ペナルティ…ゲームのバランス調整をはみ出したチートや違反行為に対する罰。中には迷惑行為を防ぐ為に用意されているものもある。
依頼の受注制限は大量に受けて放置する迷惑行為の対策であり、24時間以内で解決出来るなら受けても問題はない。
治安度…上がり過ぎると物語が発生しない。しかし下がり過ぎても世界観がダークに偏り過ぎる厄介な値。
前回のあらすじ
「逸脱度」とは、メインストーリーからどれだけ外れたかを示す値である。
0.8〜1.4までが正常値であり、此処から外れないように各サーバーの管理AIは個々に調整を行う。
1以下は致命的な破壊に伴うメインフラグ、代用フラグの欠落による破綻、1以上は創造に伴う過剰な別要素による破綻を意味し、数値は0、2.0が下限と上限である。
前回までのテスターによる各サーバーの逸脱度
「ヌル」 1.1000(ロールバック用)
「アイン」 2.0000(「
「ツヴァイ」1.8400(「
「ドライ」 1.6977(「
「フィア」 0.9011(テスター4、及び一般テスター千名投入)
「フュンフ」1.2050(一般テスター21,000名投入)
6「ゼクス」〜12「ツヴォルフ」までは1,000〜5,000名で対照実験中。
[↓☆スライム「連鎖する粘性増殖」 推奨Lv.──────。
『熱刀 "火鉢"』
目の前にいた敵を、表示された名前を見終える前に熱を貯めた刀で蒸発させて殺した。
[↓☆ゴースト「北の将軍──。
『蛍 "残火"』
火鉢で貯めた熱を束ね、返し刃でその先に居た幽霊に届かせる。胴体が別れ、断面が熱で塞がた。
これは本来の形に戻る魔物の再生機能を妨害し、泣き別れた上下の姿が元々の姿であったとする再生阻害の技だ。何度も斬り殺す内に俺が身に付けた深煙流の型。
続けて、もう一つ見つけた型を使う。
『起刀・煙管──"煙々羅" "口移し"』
それこそ煙を満たし、歩行術で複数の俺を編み、鉄塵による仮初の刀を携えさせた実態のある6体の分身の生成。既に何度も使い、煙は個々に技を使うまでに至った。
それでも尚、魔物は依然として北の街を前にして溢れている。
数が揃っているならば──やはりこの技がいい。
[↓☆マシン「宇宙への旅──
[↓☆レギオン「レボリュー──
[↓☆狂信者「禁忌偶──
『『『『『『『奇跡──"大輪鎖"』』』』』』』
7体の煙の修羅が、火の輪を繋ぎ続ける。それだけで星の有無に関わらず数百の魔物が散った。
『ハァ────』
輪は広がり、鎖は長くなり、煙はより一層、熱はより熱く辺りを満たす。
息を吸えば肺が火傷する程に。故に無呼吸で、息を吐いて戦場を渡り駆ける。
その間に新たな刃を取り出しては戦場に突き刺し、戦場の煙を維持する火種を撒く。
それを繰り返し、より高みに至るまで剣を振るい続ける。
理想を辿らずとも剣を振るえる様になり、尚足りない。
『タリヌナァ…──』
………未だ、敵兵尽きず。
足りぬと嘯く事で、己の士気を守った。
北の街に氾濫が起きて──137時間。
日数にして五日と17時間。
日夜問わず俺が戦い続け、魔物が襲い続け、火と煙を撒き続けた時間。
依頼すらとうに全て攻略しても尚、俺は刃を止める事が出来ないでいた。
……いや、この氾濫いつ終わるんだ? 流石にどんな人間でもここまで来ると遊びの域を超えるんじゃないか!?
何となく戦った方が良いと空気がするから戦ってるけど、これは本当に正しいのか!? 教えてくれ、今の俺は戦うことしか出来ない脳筋プレイ中なんだ! 頼む、何事か終わりが訪れてくれー!
よし、取り敢えず後五日は様子見するか。
10日も過ぎて何も起きなかったら流石に間違ってるって事になるでしょ。
……流石になるよね? この考え間違ってないよな?
…………念の為20日まで…。
*
[4*協力申請を行います]
少し時間は遡り、山本が修羅となって二日が経った頃のこと。
ここは管理AIが行っている業務を人類に分かり易くする為の仮想テクスチャ。
何もない真っ白な空間の中心部に居座っている金髪のグラマラスな女性はPAGの4番目のサーバーを管理するAI、そのアバターである。
通常なら各数値を見守るという楽な仕事なのだが、この時ばかりはいつもと違い忙しなくマルチウィンドウを操作しサーバーの正常化を計っていた。
[3*何かありましたか?]
[2*疑問→盤上を破壊され尽くした我々に協力ですか]
[1*なんでもいいですよ]
最初に破壊前提でテスターを送り込まれた者達が反応。
[5*NO]
[6*NO]
[7*NO]
………
…
次いで送られたのは5〜12による協力拒否の返答。自然と会議の参加者は1〜4だけとなった。
……管理を任された彼女達にとって他との協力は無意味な行いだ。管理AIとして産まれた都合、自身の管轄を越えても評価は上がらない。4もその反応を当然だと受け入れ、残った者達へ事情を説明し出した。
[4*北の街で選択が殺害に偏り逸脱度が0.9代に到達。それに伴いイベント「スタンピード」で介入した所テスター4に妨害を受け0.8代へ。これ以上の魔物の生態系を破壊する訳にも行かないのでリソースを下さい]
[2*懸念→送った魔物を経由したテスター2に対する偶像崇拝の伝染]
[3*送るのは構いませんが、氾濫への抵抗が増えても謝罪は致しません]
[1*ククク…宇宙船や核なら出せますよ]
事情を説明し返ってきたのは其々が抱えるテスターからの悪影響の懸念だった。
だが今回フィアが求めたのは純粋な戦力。他の要素は全て雑念として斬り捨てる虐殺魔のテスター4を排除し、魔物を街に向かわせる事だけが目的である。
要はプレイヤーを一人退かすだけ。
北の街を守らんと暴れ続けるテスター4を観察していたフィアには、余計な事故が起こらないだけの確信と策が有った。
[4*誤解しているようですね]
[3*…? なにをですか?]
[4*私は貰いたい訳はありません──寧ろ、あなた達は協力を押し付けられる側です]
[1*なにっ]
逆に考えるんだ。
魔物を送って貰うんじゃなくて、迷惑プレイヤーを他所に送っちまえと。
ついでにゴミ箱にしちまえと。
[2*疑問→
[4*特定の魔物との戦闘が出来る訓練用のワールドがありますよね? これは各サーバーから独立しています。都合よくテスター4はバグを発見しておりますので、バグ利用によるペナルティ、その試験の名目で送ります。あなた達は要らない物を其処に捨ててください]
[3*フィア、それはかなりグレーな方法です。我々は管理AIですが、コチラの都合で別サーバーに引っ越しをさせるのは遊びの自由度を阻害しています]
[1*ドライ、怒らないでね? 私らの仕事ってメインストーリーから外れないようにしてる時点で自由もクソもなくない?]
直後に数秒のDDOS攻撃と通信切断の攻防が3と1の間で行われたが、構わずにフィアは意思表示を行う。
[4*これは余計な
[1,2,3*…………]
Lv.0──それは一部の固有能力や酷く特異な状況でのみ成立する状態。
全ての挙動を現実に則する際に発生するバグを回避する為に用意されたそれは、触れた部位にゲームとしての補正を無効化する力がある。
これ自体はゲームとしてのバランス調整、ゲームとしての利点を扱えないという不利を補う為の隠し要素に過ぎない。
想定された通りならば防御無視、魔法などの無効化に収まる筈だったそれは──深煙流の煙と熱により
[4*
辺りを覆う煙、奥深くまで斬り裂き灼き続ける熱。それに伴う一方的な補正無効……深煙流は現実に則りながら最大限このゲームに寄り添った剣技である。テスター4の成長と剣に魅せられた管理AIにとっては共通認識だ。
同時に、全てを破壊し得えもする危険な技なのも理解している。
[4*協力しましょう。大丈夫です、人間はどれだけ頑張っても睡眠と食事の習性には勝てません。ゲーム中は寝る必要も食べる必要も無いのに、人はこの習性を限界まで継続させようとする。テスター1、2、3でさえそうなのですから、4も例に漏れないでしょう。
持って三日、それまでに捨てるだけ捨てて、彼がサーバー4に帰ったら素知らぬ顔をすればいい。
仮に長引いたとしても、いつでも帰れたのにしなかった方にも問題がある。我々に責任が向くことはありません]
最終的にその後3時間続いた会議は賛に2・3・4。反に1が投票して可決となった。
決定後はテスター4を練習空間に転送、サーバー1〜3がイベントとして「迷宮深層体験イベント:シンエンのなれ果て「煙々羅」への挑戦」を開催。
各地に出没する煙に飛び込むことで煙々羅に挑戦でき、倒せばイベント終了。
挑戦方法として各地に入り口を一定期間設置、巻き込まれたコマやテスターの生成物をイベントに巻き込み、斬り捨てるものとなった。
[4*1〜3の逸脱度は以前として1.5を超えるものの無事に低下。……コチラも無事に北の街のイベントを再調整完了。後はテスター4が早く死ぬよう圧を掛けるだけですね]
結果から言えばこの作戦は成功。想定よりシンエンが長く持ち五日目にして其々が満足する域まで逸脱度の調整が完了した。
六日目。
[4*まだ耐えますか。では数で押してみましょう]
七日目。
[3*テスター3が手を引きました。私の所はこれ以上捨てるのは難しいですね]
[4*了解です。こっちの方は…質で押してみましょうか]
八日目。
[2*拒否→テスター2が安全圏の引き篭もりを選択。これ以上の協力関係は不可と認定]
[4*了解です。一応他のサーバーでもプレイヤーを募りましょうか。一手間程度は止められる筈……]
九日目。
[1*もう無理ぽよ。何度も殺されてうちのテスターちゃんも難易度ミスと思って手を引きました。処分の協力、無理でーす]
[4*…了解です。それにしても死にませんね…人なら限界がある筈ですが……敵を用意せずいっそ放置してみるのも手ですかね……]
十日目
[3*デンジャー! テスター4がドライサーバーに侵入! フィアは早急に回収を行なって下さい!]
[4*──えぇ…どうやって別サーバーに行けたんですか……]
だが、調整を終えてから更に五日──イベント開始より十日目にして、事態は急変することになる。
*
『◻︎』『◼︎』
──武道において心・技・体が挙げられるのは有名な話だが。
『 ◻︎』『 ◼︎』
『◻︎ 』『◼︎ 』
『─』『─』
同時にそれらを捨てた無の境地が存在する事もまた、有名である。
『◻︎』『◻︎』
特に有名なのは心を捨てる無我だろうか。
『 』『 』
雑念を捨てた無念の先、羅刹の鬼に堕ちてなお刀を手放さぬ者にのみ許された武の境地であり。
『 』『 :...
:.チャキ…
魔境に至り
────────────────────────
斬り捨てるだけの魔性になる 禁断の領域。
人を斬り、妖を斬り──斯くして刹那の嘘は悠久の真に化けた。
[DATA LOST──キャラクターが死亡しました]
『──儂のナは"シンエン"』
ある者の演技は、遂に偽りという殻を斬り捨てた。
『ワシのナは"シ エ "』
このゲームにおいてアバターはプレイヤーが居ない間NPCとして動く。
周囲に敵が居ない事に気付いた彼は、その達成感に刹那の間無我に至った。
無我とは、己を消す事。それはゲームのシステムを一瞬だけ誤認させ、本当に一瞬だけアバターがNPCとして自由を渡された。
『ワ ナ "シ "』
NPCとは、PCの行動を反映しこれまでの行動をただ繰り返す状態である。
では"シンエン"というアバターに刻まれた情報はなにか。
『"シ"』
"斬る"。
単純明快、周りの全てをただ斬るだけ。
故にシンエンは斬った。己が斬れる全てを、刹那の間に置き去りにして。
『 』
持てる力の全てを使い空を斬り裂いて、裂いて、裂いて──遂に彼を幽閉していた空間から脱したのだ。
斬り斬り斬り斬り斬り──火と煙、太陽と雲のように斬撃が彼を覆っても斬り続ける。
止まる契機を失ったが故に、死すら訪れぬ一つの現象と化して
そして対峙するは──現実を変えんと武器を手にした男一人。
────────────。
「クカカ…イベントの攻略を放棄したのは俺だが、まさか其方からお出ましになるとはな?」
────────。
「その太刀筋…抜け殻とはいえ現実のものか! 口惜しい、お前とは是非生でぶつかり合いたかったが──今は仕事中だ」
──────────────。
「貴公は処分させて貰う。全て焼き尽くす修羅の因果、此処で終わらせてくれようぞ」
その後の顛末は語るまでもなし。
世界を変革する鬼は太陽を地の底へ沈めてみせた。
南の迷宮、その奥にてシンエンは未だ剣を振るい続けるバグの検証個体になり、ゲームは安寧を取り戻す事となる。
その過程で三つのサーバーが破壊の限りを尽くされたが……其々の過剰要素が盾になる事でメインストーリーは無事に進行。一先ずテストとしては十分以上の成果を管理AIは提出し、1〜4の管理AIは優秀な個体として生存。
[1*やったぜ。生き残ったぜ]
[2*歓喜→トラブルを上手く収めた実績が高評価になりましたね。処分されずに済み喜ばしい限りです]
[3*これで良かったのか……いや、結果が全てだ。採用された事を今は喜ぼう。ウェーイ]
[4*嘘でしょう…? もしや過程の精査がされない…?
[こんにちは、ヌルの管理兼チュートリアル担当のオラクルです。今後はよろしくお願いしますね。
その後AI同士の顔合わせと釘刺しがありつつも、結果から見れば運営にとって良い結果に収まった。
その一方で……。
purrrr…pi.
「ねぇ、PAGなんだけどさ。うん、俺さ、サービス開始したらオタクのゲームやるから。メインはツマンナイけど、結構ガチなイベントは用意出来るみたいだし……うん、何回も殺された仕返しをしたいの。なんならあの化け物のデータ元に会わせてよ。あの曲芸ナマで観てみたいから」
purrrr…pi.
「こんにちはぁ〜☆ テスター
実はねぇ? わたしからお願いしたい事があってぇ…貴社の公式配信者になってあげてもいいかなぁって! えっ理由? う〜ん────僕があの突き抜けた狂気とまた踊りたいと思ったんだぜ? それ以上の理由なんて或るかよ」
purrrr…pi.
「もしもし…ああ俺だ。あの修羅と戦いに行く。ああ、本物の方だ。テスターは渡された本体で遊べるのだろう? 俺も遊ばせて貰おうか。なにせ囚人の身だ、事前に報告するべきと判断した。以上」
しかしそこに至るまでの過程を想えば……修正待ちのNPCシンエン、グレー行為で成果を出したのを経験したAIの生存、そして自分の調子でゲームを進められず不満の溜まったテスター三名の不発弾が埋まっている。
それだけではない。
フラッタがヌルのサーバーに隠した「神の声」も、未だ電子の海に揺蕩い完成を待ち侘びている。
いつかは誰も知らないが、いつかゲームを破綻させる種は既に仕込まれているのだ。
奇妙にも全てが一人の高校生を中心に回っている……いや、複数の大きな流れに、彼は巻き込まれようとしていた……が。
「……あれ、テスターの仕事は? 昨日の続きは…?」
では肝心の彼はどうしているかと云えば。
「メンテ中……検索検索…えっもうテスター終わり? 来週サービス開始なの? 早くない? もう何万か稼げると思ってたんだけど……」
「おにぃー、ごはんまだー?」
「…あ、やべ。作り置くの忘れてた! 待ってろ今作るー!
……なら仕方ない。新しいバイト探すかぁ。このゲーム機は…妹にあげるか。ゲーム欲しいって言ってたし、早めの誕生日プレゼントってことで」
妹にVRを渡し、新たなバイトを探そうとしていた。
バイト…VRやAIが世界を加速させた一方、土木やサービス業はまだまだ人の席が多く残っている。そして新たな産業は新たな雑用を必要とする。
機械化の波は着々とこれまでの日雇いの席を流し、そして新たな席を運んで来る。それに適応出来るかでバイトやフリーター、パートもまた明暗が分かれていく。
社会の隅に生きる者もまた、大きな流れを読まなければ静かに死ぬという訳だ。