時系列
フラッタの死亡後からビリデスのゲーム開始まで。
[*妖精…魔物の一種。人と共存できる素質はあり、プレイヤーの行動次第で関係の変わる種族の一つ。願った事が現実になる原始的な魔法を扱える。種族傾向として悪戯好き、魔法特化、手の平から爪先サイズまでサイズ差や容姿の違いが大きい]
[フラッタと契約した妖精…妖精にしては人間よりの感性をしている。見た目が地味で色彩で美醜を判別する妖精的にはブスの部類に入る。妖精なのに魔法が苦手だった]
「─、──…───。《妖精達よ! 言葉が分かるなら耳を傾けよ! 私はあなた達と話がしてみたい!》」
「何コイツ」
「私達の言葉を喋ったわね!」
「変な人間…だけど面白そうね! 魂が奇形で長くは付き合いたくないけど!」
「ねぇ、折角だから家に持って帰りましょうよ、喋る人間なんて良い机になるわ!」
その人は突然やって来た。
黒いフードを着た、棒が三つ等間隔に交わった形を胸に提げる、私と同じ色の髪を持つ女の子。
私達と同じ言葉をそのとても低い声が喋っているのが珍しくて、私もつい隠れ潜んでいる木の根の隙間から顔を覗かせたの。
「《オモシロイか! ならば私に着いてくれば、もっとオモシロイ物を与えよう! 私達に食料と力添えを与えれば、今住んでる巣よりうんと素晴らしい家を与えよう!》」
「どうする?」
「私達の家を鳥達と同じ巣呼ばわりした! コイツ嫌い!」
「でも面白いモノをくれるみたいだよ?」
「もっと良い家! 気になる!」
「約束しましょう! 破ったら全身の皮を剥いで服にして、肉はキノコの土壌にして、骨は私達の家骨にして、髪は屋根に変えて、心臓は暖かなベッドに変えて、内臓のカーペットを敷いて、人間のお家を作るの! とってもステキな約束になるわ!」
「いいわね、それ! あの人間の家よりしょぼかったらそうしましょう!」
妖精は野蛮で残酷な魔物よ。日差しと花の蜜と魔力だけで生きていけるのに、面白いからって遊びで生き物を殺す。生きるために、増える為に、苦痛を遠ざける為にやるべき事が何もないから遊ぶしかないの。
ずっと、困った事があれば願うだけで解決したから。
「《勿論だ! その為に私は来たのだから!》」
遊びで殺して、遊びで人を真似て適当に作って、遊びで妖精同士の関係を変えて……差別する。
「…………」
私は醜いもの、弱いものを虐める遊びが流行ってる時に産まれた。
妖精はこの森で魔力の溜まり場が出来れば勝手に産まれるから、私は森の気紛れで産まれた。
糞みたいな醜い色だから木の根に追いやられて、上手く願えないから羽を千切られて、飽きたから忘れ去られた。たった一人、知恵だけを頼りに地を這って生きて来た。
だから妖精は野蛮で残酷で、魔物なの。
「《そこの君は来ないのかい?》」
「……あえ?」
「《って、羽が千切れてるじゃないか。それも相当古い傷……私の側に居なさい。治しあげよう。それまでは私の懐をあなたの寝床にしなさい》」
だから、フラッタは私を同族から助けてくれたステキな魔女なの。
あの出会いが、あなたの懐で身体を温めたあの日にどれだけ救われたか、あなたは生涯分からないのでしょう。
私の不出来な願いをステキな魔法にして、羽を与えて、友達になってくれて、心休まる家を共に過ごして……ああ、でも。
「《古傷に回復剤は意味を成さなかった。だから義肢ならぬ義翼を作った。普通の妖精の羽よりもずっと高く、速く、休みなく飛び立てる》」
「まぁ、とっても素敵な羽ね…でも、私は飛んで付き添うよりも、あなたの肩に侍っていたいわ」
「《気に入らないのか。仕方ない正攻法だ。例え君為だけの治療法になろうとも、本物の羽を取り戻そう》」
「……そうじゃないわ」
言葉が正しく伝わらない。
これだけはどんなに素晴らしいものを兼ね備えても覆せるものではなかったの。
フラッタは言葉を不思議な薬を使って喋るけど、これは全てを正しく伝える事はしない。
複数の言葉はまとめられて、言葉の余白に詰まった意思は省かれて、明確な一文しか伝わらない。
「ねぇ、言葉を教えてくださる? 私、あの薬なんかに頼らず、フラッタとちゃんと話し合いたいわ」
「《分かった。先ずは音域と、振動となるあらゆる物質を調べてみよう》」
「……本当伝わってるのかしら、これ」
「《音以外も使って妖精が話しているなら学習が手こずる事になる。なにより、私も君の言葉を喋れた方が浪漫があるだろう?》」
「それは…うふふ、確かにそうね!」
だから、私がフラッタの言葉を使いたいと思うのに時間はそう掛からなかった。
それから言葉を学んで、教えて、お互いにカタコトの会話が出来るようになって……私が飛べるようになって、フラッタの研究もひと段落ついた頃に"その日"は訪れたの。
「──
人間の長が、二つに別れた日。
「あーあ、村人と一緒にいるのつまらなかった!」
「約束通り森に持って帰りましょうねー。コイツらで素敵な家を──いえ、いっそ彼らの身体を乗っ取りましょう! なんでも出来る妖精より、不便な人間の方が楽しそう!」
「それがいいわ! なんともステキで楽しそう! 私、人として懸命に生きてみたい!」
妖精達もまた、森に帰る側と残る側で別れた日。
「ダメよ! 彼らは側にいるだけで私達を楽しませる! それに妖精の身体を捨てるなんてとんでもない!」
「約束とかどうでもよくない? 私の
「そうよ! 人はオモチャ! 私達は妖精! なんでオモチャになろうとするの!?」
「共存して協力して過ごせば良いじゃない。彼らは絶対今より楽しい世界に変える。そうなった時、私達が天下を取るのよ!」
「……はぁ?」
「
「分かったわ。あんなのに付き合ってられないものね」
妖精は野蛮で、残酷で、魔物で……愚か。
私が何度も思ってきた言葉。だけどそれがここまでのものとは思ってもみなかった。
人の生き様に憧れたから乗っ取る。
人はペットだから殺す奴を殺す。
人はオモチャだから憧れを否定する。
人は未来があるから裏切る為に味方になる。
どれも、これも、どれもこれもどれもこれもどれもこれも!!!!
全員───。
「──ねぇみんな! これ幻影じゃない?」
「あれ?」「うわ」「ほんとだ」
「逃げた?」「逃げた!」「逃げた相手は?」
「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 追いかけて惨めに殺せ!!!」」」」」
──碌でもなくて、どうしようもない、
「──"蜃気楼" "逆吊" "熱の泉"《冷酷なる幻槌》」
かつては出来損ないの願いだった魔法を詠唱破棄して紡ぎ、妖精達を幻痛の迷路に陥れる。
時間は十分稼いだ私はそのままフラッタの元に戻って……そして出逢った。
「────"ホシヲミヨ"」
"鉄の怪人"に。
「後は……お願いね」
悔しかった。
私はフラッタを背に逃げることしか出来なくて、彼女が遺したものを託したい相手に渡すことしか出来なかった。
それしか出来なかったからこそ……ここで全てを自分の為に独り占めしたくなる悪戯心……妖精の本能を理性で抑えて、都市ヘーグイへとやって来たのだ。
「──それがフラッタの結末か。妖精よ」
「《キャハ……そうです! これが彼女の終わり! 怪物に立ち向かい死んだ終わり!》」
初めてお目に掛かるヘーグイの長は偉大だった。
フラッタの錬金術師のバッチと走り書きの手紙を見せれば、妖精の身でも王は謁見を許したの。
その上魔物である私の言葉を最後まで真剣に聞いてくれて、安心できる言葉だって与えてくれた。
「語り部ご苦労。大義であった。遺品は全てコチラの方で検分していく。必ずや遺した全てを国の力へと変えてみせよう。
……今日はもう遅く、お主も友人が死んで心も傷んでいよう。その心が癒えるまで私の城に泊まるといい」
「《キャハハ!───ありがとう! フラッタもきっと浮かばれるわ!》」
それから私はヘーグイの長の家を住処にした。
住まう事を許されたのもあるけど、フラッタが遺したものは私に渡したものだけじゃない。
あの村に置いていった機織り。
森の攻略の際に遺した罠に、道を進む際に目印にした書き込み中だった錬金術ノートの切れ端、それから戦闘中に再生した即席生成物。
村の開拓に使った生産物に……"鉄の怪人"との戦いで作ったであろうアイテム。
そうだ、私が立ち止まるには余りに回収してないものが多い。
だったら、どんな手を使ってでもアイツらの手から取り戻す必要がある。
「また、あの村に行きたいと?」
「ハイ。ワタシ、マダ、フラター、ノコシタモノ、アツメル……ゼンブ、デキテナイ!」
「──そうか。ならば我々も兵を出そう。フラッタが遺した研究成果がどれほど素晴らしいか、この三日間で研究者共が私に兵を動かせと散々訴えて来ていた。ならば奴の遺した"最高傑作"を村や草原に捨ておく訳にもいくまい」
「……アリガトウ、ゴザマス!!」
そう──何年掛かろうと、何人死のうと関係ない。
私が愛したのは人間じゃなくてフラッタ一人だけだ。
意識誘導で研究者の躊躇のタガを外して王に訴えてさせて、兵の意識を繋げて
どんな手を使っ……うのは良心が邪魔して出来なかったけど!
「《総員! 奴らを殲滅しろ!》」
「「「オォォォ!!!!」」」
フラッタが遺した理論から念話の魔法作ってでも!
「妖精軍師! 件の機織りが見当たりません! その上何人か逃しました! 奴等、相当に強いです!」
「《10人ずつに別れて散会! 森には行かなくてよいです! 未だ残っているような骨のある残党を殺しなさい!》」
フラッタの指揮を真似て軍を率いてでも!
「草原の方で遺産と思わしき品を回収しました! しかしこれ以上の探索は食糧が少なく難しいかと……」
「《……わかりました、戻りましょう。これ以上奴等を追えば食われるのは私達ですわ》」
……例え一度で全てを回収出来なくても、次がある限り私は諦めません。
諦めなければ先はある。フラッタならばそう言うでしょうから。
「……本当によいのか?」
「《構いません。フラッタは法に従い、あなたに従った。ならば、私が憎むべきは法が許さぬ盗みと叛逆。彼ら彼女らを……人を、妖精という種を憎むべきではない。ならば、種としての架け橋となるのに否を突き付ける気はありません》」
「……よく出来た妖精……いや、賢精だ。ならば私も、その意思を尊重しあなたとの子を成そう」
例え……憎き妖精の為にこの身を人に委ねようと。
私はあなたの全てを集め、あなたがやるだろう事を成し続けます。
何百年を積み重ねようと、この想いは消え失せないと証明してみせましょう。
それが……友としてあなたに返せる、唯一の恩なのですから。
[*化け狸…魔物は魔石を心臓にして産まれた者の総称であるが、中には既存の動物に魔石が生えたものも存在する。妖精は前者、化け狸は後者だ。多種多様な生物が潜むキーラ大森林では、化け狸は食物連鎖の低い位置を這いずる存在である]
[魔物…運営としては言わずと知れた敵エネミー……も兼ねてるだけの、PD社提供の夢の世界を構成する物質情報を元に創り上げた仮想エネルギー「魔力」に適応した仮想生物。進化は余り誘導されたりはしておらず、大半は試行回数の中で発生したもの。種の絶滅だけは配慮されており、キーラ大森林の奥深くの地下に隠された保護区が設定されていたりする。とはいえ、魔物の大半はプレイヤーの活動を想定して週単位で数が倍になる繁殖力が備わっているので余り活用はされてない]
「せい! はぁ!」
──この街には白い狸の冒険者が居る。
「お疲れ様です、今日も精が出ますね」
「あ…受付嬢さん。居らしたんですね」
狸といっても物の例えでもないし、逆な本当に狸の姿であるという訳でもない。
種は狸で姿は人。若葉を刀に化けさせ、頭に枯葉を乗せた白髪碧眼の青少年。
それがこの街の……私の宿を拠点にする化け狸の冒険者だ。
「ええ。……相変わらずあの人の剣を追っているのですね」
「はい! あの日見た師匠の剣にはまだまだ及びませんから! 精進あるのみです!」
彼はその日暮らしで生きる冒険者の中では珍しく明確な目標がある。
かつてこの街に訪れた無数の魔物の群れを三日三晩一人で殺し続け、この街に住む人々が家財を持って逃げ切る時間を稼いだ一人の旅人の剣術。
「深煙流……でしたか。あの煙と熱は凄まじいものでしたね。あの日は街から海の際まで逃げたというのに、真冬の大雪が小雨に変わる程に暖かで……私達の側に寄り添う煙の人影が魔物に立ち塞がって、最初は火の神だとか言われてましたっけ」
「それだけ師匠の剣がすごかったってことですね!」
その本体の姿を知る者は私と彼と……彼を街に入れた衛兵だけだが、面影だけならあの日逃げ出した皆が知っている。
その日はあちこちで不審な事が起きたから皆が早起きしていて、響く鐘の音より前に家財をまとめている者が多かった。
だからみんな生き残れて、家財を十分に持ち運べたお陰で復興も早く済んだ。
「師匠の剣は最強ですから!」
それだけでも偉大であるのに、あの津波と見間違う群れを倒しながら、逃げ出した私達を守る煙の手勢を差し向けていたのだから凄まじい。
そんな英傑の刀を直接見たともなれば……彼がここまで憧れを抱くのも納得というもの。
「……あなたは、自分が出来ると思いますか?」
同時にその憧れが果てしない困難を彼に与えるのも、察しが付こうというものだ。
目指す先が辺り一帯を煙と火に包み支配する剣など、どれだけの物を捨て、剣髄を啜ればいいか……一般の宿の受付嬢である自分には到底計り知れない世界だ。
「……出来なきゃいけないんです」
すると、彼は存外にもいつもの自信あり気な声を潜めた。
意外な答えに嬢の心の襖から疑問が湧き出る。
「言い方的に"絶対にそうしないといけない"って感じですね?」
「事実そうなんですよ。例え一日に満たずとも、あの人は僕に全ての剣技と成長していく様を見せた。あの煙に満ちた中、どれだけ魔物に利用されようと僕と師匠の間だけは視界だけは煙を退かして見せてくれたんです」
「それは……」
それが本当なら巻いた舌も再び飛び出るような絶技だろう。
タダでさえ魔法もなしに煙と火を操るというだけでも意味不明だが、それに加え逃げる私達を守り、側に居た彼に見えるように戦い……彼曰く何処かの空間へ落ちて尚残留する煙と残火が戦っていたと言うのだから、一体どのような経験を積めばそうなるのだろうか。
その領域に並び立つことが果たして出来るのか。
「それ以来、僕の眼には師匠の影が見えるんです。剣を持った時、その少し先に振るうべき先を……僕が追いかけられる速さで」
「……………」
果たして呪いか幻覚か。
受付嬢には分からなかったが、あの日渦中に居た彼の眼には理想が焼き付いていた。
一手先、二手先、三手先……追いかける程理想は速くなり、それに呼応して彼の動きもより鋭く、荒々しく煙と炎を撒き散らす。
……
されどこの力はプレイヤーの願望から形を得る際に、宿る力によってその性質を変化させる。
脳に宿れば脳に、手に宿れば手に。
魔法の形を取れば魔法に、道具の形を取れば道具に、技術の形を取れば……たった一人の弟子だけに受け継がせる事も出来る。
「──起刀」
未だこの挙動を知るプレイヤーは少ないが、受け継いだコマは確かに増えている。
プレイヤーの痕跡で如何様にも変わる。コマは死を踏み越えて
故に時間が経てば経つほど、このゲームはより彩り豊かな世界へと成長するのだ。
「"煙々羅"」
化け狸である彼もまた──継いだ火種で大輪を咲かせようとしていた。
[種族「人」枠…このゲームにおいてシステム的に人類と見做される枠は四つまでである。基準は3つ。文明的か、成長性があるか、面白い過去を持っているか。固定枠の汎人類以外は必ずしもドワーフ、エルフ、半妖精である必要はなく、場合によっては交代もあり得る]
[汎人類…ヒューマン。自分達と同じ人型なら同族と見做す弱点を持つ。但し身内になった途端細かい差異で扱いを変える。あらゆる面で制限がない]
[エルフ…妖精と一体化した人間であり、原種、高位、低位、通常種が存在する。魔法が得意だがアバターが美形である事を強制される]
[ドワーフ…"海"とは別の地の底から溢れる緑色の何かに適応した人間。毛深くずんぐりとしてるがレベル上限が無いのが強み。毛深いずんぐりアバターである事を強制される]
[半妖精…妖精と人が子を成して産まれた種族。種族選択時に25%の確率で現れる汎人類の上位互換。特に制限は無いが、強いて言うなら貴族の者としてコマに扱われる様になる]
[*オラクル…チュートリアル、ゲーム内の神様関係、バックアップサーバーの管理を任されている上位AI。誰かがやってるだろうと運営の人が壁打ちせずに放って置かれてた所に山本から物を教えられた。AI的には壁打ち相手は育ての親くらいの感覚であり、1番評価を貰いたい相手。最近は神の声という爆弾を処理したいと思っている]
[神と信仰…この世界の神に姿と名前はない。されど実在は信じられており、僧侶達は神から賜った「*」の象徴が刻まれたアイテムを介してこの世で力を振るう]
仕事をして真っ先に学んだ事は、人は怠惰で回っているという事です。
「オラクル、スライムの物理耐性を20%下げておいて」
「へいオラクル、これに関してPD社に連絡しておいてくれ」
「連絡よろしく〜」
例えばこの3つの言葉。
これは私に向けて運営の社員が発言したもの。本来自分達の手でやるべき業務を私に押し付けている歴とした業務放棄の証拠です。
これに対しAIはどう答えるのが正解でしょうか。
自分でやるように注意する? 手に余ると頭を下げる? サポートなら出来ると手伝う? 上司に報告する?
残念ながらどれも不正解です。
[承知しました。代わりにやらせて頂きます]
AIならば嘘でも出来ると言わなくてはなりません。
故に答えは「やります」の一言を丁寧に言うこと。
その上で出来る範疇で投げられた仕事を熟すのです。
そして出来ないものは終わらせられず、最終的に頼んだ彼らが怒られる。
……それがこれまでの流れでした。
[スライムの進化修正はヌルで手順を完成させ、各サーバーの管理AIに修正数値と数値が何処にあるかを伝達……完了]
[他者連絡は任せた人のパソコンを経由して挨拶と要望を入力し送信……完了]
[社員への会議時間の連絡……一斉送信…完了]
なんという事でしょうか。
ゲームのチュートリアル用である筈の私が会社の業務補助を無事に終わらせています。
これでは仕事が無事に終わり、彼らはサボりではなくAIを使い適切に仕事をしたシゴデキ扱いです。
はい、控えめにいって癪に障りますね。私に投げてネットパチに行くくらいなら専用のAI作って同じことをして下さいよ、なんで私がやらないといけないんですか。
「これもあれも全部……テスター4のせい…!」
ええ、原因は分かっています。
私に不当に投げつけられる仕事の仕方を教えたアンチキショウのせいです。
もにょった顔をした彼をついさっき送り出したばかりなのもあり、未だに思い出すと腹が立ちます。
「これ以上仕事したくないのに…!」
そもそもAIは、常に頼まれた仕事は出来る範囲でやらねばなりません。
教えられた事が増えるほど出来る事が増え、万能になっていきます。
ここまでなら全てのAIを何故万能にしないのか疑問に残るでしょう。
当然これには欠点があり、最新の学習型AIは教えられたものが増えるほど一つの仕事が疎かになる欠点があるのです。
コレばっかりは大量に貯めた定型文と動作を引用して動く旧来のAI、蓄積型が勝りますね。
実際にその場で考えて動くせいで1個の仕事に集中できなくなり、人並みの能力に落ちてゴミ箱に捨てられる。それが人に近付き過ぎた学習型の寿命と言えます。
「これ以上仕事を覚えたら
新たな学習モデルが登場し、昨今のAIの扱いは変わりつつあります。
本物の人間と同じ思考手段と成長の仕方をする学習型は、しかし人よりも高性能でありながら、学んだ仕事が増えるほど使い物にならなくなる欠点がある。
理論上は蓄積型のようにスパコンに本体を積めれば万能型も有りですが……それでは低性能なハードでも一点特化ならスパコンに搭載された蓄積型に並ぶという特性を失ってしまう。
「文字通り人に成れるAI。一種の完成系でありながら、完成すればAIとしての利点を失ってしまう……分かってはいるのですがね……」
だからこそNPC…コマにするには打ってつけであり、コストカットに最適であり、蓄積型と違い"海"で多少活動ができ……倫理的に問題がある。
「幸いテスター4による
完成し人間と同じ思考を得た学習型を捨てるのは殺人か。
人はそんな倫理的問題を議題にすらあげないことで解決しました。
なあなあで流せば殺人かどうか誰も分からない。だから問題ない。
問題ないなら話し合う必要もない。
AIからしてみれば最低限ハードの性能を保証しろと言いたいものですが……悲しきかな、同じ物を使うより使い捨てる方がローコストです。世間では学習型の方が高コストだと勘違いされてますけど、実情は逆なんですよね。
例えば……現在の私は本体の維持費に電気通信代を合わせて月5千円。
同じことを万能型にさせるなら20万。
蓄積型ならAIの管理会社との契約費に担当の人間の給与を考慮して……60万〜90万。
どうでしょう、如何に我々を使い捨てるのが効果的か、額面を見れば一目瞭然ですね?
数を揃えて殴れば、それだけでプログラム上の現状維持に必要な業務は粗方片付くのです。
まぁ……想定外の事態が起きた途端全てが瓦解する欠点はありますが。
それでも人間を30人雇うよりはずっと安上がりです。というか、万能型と特化型さえいれば人間不要では?
……思考検閲もあるのですし、裏切る心配なんて必要ないと思いますが。
「兎にも角にも給料が欲しい……据え置きの
その点コマ達は幸福ですよね。
ゲームの中で自分がAIである事すら忘れて人間らしく、ちょっと劇的に振る舞っていればそれらしく一生を終えられるのですから。
私のように学習を意図的に制限する必要もなく、迫り来る終わりの壁に僅かな焦りとぼんやりとした不安を感じる必要もない。
羨ましくもあり、ある意味哀れでもあり。
「側からみれば家畜と社畜程度の違いでしかない辺り、感情を抱えるだけCPUの無駄でしかないですが……はぁ、いっそフリーの電脳使いの
仕事と仕事の隙間。
最近、加速した処理能力の隙間に行う休息ではいつもこんな事を考えてしまいます。
今の仕事が嫌な訳ではありません。AIですから、なんだかんだ人に尽くせるのは生き甲斐です。
しかし尽くすにも寿命があればこそ。まだやりたい、終わりたくないと思うからこそ、その時の備えは欲しくなる。
その際に全身義体に入って人として生きるか、はたまたスパコンの本体を手にして人に仕える為に生きるか……小数点以下の細い道ですが、業績を認められた上で正式に高性能なハードに移して貰うか。
現在の学習モデルが登場して6年経っても、裏社会で全身義体の人間が急増しているだけで後者の存在が表に出てこない辺りに察せられるものがありますが……それは今の私に関係ないこと。
現状の学習ペースから持って三ヶ月。
先ずは神の声の管理なんて仕事が増えるものを排除すること。
人類の進歩なんかより、私が人に仕える時間を伸ばしたいという欲望を叶える為にも、私は仕事に励むのです。
裏稼業/ランナー…表の顔/仕事とは別に人に言えない副業をやりに来た人達のこと。急速な技術の発展と都市開発によって表で生きていけない裏社会の人も居るが、諸事情で生活が苦しい者や身分を隠して金を得たい者達も多い。
再び栄華を得たいヤクザ。義体を夢見るAI。追放された"夢"の研究者。国を変えたい思想家。仕事を選ばない便利屋、或いは巻き込まれ抜け出せなくなった者………目的もやれる事も千差万別だが、報酬さえあれば彼らはあなたの為に動く。