魔法/魔術…このゲームには魔力に直接働きかける魔法と様々な術を用いて間接的に扱う魔術が存在する。魔物が本能で扱うのが魔法、人が技術を積み重ね扱うのが魔術。ゲーム的にはプレイヤーの想像力が求められるが、使い熟せれば強い熟練者向けが魔法。システマチックで画一的で初心者向けなのが魔術。
「フ?」
目覚めた時、俺は都市の広間ではなく兎人間が住まう集落の真ん中に居た。
どうやら種族を変えられるようになったのに合わせ、初期地点も変更されるようになったようだ。
自分の姿を見ればアバターと同じもの。うん、過去編は無しのようだな。
「プ…プグ…ぁ……お? あー、こうか。言葉を喋るのにちょっとコツがいるみたいだね。兎は声帯がないからかな。人型なのに喋り辛いや」
緑に寄った灰色の体毛に、野生味溢れるぼさぼさな深い緑の長髪と赤い眼、動物特有の鼻に向けてとんがったマズルに肉球のない5本指、足の指は4本で周りと比べても背の低い小柄な女の子で服は無し。これがケモセーフってやつか。集落のみんなも着てないし、それが普通なんだろう。まぁ体毛あるもんな。
うん、俺的には女の子になったってより兎になった感覚の方が強いな。
なまじケツ穴と前にもう一つ穴があるせいで全裸なのが落ち着かないけど。
フラッタの時もそうだけどこのゲームR18でもないのにこういうのに躊躇ないよな。どっちの穴もどう弄ろうと開く事はないのは安心だけど、遠慮ってものがない。うーん…見た目だけならセーフって事なのかなぁ…? そこら辺はテスター業務の範疇を越えるから特にメールとかしなかったけど、勇気あるよな。
「物が掴み辛い…けどやれない事はない。二足歩行…よっとと…四足が動き易いけど歩けない事はない…大分マニア向けな姿にしちゃったな、これは」
いやー、ケモ度がある程度調整出来るものだからつい1番ケモいものにしちゃったぜ。お陰でほぼ兎の骨格だぜ。
でもやれるならやりたくなるだろ? 見た目も折角だから兎人の美的感覚をオラクルに聞きつつ人の美的感覚にも合わせて作ってみたし、このアバターは結構力作の自信があるんだ。
「そしたらステータスはっと…」
| PC ビリデス 種族:兎人/魔術師Lv.1 身体:3 技術:0 精神:3
SP:0 |
| アビリティ 【*未選択】 「超聴覚Lv.1」「脱兎Lv.1」「魔術Lv.0」
|
| ストーリー ・「村からの旅立ち」
サブクエスト(0/3) ・ ・ ・ |
「ユニークが選択式になってる!」
未選択の部分をタップしてみると複数の選択肢が現れる。
どうやらアプデの影響である程度選べるようになったらしい。いいね、ユーザーフレンドリーなのは好感が持てる。
「早速……なんだこれ?」
では肝心の中身と云えば……俺は眉を少しだけひそめることになった。
| *現在選択可能なユニークは以下の通りです。 |
| ・【 ・【 ・【 ・【 ・【 ・【 |
| ・【遂げられた神託】…一定時間「フラッタ」になれます。 ・【追い抜いた未来】…一定時間「シンエン」になれます。 |
| ・【 ・【 ・【 |
「感情を読み取るって言ってたけど、リアル関係も対象なのか…」
おおう。今まではゲーム側が勝手に選んでくれてたけど…考えてみればそりゃそうか。
今から始めるゲームよりリアルの方に意識向けてる人は多いもんな。そりゃこうなるか。
俺のどの思考がどのユニークに繋がってるか察せられてなんだかちょっぴり気恥ずかしくなるな。
「多少面食らったけどあんまり悪い話じゃないか。ある意味ユニークっていうこのゲームの醍醐味が最大限活用されてる訳だし」
金が欲しい、ヨメネを治したい、エーコにもうちょっと良い生活をさせてやりたい、ヨメネの代わりに成れるならなりたい、もし妹が死んでもまた話し合えるようにしたい、ずっと仕事を頑張れる両親はスゴい……どれも嘘偽りの無い俺の感情だ。他人に見せるものでもないが、あまり恥じるのも違う。
「となると……これらの感情をゲームに持ち込むのはなんか違うよね。ゲームはリアルと切り離すのが普通だろうし……かといって前のデータを使うのも面白味がない」
消去法で最後の3つになるが……どうする? 行くか? R18モード。
正直ヨメネの為にバイト頑張ってた時はやる暇無かったしすっごい惹かれるぞ。
でも今の俺女だもんなぁ…男の時にやりたい…けど残り二つは滑稽とかモンスターとか書いてるのが悪口みたいで微妙………──あ、ダメだ。
俺高校生だしまだ18歳じゃない。
2年早いわ。じゃあ選べないわ。
「じゃあR18変更抜き制限解除でいいか。願えば出来るかな……お、出てきた」
願望的なのが反映されるだけはあるのか、俺が一定の指針を念じるとそれに沿ったユニークが出てきた。なんか余計な能力が付いてるけど。
でもこの辺りの小回りの良さ…保険として未選択にしておいて、いざって時に獲得するプレイ方法とかアリだな。次回やってみよう。覚醒はロマンだ。
「選択っと」
途端、俺の背後で無感情で俺を見つめているような感覚を覚える。
幽霊…というより、それは壁打ちの際に俺を学ぼうとするまっさらなAIの視線に似ていた。
[*固有能力【
【
「………!」
R18変更を除いたらコマになる要素しか残らなかったぜ。
コマになる要素が強くなったせいでまた縛りプレイになっちゃったぜ。
さっきから喋ろうとしてるけど喋れないぜ。怖いぜ。さすがゲーム補正だぜ。
「………」
(ビリデス、これは食べられる物。これが食べられない物だ。嗅いでおぼえなさい)
そして経歴確認が始まっちゃったな……くそう、中身をよく確認せずやったせいで強制演技モードの幕開けだ。でもコマとして振る舞えのは空気読みが鍛えられそうでウマい流れだな!
さぁて役はどうしよう急に振られても困るぞ……魔法に憧れるようになった兎人は確定として…性格は……。
「………!」
(……待て! 何か居る…これは…人の足音か? それに急に出てきたチリチリとした音……魔術師か)
それで、目の前の男の兎人が父って事でいいよな。魔法に縁もゆかりもない兎人が魔術師を目指すようになる場面で良いんだよな?
なら……ここは駆け出す!
「……プ!!」
(待て! 行くな! ビリデス!)
音のする方へ走っていくと、そこには焚き火を着けようとしている旅の魔術師が居た。
「お?」
「……!」
(あー…そうか、今の俺は子供の兎人。髪も体毛と変わらない長さで、兎人が基本的に人語を喋れないとくれば……普通の兎と見分けが付きずらいし、殺されて食べられかねないのか。父兎が止める訳だな)
生成した火の玉で枯れ木に火を付けている真っ最中に飛び出した俺を、魔術師は火種にした弾をバラして差し向けてくる。
「兎肉じゃんラッキー。"魔の火よ かの小さき者を担ぎ迎えろ" 《
人の声デッッカ!!!!
俺は耳を抑えてつつ適当に火飛沫を回避して草むらに隠れ、ちょこちょこ爆音から離れつつ状況をまとめる。
「………」
(……お、プレイヤー発言は兎人の言葉かつ、周りに兎人が居ないと普通に喋れる。補正の掛かりで周囲の人の有無が分かるのはっ───グッ…─もう父さんが来ちゃったか)
ふむ……経歴確認が始まる前、集落で話し声は聞こえなかった。人の言葉は俺の独り言しか無かったんだよな。
周りの兎人の言葉は細やかに変化する呼吸音と種族補正からある程度理解出来たけど、普通の人間が聴き分けるのは無理だろう。これは兎人の超聴覚があってこそ成立する囁き言葉だ。
寧ろ彼らにとって世界は大きな音に溢れすぎてるのか…んな訳ないな普通に物音は人の耳と同じ聞こえ方だ。
つまり言葉だけは囁きくらいが丁度良くて、人の話し声は大音量過ぎて聴き分けとかしてられないと。なんだよあの爆音、兎人が社会に参入出来ないようにゲームが補正掛けてるみたいな爆音しやがって。これが獣枠と人枠の待遇差って事なのか?
「………!」
《馬鹿者! 人は魔物と同じくらい危険な存在なんだぞ! もしやすれば死んでいたかも知らないんだぞ!?》
とと、話が長引いたな。ここは申し訳なさそうにしておくか。
……ふむ、今の俺は普通の兎と大差ないが、父兎はそんな俺より一回り大きい以外は普通の兎にしか見えない。
兎人……人って文字が付け加えられてるけど、実態はかなり獣に寄ってそうだな。
「……」
(…ごめんなさい。でも!……魔法っていうのを一回見てみたくて)
こうして言葉が分かると人並みの知性があるって分かるけど、側から見たら普通の兎と区別が付かない。
「…………」
(……そのあこがれは捨てなさい。魔法は、我々には決して使えないもの。使えた時は、理性なき魔物へと変ずる時だ。この恩恵と厄災多き森で平穏無事に生きるなら、身の程を弁える謙虚さと、自然に対する礼儀を忘れてはならん)
獣度か……アバターを作る時は大して気にして無かったけど、あれだけ見た目に差があると下手に人と馴れ合うのもリスクが出てきちゃうな。
獣に近い同族をどのラインで捨てるかって話になってくる訳なんだから、それならいっそみんなで森の奥に暮らした方が争いも起きない。人に執着しなければ平和なまま。人に成ろうとすればイベントとしてプレイヤーの関わる余地が出てくる……なるほど、ゲーム的には都合がよさそうだ。
兎人と同じ枠の数だけ似たようなイベントを起こせるって点も含めて合理的だな。
「…」
(……はい)
なんて事を考えながら父兎に頭の下げると、反省したと見たのか父兎は食べられる野草を引き続き教え始めた。
けど…魔術師に職を設定した以上、こんな事で諦める訳がないんだよな。
「……!」
(なぁ! 知ってるか!)
場面、集落。
集落といっても開けたちょっとした洞窟に柔らかい草を敷いて、壁側に巣穴を掘っただけなのだが……巣穴に入れない人の形に近い同族も居るから集落だろう。
思えばどうして人型が産まれるんだろうな。ゲームの都合と言えばそれまでだけど、最低限人型を保たせた筈のビリデスは、現状ただの人っぽく髪の毛があるだけの兎だ。
カツラを被った兎からどう成長すれば人型になるのだろう。
「………」
(知らないよ。どんな話かも言ってないじゃん)
兄弟なのか幼馴染なのか。
関係は存じ上げないが、洞窟の中で話かけてきたオス兎にツッコミを入れた。
「……」
(坊や、決して夜に出歩いてはいけないよ)
「…?」
(えー? なんでー?)
「……」
(それわね…坊やを恐ろしい怪物に変えてしまうからさ!)
「…!」
(わぁ!)
……他の兎の会話から、夜に出歩くのは禁忌だという話が聞こえたが、オス兎は元気に噂話を続ける。なるほど、怪談みたいなノリだな?
「………!」
("ヒト"になる満月の噂だよ! ほら、この集落にはヒトに近い奴もいるじゃんか。ソイツラって元々俺達と同じだったんだけど、その満月の光を浴びたからヒトっぽくなったらしいぜ!)
「……」
(ふーん…眉唾な噂だね。月なんてどれも一緒じゃん)
ある訳ないと言った瞬間、
「………ヒュー」
(コッ…! 急にフルマラソンをやった後みたいにしないでよ、もう…ビックリした…!)
経歴確認は条件を達成した瞬間場面が飛ぶのは既に知っているが、だからって急に体力ギリギリの状態にしないで貰いたい。
「…ょ…ヨルカ」
お? 声が辛うじて出せる…見た目がアバターに近付いてる!
バッと辺りを見渡す。
時間は夜、周りは森、真上には──。
「ホントウ…ダッタ……ヒトニナル…オツキサマ!」
現実の月は太陽の光を反射するから、青というより白く、光るというよりは輝いている。
だからだろう。俺を森よりも濃い緑色で照らすその月は、緑以外を吸い取っているとも感じるその月は、幻想的な神秘を纏っていた。
あり得ない現実は、いつだってあり得ない程美しい。
「………ナレル」
次第に緑が薄まりただの白い月に戻ろうとも、俺は茫然と月を…神秘に焦がれる演技と本心が一致していた。
「ツキモ…マホウ、ツカエル。ナラ……ワタシモ……マホウ…ツカエル!!」
魔法への憧れは、未知への関心だ。好奇心だ。
純粋な好奇心は兎の子供を魔術師と出会わせ、月の神秘を教えた。
それは彼女の忘れられない原風景となり、将来魔術師になる決意を……深淵を覗かせる決意を深めさせた。
「だから魔術師を目指している…と」
唐突だったが、俺はアバターの過去を知り、己を知れた。
それにしても随分と綺麗で不気味だったな、あの月は。本能的な恐怖に爪で引っ掛けられるようか感覚になったよ。
……そういえばドワーフは地下の緑のなんとかに触れて変化した人間なんだっけ?
そして月は光を反射するもの。ついでに言えば日食は完全に太陽が月の真後ろに……言い換えれば地球の光を最も跳ね返す時間でもある。その時緑のなんとかが月を介して反射したとか……。
まぁ、戯言だ。満月ということは月と太陽は向かい合っていた。日食の正反対だ。
でも関係ありそうな気はするよな。同じ緑色だもの。
兎も角、魔術だか魔法だか、このゲームの世界観を考察しつつ学んでみよう。そうすれば分かる事も増える筈。
その為にも……。
「村から出ようか。先ずは知見を広めに行かないとね」
緑の月…グリーンムーン。魔女の月とも。人からは後日魔物の凶暴化が起きるので忌み嫌われている。色んな緑色のものと繋げた説がコマから提唱されているが、どれが正しいかは全く検討がついていない。動物を賢くする性質がある。