

 紫織はきっぱりと、そう答えた。

 

「長く居すぎると、より未練が深まりますから」

「私もそれでいいかなぁ。どうせ来世があるし」

 

 二人の回答を、エンバーマーはつまらなそうに溜息を吐いた。

 

「それでは、ゲダモノ以外のアプローチについてですが」

「待って」

 

 紫織が次の議題に移ろうとした時だった。

 イグニスが身体を起こし、エンバーマーが調達した架空名義のスマホの画面を見やった。

 

「ゲダモノだ」

「早いですね、前回は三日前でした」

「一日前後するくらいはよくあることでしょ」

 

 そうですね、と紫織は頷いた。

 ゲダモノが時計をきっちり守るわけがない。

 

「どれどれ……場所は、遠いな」

 

 エンバーマーも自前のスマホでニュースを確認する。

 ネットの緊急速報が、画面のトップに表示されていた。

 

「とりあえず、現場で魔法少女が初期対応を終えるのを待ちましょう。

 その後、私達は付近に移動し、怪人の発生の警戒をする形で。この旨は天使様に伝えています」

「オーケー。それで行こう」

 

 紫織の判断に、イグニスも頷いた。

 実のところ、彼女達が怪人対策に念頭を置いているのは、理由がある。

 

 魔法少女の死亡例は、その殆どが進化体である『怪人』と『魔人』によるものだ。

 初期段階のゲダモノは文字通り、空の孔から墜ちてきて環境を模倣するだけの粘液。飛行能力を持つ魔法少女は、震源地の真上に居ながらも実はかなり安全なのだ。なぜなら、あの粘液自体に明確な敵対行動をとる『知性』は無い。

 天使のオペレーションに従って上空から地上を魔法で爆撃し、空の孔を封印するだけなら、新人の魔法少女であっても誰でもできる。そういうシステムとして構築されているのだ

 

 だからこそ、危険性の高い怪人を、魔人に進化する前に倒すべきなのだ。

 それがどれほど重要な事なのか、二人はよく身に染みて理解している。

 

「それじゃあ、向こうが落ち着くまで私は寝てるから。沈静化の報道が終わったら起こせよ」

「……まったく、暢気な」

 

 エンバーマーはテーブルの上に腕を組んで、顔を埋めて寝る姿勢になった。

 イグニスは呆れたが、まあまあ、と紫織は嗜めた。

 

「休める時に休めるのは才能ですよ」

「……紫織さんがそう言うなら」

 

 自分の死の遠因を持ち出されては、イグニスは強く言えないのであった。

 

 

 

 §§§

 

 

 この日、現場に出ていた魔法少女はヴェスタだった。

 

 彼女が現場に出るのは三度目だった。

 二度目は最初のように天使の指示に反することも無く、つつがなく封印を終えた。

 

 ゲダモノは、特異事象災害は、人の手に余る災厄である。

 だからこそ、どんなに早く駆けつけても毎回百人単位の死者が出る。

 

 毎週テレビのニュースで、キャスターが「今回の死者は約二百人と推測されます」と話すのを聞いて、ああ今日は少なかったな、と魔法少女になる以前の彼女は思っていた。

 

 だが、実際に最前線の現場に出た今ならわかる。そんな考えが、無知ゆえの愚かしさだったということが。

 

 阿鼻叫喚。地獄絵図。

 そんな陳腐な言葉では到底言い表せない、本物の死の津波。

 

 空から墜ちた粘液は、凄まじい熱気と腐敗臭を放ちながらアスファルトの道路や街灯をドロドロに溶かし、逃げ遅れた人間を飲み込んだ途端、無数の手足や臓物を不規則に生やしながら増殖していく。冒涜的でグロテスクな肉の塊となって、四方八方へと迫っていくのだ。

 

 魔法少女たちは、それを上から見るのだ。

 

「早く、封印はまだなの!?」

「今やってる!!」

 

 今日、現場に駆け付けたのは、サンダーメロウと名乗った新米の魔法少女だった。

 彼女の操る雷霆は、ゲダモノが生成した筋肉を弛緩させ、動きを鈍らせる。

 

 単純に火力が足りない。あと一人は欲しい。

 

 そんな時だった。

 

「えーい、召喚!! ストーンウォール!!」

 

 鋭いホイッスルの音が戦場に鳴り響く。

 すると突如として、ゲダモノの周囲四方を囲むように、高層ビルのような巨大な石壁が地中からせり出した。

 魔法だ。魔法少女の増援が来たのだ。

 

「助かる、今のうちに!!」

 

 ヴェスタは空の孔の封印に全リソースを割き、サンダーメロウは石壁の内側に被害を考慮しない極太の落雷を連発させる。

 

 やがて空の孔が完全に封じられ、肉塊のプールと化していた石壁の内部は、雷の熱で完全に炭化し、沈黙した。

 二人の魔法少女は額の汗をぬぐい、降下してきた増援の魔法少女の姿を認める。

 

「初めまして、お姉ちゃんたち!!」

 

 作業を終えた二人に近づいてきたのは、とても小さな影だった。

 白と黒のゴシックロリータ風の衣装に身を包んだ、幼い少女。衣装とはモノクロのように左右で黒と白に分かれたツインテールが目を引く。

 その首には、先ほど鳴らしたと思われる小さなホイッスルが紐でぶら下がっていた。

 

「あなたは、アルスレギオン?」

「うん、よろしくね、お姉ちゃん!!」

 

 彼女はアルスレギオン。年齢はわずか九歳。

 新人であるヴェスタとサンダーメロウからすれば、これでも先輩に当たる魔法少女だった。

 彼女が出陣すると、衝撃の光景が見れるとして有名な魔法少女だった。

 

「えーと、お姉ちゃん達は魔法少女になったばかりなの? まだ会ったことなかったよね?」

「うん。私はヴェスタよ。よろしくね、そちらも」

「ええ、こちらこそ。サンダーメロウよ」

 

 三人は挨拶もそこそこ、地上に降り立った。

 

「じゃあ、私は皆を助けるね。えーい、召喚!! おいで、ブタさん達!!」

 

 アルスレギオンがホイッスルを吹く。

 すると、虚空に両開きのドアが出現した。

 彼女の得意とする、召喚魔法だった。

 

 トビラが開く。その中から、ぞろぞろとヒト型の何かが現れる。

 それは二足歩行する豚面の、創作界隈ではオークと呼ばれるしかない巨躯の怪物だった。少なくとも、ここに居る少女達からすれば巨漢だった。

 彼らはまるで人間のような衣服をまとっており、それが逆にシュールだった。

 

「伊達ブタさん、今日も皆をお願い!!」

「あいよ」

 

 アルスレギオンの無邪気なお願いに、イタリアマフィアのような白いスーツに中折れ帽を被った特徴的な一人のオークが、低い声で応じた。

 なんと、このオークたちは人間の言葉を介するらしい。

 

「よーし、野郎ども。いつもの救助活動だ。

 女子供優先。自慢の鼻で負傷者を嗅ぎ分けろ!!」

 

 おう、とリーダー格らしい伊達オークの言葉に、彼らは方々に散って行った。

 

「実際に見ると、ほんとシュールな光景だなぁ」

「そうね……」

 

 ヴェスタとサンダーメロウは、先輩魔法少女の巻き起こす光景に面食らってしまう。

 

 この光景は、今でこそ彼女が出る現場ではお馴染みとなっているが、アルスレギオンが新人の頃はそれはもう大変な騒ぎになったらしい。

 オークたちは召喚者である幼女の命令に忠実に従い、続々と瓦礫をどけて救助を始める。

 すぐに災害派遣でやってきた自衛隊員や救急隊員に、慣れた手つきで負傷者を引き渡してさえいた。

 

「お姉ちゃん達、回復魔法使えるよね? 魔力が余ってたら怪我をしている人達を助けてあげて!!」

「う、うん」

「わかったわ……」

 

 年下の女の子が災害対応に慣れている。後輩二人は従うばかりだった。

 

「あれ、ヴェスタじゃね?」

「ホントだ、イグニスの後継者じゃん!!」

 

 自衛隊が張る規制線に、野次馬が集まってそんなことを言い出した。

 救助隊の指示で常駐魔法のアセットにある回復魔法を使用している二人はそのことに気づいた。

 

「イグニスの後継者、ですか?」

「ああ、私前が初出陣だったんだけど、その時は独りでゲダモノを封じたことになってて……なぜかそんな風に言われてるみたい」

 

 ヴェスタは、別に大衆に向けて名乗りを上げたわけでもないのに、既にネット等で名前が知れ渡っていることに困惑しているようだった。

 

「魔法少女の一覧は政府の公式サイトに載ってますからね。一人増えただけで大騒ぎになるらしいですよ」

「なんだかアイドルの追っかけみたいで嫌になるね……」

「それが魔法少女になるってことだよ」

 

 姉であるメロースパークの事を思い出し、サンダーメロウは複雑そうな表情になった。

 

「私、そんな実力は無いのに……」

「今は治療に集中しよう」

「うん」

 

 それから二人は、負傷者の治療に専念した。

 

 

「ありがとう、二人共。お陰で助かりました」

 

 二人の回復魔法のお陰で、重傷を免れ、このまま病院で検査入院するだけで済むようになった負傷者たちが、次々と彼女たちに感謝の言葉を述べて救急車で運ばれていった。

 

「二人共、ご協力感謝致します!!」

 

 自衛隊や救急隊からも敬礼と共にお礼を言われ、現場の混乱がひと段落したことを悟る。

 他にも取り残された生存者が居ないか、オークと共に人員検索を行う自衛隊員たちを見守っていると。

 

「はい、お姉ちゃん達!! 悪いオバケはもう居ないってテレビの人に教えてあげないとダメだよ」

 

 すると、先輩魔法少女がタタタッと駆け寄ってきて言った。

 本当に場慣れし過ぎてる、と魔力の消耗で倦怠感を感じている後輩二人は思った。

 

 規制線の外には、今か今かと待ってましたと言わんばかりに、テレビ局の報道陣がカメラを構えて待機していた。

 

「やっぱりあれ、対応しないとダメなの? 私、前も無視したんだけど」

「別に取材に応える義務はないけど、お姉ちゃんはそうしてたかな?」

「お姉ちゃん?」

「ああ、言ってなかったね。私、メロースパークの妹なの」

 

 その事実に、ヴェスタは目を見開いて驚いた。

 

「それは……大変だね」

「うん。でも分かってて魔法少女になったから」

 

 サンダーメロウの横顔には、確かな覚悟が宿っていた。

 報道陣の前では、アルスレギオンがすでに満面の笑顔でカメラに向かって手を振っている。

 

「年下に任せっきりにはしておけないわね」

「うん。行こう」

 

 年上である二人は、魔力を使い果たして重くなった腰を上げ、歩き出した。

 先輩魔法少女の元へ、二人の新米魔法少女は足並みを揃えて向かって行った。

 報道陣の前で、アルスレギオンが笑顔で二人に手を振っている。

 

「それにしてもアルスレギオンって……天使様ももっと今時の魔法少女っぽいネーミングにしてあげればよかったのに」

「ホントにね……」

 

 そんな軽口を叩きながら、二人は人助けをした達成感を携え、可愛らしい見た目に反してやけに厳ついネーミングの先輩魔法少女の元へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





新キャラ、アルスレギオンパイセンの登場です。気軽にアルちゃんって呼んであげてね。
表側の人物と裏側の主要人物が出そろってきました。

感想や高評価、ありがとうございます。需要があると確認できて、本当に励みになります。
引き続き感想や高評価がありますと、更新速度の維持に繋がります。

ではまた、次回。
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