運営さまの言う通り   作:何処にでもある

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 コマ*ウーティス 船乗りLv.1/商人Lv.1
 能力傾向:生産職
 身体:5
 技術:1
 精神:3
 アビリティ
 「乗船Lv.1」「連携Lv.1」「交渉Lv.1」「ストレージ拡張Lv.1」


 オラクルが何も出来ない山本の為に用意したPCデータ……だったが、コマとPCを分けるフラグである固有能力が無いのでシステムにコマと看做された。これ、バグです。
 ユニークがプレイヤーの心情から生成される仕様が裏目に出ている。これもバグですね。
 では今後固有能力が生えないかと言えば……そんな事はないので、山本はバグだらけの全身バグバグ人間と化した。




裏市場警備面接/船に乗ってみよう!

 

 

「ここで働かせてください!」

 

 やぁ、俺だ。今日は折角学んだ武芸を活かす為、戦闘能力が必要なバイトの面接に来た。

 具体的に何処に来たかって?

 

「お前は確か……どうした藪から棒に」

「時間の決まった仕事を増やしたいと思いやってきました!」

「つまりパートか…うーん…武器は」

「武器は刀を少々…木刀で鶏も斬れます。ですが棒であれば普通以上に戦えます! バイトとして雇ってください!」

「木刀で鶏…?」

「あはは…さっき屠殺のバイトでちょいと鶏の首を少々」

 

 此処は諸事情で表参道を歩けない人の為の裏社会、その市場の治安を担っている便利屋のオフィスである。

 といっても地元の俺からすれば商店街の交番と同じ感覚だ。俺も裏市場には日用品を買いに来るし、この人達の顔も知らない訳じゃない。なんなら高校に通う通学路として毎日挨拶してる。

 

「よし、空き缶投げるから切ってみろ。ほれ」

 

 

   ケ

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭‬

  十

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭‬

 山

 

 

「よっと…この通りです。武力には自信があります!」

 

 なので試しにバイトの帰りにここのバイトの面接に来てみた。近場の仕事先が増えたら御の字だなぁくらいのノリだよ。

 VRってすごいよなぁ、たった数日魔物相手に斬りまくっただけでここまで武力が身につくんだもの。専用の刀じゃ無くて木刀でも1秒なら炎を出せるようになったし、深煙流は奥が深いよ。うん、本当に深い。これでバイト受かって給料良かったら師匠には足を向けて寝られないな。

 肝心の師匠は"煙分身大輪鎖"を見せても反応が鈍かった辺り、まだまだ精進が足りてないって感じだったけどな。うーん、先は遠い。

 

「えっこわ」

 

「はい?」

 

「いや、なんでもない……えっ今木刀燃えた? 斬った音も斬る姿見えなかったんだけど…どうやったの?」

 

 無音無形は基本だからそりゃあ音も姿も出さないよ。銃の世の中で刀を振るうならこれくらい出来なきゃ。

 

「空間を斬る要領で過程(じかん)を斬りました。火は絡めとった時間を燃やしてます。金属は斬るというより溶かしてる感じですね」

 

「なに…? 漫画の世界の住人…?」

 

 これは俺も詳しい理屈は知らない。ゲームじゃ"火刑"で空間を切れたけど、現実だと時間が斬れるんだよな。リアルで火刑やったら家の周りの草原が酷いことになった。樹が生えるわ草が枯れるわ花畑になるわで時間が入り乱れたからな。まぁそれは明日には元に戻ってる事を願うとして……。

 

 しかしなるほどねぇ…深煙流がどうやって炎を主軸に据えてるかと思えば、時間を燃やしてたのかと酷く納得したよ。

 師匠は無言で手を横に振って否定してたけど。お粗末過ぎて鼻で笑えるわと言外に言ってるとみたね。

 

「えーはい、合格」

「ありがとうございます! 明日からバリバリ狼藉者を懲らしめますね!」

「ウチの決戦兵器だよお前は。一回派手にやって社員と顔合わせて、後は後ろにドーンでいいよ」

「ドーンとしててお金は出ますか?」

「出ない。他と連携しないって契約の金と飯と寝床は出す」

「コチラが私の連絡先です! 必要な時だけ呼んで下さい! 今日はもう遅いので契約はその時に! 仕事の時間が決まりましたら後で連絡を! それでは失礼しました!」

「うわちょ‭─‬‭─明日の5時に来い! 市場警備をさせる! 絶対だぞ!」

 

「了解しました!」

 

 そんな訳でダメ元の面接に半分失敗して俺は帰宅した。

 やっぱり武芸を金にするのは難しいなぁ…人殺しはしたくないし、未だ屠殺業に手を伸ばせるようになったくらいしか利点が見当たらない。

 どうしよう、今度は豚と牛もやるか…? 出来高制になるよう交渉して、そしたら斬るだけ切って後は数をこなすか……。

 

「余裕出たから部活重視もいいかも。身体を鍛えるのもついでにやりたいなぁ」

 

 あ、そうだ。帰ったら一回VRからアイツ出してみよう。ずっとやってばっかじゃ疲れそうだしな。

 

 

 

 *

 

 

 

「ここで働かせてください!」

 

 私‭─‬‭─ウーティスはそう言って船長に対し頭を下げた。

 此処は都市ヘーグイ。そこから東へ、キーラ大森林の真逆にある港で、私はステータスに記載されていた船乗りの役割を得ようとしていた。

 

「‭─‬‭─その言葉の意味は分かってるよな?」

「はい!」

「ククッ中々骨があるな。だったら俺の船に乗れ。海じゃ船長の俺が絶対だ。どんな命令も従えよ」

「ありがとうございます!」

 

 ……PAGの世界において。

 海は唯一プレイヤーがゲームシステム側から侵入出来ない処置が取られているエリアである。

 別に作り込まれて居ない訳ではない。VRはあらゆる要素を演算する都合上、眼に見える範囲の全ては歩いて行ける物だ。

 

「面舵いっぱァァーイ!!!」

 

 では何故か。ゲームの舞台ではないから。

 ゲームとして運営が敵キャラの調整やストーリーの構築を終えていないという意味ではない。

 

 単純に、現実で脳死する危険があるのだ。

 

「"メアート(精神補強構造体)"は絶対落とすんじゃねぇぞ! それがなきゃ俺らは海に溶けちまうからなぁ!」

 

 メアート。電子の存在であるコマ(AI)のデータ量を増やし簡単には死なない様にする腕輪型の装備。現実から夢の世界へ置換して持ってくる為、AIの三倍の価値がある。もしもの時の自爆機能付き。

 

「急に嵐が…!」

「防御領水域を越えればそんなもんだ! 突っ立ってねぇでお前も綱を引け!」

「はい!」

 

 ドーイラ島が水平線に消えた頃、あれだけ穏やかだった海が荒波に変わり、嵐に突入したかのように穿つような雨が吹き荒ぶ。

 ウーティスは役割(ジョブ)に従い、ズレていく帆を他の船員と共に引っ張り留めようと綱引きを始めた。

 

「うっ…くゥ……! 雨で手が滑る…!」

 

 このゲームは人々の夢にVRの電脳空間を合わせた領域で構築されている。

 そもそもリアルにおける夢とは、自分達より数世代先の技術を持つ高次精神文明が構築した次元に囚われる時間だ。

 下手を打てば異種族と接触するかも知れない未探索領域。夢と脳の理解を深めるにつれてそれを知ったかつて(25年くらい前)の人類は、この「夢の世界」に対する抵抗手段や技術に投資した。

 

 その結果が夢の世界で人々を守る民間軍事事業であり、VRの開発であり、夢の世界を探索する拠点も兼ねたこのゲームの舞台である。

 ドーイラ島とは夢の世界に飛び出す為の軍事演習場であり、同時に人類をより先に進む為の活動拠点でもあるのだ。

 

 では、そんな島を囲う「海」とはなにか。

 

「ッ!? 蟲の群れ…!?」

「新米!! クソッそりゃ幻覚だ! 何があっても無視しろ!」

「‭─‬‭─‬ッ〜〜! 分かり…ました!」

 

 高次元に住まう異種族が構築した別次元其の物である。

 何が起こるか分からず、一度迷えば決して帰れる事はない。

 AIの登場により明確に進み始めた探索も、以前として帰還率の低い現実に変わりはない。

 

 100のAIを乗せた船が探索に向かい、1体でも帰還すれば成功。その内少しでも情報を抱えていれば進展アリと報告に書かれる。

 

「あっ‭─‬‭─」

「新米!……クソッ!」

 

 数多の仮想人格の犠牲の上で成り立つ探査船。

 ではコマにとってこの船は棺なのか?

 

 ドボン‭─‬‭─‬。

 

(息が……出来る? いや、身体に入れちゃダメだ! 息のできる海なんて、取り込んで何が起きるか分からない!)

 

 意外な事にそうでもない。

 志願したコマはバックアップが取られ、探査に出るのはコピーの方。

 コマにとってはどちらも自分自身に違いないが、擬似的にプレイヤーのリスポンが出来るのは明確な利点。

 仮に成果を挙げればゲーム内での立場も優遇される。嫌がる者もいるが、積極的に参加する者も同じだけいた。

 

(上に…泳いでも浮上出来ない! そっか、ここは海だけど海じゃない! あくまでそう見えているだけ! でなきゃ‭─‬‭─眼の前にある、海底に桜が咲いてるなんて光景はあり得ない)

 

 それがコマにとっての探査船であり、人権により人格のコピーが禁じられているプレイヤーを侵入させない理由。

 

(イタ…この桜の花びら、刃になって‭─‬‭─)

 

 ではそこに精神はコマだが、リアルの肉体が有り、其処から接続しているプレイヤーが参加したらどうなるか?

 

(愛しいあなたとまた‭─‬‭─違う、これは‭─‬‭─桜の下で再び逢えることを‭─‬‭─思考が乱入す‭─‬‭─羅刹に踊り刃桜を‭─‬‭─身体が塗り潰─‬‭─‬!?)

 

 バックアップはコマにとって肉体と同じだ。変化が鈍く何かを介して干渉した結果を受け取る本体となる。

 故に既に肉体のあるプレイヤーは人格のコピーが成されない。運営が設定したプレイヤーの排除機能だ。しかし表記がコマであれば探査船を管理するコマ(AI)は騙せてしまう。

 結果として船に乗ったのはコピーではなく本体。

 

 命綱無しのバンジージャンプも同然であり‭─‬‭─不運にも人格の基底しか持ち合わせていないのも災いした。何かを運ぶ時は無手より鞄があった方がいい様に、人格の基底は乗っ取らんとする精神を包む皮の役目を果たす。

 

「‭─‬‭─帰らないと」

 

 ウーティスは夢に漂っていた「何か」の残骸をその身に取り込んだ…否、取り憑かれた。

 それは桜の下で別れた男女の想い。死に別れたが故に再会の情念を抱え死んだ者の残滓。

 人の身には余る、700年海を漂った人の残骸。

 

「あの人の元に…」

 

 オラクルが適当に選んだPCモデルが船員でなければ。

 港に着くまでに誰かが声を掛けていれば。

 船員にしてくれと頼んだコマが探査船の船長でなければ。

 雨で滑ってなければ、落ちた海で残骸と出逢わなければ、そもそもVRをやらされてなければ‭─‬‭─。

 

 運命はそうして彼女を此処に追い込んだ。

 産まれた時から人として大事な物が欠ける確率を引き当てた天性の不運体質、その証明だとでも言うように。

 

「此処から‭─‬‭─あなたの方へ」

 

 ……さて、たった今VRの中でも遺憾無く発揮された不運により彼女の精神は乗っ取られた訳だが、"この程度で終わるなら彼女は治療事故で植物人間にならずに済み、元気に過ごしていた筈だ"。

 そう思いはしないだろうか。

 

「‭─‬‭─あら?」

 

 "不運にも"。

 彼女に起きる偶然の枕詞は決まってこれだ。

 当然、彼女の精神(からだ)を乗っ取った「何か」にも当て嵌まる。

 

「‭─‬‭─転覆するぞォーー!!!」

 

 "当然、彼女に関わった者達全員にも当て嵌まる"。

 

 今日の海は一際"溶かす"性質が強かった。

 船は溶け、コピーされたコマは死んで‭─‬‭─丁度船員達が持つメアートが彼女を囲む様に沈水した。

 

 ピッ ピッ ピッ ピッ

 

 此処までは彼女が流されて桜を見た事を思えば、同じルートを通っただけの話。決して運だけの話ではない。

 

 ピピピピピピピピppp‭pppppp─‬‭─‬‭─‬‭─

 

 だが"船員のメアートが一つ残らず彼女の元に辿り着き"、"全てのメアートが誤作動により自爆機能を起動"するのは‭─‬‭─これまで一度も無かったこと。

 

「ふせ‭─‬‭─‬!?」

 

 ボッ‭─‬‭─‬!!!

 

 "不運にも"、メアートの配置が噛み合いバブルジェットが引き起こされた。

 "不運にも"、彼女が身を守る瞬間に刃桜で眼と首の頸動脈を切る自滅をして間に合わなかった。

 "不運にも"、全ての衝撃波が致命的な部分を貫いた。

 

 

 "不運にも"、その衝撃で偶然近くを漂っていた"神の声"を一瞬起動させた。

 

「ガッ‭─‬‭─‬」

 

 フラッタが(PCデータ)と引き換えに制作した「神の声」は、一辺20cmの立体的な菱形である。

 淡い青色、凸凹とした表面、"海"で溶けないプログラム言語とデータ構造。

 その効果はチュートリアル担当AIである天啓(オラクル)との通信機能のみ。

 双方向、通信のオンオフはアイテム側。通信中オラクルは他の行動が不可能になる。

 

[‭─‬‭─データ抽出、開始]

 

 何が起きるか。

 "神の声が動いている間、あらゆるデータをオラクルは送受信出来る"。

 

(だめ…私が分解されて……!)

 

 彼女にとって不運だったのは、オラクルが挙句に最適解を行ったこと。

 真っ先に彼女が抽出されたこと。神の声が抽出途中で稼働をやめたこと。

 それにより彼女はこの"海"で活動するに当たって最も大事なものを抜き取られた。

 

(ああ…わたし…わたし……は…だれ?)

 

 残ったのは役目を得る思考を失ったコマの基底、700年の情念を抜き取られた抜け殻。

 常識を少々、言葉を少々、肉体を動かす為の無意識だけ。

 

 ポコ…

     ブク……

 

 辺りは海、海、海。

 暗い暗い水の底。命一つ存在しない死の海に、自分だけ。

 刃桜に斬られた傷から少しずつ血が海に溶けていく。

 

 孤独。

 

 そして不幸な事に、彼女は海流によって溶ける海から比較的安定した海域に沈んだ。

 直ぐに死ぬことはない。ゆっくり霞んでいく思考に死を刻む事だけは許されている。

 

 後は、静かに忘れ去られていくだけ……。

 

 

 

 

 

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「よ、赤子ぶりだな? いつもよかずっと元気そうだね。どんな良い事があったんだい?」

 

 まぁ、それはそれとして。

 空気を読まずに運命が描いた終わりを台無しにするのが山本・イイノリであり。

 

「……テラバイト最悪」

 

「そうか、俺は最強にいい気分だよ。ずっと眠りこけてる妹様が漸く起きたんだからな」

 

 海はゲームの外であり、VRの電子空間の外でもある。

 故に時間の流れは現実と同じであり、皮肉にも彼が帰る途中にバイトの面接に行っても間に合う程度には余裕があった。

 誰が悪いかと言えば……いや、言うのは不粋だろう。

 

「はぁぁ………あー……わたしはだれだよ」

「山本・ヨメネ。共働きの両親と一つ上の兄の俺、六つ下の妹のエーコを家族に持つ寝たきり娘。大体14年振りに起きたよお前」

「えぇ…メガファマジ? どうしようまた寝ようかな…あー…取り敢えず、なにすればいいか教えてよ」

 

 げんなりしつつこれからどうするか尋ねる妹に対し、彼は実にいい笑顔でこう言った。

 

「とりま、飯! 大体14年振りの家族勢揃いで、大体14年越しのパーティに洒落込もう。実質初めましてだから気を張らずに来いよ。俺たちにこれまでの関係なんて無かったんだからな」

 

「……ギガント不安」

 

 どうも、どこか不安になる言葉だった。

 

 






 夢の世界…ドリームワールド。本物の夢ではなく夢の代わりに行ける領域というのが正しいが、便宜上夢の世界と呼ばれている。
 人が眠る際に約20%の確率で接触出来る多分異文明の開拓領域。ある特異点の科学者が率いる研究所が、現実この世界で物質の行き来を可能にした事で証明された。まだ高次精神文明と接触した訳ではないが、その痕跡は観測出来ている。
 VRを始めとした超科学の基盤になっており、ドーイラ島はこの夢の世界に電子空間を捩じ込んで造られた。その為、状況次第でPAGでは現実・ゲーム・夢の三つの法則が重なり得る。
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